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《イヅグミ》2

「イヴ様、何を見ていらっしゃるのですか?」

「わっ、わわっ! な、何でもない、ですっ」


 いきなり背後から声を掛けられ、驚いたイヴリンが手に持っていたモノを慌てて棚に戻す。

 それから誤魔化すようにアルマの背中をぐいぐいと押した。


映写記録媒体(メモリースティック)ネックレス? ……あぁ、記念写真でしょうか)


 商品を横目に見たアルマはすぐに思い至り、それとなく提案してみる。


「もしもフロンティアでのバトルで上手く戦えたら、一緒にお願いしてみましょうか」

「~~! いい、のかな……」

「イヴ様の中のエド様は、嫌だと答えるようなお方でしょうか」


 問われ、彼女は何度も首を横に振った。


「なら大丈夫でございますよ」

「うん……ありがと、う。アルマ、さん」

「はい。〝さん〟はいつでも取っていただいて構いませんからね、イヴ様」


 視線を下に向けたまま、イヴリンが小さく頷く。


「あ……しっ、試着もう、終わったかな」

「いやー、終わってないと思いますよ!」


 と、本屋から戻ってきたばかりのマルチカが言った。

 その手には〝表情を豊かにする100の方法〟と書かれた本がある。


「何と言ってもマスター、エドルドさんがEFをまた始めてからずぅっと上機嫌ですし。今も半分デートみたいなもんでしょうから長げぇと推測しますね」

「で、デート……」

「「っ!」」


 イヴリンが露骨に落胆したその瞬間、ふたりの目が合う。

 言葉は交わさずとも、同じものを感じ取っていることは明白だった。


「ま、まぁっ! で、デートはちょっと言い過ぎかもしれないですね!」

「えぇ、幼馴染という話ですから昔からあの距離感なのだと思いますよ」

「…………」


 フォローが足りていないと悟り、慌ただしくマルチカが重ねて聞く。


「そ、そうだ! ふたりともこんな裏技をご存知ですか?」

「……うらわ、ざ?」

「なんでしょう」


 マルチカが身をかがめると、彼女たちは顔を近づけて小声で話し始めた。


「……マスターからカードへの、故意の性的な接触が一発アウトなのはもちろん知っていると思いますけど。実はこれ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ッ!?」

「まあ」


 アルマが口元を軽く抑える傍。イヴリンも驚きを隠せずにいる。

 彼女自身こういう話題が得意な方ではないが、興味だけはそれなりにあった。


「あと偶然なら割と許されるっぽいですね。たとえば……お手洗いのカギを締め忘れるとか」

「……っ」

「まあまあ」


 イヴリンも状況を想像したのか、身を縮めながらもぞもぞとしていた。

 完全な女子会ムードと化していく中、嬉々としてマルチカは続ける。


「風の噂ではマスターと最後まで成し遂げたエンボディもいるとか、いないとか……」

「さ、最後っ……」

「まあまあまあ」

「つまり、マスターに押し倒されるのはまずいですが。何かにつまずいて胸に飛び込みつつ、触ったり触らせたりする場合なら、かなり成功率が高いんじゃないかってわけです!」

「ドキドキっ」

「まあまあっ」


 やや興奮気味にふたりも応じる。

 そしてだからこそ、普段はすぐに感じられるマスターの気配に気が付くのが遅れた。


「――揃いもそろって店のこんなとこで、何やってんだ?」

「「「…………ッ!?」」」


 不意に降り注いだエドの声を受け、彼女たちはびくりと身体を震わせる。

 大慌てで身をひるがえすと、そこにはエドとアリスタがいた。


「な、何をそんな……? で、成功率がどうこうってなんの話だ?」

「え、あえ、あ……」

「それはですね。えーと……」


 イヴリンは混乱し、マルチカが逡巡して、


「マルチカ様からロザムンド様への告白の成功率の話でございます」

「「゛えぇッ!?」」


 誰よりも早くアルマが笑顔で告げた。

 あまりにも衝撃的な事実を知り、エドはまるで恐ろしいものを見るような視線を向ける。


「そ、そうか……ま、まぁ。恋愛は自由だからな! お、応援してるぞ!」

「あ、ありが、とうございます、エドルドさん……でも、一歩下がらないでください……」

 

 答える心は泣いていた。

 しかしそれは、拒絶に近い反応という流れ弾を食らった忍者も同様である。


「……ずずっ」

「なぁ、ところで。俺の後ろで鼻すすってる音がすんだけど……もしかしている?」

「……心は硝子に御座る」


 エドがゆっくりと右肩を見れば、粘り気のある液体も付着していた。

 げぇ、と苦虫を噛み潰したような顔を一瞬しつつ、すぐに思考を切り替える。


「……まぁ、いいや。とにかく楽しそうなとこ悪いけど予定を一時間、早めることにした」

「? 何かあったのでしょうか」

「何かって程じゃないけど……そうだな、倒さなきゃいけない相手は見ておこうと思って」


 その瞳にはマスターとして、確かな闘志がみなぎっていた。

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