《再始動》4
「なんで叩く? なんで殴る、なんで蹴る!」
「はぁっ!?」
「ざけんな、そんなのいきなり殴ってきたお前がまず述べやがれ!」
慕う男を殴り飛ばされ、残るふたりはエドを睨みつけて憤る。だが、
「「ぎゃあっ!」」
問答無用だった。
手より先に口が動き、鋭く懐へ潜り込む影に反応できなかった彼らは一撃をもらう。
暴力を好まないアリスタも今だけは静観し、険しい表情でたたずんでいた。
「ふ、ふざけんじゃねぇぞッ! なんなんだ急に出てきて、お前ェッ!」
最初に殴られた男が痛む頬をさすりながら起き上がり、感情を爆発させる。
「大切にできないなら売るなりなんなりしろよ。気に入らねぇ」
「はぁあ? こいつはおれがおれの金で引いたおれのカードだぞッ!? 所有物だ!」
「きゃっ……」
男は自分を誇示するように土埃を被った少女の前髪を掴み、乱暴に持ち上げた。
「攻防値以下500のゴミNカードをどう扱おうとおれの自由だッ、何が悪い!?」
「なら町中で堂々とやってみせろよ、そうじゃないってことはそういうことだろ」
「……チッ、すぐ暴力に訴えかけるカスが」
返す言葉が何も思い浮かばなかったのか、男は苛立ちを隠さずに手を離す。
カードの証である首輪をした少女が地面に顔を強く打ち付けられた。
「お、女の前だからって粋がってんじゃねぇぞ!」
「どうせお前、ただの機札性愛者なんだろ気色悪ぃっ!」
「ほっとけほっとけ、もう。バトルじゃ勝てねぇから暴力に走り、それでいて欲しいカードを他人が持っていたから。勝手に寝取られたような気持ちになってる可哀想な男の子なんざ」
馬鹿馬鹿しいとでも言うような身振り手振りで見下し、男はエドを愚弄する。
「言ったな、てめぇ」
「あ? だとしたら何だよ。するかバトル? 今、ここで!」
「「――――ッ!」」
「いいんだぜ、おれは別に。一向に構わねぇ……まぁ? お前が自分優位な分野以外じゃ勝負するのが怖いよぉ、ってならしょうがねぇけどなぁ」
普段ならば、こんなにも分かりやすい挑発にわざわざ乗るエドではない。
それでもここは墓地で、今日は母の命日であったことが彼の感情をひどく逆撫でた。
「……上等だよ、俺が勝ったら彼女をもらう」
「!」
今、この瞬間。自分のためにバトルが行われようとしている。
そんな事態はエンボディの少女にとって、文字通り生まれて初めてのことだった。
アリスタも、エドのエンボディファイトをするという発言には驚きを隠せていない。
「クズのエンボディなんざいるかよ。だが、おれはそうだな……」
男は下卑た笑みを口端に浮かべ、背後に立つ気品あふれた肉体を舐め回すように凝視する。
「アリスタ」
エドは振り返らず、ただ名前だけを呼んで了承を求め――
「構いませんわよ」
彼を信頼するアリスタもまた、たった一言で即答した。
「交渉成立だなぁ」
したり顔を作る男は、装着した腕輪――ファイトリングを正面に構える。
エドもすぐに始めたいところだったが、何の用意もない以上は待ったをかけるしかない。
「悪いがこっちは、てめぇと違って墓参りに来てただけなんだよ。ファイトリングもデッキも今はない。だから場所は変えさせてもらうぞ。まぁ、逃げたいなら止めねぇが」
「チッ、ほざけクズが。しょうがねぇ、行くぞお前ら」
*
「――ファイトリングと再登録料込みで一万と二千ルク(※一ルク=一円)になります」
エドがまず向かったのは、カードショップ・アンドロシスだった。
EF関連のものは全て処分したため、改めて購入する必要があったからである。
そんな彼の勇姿を生温かく見守る男たちも、あれだけ啖呵を切っておいてこれか……と。
あふれる失笑を堪えきれてはいなかった。声音の節々から笑いが滲み出ている。
「いやぁ。まさかそこからとはなぁ……いや、いいんだぜ? おれはべつに。く、くくっ」
「ホント、ホント」
「そんけーしちゃいますよ、ぼく。ぷ、くっく」
エドは彼らの言葉などまるで意に介さず、黙々と左腕にファイトリングを装着。
アリスタと共に店内で広くスペースを取るガシャコーナーへ足を運んだ。




