10ワルツ
「……ふぅ、やっと終わりました。」
水を拭う。子供の食器を洗い終わった。手をぴっぴとやりながら振り向く。
「あの……、」
「…………、すみません。気付かなくて。」
背後に誰かいたなんて。オドオドした奴だ。目が合わない。
「良いんです……。私、そう言う運命なので…………ははは。」
何だこいつ。早く部屋へと戻りましょう。
「あぁ、ちょっと……、」
「……。どうしたのですか。」
袖を引っ張られる。が、すぐに振り解いた。
「貴方は知っていますか…………。」
「何を。」
めんどくさい奴だ。先に結論を言って欲しいものです。
「えっと、名前なんだっけ……。まぁ、いいか。誰かが館主人と夜中に"何か"しているんです。」
夜中……。
「何です、その何かとは。」
「分かりません……。けど、館中噂されています。」
何を根拠のない事を。
「館は壁に耳あり、障子に目ありですから。はは。」
「そうですか。」
部屋を出ようとする。
「あぁ、思い出したました。確か、偽善
「……!」だったような。」
――――――――――――
「…………ん、」
目が覚めた。今、何時でしょう。カーテンに光は差し込んでいない。
「………………。」
起きていても意味ない。今は寝よう。
瞼を閉じる。
「………………。」
なかなか寝付けない。
「………………。」
キーっと耳鳴りがする。
「…………、」
だんだん意識が遠のいてきた。
「………………。」
ガチャ
誰か来たようだ。
――――――――――
庭。そこで二人はぼーっとしていた。ある人からすると無駄な時間と思うかもしれないが、案外、こうするのも悪くない。
「偽善、」
「……、」
偽善はぼーっとしている。そりゃあそうか。明日は館の大掃除なのだから。
椿はまだつぼみのまま輝く。
「何だ。」
「偽善は、昨日……今日、いつかは分かりませんがそのぐらいの夜、何かございましたか。」
ばれた!?
心臓がバクバク鳴る。血管はこれでもかと言うくらい動く。
「……な、ない。」
「そうですか。」
会話が途切れる。
「「…………。」」
机の上に突っ伏す。庭の金属机なので、頬が冷たい。
「なぁ、」
「なんですか。」
何故か偽善に見つめられる。それでも執事は、緊張したり、おどったりせず、貴方にほほ笑む。
「お前は、さ。館、出たいとか……思わないの。」
そりゃ出たい。出たいけど、
――館は壁に耳あり、障子に目ありですから。
「「………………。」」
「ぇ、もしかして怒ってる?俺……私が敬語を使わないから。」
「……!いえ、違います。違うのです。そうですね。私は、」
顎に手を置いて濁った空を見る。
「ここに一生いて良いですね。」
「…………、そっか。」
偽善はしゅんとして目を下に向く。
「ほ」
「……!!」
急に近付けられる。
「ふふふ。ごめんなさい。耳、貸してください。」
「……あぁ。」
耳に手を当て二人の時間を作る。
「ほんとは抜け出したいですよ。ここで死ぬなら野道で野垂れ死んだ方ががマシです。」
隣でにこっと笑いかけられる。
「……そうなのか。」
もう一度、二人の秘密基地を作る。
「いつか偽善と私、二人で抜け出しましょう。」
「…………!」
目が星のようにきらめく。
「うん。」
「この悪夢を、地獄を終わらせましょう。」
「あぁ、終わらせよう。」
二人の希望は叶わないかもしれない。しかし二人の間には何か生まれていた。
「「………………。」」
また無言になる。しかし気まずくない。
「偽善、確か今日はお偉い方が来ているようですよ。」
「偉い人?」
首を傾げ執事に問う。
「そうです。皆さんの情報によると鬼だそうで。」
?こんな話したかったっけ。もっと重要な、大切なことがあるはず……。
「ふぅん。」
偽善も興味がなさそうだ。
「「…………。」」
会話が途切れる。
あ、思い出した。
「あ、やりたい事があったんです。」
「どうした。」
ガリガリと椅子を引いて、立つ。
「踊りましょう。」
「嫌だ。」
即答された。きょとんと目を丸くする。けどすぐに優しい笑顔になった。
「だって、俺踊ったことなっ!!」
「大丈夫です。私に合わせて。」
強引に引っ張られる。執事の髪が波のようになびく。
「〜♩」
心地いい歌声だ。聞き惚れてしまう。
偽善は下ばかり見ている。それもそのはずか。
面白くない。
「偽善。」
「……なに。」
こっちを見てくれた。
「ふふふ。〜♩」
椿も執事の歌声に聞き惚れている。
「なぁ、」
「何ですか。」
偽善は下を向きながら執事に問う。
「敬語……使わなきゃ怒ってたのに、何で怒らないの。」
幼い目が合う。
「ん、あぁ、その事ですか。」
「それは、素の貴方で接して欲しいのです。私だけに。偽善だけでも。」
一息吸う。
「貴方は、」
「そのままの貴方でいて。」
「分かった。」
歌を再開する。
「〜♩」
――貴方は知っていますか…………
「ふふっ、」
――夜に"何か"している
「楽しい。」
「よく来てくれたな。」
「あぁ。早速取引を始めよう。」
鬼がソファーへと座る。
「ふぅ、やっと終わった……。ん、」
庭の方を見る。綺麗に整備されていた。
「〜♩」
誰かが二人でワルツを踊っている。楽しそうだ。幸せな空間がそこだけにあった。
「……ええなぁ。」
早く帰ろう。




