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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
EPIṢO̱DIO SPECIALE 番外編:纏縛

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LEGATO A TE 纏縛 I

本編、無事完結いたしました。

最後までお読みいただきありがとうございました。


ここから本編の約20年後の番外編です。ひきつづきお楽しみいただければ幸いです。


 十五のころまで、父の美しい恋人が屋敷にいた。


 名前は、コルラード・ゾルジ・ヴィラーニ。

 下級貴族ゾルジ家の長男ということだったが、家を継いで間もないころの父が狂ったように入れこみ、会う口実をつくりたい一心で養子にした。

 世間的には明らかに男色の相手と見られそうだが、親戚内から反対するような声がとくに上がらなかったのは、コルラードがじつは父の母親違いの弟だという話がまことしやかにあったからなのだと思う。


 コルラードに想いが通じてのち、気を使ってなのか三年ほど経ってからやっと妻を(めと)った父は、生まれた長男が十五歳になったときにさっさと爵位のほとんどをゆずりコルラードとマロスティカの別邸に移り住んでしまった。




 ダヴィデ・ヴィラーニは、父の私室のドアをながめた。


 ヴィラーニ家を継いだ形になって三年になる。

 父がコルラードをともなって別邸に移り住んでしまってからも、ちょうど三年だ。

 コルラードと出逢って間もないころの父は、コルラードがほかの男の目に触れるのを恐れて、この部屋に軟禁した時期もあったらしい。

 そんな気の狂ったような恋慕(れんぼ)をぶつける父を、よくコルラードは受け入れられたものだと思う。

 当時のコルラードはまだ十五歳の少年だったそうだが、どんなふうにしてそんな想いを理解していったのか。


 自身が物心ついたころには、コルラードは父の従者として屋敷にいた。

 父の身の回りのことや執務の手伝いを規律正しくこなしていたが、実は父の恋の相手なのだということは屋敷内の公然の秘密という感じだった。


 きれいな銀髪に、乳白色の肌。

 造りもののようなうつくしい顔立ちに、紺青の透け石のような瞳。


 父と出逢った少年のころは、少女のように可憐であったと聞いたが、自身が物心ついたころには旧約聖書の御使いを思わせる凛とした美青年に成長していた。



 思春期をむかえたころから、コルラードに男としてどう見られているのだろうと考えるようになっていた。



 自分のほうが父よりも魅力的ではないかと思う。


 女性とも遊んだことはある。だが、どの女性よりも清冽(せいれつ)なうつくしさをコルラードに感じた。

 コルラードが廊下を通るのを待ち受けて、さりげなく付近を歩いてみたりした。

 チラチラと様子を伺ったが、あまりこちらを向いてくれたことはなかった。

 父のまえでは、おだやかに微笑していた。

 なぜそちらにばかり笑いかけるのかと胸焼けのような感覚を覚えたこともある。

 アピールが足りないのだろうかなどと考えた。


 

 

 ある日、いつものようにコルラードが父の私室から出てくるのを待ち受けていた。

 部屋から出てきた彼は、去りぎわにハンカチを落とした。


 文学小説のようなシチュエーションに、胸が高鳴る。


 父よりもずっと格好よく話しかけようと、ドキドキしながら襟元(えりもと)を直した。

 ガラスに映る自身の姿をチラリと見る。

 父ゆずりの黒い髪は、きちんと整えてあった。

 藍墨色の目で睨むように見れば、なかなか男らしいのではと思う。


「コルラード」


 まだ少年の雰囲気ののこる声を、意識して低くした。

「落としましたよ」

 一人の貴族の男として、格好よく話しかけたつもりだった。

 だがコルラードは、こちらをあまり見なかった。

 手にしていた父の衣服を軽くさぐる。

 その様子からハンカチは父のものだと気づき、嫉妬(しっと)を覚えた。

 だがそれ以上に、コルラードの手元に魅入る。

 美しい手だと思った。

 野外での乗馬や射撃が好きなわりには、白くて優美だ。

 格好の悪いふるまいはすまいと気を張りつつ、その手に見入った。


「申し訳ない」

 やがてコルラードはそう言葉を返した。

「マナーがいいのは、お父上に教わったのか」


 そうと続ける。

 コルラードと出逢ったばかりのころの父が、コルラードにマナーや性的なことを教えて自分が育てたかったと据わった目で言ったという話を思いだした。

 食堂広間での出来事だったため、いまでも古株の女中たちのあいだでひそかに語られているとか。

 父を通してしか見てもらえていなかった。

 男としてどうなのかなどということは、考えてくれたことすらなかったのだ。

 そういうことなのだと認識したのは、彼の姿が廊下の向こうに消えてからだった。

 こちらを見てすらくれなかった。

 ショックと気恥ずかしさで、せつなく眉をよせる。


 屋敷の窓から見えるブドウ畑の照りかえす陽光が、やけにまぶしく見えた。





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