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《再始動》1

 鮮烈な紅蓮と豪傑の蒼炎。

 大空を舞い、大地に影を落として激突するヒトならざる機械仕掛けの巨人。


 幾度となく繰り返される、両者一歩も譲らないその攻防には目を見張るものがあった。

 戦いを観客席で見守る者たちも手に汗握り、惜しみない声援をせいいっぱい送っている。


 ――エンボディファイト。

 具体化・具現化の意味から取り、名付けられた巨人同士で行われるロボットカードバトル。


 人間と瓜二つである彼・彼女の所有者(マスター)として、あるいは搭乗者(パイロット)として。

 ときに笑い、ときに泣き。共に日々を過ごす中で互いを認め、絆を深め合う。


 それがエンボディと呼ばれ、小さなカードから現界(げんかい)するヒトのよき隣人であった。


 ガキィン――ッ!


 金属が金属に弾かれる音が蒼穹に響き渡る。

 息つく暇もない駆け引きの果てにたどり着いた、純粋な技と技のぶつかり合い。


 制したのは紅蓮のエンボディ。格下が至高の剣を打ち破った決定的な瞬間だった。

 そして今にも折れそうな長槍が操縦席(コクピット)を貫き、バトルの決着がつく。


「「「うぉおおおおっ!」」」


 試合開始当初、誰もが期待などしていなかった大番狂わせ(ジャイアントキリング)に観客席は、闘技場(アリーナ)始まって以来かつてないほどの盛り上がりをみせていた。


 と同時に勝敗が決したことで、フィールド内にいた者も全て現実へと転移していく。


 巨大な人型に変貌していた紅蓮のエンボディも、燃えるように紅い少女へ姿を変えていた。

 勝利を掴んだ者たちが歓声に嬉々として応える。それは当然の権利だ。


 しかし一方で、蒼炎のエンボディ――【天下の豪傑】の姿はどこにもない。

 そこに在るのは、手のひらの虚空で砕けたカードの残滓を前に涙する敗者ただ一人だった。


 *


 太陽もゆっくりと沈みだした夕暮れ。いつもの買い出しの帰り道。


 バゲットや果物が入った紙袋を抱えるエドルド・ガールドンは、広場の大型ヴィジョンへと映し出されたバトル――闘技場(アリーナ)からの中継に心奪われた人々を横目に歩いていた。


 そんな冷めたまなざしを向ける少年の隣。

 いかにもお嬢様という格好で、ブロンドヘアーのアリスタ・ラフマフが呆れ交じりに言う。


「お気になさるのなら戻ってくればよろしくてよ、エド」

「気になってないし、戻らねぇよ。やめたんだ、俺は」


 エドは一瞬ハッとしつつも、やや強い口調で彼女を拒絶する。

 歩く速度も途端に上がり、すっかり気を抜いていたアリスタは慌てさせられた。


「……エンボディファイトなんて、二度とやるか」

「あっ、そうやってわたくしを置いて行くと恥ずかしげもなく抱きつきますわよ!」


 すぐに有言実行する彼女は、まるで恋人のように抱きついてみせる。


 しかし彼女の行動はいつものことだったので、特に恥ずかしがる要素もなく。

 エドは世話を焼いてくる幼馴染の重さを感じながら平然としていた。


 そのまましばらく歩き続け、やってきた大通りの雑踏の中。

 エドはある一点を無意識のうちに見ていた自分に、内心でため息をこぼす。


(――エンボディファイト。歴史のいつからか当たり前みたいにあるロボットカードバトル。ガシャに一喜一憂し、様々なカードを駆使して戦うことに誰もが夢中だった)


 この大通りが昼夜問わず混んでいるのも、ここにロロアの町で唯一のガシャ筐体を保有するショップ・アンドロシスが建っているからという理由が大きい。


「うわぁ、すげぇっ! レアなやつじゃん! いいなぁ」

「ふふーん。いいでしょいいでしょ、あげないよ」

「お、おれも今月のおこづかい残り……使っちゃおうかなぁ」

「なぁ、早く喪失(ロスト)なしでバトルしようぜっ!」


 店の外からでも、子供たちのそんな会話がガラス越しに聞こえるようであった。

 ガシャを回し、多くのカードを集めて。ときには友達や知らない人とバトルする。

 それはきっと他の何にも変えられない、かけがえのない時間だろう。


(昔は俺もあの中のひとりだった。もちろん、俺の、親父も――……)


 けれど、


「…………」


 エドは静かにショップから視線を外し、平坦で真っ直ぐな道をただ見つめ直すのだった。

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