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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
26.しばらく不在

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ASSENTE PER UN PO' しばらく不在 III

 夕方。

 オルフェオが退室したあとすぐに、ドアをノックする音がした。

 ロウソクを手にステラが入室する。

 切れ長の目にすらりとした長身。

 どう見ても線の細い感じの男性なのだが、身につけている服は地味なワンピースだ。

 ウベルトが性別についてとくに言わなかったということは、これでもじつは女性なのか。

 それとも性別について言及するのは、なんらかタブーなのか。

 コルラードは困惑しで細面(ほそおもて)の顔を見上げた。

 ステラがしずかな足運びで読書机に近づき、手にしたロウソクで燭台(しょくだい)に火をともしはじめる。

 まだカーテンを閉めていない窓に、オレンジ色のあかりが映った。


「廊下の角で聞いていたんですが、ご当主、一週間も不在なんですか?」


 ステラが尋ねる。

 低音の声にコルラードは軽く眉をよせた。どうしても男性の声に聞こえる。

「当主の不在の時期くらい知っているものではないのか?」

「従者や執事みたいな上級使用人と女中とではちがいますよ。そのうち女中長から話があるのかな」

 ステラが一本ずつ火をともす。

 半分ほどともしたあたりで、おもむろに口を開いた。



「それより逃げるチャンスでは?」



 コルラードは開け放たれたままのドアを見た。

 ステラに視線を戻す。 

「当主の目を(かす)めるのは元からかんたんだ。従者が手強(てごわ)い」

「従者は手強いですか」

 ステラがかすかに笑う。

「二回ともあの従者に捕まった」

 ステラがフリルのついた肩をゆすって含み笑いをする。


「なかなかやりますねえ」

「おまえも気をつけろ。なんの目的の潜入か知らんが」


「ええ」

 ステラが微笑して返事をする。

「きれいないい男なのになあ。(すき)がないのか」

 残りのロウソクに火をともす。

 ジジ、と(しん)の焦げる音がした。

「少しくらい隙のある男のほうが、かわいげがあると思いませんか?」

「知らん」

 コルラードは答えた。


「ウベルトが心配してましたよ」


「……逃亡に失敗したことは言うなといったのに、おまえ言ったな」

「すみませんねえ」

 ステラがもういちど肩をゆらして笑う。

「心配するなと伝えておけ」

 不意に、ダンテとベッドを共にすることになんの抵抗もなくなってきている自分を思い返した。

 まえにウベルトと会ったときから、自分の雰囲気は変わってしまっただろうか。

 なんとなくウベルトと会うのも気が引ける気がする。


「できれば僕のことは忘れろと」

「そんな言い方ではよけいに心配しますよ」


 ステラが火をともしながら言う。

「そうか」

 窓の外が暗くなるにつれて、ガラスに映ったロウソクのあかりが明るく浮きたって見える。

「では、心配するなだけでいい」


「コルラード様」


 開けられたままのドアがコンコンとノックされる。オルフェオが出入口にいた。

「すみません、言い忘れたことが」

「やば……」

 オルフェオに背中を向ける格好でステラがつぶやく。

 残りのロウソクにいそいで火をともした。

「では坊っちゃん、おやすみなさい」

 ステラが作り笑いで会釈し、オルフェオから顔をかくすようにして退室する。 

「あれは?」

 オルフェオが、ステラの去った方向を目で追い尋ねた。

「女中ではないか」

「あんな女中いましたか?」

 オルフェオが問う。

 居心地の悪さを感じ、コルラードは従者から顔をそらした。

「ひろい屋敷だ。あまり顔を覚えていない女中もいるだろう」

「女性の使用人はすべて把握(はあく)しているつもりですが」

 オルフェオが(あご)に手をあてステラの去った方向をながめる。


 すべてなのか。

 頭のなかでなんとなくコルラードは突っこんだ。





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