VS《ジホ》1
※機体のビジュアルに関してですが、どれもこれも基本的に〝あらゆる装備が追加される前提のデザイン〟(例:ガ○ダムSEEDで言えば、ストライク)を想定しており、○○に似たなどといった表現が困難なため、色以外はほとんど描写するつもりがありませんのでご容赦ください。
整然とした空。白く薄い雲を突き破り、凄まじい速度で落下していく影が一つある。
降下艇だ。
十数メートルの巨躯が一機だけ格納されたその降下艇は、設定された重力に導かれて白線の尾を曳きながら遠方の大地に向けて突き進んでいく。
【結びの残影】アルマ改め、蒼白のエンボディ――《アルゼクト》。
戦うための身体へ自身を造り替えた彼女の中に、マスターであるエドの姿はあった。
身に着けていた衣服も戦闘空間への転送に伴い、専用のパイロットスーツに代わっている。
「懐かしいな……この感じ」
「一度、離れていらしたのですか?」
エドがつぶやけば、コクピットにアルマの澄んだ声だけが響く。
「なんつーのかな。親父がたぶんさ、家族よりEFを選んで……どっか行ったんだ。それからもう何年もやってなかった。大好きだったんだけどな、バトルするの」
「お優しいのですね、エド様は」
「どうかな」
流れていく景色をぼんやりと眺め、エドは苦笑した。
というのも景色の中に宙で浮かぶ観客席が一つあり、そこには渡したばかりの黒いうちわを有効活用してはしゃぐ幼馴染の笑顔が見えたからだ。
うちわには〝エーちゃんが尊い♡〟〝負けたらうめる♡〟とある。
さらにショップ内でいきなりバトルを始めたこともあって、面白がった客たちが次々と観戦モードで参加してきており、すでにフィールドでは多くの観客席が浮遊している。
やがてカウントダウンが開始され、ゼロとなる直前に降下艇が着陸。
直後。〝Embody fight ready go〟という文字列とともにバトルがスタートした。
「上からざっと見た感じ、ほぼ海に囲まれた森と谷だったな」
「はい。ですがわたしはドレスカードなしで飛行はできませんからご不便をおかけします」
「やりようはあるさ」
言ってエドは、操縦席正面のデッキスペースに種類別で並ぶカードに目を向ける。
・エンボディカード
【結びの残影】:N(アルマ/アルムス)(サイズS/地)
AP:150 DP:500
〝きっと何者にもなれると、そう信じている〟
・ウェポンカード
【三連無誘導ミサイルランチャー(実/射)】:N
〝基礎AP0.85倍の威力を持つ無誘導ミサイルランチャー。誘導性を捨てた結果、威力向上が見られるものの、射程は絶望的。装弾数3〟
【ヒートウィップ(格/特)】:N
〝基礎AP0.35倍の威力を持つ電熱鞭。直撃時、9パーセントの確率で対象の操縦系統を0.5秒間ショートさせるが、11パーセントの確率で自壊する。電熱のオン・オフが可能〟
【ダブルジェットアンカー(格)】:N
〝基礎AP0.45倍の威力を持つ双爪錨。8回射出する度に0.05ずつ倍率が低下する〟
・スキルカード
【初級複製術】:N
〝デッキからこのカード以外のカード1枚を対象として発動する。デッキからウェポンカード1枚を選び、バトル終了時まで対象をそのカードとして扱う〟
【反攻の意思(射)】:N
〝自機の基礎DPを0にして発動する。減少したDP量に+100した値を、射撃攻撃時のみ自機の基礎APに3秒間加算する〟
【オーバーパック(ビ/射)】:N
〝デッキからビーム属性の射撃ウェポンカード1枚を対象として発動する。バトル終了時まで対象の装弾数を1.5倍にし、対象での攻撃時のみ自機の最終APを1.25倍にする〟
・その他
【弾薬】:N×4
〝デッキ内に存在する全てのウェポンカードの装弾数を回復させる〟
「――コール【ダブルジェットアンカー】」
ウェポンカードをデッキスペースの中心に描かれた機体シルエットにセットすると、二つの爪が付いた射出可能のアームが《アルゼクト》の両腕に装着される。
「とりあえず、これで回避はなんとかなるだろ」
最低限の準備を整え、ふたりは巨人よりもなお天に近い森での索敵を開始した。
それから数分。接敵の気配がないせいもあってか、アルマが小さく吐露する。
「容易くは見つかりませんね。索敵系のスキルがあればよかったのですが……」
「ん? まぁ、別にないならないで――アル、上だッ!」
瞬間。直前までと比較にならないほど重い操縦桿とペダルを巧みに操り、エドは突如として頭上より降り注いだ九発のボムを、周囲の巨木とアンカーを用いて回避してみせた。
「ぐ、ぅううッ!」
連続して襲い来る爆風から遠ざかりながらエドは上空に目を向ける。
そこには飛行する乳白のエンボディがおり、機体の元のAD値がマスターには認識できた。
【流亡の繭】:N(リンク/リンネ)(サイズS/地)
機体名:リンディカイン AP:550 DP:400
「ハーズレっ! ヘタクソ~」
「チッ、リコール【スマートボム】」
小生意気な少年の声は【流亡の繭】リンクのものだ。
舌を鳴らすジホの言葉に呼応し、▽型の発射口九門を備えた【スマートボム】が《リンディカイン》の機体の手指部から音もなく消失していく。
「申しわけございません、エド様。過去のわたしを含め、経験に乏しいようです」
「そういうこともある」
謝罪が意図するところは、反応の可否で生じる操縦系統の〝重さ〟の変化にあった。
先ほどのように頭が察知していても身体が遅れると、性能をフルに発揮できないのである。
「ありがとうございます。しかし当然のことですが、上を取られ続けるのは嫌ですね」
「そうだな。けど当たらなければ、降りて来るしかない。落ち着いていこう」
「コール【フィルタンタR‐2】ぅうッ!」
《リンディカイン》の構えたビームライフルから光軸が乱射される。
しかしそびえ立つ巨木を的確に盾としつつ、腕部から射出したアンカーを活用した立体的な回避運動をミスなく継続する《アルゼクト》には掠りもしない。
観客席からは格闘属性のウェポンカードを攻撃ではなく、移動で使用することを思いつきもしなかった者たちの感嘆がちらほらと上がっている。
その感嘆はある種、バトルに身を置くアルマ自身にとっても同様であった。
(わたしのこれまでのカード機生は、バトルとはあまりにも縁遠い日々だったのでしょう……始まってすぐに分かってしまった。わたしは勝敗に何の執着も持っていない)
けれど、
(今、この瞬間。攻撃を避けている、ただそれだけで楽しいと思える)
もしかすると今回のマスターは、わたしを根本から変えてくれる方なのかもしれない、と。
出会ってまだ十分と経っていない彼女の中に、そんな期待が芽生えつつあった。