13風邪
「ごほっ、ごほっ、」
「偽善、大丈夫ですか。さっきからずっとその調子です。」
帯を腰に巻く途中で、俺に聞いてくる。
「このくらい……ごほっ、大丈夫だ、」
「…………。」
白地にしんどそうだ。心配でたまらない。しかし、
――なぜ俺から仕事を奪った?!
「限界がきたら、私のところに来て下さいね。」
「そんなのしない。」
執事はやれやれと困り眉で笑う。
――――――――
「ごほっ、」
お風呂場に孤独ながら響く。
キュキュ
ジャー
お湯をバスタブに溜めていく。現代には似つかない物だ。
「…………。」
顔全部に湯気がかかる。頭の熱と同じぐらいの温度で、本当に当たっているか曖昧だ。
「おい、風呂の準備ができた、ました。」
「……うん、ありがとう。」
上等な服を脱ぎ、湯へと浸かる。ちょうど朝日が昇り、それは水面を輝かせた。
「…ごほ、腕っ、出して、」
「……うん。」
偽善さん、大丈夫かな。朝、会ってからずっと顔色が悪い。
「偽善さん、」
「……何だ。」
……!偽善さん、睨んでこない。
子の腕を布で(偽善にとっての)丁寧に拭いている。
「大丈……夫、咳ずっとしてる。」
湯気が立つ。山はもう風呂上がりのようだ。
「大丈夫、だ。」
子は眉をひそめて、偽善を見つめていた。
――――――――――
「ぎ、偽善さん、」
今日はやたらと俺に話しかけてくる。
「何だ。」
「もういいよ、僕のお世話しなくて、」
偽善は目を凝縮する。
「風邪でしょ。休んで。」
「…………。」
何だ。そんな事か。一瞬、解雇されたのかと思った。
「身に余るお言葉ですが、俺は休むわけにもいかない。」
執事から習った言葉を一言一句言う。
「何で?」
「まだ掃除や洗濯が終わってない。裁縫もです。あと、この館からお前が逃げるかもしれないからな。」
偽善は軽々と掟を言ってしまった。
「に、逃げ……。そっか、」
勇気を振り絞って言った提案を、否定じゃないがそんな悲しい気持ちが込み上げてくる。
それでも前を見た。
「ねぇ、偽善さんは逃げないの。」
「…………!」
少しきょどってしまう。
「逃げない。」
偽善はわざとらしく、天井に目をやる。
「もし逃げたらどう思う。」
館から出たい事を悟られない範囲に、相手がどう思ってるか聞く時は、妙に緊張する。
「……、」
子は華やかな絨毯を見る。
「少し、」
貴方を見る。
「少し、寂しいかな。」
「……そうか。」
次に聞く。偽善さんは、
「偽善さんは、僕が居なくなったら、」
少し期待をする。僕を必要としてくれているのか。今の優しくなった偽善さんなら、
「…………!!ぎ、偽善さん!しっかりして……!」
「はぁ、はぁ、」
偽善は地面に倒れて意識が朦朧としていた。
――――――――――――
「〜♩」
「…………ぅ、」
白い光が目いっぱいに映る。
自室だ。あれ、
「あぁ、偽善、起きたのですね。どうですか。具合は。」
「俺、仕事は、」
半分体を起こす。その時にでこから濡れた布が落ちる。
「私が全て済ませました。なのでご安心を。今は他の方が居られますよ。」
「……そうなのか、」
頭がぼーっとして、ぽっと熱くて、単純な事しか考えられない。
「もう少しお休みになさってください。」
肩をぐーっとベットに近づけられる。
「もう行きますね。大丈夫ですか、一人でも。」
「……ゔー。」
うふふっと笑って、出ようとした。
「偽善、ふふ、可愛いですね。もう少し居ますよ。」
袖を引っ張られた。
「……すぅ、すぅ、」
偽善の手を握る。
「おやすみ。」
「あれ、」
「…………。」
執事は俺の手を握りながら眠っていた。
「…………。」
見慣れた天井を見る。窓からの冬の匂いが漂う。熱い頭にひんやりとした風が吹いて気持ちがいい。
「……執事、」