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VS《チョポジ》3

「ぅ、ぐ――――ッ!」

「接近戦も悪くはありませんね」


 感情のままに振るわれる、やや単調な連撃をチョポジとミチェは〝見て〟往なす。

 飛散する熱は白を溶かし、二機の周囲から少しずつ雪が捌けていった。


「ですが、左腕一本でどこまで粘れますか!」


 腕部の数。その差は、誰から見ても《ミロスパーチェ》の有利を示す証だろう。

 繰り返される剣戟の隙を伺い、紺銀が大型ビームライフルの一撃を()()()()()()()


「コール【イグニッション・プロキシミティ】。対象【ツインジャッジライフル】」


【イグニッション・プロキシミティ(射)】:N

 〝コール中の射撃ウェポンカード一枚を対象として発動する。15秒間、対象の射撃によって生じる爆風に最終AP0.15倍の威力を与える〟


 自機を巻き込むことを一切、躊躇わない一射だった。

 これは彼の〝ダメージは与えられる時に稼いでいく〟性格をよく表したものでもある。


 〝基礎AP350+ドレス補正25=375〟

 〝最終AP375×倍率0.15=威力56〟

 〝DP444-威力56=DP388(次の計算時まで持続)〟《ア》

 〝DP(400+装備補正25)-威力56=DP369(次の計算時まで持続)〟《ミ》


「エド様、一度距離を!」

「ダメだ! 機体速度の差で一回離されたら追いつけなくなる!」


 エドは今回、ドレスカードをデッキに編成していなかった。


 それは機体速度が低下する【リジットアーマー】以外のドレスを引けなかったからであり、アリスタの言った実用性もあくまで狙撃特化構築を前提としたものでしかない。


(恐らく……向こうは射撃で対処できると思った相手に対しては詰めてこない。だから弾薬は最低限の可能性も高い。けど体感、完全に見られてる)


 それも遥か彼方ではなく、ほんの少しだけ上から向けられる視線だ。


「くッ!」


 ぞわりとする感覚の中、右方から潜り込むように詰めて来る動きにエドは喉を鳴らす。


 続く連撃をどうにか受け止めるが、紺銀は変わらず右から攻めを継続していた。

 幾重にも干渉光による火花を散らし、爆風が《アルゼクト》の耐久を削り取っていく。


 〝DP388-(威力56×2発)=DP276(次の計算時まで持続)〟《ア》

 〝DP369-(威力56×2発)=DP257(次の計算時まで持続)〟《ミ》


(この人が上手いのか? ……それとも、俺がいつも通りやれていないのか?)


 放たれる正確無比な刺突を凌ぐため、《アルゼクト》が少し無理のある体勢で対処する。

 だが、ミチェはその瞬間を決して見逃さない。

 マスターの操縦を無視して斬り払いへ即座に転じ、滑り込むように左腕の肘部(ちゅうぶ)を狙った。


「コール【ショートリープ】!」


【ショートリープ】:N

 〝自機を対象として発動する。任意方向へ7メートル転移する〟


 振り抜かれた一刀を躱した《アルゼクト》が、そのまま背後から斬りかかる。

 だが、


「うん、いい動きだね」


 チョポジは【スレイダーブーツ】による高速旋回に合わせ、左腕部の【ミロスシールド】を射出。

 洗練された動きでシールドごと【レドゥンブランド】の()()()()()()()()()()


「……っ!」

(勘違いじゃない。この人……普通に上手いッ!)


 態勢を上方へ大きく崩され、ふたりが《ミロスパーチェ》の速さに驚愕する。

 打ち合いの渦中、チャージされていた【ツインジャッジライフル】の銃口を向けられる。


「こ、コール【ショートリープ】ッ!」


 二枚目を切り、直前までいた地点を煌々とした光軸の轍が雪原を駆けた。

 エドは思考する時間と距離の維持を天秤にかけ、前者を選択。後ろへ大きく跳ぶ。


「……くそ、回避に使わされた。最悪だ」

「一旦落ち着きましょう、エド様。わたしには焦りがあるように感じられます」

「……アルから見てもそうなのか。でもそれだけじゃない。強いよ、あの人」


 エドは確信し、《ミロスパーチェ》との間合いを図る。

 その対応を目の当たりにして、チョポジも思わず破顔した。


「あー、ハゲちゃん。いくないときの顔してるぅ」

「そうですか?」

「ヨハンのお兄さんみたーい。嫌いじゃないけど、好きじゃなーい。顔が」

「顔がっ!? ……ですが。ヨハンさんほどおじさんの要求値は高くありませんよ」


 チョポジは驚きつつも朗らかな笑みを浮かべ、続ける。


「コール【ダイングレイヴ・射撃モード】」


【ダイングレイヴ・射撃モード(ビ/射)】:N

 〝最終AP1.0倍の威力を持った大型ビームランチャー。停止状態で7秒のチャージを必要とする。このカード名のカードはバトル中、一度しかコールできない。装弾数1〟


 《ミロスパーチェ》が構えたのは、十メートルはあろう槍剣(そうけん)の形状をした大型ビーム砲。

 Nカードとしても最上位に含まれる高火力のウェポンだ。


「なんだ……そんなの、構えて……それに当たるほど下手だと思われてんのか?」

「何か当てる算段があるのではないでしょうか」

「だと思うが……見ろ、重さでせっかくのブーツが死んでる」


 紺銀は砲の後端と右側面に展開されたトリガーを掴み、雪の大地を踏みしめる。

 やがて燐光が収束していき、過剰なまでの火力を有する一撃が撃ち放たれた。


 しかしエドたちは脳内に疑問符を抱えたまま、それを難なく回避。

 通過した光軸はホワイトアウトの霧を晴らし、連なる山渓の一部をも刳り貫いた。

 砲のあちこちが展開され、排熱の為に噴出された粒子音と破砕音が重なる。


「「――――ッ!?」」

「きたきた! やっぱり、遊びはハゲ……派手じゃないとね! 退避退避ぃー!」

「エド様!」

「分かってる、分かってるが……この位置はッ」


 雪山は崩壊し、人為的な大雪崩が引き起こされた。


 *


「いやあ、元四象徴ホルダー(あのおじさん)の悪い癖が出るなんて珍しいこともあるね」

「ふんっ。アナタも似たようなものじゃない」


 グラサン男――ヨハンの傍で、紫髪のエンボディがぶっきらぼうにそう答えた。


「あれ。もしかしてフェーゼ、怒ってる?」

「当たり前でしょう。仕事とはいえ、割られていい気分の女はいないに決まっているわ!」

「だから記憶は毎日、記録してるんじゃないか?」

「そういう話じゃないのよ。もっと乙女心の話ですから!」


 シンボル・ホルダーのエンボディは、ホルダー戦で敗北してもロストしない。

 だが使用期限だけは変わらず、ロストの有無だけが唯一の特権らしい特権と言えた。


「ま、そうだね……オレからするとまだ()()()()だけど。幼馴染ちゃんはどう思う?」


 ホルダーの権利を使い、同じ観客席に居座る彼はアリスタに問いを投げる。


「強がりを言いたいところですけれど、調子を崩してるのは事実ですわ」

「正直なんだ」

「嘘をついても仕方がありませんもの」

「オレもノキアのこと好きだったし、カードを大事してるってのはいいと思うよ」


 グラサンの奥でヨハンが笑い、観客席の端で縮こまる背中を横目に言った。


「ただ、好きなだけで勝っていけるほどEFは甘くない。恋愛と同じだね。ハハ!」

「このひと大抵、最後は捨てられるらしいのよ。哀れでしょ?」

「そ、そうなんですの。まぁ、確かに見るからに遊び人っぽいですけれど」

「うわ、ひでー。え、オレってそんなイメージ?」

「誠実さの欠片も感じない容姿よ」


 アリスタはふたりのやり取りを聞き流し、バトルへと目を向け直す。

 幼馴染の実力は彼女が一番よく知っている。だから彼以上に悔しい思いが強くあった。


(勝ちは前提……前提ですわよ、エーちゃん…………っ!)

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