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錢館  作者: あ行
19/24

19街

「……偽善さん。」

「何ですか。」

 偽善は執事らしく胸に手を当て、にこやかに笑う。

「……。」

 見た目だけの偽善さんいる。この人は誰?

――――――――――――

 ガタンガタン

「……ん、」

「あぁ、偽善、おはようございます。」

 執事の肩から離れる。寝ていたのか。車内はもう照明がついていた。

「おはよう。」

「ふふっ。おはようございます。」

 偽善が返してくれたのが嬉しくて、もう一度言ってしまった。

「そろそろ終電です。とりあえず、宿を探しましょう。」

「お金はあるの?」

 汽車が止まった。その衝動で、執事に寄る。

「ありますよ。これも館から盗みました。」

 上の荷物を下ろして電車を出た。

――――――――――――

「わ、うわぁ……、」

 ガヤガヤ

 一本道。ずらりと店が並ぶ。暖簾をくぐる者、酔い潰れてフラフラな者、色々な者が行き交う。

「偽善、手を繋ぎましょう。」

 手を差し伸べる。ちょうちんの光に照らされながら。

「うん。」

――――――――――――

「あぁ?無理だ。こんな錢だけじゃあ(うち)には泊められねぇな。」

 狐っぽい店主がキセルを蒸して言う。

「そこを何とか……!」 

「無理だ無理。ここら辺はどこも高ぇぞ?あんたら見た所、貧乏人じゃないか。そこら辺で野宿しときな。ははっ。」

 狐野郎が。

「偽善、行きましょう。」

 宿を出る。

 ぐぅ

 腹が鳴った。

「ふふ。まず、ご飯を食べましょうか。」

 人があまりいない道に屋台がポツンとあった。

「はい。かけうどん、二杯。三十錢ね。」

「はい少しお待ちください。」

 財布から錢を一枚一枚店主の手のひらに乗せていく。

「ひい、ふう、みい、よう、いつ、むう、なな、やあ、」

 執事の手が止まる。

「あれ、今って何時ですか。」

「えぇっと、ここのつだ。」

 執事はまた流れるように数える。

「ありがとうございます。とお、じゅうに、じゅうよん、じゅうろく、じゅうはち、……参拾(さんじゅう)。丁度です。ありがとうございます。」

 執事は偽善にうどんを手渡す。

「「いただきます。」」

 一口食べた。

「……美味しい。」

 館のご飯と違う。味がする。それに温かい。

「ふふっ、ね。美味しいですね。」

 執事は口元を隠しながら上品に笑う。暖かい春の風。屋台のほんのり明るいちょうちんを背景に。

「「ご馳走様でした。」」

 店主にそう告げ、また歩いて行く。

「偽善、大丈夫ですか。」

「ん゙ー、大丈夫……。」

 目を擦りながら、カクンカクンと船を漕いでいる。

「ほら、お()りますよ。」

「まだ大丈夫。」

「噓仰い。」

 ガヤガヤ

「……うぅ。ごめん。」

「いいのですよ。」

 偽善は安心して執事の背中で寝た。

――――――――――――

「―――?あっちなら島原だぜ。あそこはな……、あんたらにはまだ早いと思う。行くならここから西に行ったほうが安全だ。」

「……そうですか。ご丁寧にありがとうござしました。」

 目が覚めた。いつもよりちょっと目線が上だ。執事の声が背中から響く。

「……ぁ、」

「偽善、起きたのですね。もう少し寝てますか。」

「いい。ありがとう。」

 執事から離れる。そして荷物も受け取った。

「ここから西に行きましょう。安全らしいんです。皆さん口を揃えてそう仰られました。」

――――――――――――

「失礼しますっ!」

「何だ……。騒がしいな。」

 館主人の部屋に誰かが入ってきた。

「偽善という奴と、執事……、もう一名の名前は分かりませんが逃げられましたっ!」

「……ふむ。そうか。」

 館主人は冷静沈着だ。

「こちらで手配しておく。お前は仕事に戻れ。」

「はっ!」

 バタン

 髭を触りながら窓の外を見る。

 あの執事か。優秀だから逃げられたら少し面倒だ。偽善は、あんな奴ほっとけば良い。

「……しかしな。」

 他の物に次々と逃げられたら困る。もう連れ戻す方法は考えている。実行のみだ。

「………………。」

 月明かりが館主人を避けた。

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