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錢館  作者: あ行
15/24

15出先

「偽善、執事。お前たち二人には僕の出先について来てもらう。いいな。」

 いかにも社長というような部屋で館主人が話す。壁にはずらっと本が並んでいた。

 偽善たちは唖然と館主人を見る。

「「はい。」」

――――――――――

 夜。部屋に戻って明日の荷造りをしていた。

「なぁ、これって、」

「……はい。」

 二人見つめ合う。

「「外に出られ」」

「ます!「」る!」

 二人とも興奮している。小刻みに震えているチワワのようだ。

「しかし、偽善。今回は外の視察です。館主人が側にいらっしゃるのに、逃げられるわけがないですからね。」

 出先に行くのなら、椿は後回しですね。最近、暖かくなっているので、枯れないといいのですが……。

「……そっか。」

 しゅんと悲しくなる。下を向いた。

「しかし、希望が見えましたね。出る日もそう遠くはないかもですよ。」

 ポンと優しく頭に手を置く。偽善がこちらを見た。

「……そうだな。そうだよね。」

 荷造りの準備を再開した。動作一個一個が希望に満ちていた。

――――――――――

「では、参ろう。」

「「はい。」」

 巨大な門の前で、帽子を被りながら館主人が言う。門の先は霧がかかって見えない。

「あぁ、そうだ。君たち、」

「……?」

 ワクワクする気持ちが薄れた。

「くれぐれも僕から逃げないように。」

「「…………。」」

 圧が全身に漂う。思わず後ずさってしまった。

「…………。」

 館主人は無言で歩く。二人もその(あと)を歩き出す。

 外だ。初めての外。門の外に足を

 踏み入れた!

「……うわ!」

 強風が吹く。霧が一気に消えた。執事の髪が風であおられている。でこは風と挨拶した。

「…………。」

 ここが外?

 偽善は目を丸くする。大きいかばんを持ちながら。

 外はしんと静かだった。周りは木々が立っていたが、道は綺麗に整備されている。不気味だ。

「…………。」

 それでも無言でついていく。

 しばらくすると、ガヤガヤしてきた。透明な奴、メラメラ燃えてやる奴、多種多様だ。

「……?何だ、これ。」

 目の前にある物体はでかくて黒かった。細長い所から、モクモクと煙が出ている。いくつもの扉から皆が行き来していた。

「汽車です。多分。」

 執事が答える。執事も汽車に釘付けだ。

「何してる。早く来い。」

 ガタンガタン

「…………。」

 館主人は席に座り、後の二人はその場に立っていた。

 何だこの汽車ってやつ。なんか勝手に動いてる?!すごく揺れるし、立ちづらい。

 それに、

「……ぃ」

 痛い。館主人の荷物が重すぎて、もう手の感覚がない。何入ってるんだ。

「…………あ、」

 荷物が軽くなる。執事がさりげなく持ってくれた。優しい。執事の方がきっと絶対、重いはずなのに。

「おい、お前、荷物を持つな。偽善に持たせろ。甘やかすな。」

 (あわ)れむような目だ。見つかった。

「……っ、はい。」

 ずんと重くなる。岩を持っているようだ。もう無理、

「……!」

 執事が俺に寄る。もしかして、もたれかけろって事。

 偽善は執事に感謝し、もたれかけた。心が少し軽くなる。

「切符を。」

 おや、この方は車掌と言う人でしょうか。写真と似ていますね。上等な服を着てらっしゃる。

「ほら、これだ。」

 館主人は三枚、切符を手渡した。

 ぱち、ぱち、ぱち

「どうぞ、良い旅を。」

 帽子を持って軽くお辞儀をする。なんでこいつは付き人を立たせてるんだ?変な客。

 車掌さんは去って行った。

「おや、ここだ。行こう。」

 汽車から出て、また館主人について行く。

「…………。」

 また違う町。瓦屋根の道が続いている。駅の前には立派な学校が建っていた。

「……ここの人たち、幸せそうだな。」

 門から出て行く人々を見た。皆、華やかな袴を着て、楽しそうに笑っている。

「……そうですね。」

 私たちが不幸に暮らしている時、この方たちは幸せに笑っている。そんな世界だったんだ。

 偽善たちは学校の中へと踏み入れる。

「お前たちはここで待ってろ。」

「分かりました。」

 ここどこだ?

 偽善たちがいるのは、実験室だった。実験の後だろう、マッチのにおいが鼻にくる。

「何台も机がございますね。不思議なところです。」

「あぁ、」

 ぽたっと蛇口から水が落ちる。不注意な子供が最後まで絞めなかったのだろう。外からは元気な子供の声が聞こえてくる。

「こんな世界があったんだな。」

「えぇ、」

 偽善は輝く窓の外を見つめていた。白い光が偽善を照らす。

「カーテン……、こんなに分厚いんですね。それに全て黒いです。」

 カーテンを触る。絨毯ほどの厚さだ。

「確かにそうだな。」

 変なカーテっ、

 ばさっ

「……!?」

「ふははっ、驚きましたね。」

 カーテンで偽善を覆う。二人だけの世界だ。

「…………。」

 執事が笑った。花よりも美しい。執事の笑顔を見て何だか胸がホッとした。あったかい。

「あぁ、いつも驚かせられてばかりだ。」

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