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錢館  作者: あ行
12/24

12霧

「貴方は木のお手入れを。貴方は机と椅子の整備を。」

 執事が皆に指示していく。

「貴方は私と掃き掃除をしましょう。」

「……はい。」

 箒を手渡された。常識のある奴であれ。

 サッサッ

「「…………。」」

 落ち葉を集めていく。秋だったら色とりどりの葉だったが、冬はカサカサと落ち葉が言うので気持ちが良い。

「…………。」

 無心で集めてしまう。段々と綺麗になっていく道を見て、誇らしくなる。

「……よしっと、次はあちらを掃きましょう。」

「……はい。」

 優しい笑顔だ。

 一緒に歩いて行く。

 あ、ちり取り、持ってくれてる。

「おや、椿ですね。」

「……そうですね。」

 ただの植物じゃないか。

「いつか、偽善に見せたいものです。」

「…………?」

 声が小さくて聞き取れなかった。まぁいいか。

「…………。」

 再び歩く。と、思ったら執事がその場に立ち止まる。

 どうしたのだろう。まだ目的地は着いていない。

「貴方は……他の(かた)、そうですね、低木のお手入れを手伝ってください。落ち葉の掃除は、私がしときます。」

「……?分かりました。」

 疑問に思いながら真反対に歩く。

――――――

 何か落ちている。 

 どう言う事だろう。

 手に取ってみてみる。

 きらきらしてて綺麗だ。

 これが海という物なのか。 

「…………。宝石?」 

 カン

「それに、足元にもたくさん……。」

「おや、掃除、捗ってるかい。」

 館主人だ。何かおかしい。

「はい。」

 一礼する。

 何故ここに?普段は庭に微塵も興味がないでしょう。そして、私たち執事にも。

「この宝石たちは僕の方で回収しておくよ。君は他を手伝いなさい。」

「……。承知いたしました。」

――――――――

「皆様、どうですかっ、」

「ぐわぁ!」

「うぅ、」

 皆は黒い霧に包まれて苦しんでいた。

「これは、どういう事」

 執事も考えているうちに、覆われてしまった。

――――――――

「……ぅ、」

 部屋。自分の部屋だ。

「おや、偽善、貴方の部屋はここではないでしょう。確か、もう少し奥だったはず。」

「…………。」

 偽善は黙ったままこちらを見ない。

「恥ずかしいのですか。そう俯かないで。」

「……い、」

 聞き返す間もなく、

「お前なんて、大っ嫌いだ。」

「……え、」

「そうだぞ。これは非常に残念だ。」

 場面が変わる。館主人の部屋だ。

「……え、え、」

 どういう事だ。

「お前がまさか、この館を抜け出そうとしているなんて……。非常に残念だ。」

 偽善、

「お前は俺に騙されていたんだ。」

「だます、」

 頭に入って来た言葉をそのまま吐く。

「そうだ。俺は幸せ者だなぁ。この館に一生をつくせて。」

「偽善は、偽善は、」

 汗が垂れる。

「あぁ、そうだ。抜け出したいなんて真っ赤な噓だ。」

「偽善は、偽善は幸せだったのですね。」

「な、泣いてるのか。」

 正面を見る。貴方の前で。

「偽善が、貴方が幸せで良かった。」

――――――――

 ゴンっ

「あ、黒い霧に包まれてたけど、意識戻った…………」

「……っ、ぅう……ふぐっ、」

 執事が泣いている!

 普通に泣いていた。

「……、」

 大粒の涙は宝石のように輝いていた。

「ぁ、え、強く殴りすぎた、ご、ごめ、」

 ぎゅぅ

「え、え、」

「ぐっ、……っ、ぎぜん、よかった、」

 何が。言いたいけど、我慢した。

 執事の泣いている鼓動が伝わる。

「ほんとにっ、ほんとう、に、」

 

「よかった。」

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