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《綴る想い》2

 〝防衛戦・初級1〟最終ウェーブの舞台は、背の高い構造物が群立する市街地の中心。

 そしてボスとなるのは、より巨大な人型歩行要塞――《ゼーガロン》だ。


「す、すごく……大きい、です……ね」

「大丈夫、初級の1だから極端に難しい調整はされてないよ」


 数倍以上のサイズ差を目の当たりにし、委縮するイヴリンにエドが優しく声を掛ける。


「シチュエーションとしては確か……巨大な寄生生物に機体を丸ごと乗っ取られ、破壊を余儀なくされてしまった。というような感じでしたわよね」

「はい! それで難易度ごとに兵装や機体速度がどんどん極悪になるやつです!」


【人型歩行要塞】

 機体名:ゼーガロン(サイズXXXL/地)

 AP:200 DP:250 耐久(HP):4000

 ・搭載兵装

【ストロングアーム(右)】

 〝基礎AP0.40倍の威力を持った右腕部〟

【ストロングレッグ】

 〝基礎AP0.30倍の威力を持った両脚部〟

【ストロングミサイル】

 〝基礎AP0.10倍の威力を持った低速ミサイル。装弾数∞〟

【ストロングガトリング砲(左)】

 〝基礎AP0.20倍の威力を持ったガトリング砲。装弾数∞〟

【???】

 〝耐久が2000を下回ると開示される〟


 アリスタに続いてマルチカが言うように、最も簡単な〝初級〟において兵装や耐久の数値はかなり控えめなものとなっていた。


 しかし、単純な総AD値だけを見れば《イーヴェルガ》と互角。

 彼女が《ゼーガロン》に対して腰が引けてしまうのも当然ではあった。


 途端。黒金と赤桜(せきおう)のエンボディ――《イーヴェルガ》と《マルレリギア》が見上げる曇天の空に、存在感のあるカウントダウンが表示されていく。


「始まるぞ。さっきも言ったけど、イヴ。移動してる間は目を閉じたままでいいからな。俺の動きを感じることだけに集中してくれ」

「……わ、分かり、ましたっ」


 気休め程度だとエドも理解していたが、やらないよりはマシだった。

 そうしてカウントがゼロになり、《ゼーガロン》が起動。バトルが開始される。

 同時に《マルレリギア》は前へ駆け、《イーヴェルガ》は後方へ()()()()()()()跳躍した。


「ではこれまで通り、敵対心(ヘイト)はわたくしたちが」

「頼む。こっちはとりあえず、ガトリング砲の射程から出ねぇと。たぶん避けきれない」

 

 ヴゥボォオオ――――ッ!


 直後。くぐもった連射音が響き、勢いよく弾丸がばらまかれる。

 《マルレリギア》へ放たれた砲火だ。


 アリスタは、ガトリング砲が張るその規則的な弾幕を軽やかに潜り抜けていく。

 そのまま一気に《ゼーガロン》の足元まで距離を詰めていった。


「コール【ヴォルガノンハンマー】、【インパクトメイル】」

「さぁマルチカさん、大きく振りかぶってー! ――いったー!」


 叩き込むのは、ダメージ115となる一打。

 それも右脚部に三度だ。


 さらにドレスの〝10パーセントで敵を怯み状態にする〟効果を全て引き当て、【ヴォルガノンハンマー】に備わる怯みへの追加ダメージと合計し、365のダメージとなる。


 〝耐久4000-ダメージ365=残耐久3635〟


 《マルレリギア》はすぐに武装をリコールし、身軽になった状態で振るわれた右腕部――【ストロングアーム】を鮮やかに回避してみせた。


 バトル開始からおよそ10秒の出来事である。


(あ、相変わらずえげつねぇ豪運……なんで10パーが当然のように三回連続で出るんだよ。そんなの、確率で言ったら0.1パーとかだぞ。う、羨ましい……)


 彼女の戦闘スタイルを一言でいえば〝絶対に破滅しないギャンブラー〟だろう。

 それはただの理不尽の擬人化だとしか、エドは思えなかった。


「あ、あたしがいる意味ってあるんでしょうか……」


 ふたりの活躍を遠方から見つめ、イヴリンが後ろ向きの思いを吐露する。


 怯みによる0.5秒の行動不能とアリスタの幸運を合わせれば、確かに単独での撃破は可能だろう。

 エドもそこに関しては何も言わず、気になっていたことに触れた。


「そうだ、イヴ。今日からネガティブ禁止にしよう。破ったら……なんか考えとく」

「えっ、あ……そ、その……それだと、今より話せなく……なります」

「かもな。けど頑張れ!」

「ぅ……は、はぃ……」


 今にも消え入りそうな頼りない返事だった。


(ま、確かに勝つだけなら任せればいいわな。ただ勝つだけなら)


 だが今回は、イヴリンの〝成功体験〟を少しでも積み上げることが目的。

 当然、エドもこのまま棒立ちでバトルを終わらせるつもりはない。


(お膳立てしてもらって、美味しいところだけ頂く。結構じゃねぇか。負けしか持っていないイヴにまず必要なのは、とにかく自分も何かしたうえで勝つって結果だ。過程は関係ない)


 というより、今はまだ過程にこだわる以前の問題である。

 それでもこればかりは、根気よく付き合っていくしかないとエドも理解していた。


(……きっとこれで勝っても嬉しくなんかない。だとしても嬉しくない気持ちの中に〝じゃあどうしたらいいか〟って意識が――闘志の芽生えが必要だと、俺は思う)


 やがて後方へ下がり続けた《イーヴェルガ》は、ようやく都市から離れた丘に位置を取る。


「コール【アングラーF】、【リジットアーマー】――こっちも仕掛けるぞ、イヴ」

「……は、はいっ」

「まず間違いなくミサイルで反撃してくるから。それはちゃんと見るんだぞ」

「!」


 告げた瞬間、操縦系統の感度が恐ろしいまでに低下したのをエドは肌で感じた。

 《イーヴェルガ》が狙撃姿勢を取り、エドも暴れる操縦桿を抑えながら呼吸を整える。


 ――発砲。


 大気を切り裂く弾丸は《ゼーガロン》の脚部に命中し、鈍重な衝撃と火花を散らした。


 〝基礎AP300+{ドレス効果(補正DP150+DP150)÷2}=450〟

 〝基礎AP450×(倍率0.55+脚部命中0.2)=威力337〟

 〝DP250-威力337=ダメージ87〟


 三発撃ち込んだ後、ボスのヘイトが《イーヴェルガ》に向く。そして、


 〝耐久3635-(ダメージ87×3)=残耐久3374〟


 エドの予告通り《ゼーガロン》の背部から丘へ、大量のミサイルが発射された。

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