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VS《チョポジ》2

「おいおいおい、ママのおこづかいどころかママ本人のご登場じゃねぇか!」

「……あー、バトルで使っちゃう辺りマジで初心者だろ。あれ」

「だなぁ。AP低いし、何より本人がバトル向きの性格と身体能力してねぇし」

「つーか、あのカスカードはなんで泣いてんだ? 泣きたいのはマスターの方だろ」

「…………っ」


 近くを浮遊する観客席からの声に納得した心が耳を塞ぎ、音を遠ざける。

 だが、その手を掴んで現実に引き戻したのはアリスタだった。


「わたくし、別にあなたのマスターほど優しくはありませんのよ」


 彼女はイヴリンを真っ直ぐ見下ろし、続ける。


「あなたの苦しみが、痛みが理解できる……とは言いません。それはあなただけもの。けれどそうやってうずくまっていても、現実はあなたを置いて先へ行くだけですわ」


 人とカードが同じ時間を生きられるのは、たった二年しかない。

 期間を過ぎれば〝今の自分〟は霧散してしまう。それは、イヴリンも理解していた。


「エドはきっと尊重してくれるでしょうし、見捨てないのも本当だと思う。でもそれに甘えてエーちゃんの邪魔をするだけだって言うなら……私は、あなたを絶対に許さない」

「…………っ!」

「ま、マスター。それ以上は、もう……」

「……もしもあなたの中に〝思い描く理想の自分〟があるのなら、あんなどうでもいい連中の戯言に気を取られている時間なんて一秒もないと、わたくしは思いますけれどね」


 そう断言してアリスタは検索機能を使い、相手カードの詳細に目を通す。


【哀切の代替品】:N(ミチェ/ミチェル)(S/地)

 機体名:ミロスパーチェ AP350 DP400

 〝あなたの隣にいてもいいですか。傍に……居たいのです〟


(平均的なNエンボディの性能……相手の技量次第とはいえ、余計なことを一切考えずいつも通り戦えば問題なく勝てるはずですわよ、エーちゃん)


 バトルの行く末を案じつつ、彼女はマルチカに慰められている少女を横目に見た。


(……確かに言い過ぎましたわね)


 だとしても間違ったことは言っていない。正しいことを、必要なことを言葉にした。

 アリスタはそう、自分に言い聞かせていく。


(差し伸べられた手をただ信じ、ついていく。それだけで……それだけで世界は変わるのに)


 うずくまり、動けなくなった少女の姿はまるで――いつかの写し鏡のようだった。


 *


「――コール【スレイダーブーツ】」


 チョポジが唱えると《ミロスパーチェ》の細い両脚部に、小型スキーボードのようなドレスが装着された。装甲も灰から機体色に合わせた紺銀へと切り替わっていく。


【スレイダーブーツ】:N

 〝サイズSの自機・僚機を対象に発動する。移動速度が35パーセント上昇する。自機は常に停滞浮遊(ホバリング)歩行となり、ホバー属性が付与される。(補正AP:+25 DP:+0)〟

【ツインジャッジライフル(ビ/射)】:N

 〝基礎AP0.33倍の威力を持った大型ビームライフル。二段階のチャージが可能であり、段階ごとに威力が0.33ずつ上昇する(一段階:3秒 二段階:12秒)。ライフル本体を分割した場合、各威力は0.15に減少する(一段階:2秒 二段階:9秒)。装弾数12〟

【ミロスシールド】:N

 〝《ミロスパーチェ》に標準搭載されている耐久150のシールド。装備時のみAD値が増減する(補正AP:+0 DP:+25)。リコール不可。〟


「こっちも詰めるぞ。ここは開け過ぎてる」

「はい」


 エドは機体を走らせながらライフルの照準を合わせ、トリガーを引く。

 粒子が唸りをあげて、吹雪く寒空に火線が描かれた。


 発射された二発の淡青な弾丸を《ミロスパーチェ》は僅かな機動で回避し、生まれた爆発による勢いを利用して更なる速度を得る。


「いぇーい、ゴーゴーっ!」

「使っているウェポンはともかく。狙いはそれほど悪くありませんね、と――ッ」


 続けて斜面を駆け降りたと同時に着弾した一撃を、紺銀は跳躍と共に(かわ)した。

 《ミロスパーチェ》は【ツインジャッジライフル】を分割し、左右に構えて着地。


 《アルゼクト》もその着地を駆るべく銃弾を叩き込む。

 しかし、


「実弾にはロマンしかないよ」


 それを示すように実弾がビームにより、打ち消された。

 二機のエンボディが激しく撃ち合い、交錯させていく。

 やがて何度かを経て《アルゼクト》の左肩部装甲が溶解した。


 〝基礎AP350+ドレス補正25=375〟

 〝基礎AP375×倍率0.15=威力56〟

 〝DP500-威力56=DP444(次の計算時まで持続)〟


「くッ!」

(やはり普段のエド様ではありません……!)


 アルマ自身、普段と言い切れるほどの付き合いがないことは承知である。

 しかしそんな彼女ですらおかしいと感じるほどに、エドは冷静さを欠いていた。


「接近戦ならッ! ――コール、【レドゥンブランド】ッ!」


【レドゥンブランド(格/ビ/特)】:N

 〝基礎AP0.5倍の威力を持ったビームサーベル。燃焼効果を付与する炎を纏うことも可能だが、発動後60秒でこのカードは自壊する(※燃焼 秒間5ダメージ・15秒間持続)〟


「来るっぽいよ、ハゲちゃん!」

「みたいだね!」


 瞬間。機体そのものではなく進行方向の雪原を撃ち抜き、雪の壁が両機を隔てた。

 《アルゼクト》はサーベルを左手指部でどうにか掴み取る。


(左右か、上か。それとも……)


 舞い上げられた白の奥。収束する粒子が灯篭のように揺らめいて見えた。


「……ならッ!」


 エドは【ベイパーライフルT86】を腰部にマウントし、自機を前へ加速させる。

 彼のその判断を目の当たりにして、アルマは確信を得た。


(急ぎすぎている気がします……ですが、今静止したところで被害が増すだけ。そもそもこの感覚が正しいのか、経験不足のわたしには分からない……)


 だがイヴリン同様、彼女もまた〝確固たる自信〟を持つカードではない。

 愚直な突撃をかけ、《アルゼクト》が飛び出した視線の先。


 チョポジは再度ライフルを連結させ、ジッと待ち構えていた。

 視界に捉えるより早く放たれた一撃を、右腕部を全損したうえで左方へ辛くも突破する。


「「――――ッ!」」


 搭乗者の驚きと機体の苦悶が声にならない声となり、重なる。


 〝基礎AP350+ドレス補正25=375〟

 〝基礎AP375×(倍率0.33+チャージ0.33)=威力247〟

 〝持続DP444-威力247=DP197(次の計算時まで持続)〟


 チョポジにとっては単なる待ちの戦法だ。

 正面から射撃された場合。そのままねじ伏せれば良いし、左右や上へ囮を交えた回避運動を取られたとしても識別した後、若さでミチェが反応できる。


「自信過剰か、無謀か。見極めさせてもらうよ、コール【ロペ・ラ・ヒルト】」


【ロペ・ラ・ヒルト(格/ビ)】:N

 〝基礎AP0.60倍の威力を持ったレイピア。ビームを発振させることも可能〟


 《ミロスパーチェ》はレイピアに似た形状の近接武装を現出させて応戦する。

 直後。蒼白のサーベルと紺銀のレイピアが粒子を散らし、激突した。

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