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VS《ジホ》2

「どーこ狙ってんだよ~、ジホ~」

「うるせぇ! 木が邪魔で見辛れぇんだよ!」

「お上手だと思います、エド様」

「どうも」


 景色に溶け込んでいるとは言い難い蒼白は、木々の隙間から敵機を見上げる。

 明らかに《リンディカイン》は《アルゼクト》を見失っていた。


 しかし、エドが奇襲策を巡らせようとした時――突如、機体は反転。

 ビームライフルの銃口がエドたちの居場所へほぼ正確に向けられる。


「! この感じ、開幕で索敵系のスキルを切ってるな」

「分かるものでございますか?」

「まぁな。けど上手い奴はこんなすぐ疑われるような動きはしないもんだよ。もう少し徐々に旋回するとか気を利かせる。デッキが一枚露呈するのはデカいからな」

「なるほど。経験、でございますね」

「それもあるけどたぶん、初心者だと思って舐めてんだろ」


 少なくとも店員の〝再登録料〟という言葉を聞き逃していたのは間違いないだろう。

 エドはそう確信し、言葉を交わしながらも回避を怠ることはなかった。

 一方で精密性を欠いた射撃は、パイロットに積もりゆく苛立ちを明確に可視化している。


(このままムキになって射撃ウェポンを使い切ってくれるなら楽だが……)


 しかし、ジホもそう単純なマスターではない。


 自身の想定より戦えることは認め、ライフルの装弾数を撃ち切るよりも早く【フィルタンタR‐2】をリコール。バトルの思考をすぐさま近接格闘戦へと切り替えていった。


「コール【セロニカ・ツインブレード】!」


 代わりに現出させたのは、細身でありながら鋭い両刃の剣だ。

 《リンディカイン》はそれを二刀に分割し、推進剤の尾を背部から曳いて一気に加速。

 対するエドも即座にスキルカードを手に取り、発動する。


「コール【初級複製術】。【弾薬】を対象に【ダブルジェットアンカー】を選択」


 続けて、


「コール【ダブルジェットアンカー】」


 両手と腰の左右。合わせて四基となったアンカーを使い、《アルゼクト》はさらに複雑さを増した移動の連続で、猛然と振るわれる二刀を軽やかなに往なし続ける。


「あー、もう! 逃げてばっかでぜんぜん反撃してこないじゃーん!」

「ガシャでゴミしか引けなかったか、弾薬カードが一枚で心もとない……あるいはその両方」


 ジホの推察はどれも外れていたものの、そう見える動きであるのも事実だろう。

 実際のところ、エドは操縦のカンを少しでも取り戻すことを優先していたのだった。


「こっちも仕掛けるぞ、アル」

「! ……は、はいっ」


 エドは【ダブルジェットアンカー】を射出し、同時に左腕を振るう。


 すると機体の加重移動と合わさり、木の幹に沿った弧を描いた双爪が《リンディカイン》の側面から脚部に直撃。不意の一撃を受け、乳白の姿勢が大きく崩された。


「ぐぉおおッ! よ、横からだとッ!?」


 生じたその隙をエドは決して見逃さない。

 後退を続けていた《アルゼクト》が一気に敵機との距離を詰めていく。


「攻撃の組み立て方が下手なんだよ、緩急もくそもねぇ。これで勝てるの、格下だけだろ」


 吐かれた毒とともにアンカーの八連撃が繰り出され、それは命中した。


 〝DP400-AP150×{倍率0.45-(0.05×1)}×8=ダメージ80〟

 〝基礎DP=機体耐久400-ダメージ80=残耐久320〟


 瞬間、ジホの正面ディスプレイにダメージ計算式と残りの耐久値が表示される。

 これは同条件の攻撃をあと四セット食らえば、撃墜となる数値だ。


「ぐぅッ! ビ、ビギナーズラックで調子に乗るんじゃねぇぞェ!」

「それよりジホ! 後ろ、うーしろーっ!」

「コール【ヒートウィップ】」

「コ、コールっ、【肩部二連装ビームポッ―――」


 数秒にも満たない流れの中、エドは敵機の背後をあっけなく奪って見せていた。

 対するジホも機体を反転させ、強引にビーム砲の照準を合わせる。しかし、


【肩部二連装ビームポッド・八四式 (ビ/射)】:N

 〝基礎AP0.60倍の威力を持つ二門の肩部ビーム砲。装弾数に優れる代わり、連射性能は劣悪な代物となっている。一門での発射も可能。装弾数28〟


「悪手だろッ!」


 速射性に優れたウェポンや先ほどのボムのような爆発物ならばいざ知らず、エドからすればジホのこの判断は愚策という他に表現する言葉を持たない。


 《アルゼクト》の深紅に唸る【ヒートウィップ】が振り下ろされ、たった今現出したばかりの【肩部二連装ビームポッド・八四式】を破壊。即座に誘爆する。


 〝DP400-(AP550×肩部倍率0.6×鞭倍率1.35)=ダメージ-45〟

 〝残耐久320-ダメージ45=残耐久275〟


「ぐわぁああッ!」

「ばかじゃねーの、ジホおまえ~!」


 機体のDPとは無関係であるウェポンを破壊し、相手を誘爆に巻き込む。

 それは純粋な数字で劣るエンボディが、下剋上するために必須と呼べる技術であった。

 爆発の後。アンカーを用いて誘爆から逃れた《アルゼクト》は再度、攻勢へと転じる。


「コール【三連無誘導ミサイルランチャー】、さらにコール【反攻の意思】!」


 〝{基礎AP150+(スキル500+100)}×倍率0.85=一発637〟


「ちょ、直げ――…コール、【アブソ―ブ・バリアード】ッ!」


【アブソーブ・バリアード】:N

 〝自機を対象として発動する。持続ダメージを含めたAP2000分のダメージを無効化するバリアを対象の全方位に7秒間発生させる。ただしバリア発生中に範囲外へ出た場合、自機のAP・DPが30秒間、最終累積ダメージの20パーセント分低下する〟


「なんだっけ、これ。アブソーブだったか? コール【弾薬】」


 突如として出現した半透明のドームを目にし、記憶の底からスキルカードの詳細を引っ張り上げたエドは一切の躊躇なく追撃を続行。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 凄まじい速度で耐久力が削られてゆく結界の中、ジホに浮かんだ選択肢は二つ。

 甘んじて能力低下(デバフ)を受け、敵の手が届かない空へ逃げる。もしくは――


「コ、コール【アブソーブ・バリアード】っ!」


 焦りとプライドがせめぎ合い、いざ障壁が破壊されたその瞬間。

 ジホは補給を受けたミサイルが撃ち尽くされる前に、再びバリアを発動し直した。


「バカなやつ」

「もうよろしいのですか?」

「あぁ、こっちも【反攻の意思】が切れたしな。それに無理するような場面でもない」


 エドはあくまで冷静に《アルゼクト》を退かせ、敵エンボディとの距離を取った。

 やがて効果時間の七秒が経過し、一枚のスキルカードがほぼ無駄撃ちに終わる。

 観客席にいる誰から見ても、これは明らかにジホのミスだった。


「きゃはは、ビビッて(から)撃ちしてやんの! だせぇだせぇー、ジホだっせぇ~」

「り、リンクてめぇ! どっちの味方だっ!?」

「はー? 有利なほーに決まってんだろ、ば~か!」

「く、クソがっ! 終わったら絶対、売り払ってやるこいつッ!」 


 敵がそう憤る一方、アルマは自身の主への感情をひとりつのらせていた。


(……やはり、エド様は素晴らしいマスターです。わたしの勘違いでさえなければ今の攻撃、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 直前の攻勢も事前に一声かけられ、意識を前へ向けられていたからこそという理解が彼女の中にもあった。だが、同時にそれは己の不甲斐なさを認めるものでもある。


(この方がわたしを使ってくださる限り、別れが訪れるその時まで。心から尽くそう)


 アルマの中に芽生えた思いは、すでに信頼へと色を塗りかえ始めていた。


 *


「――ぅおおっ! ざまぁみろッ! いい気味だぜ、ジホのヤツ!」

「ホントな。あいつ、前からカードの扱いひでぇから嫌いだったんだよな」

「にしても相手、誰だ? この辺であんなマスターいたか?」

「さぁ? でもアルママをバトルで使うくらいだし、ビギナーじゃねぇの」


 ロロアの町に降って湧いたマスター、エドルド・ガールドンの存在に騒めく観客席。

 その傍で熱心に黒うちわを振るアリスタは、様子と裏腹に考察だけは真面目にしていた。


(やはりさすがですわ、エーちゃん。数年のブランクがあったとしても、そこらのマスターに後れを取るような器ではありませんのねっ!)


 周囲の誰だという問いに答えたい気持ちをグッと堪え、彼女は戦況に視線を戻す。


(今の攻防、AP2000未満の一斉射と一発で耐久2000のスキルを2枚切らせた意味は大きいですの。あれは間違いなく《アルゼクト》の基礎APの低さを嘲笑うためのもの)


 ですが、


(あちらの性格を考慮すれば、編成に偏りがある可能性は高い。二枚目の防御スキルも恐らく保険だったはずでしょう。わたくしが思うに相手は、飛行ドレスと索敵系スキルに頼りすぎたウェポン過多のデッキ。一方的な射撃戦を考えていたに違いありませんわ)


 何故ならば、


(カードもタダではありませんもの。ガシャ十二回ではろくなデッキが組めないと高を括り、しかもビギナーと馬鹿にしている相手とのバトル。出費を抑えて煽りたいのも当然ですわね。さぁさぁ、そんな男は存分にぶちのめしておやりなさい、エーちゃん……っ!)

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