表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪縛 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
4.キスのしかたを教えたい
9/98

VOGLIO INSEGNARTI A BACIARE キスのしかたを教えたい


「知っていましたよ」


 兵営の面会所。

 呼びだされたコルラードは、相変わらず椅子には座らず立っていた。

 顔を逸らして、こちらをなるべく見ないようにしているようだ。

「きみの潔癖症の原因はそのあたりか」

 ダンテは壁に背をあずけて腕を組み、同じく立っていた。


 このあいだと同様、コルラードは椅子をすすめても応じなかった。

 君がそれならと同じように席を立った。

 もしここに入室してくる者がいたら、どんな状況かと困惑すると思う。


「とくに潔癖症というほどではありません。(けが)らわしいものを汚らわしいと受けとっているだけで」

「私はべつに何とも思わない」

 ダンテは答えた。

「あなたの感覚がおかしいんです」

「父がその時期まで関係を続けていてくれなかったら、私は彼女を意識することはなかった」

「僕にはまったく関係ありません」

「いや関係……」

 そう言いかけ、ないな、とダンテは思い直した。

「まあ、親同士の話などどうでもよいだろう。私たちは私たちで仲良くしないか」

 ダンテは笑いかけた。

「どんな理由で」

「いや……」

 ダンテは所在なく鼻のあたりをかいた。

 会っていないときにどうしているのかが気になるのだ。何となくだが。


「あなたは僕の顔をながめていれば母といる気にでもなれて気分がいいんでしょうが、僕には何のメリットもない」


辛辣(しんらつ)だな」

 ダンテは眉をよせた。

「そもそも愛人がどうのという話は父の話であって、私には関係ないんだが」

「僕が不愉快です」

 コルラードが答える。


「というか、ここにたびたび来るのはやめていただけませんか」

「ではどこで会ったらいい」

「会いたくありません」


 コルラードがきっぱりと言い切る。

「私がきみに何かしたか?」

 ダンテはそう問うた。

 声がかすかにイラついていることに自身で気づく。

「なにもしてはいませんよ。むしろ以前まで経済援助してくださっていた御家の方ですから感謝しています」

 感謝しているの言い方がそっけない。


「今後も援助してもいい」

「そんな話はしていません」


 ダンテはコルラードのほうに歩みよると、正面から顔を覗きこんだ。

「……いつも、目をそらして話すんだな」

 相手は十五歳の少年だ。

 いちど意地を張ったら、たぶん落としどころというものを知らない。

 こちらが譲歩してやらなければ、こじれるだけだと思う。

 何とかなだめすかそうと思ったが、つい凄むような体勢になってしまった。

「身長差があるのでそらしているように見えるんでしょう」

 コルラードが、こんどはあからさまにそっぽを向く。

「では、座って話そう」

 ダンテは椅子を指した。

「けっこうです。すぐに退室します」


「こちらを見てくれないか」


 ダンテは、小ぶりの顔を両手でつつむようにしてとらえた。

 唐突の無礼なふるまいに、コルラードが呆気にとられた顔をする。

「こちらを」

 上向かせて、はじめて正面からまっすぐに見る。

 ほんとうにリュドミラによく似ている。

 リュドミラの少女のころかというような面持(おもも)ちだ。


 彼女がこのくらいのときに出会っていたら、会話くらいはしてもらえただろうか。

 父より先に出逢っていたら、少しくらいこちらを向いてくれただろうか。 

 もし彼女がこのくらいのときに、想いを伝えられていたら。


 にわかに頭のなかが麻痺(まひ)した。

 はたと正気に戻ったときには、コルラードの唇を()んでいた。

 何をしているんだと頭の片隅で思ったが、唇がつぎの感触を求めて(うぶ)な唇を食み直す。

 コルラードは、こちらの頭部に手をのばして引きはがそうとしたようだった。

 そのコルラードの手首をつかむ。

 意外な細さにおどろいて、うすく目を開けた。

 両手首をぎっちりとつかむと、コルラードが大きく肩をゆらしてもがく。

 舌を入れてみる。意味が分からないのか、むかえてくれる舌はない。

 教えてあげたくなった。

 リュドミラもこんなことをいっさい知らないころがあったのだ。

 自分が男として教えてあげたかった。

 あいさつではない深いキスがあるのだと。

 不慣れな舌を誘った。こうするのだと示す。

 コルラードが、非難するようなくぐもった呻きをもらす。

 うす目で見ると、きつく顔をしかめていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ