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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
30.あなたは僕のもの

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SEI MIO あなたは僕のもの

 コルラードの頬を唇でたどる。

 ロウソクのあかりで照らされた唇がかすかにふるえた。

 紺青色の瞳を潤ませて宙を眺める。

「ダンテ」

 コルラードがかすれた声でつぶやく。両腕で顔を隠して体を軽くひねらせた。

 さきほどまではずいぶんと強気でベッドに誘っていたのに、いざ事がはじまると関係を持ったころからあまり変わらない。


「コルラード」


 腕をつかんで退かせる。

 コルラードは、あかりから顔を逸らすように横を向いた。

 あかりはそのままでいいなどと言って。

 やはり恥ずかしいのだろうと思うと、かわいらしくて口元がゆるむ。


 なぜあかりをつけたままでいいなどと言ったのか。

 たまには大人ぶって情交の主導権を握ってみたかったのだろうか。


 こんなに初々しくてかわいらしいのに。


「あかり……」

 ダンテはそう切りだした。

「消してこようか」

 もういちどそう尋ねる。

 コルラードが無言で顔をそらす。

 ダンテは苦笑した。

「待ってくれ。消してくる」

 ダンテは手をついて起き上がった。

 いちど脱いだシャツを手にとる。

 ゆっくりと起き上がったコルラードが、シャツを奪うようにつかむ。


「消さなくていい」

「いや……」


 ダンテは苦笑いした。

「どうしたんだきみは」

 コルラードがダンテの唇に口づける。

 戸惑うダンテにかまわず、しばらくのあいだやわらかい唇を押しつけていた。

「コルラー……」

 言いかけたダンテの唇を食み、ぎこちなく顔をかたむける。

 たかぶって頭のなかが(かす)む。

 コルラードの体を抱きしめた。

 腰に手をすべらせ背中をまさぐる。

 コルラードが両手をのばした。

 ダンテの首に手を回し抱きつくと、首筋に顔を埋めて噛むように口づける。


「コルラード」


 ダンテは夢中でまさぐり続けた。

 お互いを求めて絡みついている。

 まるで相思相愛の恋人同士のような様相になっているのだがと思う。

 コルラードの熱い息が首筋にかかる。


 この子に唇の跡をつけられてしまうのだろうか。

 何となくそんなことを考えた。


 あしたの朝は、首をかくす服を用意させなければならなくなるだろうか。

 そんなしあわせな心配をしてしまった。


 室内を煌々(こうこう)と照らすロウソクが、かすかに(しん)の焦げる音を立てる。

 誰かが廊下をせわしなく歩く靴音がしていた。話し声とともに近づき遠ざかる。

 (ひざ)でこすられたシーツが、衣ずれの音を途切れることなく立てる。


「コルラード」


 強く抱きよせる。

 抱きしめるだけでは、もう(こら)えられない。

 手をついて、しずかにコルラードの体を横たわらせる。 

 コルラードはこちらの顔をじっと見ていた。

 おもむろに両手をのばしダンテの顔をつかむと、グッと引きよせて目を合わせてきた。



「僕のものだ」



 コルラードがそう言った。




「コルラード」

 銀髪に口づけた。

 ゆっくりと髪をなで、頬ずりする。

 コルラードが両手をのばし、ダンテの顔をがっちりとつかむ。

 またこれか、とダンテは苦笑した。


「言われなくても、私はきみのも……」


 コルラードが、ダンテの顔をぐっと引きよせる。

 首をわずかにのばして接吻した。

 つい我慢できなくて、さきに舌を絡める。

「コルラード」

 唇を離し、銀髪をなでる。

 コルラードは、こちらのの腹部のあたりをじっと見ていた。

 また見ているのか。

 知りたいことでもあるなら、終えたあとにいくらでも答えてあげるのに。

 余韻にひたりながら、いくらでもあまい会話をしてあげるのに。


 事後に抱き合って寝るのは、コルラードはいまだ嫌がっていた。

 情交が終わると、とたんに背中を向け寝具に顔を埋めて寝てしまう。



 なぜ嫌っているはずの相手と同衾(どうきん)して、ああもぐっすり眠れているのか。



 触れるのを拒否しておきながら、毎夜かわいらしく立てている寝息に悩まされた。

 思っているよりずっとこの子は子供なのだろうか。

 性欲に浮かされて情交を受け入れても、解消されたとたんに恥ずかしくなるのか。


 だから翻弄(ほんろう)されたのではないか。

 どれだけ気を引きたいのかと(なじ)りたくなる。

「コルラード」

 コルラードの肩に顔を埋めた。

 どうか受け止めてくれ。



 想いがあふれすぎて、一人では(ぎょ)しきれないのだ。



 真剣に恋など考えたこともない年頃のこの子に、こんなはげしい恋慕を理解しろと迫ったのは、横暴だったと思う。


 だが、止まらなかったのだ。


 一つになることしか、もう考えられなくなっていったのだ。

 どうか、少しでも汲みとって助けてくれ。


 もうぜったいに離れられないと思う。

 一生、この子の存在に呪縛されていくであろう予感がする。



 (とろけ)けるように甘くてしあわせな呪縛だ。



 絶ち切ろうという考えなど、永遠に起こらないだろう。

 心が呪縛されているかぎりずっと、この子を自分の手のなかに呪縛したいと求めつづけてすごすのだと思う。


「コルラード」


 コルラードの唇に唇を絡める。

 一つになれないだろうか。

 このまま永遠に、溶け合っていけないだろうか。





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