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《綴る想い》3

「ひぃっ」

「落ち着け、イヴ。よく見ろ、弾速は遅い。今から動いても十分間に合う」


 白煙の尾を曳いて飛来する三十二発の【ストロングミサイル】。


 一発当たり20の威力を持つそれは、基礎DP150で直撃を受けたとしても八発被弾するごとにようやく10ダメージが耐久に通る計算だ。


 彼女は現状【リジットアーマー】のドレス補正でDPが300まで上昇しており、仮に全弾命中したところで耐久の減少は40。耐久150の三分の一にも満たない。


「リコール【アングラーF】、コール【試作型トゥーガンソード】」


 《イーヴェルガ》が厳格な鎧を纏ったまま、狙撃銃から銀色の双銃剣に持ち替える。

 誘導飛翔体がピストルの射程圏内に入るのを待ってからエドは言った。


「多少、狙いは甘くても平気だからな」

「わ、わかりまし、たっ」


 イヴリンの意思でミサイルに照準を合わせ、緑の光軸が射撃モードの双銃剣より放たれる。

 瞬間。連鎖的な爆発が生じ、爆砕の絨毯が空に大きく広がっていった。


「ほら、簡単だろ。花火みたいで楽しくないか?」

「はな、び……」


 エドの問いに彼女は戸惑いながら反芻(はんすう)する。


「知らないか? えー、となんて説明したらいいんだ」

「い、いえっ。存在は、知って、ます。でも……」

「見たことはない、と?」

「は、はい……」


 申し訳なさそうな肯定だった。

 エンボディは現界する際、ある程度の一般常識が自動的に詰め込まれている。

 しかしそれはあくまで知識に過ぎず、血肉となる経験とは呼べなかった。


「そっか。じゃあ今度、機会があれば皆でやろう。ガシャでそのうち出るだろ」

(ね、狙って出せるもの、なのかな……)


 エドのガシャ運も含めて、思っても口にしないイヴリンだった。


「楽しそうに会話するのも結構ですけれど、そろそろ狙撃も再開して欲しいですわね」

「ですわね、ですわねー!」


 と、再び敵のヘイトを集めていたアリスタたちが唇を尖らせる。

 《ゼーガロン》の耐久もさらに300程度減少させており、当然の主張だ。


「悪い悪い」

「絶対、思っていませんわよね。もうっ」


 そして、ここから先の流れは完全な繰り返しとなった。


 《マルレリギア》が接近戦を仕掛ける隙に《イーヴェルガ》が狙撃。

 《イーヴェルガ》への反撃が実行される隙に《マルレリギア》が格闘戦。


 半分パターン化された動きで、人型歩行要塞の耐久はみるみるうちに削られていく。

 だが、それが通じたのも耐久2000を割るまでのことであった。


「「――――っ!」」


 突如。大気が震え、怒り狂う咆哮のような駆動音がフィールドに鳴り渡る。

 すると《ゼーガロン》の瞳が緑から赤へ切り替わるのを合図とし、要塞の各部が開閉。

 内部から16、7メートル――Sサイズのエンボディと同等の〝子機〟が姿を現した。


「折り返し来ましたねー!」

「そ、そうなんだ……あっ、です」


【自立型随伴支援機】

 〝自機の耐久2000未満で展開される。威力10のバルカン砲と威力20の近接ブレードを装備するが、装甲は限りなく脆弱。DP:0 耐久300〟


 不明だった兵装の情報も開示され、二十機に及ぶ支援機が活動を開始。

 その大半――十四機が《イーヴェルガ》が位置する丘への進路を取った。


「本体の削り、あと任せるから」

「だと思いましたわ」

「イヴ、今までやってたのと変わらない。少し動いてるだけだ。落ち着いて狙おう」

「は、はい……っ」


 【アングラーF】をコールし、潰れたカエルに似た頭部の人型にライフルの照準を合わせる。


(なんだかんだ、ちょっとは慣れてきたな。安全なところから一方的に撃ってるだけってのはあるけど、一番最初に比べたら大した進歩じゃないか)


 それに、


(筋がいい。俺も別に下手な方じゃないから参考になってんだろうが、だとしても飲み込みが早い気がする。もしかしてイヴの強みは、マスクステータス(そっち)なのか……?)


 エンボディも人間と同じように個性がある、ということだ。

 目に見える数字だけでは決して理解できない、本当に大事なものが――。


 事実、支援機の全機撃破に手間取ることは一切なかった。

 最後の一機の脚部を的確に撃ち抜いた後、少女の吐息がコクピットに響く。


 ――ドゴォンッ!


 エドたちが見据える先。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()人型歩行要塞の耐久が0となり、《ゼーガロン》は爆砕に包まれた。


(ナイス、アリスタ。早すぎるとイヴを待つって状況が生まれて、最悪だからな)


 懸念していた理由はただ一つ。

 《ゼーガロン》は耐久を0にしただけでは、まだ撃破とならないからだ。


 爆発により生じた損傷。胸部の奥――火花を散らす動力コアを破壊する必要があった。

 そしてそこには、《マルレリギア》の【ヴォルガノンハンマー】では届かない。


「というわけで、トドメはよろしくお願いしますわ~」

「イヴ、最後だ。ひとりでやれるな」

「えっ、あ……はい、たぶん……」


 エドの手を借りずにイヴリンは機体を操り、【アングラーF】で狙いを定める。


 〝All over the destiny〟


 少なくともこれが彼女にとって、初めて自ら終止符を打ったバトルであった。

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