12霧
「貴方は木のお手入れを。貴方は机と椅子の整備を。」
執事が皆に指示していく。
「貴方は私と掃き掃除をしましょう。」
「……はい。」
箒を手渡された。常識のある奴であれ。
サッサッ
「「…………。」」
落ち葉を集めていく。秋だったら色とりどりの葉だったが、冬はカサカサと落ち葉が言うので気持ちが良い。
「…………。」
無心で集めてしまう。段々と綺麗になっていく道を見て、誇らしくなる。
「……よしっと、次はあちらを掃きましょう。」
「……はい。」
優しい笑顔だ。
一緒に歩いて行く。
あ、ちり取り、持ってくれてる。
「おや、椿ですね。」
「……そうですね。」
ただの植物じゃないか。
「いつか、偽善に見せたいものです。」
「…………?」
声が小さくて聞き取れなかった。まぁいいか。
「…………。」
再び歩く。と、思ったら執事がその場に立ち止まる。
どうしたのだろう。まだ目的地は着いていない。
「貴方は……他の方、そうですね、低木のお手入れを手伝ってください。落ち葉の掃除は、私がしときます。」
「……?分かりました。」
疑問に思いながら真反対に歩く。
――――――
何か落ちている。
どう言う事だろう。
手に取ってみてみる。
きらきらしてて綺麗だ。
これが海という物なのか。
「…………。宝石?」
カン
「それに、足元にもたくさん……。」
「おや、掃除、捗ってるかい。」
館主人だ。何かおかしい。
「はい。」
一礼する。
何故ここに?普段は庭に微塵も興味がないでしょう。そして、私たち執事にも。
「この宝石たちは僕の方で回収しておくよ。君は他を手伝いなさい。」
「……。承知いたしました。」
――――――――
「皆様、どうですかっ、」
「ぐわぁ!」
「うぅ、」
皆は黒い霧に包まれて苦しんでいた。
「これは、どういう事」
執事も考えているうちに、覆われてしまった。
――――――――
「……ぅ、」
部屋。自分の部屋だ。
「おや、偽善、貴方の部屋はここではないでしょう。確か、もう少し奥だったはず。」
「…………。」
偽善は黙ったままこちらを見ない。
「恥ずかしいのですか。そう俯かないで。」
「……い、」
聞き返す間もなく、
「お前なんて、大っ嫌いだ。」
「……え、」
「そうだぞ。これは非常に残念だ。」
場面が変わる。館主人の部屋だ。
「……え、え、」
どういう事だ。
「お前がまさか、この館を抜け出そうとしているなんて……。非常に残念だ。」
偽善、
「お前は俺に騙されていたんだ。」
「だます、」
頭に入って来た言葉をそのまま吐く。
「そうだ。俺は幸せ者だなぁ。この館に一生をつくせて。」
「偽善は、偽善は、」
汗が垂れる。
「あぁ、そうだ。抜け出したいなんて真っ赤な噓だ。」
「偽善は、偽善は幸せだったのですね。」
「な、泣いてるのか。」
正面を見る。貴方の前で。
「偽善が、貴方が幸せで良かった。」
――――――――
ゴンっ
「あ、黒い霧に包まれてたけど、意識戻った…………」
「……っ、ぅう……ふぐっ、」
執事が泣いている!
普通に泣いていた。
「……、」
大粒の涙は宝石のように輝いていた。
「ぁ、え、強く殴りすぎた、ご、ごめ、」
ぎゅぅ
「え、え、」
「ぐっ、……っ、ぎぜん、よかった、」
何が。言いたいけど、我慢した。
執事の泣いている鼓動が伝わる。
「ほんとにっ、ほんとう、に、」
「よかった。」




