VOGLIO BALLARE CON TE きみとダンスを I
数えきれないロウソクで照らされた大広間は、あかりが壁の飾りや宝石で乱反射して夜の時間帯とは思えないほどまばゆい。
ひろい空間のなか、切れめなく聞こえる音楽と笑い声と雑談の声。
香水と料理と酒のにおいが混じるなかを着飾った人々が行き来し、熱気なのか少し暑さを感じる。
大広間の壁ぎわでダンテはワインを口にした。
トスカーナへ行く途中で立ちよった、先代から知る御家だ。
以前に来たのはまだ跡継ぎ息子だったころだが、疎遠になっていたのが気になっていたので近くを通るのを機に顔をだした。
ダンスなどそっちのけで雑談とあいさつに忙しい人々をながめていた。
正式な会はすべてプログラムが決まっているが、遊戯的な会なので進行は屋敷の主人の裁量だ。
音楽は途切れることなく奏でられていたが、招待客は銘々に好き勝手に動いている。
これが仮面舞踏会などとなると、一夜の不倫相手をさがす場ともなったりするのだが。
「料理などお持ちしましょうか」
付き人として来ていた年若い従者が問う。
「……いい」
ダンテは短く答えた。
「空気が悪いな……」
「外に出ますか?」
従者が言う。
パートナーの女性も連れず来ても、どうすごしてよいか分からんなと思った。
外の空気を吸うふりをして、あとは客室に引きとろうか。
色とりどりのドレスに身をつつみ、きれいに髪を結った令嬢たちをながめる。
コルラードと来ればよかった。
いい外出の機会だったはずだ。連れて来てやればよかったか。
急いで発ったというのもあるが、顔を見れば一週間も離れてはいられなくなると思い会わなかった。
留守を告げるのではなく、そのまま連れ出せばよかったのだ。失敗したなと思う。
正装でダンスを踊るところなど見たかった。
海の街に連れて行ったさいに仕立てた服でもいいが、こういうときのために新しいものを作らせてもよかった。
コルラードは白かアイボリーが似合うと思うのだが、ほかの色も映えるだろうか。
「……何色が似合うと思う」
横にいる従者に、ついダンテは尋ねた。
「は?」
「コルラードだ」
「コルラード様……ですか」
従者は、少々戸惑ったように焦茶色の目を泳がせた。
屋敷内では、とっくにコルラードは当主のお気に入りの稚児として認識されているのだろう。
下手な提案をして不興を買いたくないとでも思ったのだろうか。
「おかわいらしい方なので、何色でも似合われるかと」
従者がさわやかな感じににっこりと笑う。
かわいいのは確かだ。
ダンテは令嬢たちをながめた。
あの令嬢たちのなかに混じっても、いちばんかわいいと思う。
ゾルジ家の者としてこういった会に出たことはあったのだろうか。
だれかと踊ったことなどはあったのか。
乗馬がうまいのは知っているが、そういえばダンスの話はしたことがない。
体を動かすのは得意そうだが。
白い正装でダンスを踊るコルラードを妄想する。
まるで天使が踊っているみたいだと妄想に酔いしれて口元がゆるむ。
かわいいなかにも凛とした厳格さを持ちながら、ベッドでは自分にだけ甘えてくれるのだ。
このまえ久しぶりに夜を過ごしたときは、とくにかわいらしかった。
つぎがいつなのかと楽しみにしていたのだが、なかなか要求してくれないので余計にがっくりときた。
ダンテはワインを口に含んだ。
ふとべつのことに思いいたり、顔をしかめる。
考えてみれば、男の子だ。
こういった場に来れば、踊る相手は令嬢でしかないのか。
ダンテは大広間内の華やかな令嬢たちを見回した。
あの令嬢たちのだれかとコルラードが踊るのか。
仮にそうと考えたら、どの令嬢も許せん気分になった。
彼女たちの手をとるよりも、私と踊ってほしい。
コルラードと踊ってみたい。
手を絡めて見つめ合って、音楽に合わせてゆったりと。
衆人環視のなかで耳元で口説き文句をささやいて、照れたコルラードの顔を演奏の最後までながめてみたい。
きちんとリードするのだが。
いちどくらいダメだろうか。
そう思いながらワインを口に含んだ。




