SE POSSIBILE, MANTIENILO SEGRETO できれば内緒に
ステラが退室したあと、コルラードはベッドに座り足元の青い絨毯をながめた。
ダンテは、きょうはまだ執務を終えていないようだ。
よほどでない限りは夕食のまえには終わるようだが、それまで何をしていようか。
ダンテと出逢うまえは、どんな暇つぶしをしていたのだったか。
ベッドの端のほうには、ダンテが女中に作らせた大きなぬいぐるみがある。
なんの動物を型どったものなのか不明だが、さわり心地のよい布を縫い合わせて作られたようだ。
なぜぬいぐるみなのかとダンテに尋ねたが、これがないと眠れないと聞いたと言っていた。
わけが分からない。
ぬいぐるみなど、幼少のころくらいしか抱いて寝たことはない。
軟禁中、ダンテが別室で寝はじめてから少し寝つきが悪くなった感はあったが。
いっそぬいぐるみを置く代わりにダンテがいればいいのでは。
あのほんのりと高めの体温と、しずかな寝息は嫌いではない。
以前は、情交のあとは気恥ずかしくて抱き合って寝るなどできなかったが、いまはそうでもない。
ダンテと出逢った日。
徒歩で帰りながら、母は輿入れまえにあんな感じの男と関係していたのかと思った。
先代の容姿や性格がダンテと似ていたのかどうかは知らないが、ぼんやりとダンテでイメージした。
やさしそうな人だと思った。
あれが母親違いの兄なのか。そう思ったら親近感のようなものが湧いた。
あちらは大貴族の家の当主だ。
外出の折に少々関わった者など、いつまでも覚えてはいないだろうと思った。
だが、ついついその後も思い出していた。
馬に乗れず年少の者に助けてもらいながら、素直に礼を言って笑いかけたあの人が兄か、と思った。
兵営での休憩中、いまごろなにをしているのだろうと考えたこともある。
まさかこちらの身元を調べて兵営に直々に来るとは思わなかった。
大貴族家の当主が、殺風景な部屋の安物の椅子に座りほほえみかけるのを見て、ほのかな照れを感じた。
ちょくちょく思い出していたのを見抜かれるのではないかと思い、わざと嫌そうな顔をした。
それでもほほえんでいるのを見て安心した。
恋など、考えたことはなかった。
そのうちするのだろうとは思っていたが、あまり実感はなかった。
恋と親近感の区別もまだついていない相手に、真正面から思いつめた恋慕をぶつけたダンテもバカではないかと思う。
ゆっくりと口説いてくれたらよかったではないか。
そうすれば、深刻な揉めごとなど起こさずに済んだ。
それもできなくなるほどに思いつめるものなのか。
こちらは、恋がなんであるかもまだ分からなかったのだ。
そこから教えてくれたらよかったではないか。




