A TE CHE ASSOMIGL ALLA TUA AMATA 愛する人に似ているあなたへ
教会の敷地内の一角。
ゾルジ家の霊廟は、貴族の家によくあるように屋敷と同様のこだわりを持った佇まいだ。
古代の神殿をモチーフにしたデザインで、数本の太い柱でささえられた建物のまえに大きな天使像がある。
ひろい霊廟内を、ダンテは花束を手に見回した。
十字架によりそうガブリエルの像がある墓が目に入る。
そこがリュドミラの眠る場所だと聞いた。
ふと空を見上げる。
小雨が降っていた。
霊廟の灰緑色の壁が濡れて濃くなり、墓所独特のしめった土が匂いを発する。
気にするほどの雨ではないが。
もしリュドミラが歓迎しているという合図ならうれしい。
十年もまえに格好をつけながら廊下で声をかけた少年を、はたして彼女は覚えているだろうか。
彼女にしてみれば、パトロンの子息にすぎない。
こちらは当時は本気でふり向かせて恋人と認めさせてやろうとまで考えていたなど、想像もしなかっただろう。
ダンテはガブリエルの像に近つくと、かがんで花束を置いた。
この日のために、できるかぎり女性の好きそうな花を選んだのだが。
気に入ってもらえただろうか。
「リュドミラ」
ダンテはガブリエルの像に語りかけた。
「いま、あなたの子息といる」
無表情でうつむく天使の瞳をダンテは見つめた。
リュドミラが無言で聴いてくれているように思える。
「私は、生涯いっしょにいたいと思っている」
言ってから、ダンテは苦笑した。
「コルラードがおなじように思ってくれているのか、いまだに分からないが」
うつむいた天使の顔に霧のような雨がかかり、頬や額の色を濃くする。
ここ数週間は、コルラードに本音を聞こうとするたびに「バカ」をくりかえされていた。
それでもおなじベッドで眠り、日常をともに過ごしてくれる。
きのうは、何らかの形で屋敷内の仕事に就いてもいいと言ってくれた。
軍隊に戻りたいと言われるかと思っていたので、うれしかった。
ブロンズで造られたガブリエルの波うつ長い髪が、リュドミラの濃い色のリボンをひろった日の都合のいい期待を思い出させた。
ずいぶんと遠いむかしに感じる。
「コルラードには、いろいろとひどいことをしてしまったが……」
ダンテはつぶやいた。
恋に狂った大人の男にすわった目で想いをぶつけられるなど、十五歳の少年にはひたすら怖いだけだったろうといまでは思う。
「……申し訳なかったと思っている」
ダンテは言った。
「それでも、許してくれたというか」
あいかわらず二人きりのときは、噛み合わない会話をしては「バカ」と言われてそっぽを向かれてしまうが。
執務を終えて会おうとすると、執拗に避けられ屋敷中をさがすハメになる日もあるが。
ときおりまくらや拳で殴られそうになるが。
ダンテはしずかに眉をよせ、額に指先をあてた。
「許してくれたということでいいと思うのだが……」
あらためて思い起こすと、これで嫌われていると思えない自分はおかしいのだろうかと思えてくる。
それでもベッドで朝までいっしょにすごしてくれるのだが。
「どう思う……」
そうと尋ねてみたが、天使像が答えてくれるわけはない。
ゆうべもベッドですごした。
コルラードのかわいらしい様子を思い出して、ダンテは顔が熱を持ったのを感じた。
手袋をはめた手を口にあて、大きく上体を曲げてうつむく。
神聖な場所で何を思い出しているのだ。
「その……」
あこがれていた女性の墓のまえで、ダンテは口ごもった。
「いろいろと許してくれている……」




