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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
25.きみの真意は

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I TUOI VERI SENTIMENTI きみの真意は III

 コルラードはドアを見つめ、従者の遠ざかる靴音を聞いていた。

 ゾルジ家のだれが来たのか。

 養子にされた直後に帰りそこねて以来、実家には手紙ひとつ出していない。

 ゾルジ家としては、安否の確認くらいしたくなってもふしぎはないのかもしれない。

 ドアから離れ、コルラードは窓ぎわのカウチに移動した。

 すっかりここが昼間の定位置になっている。

 そもそもゾルジ家の父は、どんなつもりで養子を承諾したのか。

 世間知らずな人ではあるが、それでも以前の自分ほどものを知らないわけではないだろう。

 十五歳にもなりすでに自立している相手を「養い子」としてむかえ入れるのが言葉通りの意味ではないことがあるということを知らないわけがない。


 ダンテは、養子の話を持ち出すさいにいったいどんな顔をしていたのか。


 ベッドの上で好きなようになぶることを想像しながら、父にもっともらしいことを言ったのか。

 ドアがノックされる。


「コルラード」


 こんどはダンテの声だ。

 自分の部屋なのにいちいち入室の許可をとりたがるんだなと思いながら、コルラードはいちおう返事を返した。

 ドアが少しだけ開く。

「コルラード、ゾルジ家の使いの方が来ている」

「いま聞いたところです」

「顔を出さないか」


「あなたに軟禁されていると言ってもいいのか」


 コルラードはそう答えた。

「あなたの従者はいいと言った」

 ダンテがしばらくこちらを見ていた。

 ややしてから大きくドアを開け入室し、しずかに閉める。


「かまわん」


 ダンテが落ちついた口調でそう返す。

「何ならゾルジ家のお父上にお会いしたさいに、あらためてご説明する」

「なにを説明するんですか。そちらの奥方にいかがしい感情を持っていたので、息子を代わりにしましたとでも」

「……奥方を女性として見ていたのはたしかだが、だからといってご子息が代わりとは思っていない。そう言う」

 コルラードは睨みつけた。

「ほんとうに愛しているので、今後もきちんと面倒見ると」

「だれが納得するものか」

 コルラードは吐きすてた。


「そんな説明では、まず僕が納得できない。騙した上に除隊までさせて、自由もあたえずにベッドで玩具にし続けたと言ったらどうですか」


「玩具にしたつもりはない」

 ダンテは顔をしかめた。

「私なりに楽しんでもらおうと努力したつもりだ」


「僕が楽しんでいたとでも言うのか!」


 コルラードは声を張り上げた。

「え……」

 ダンテが言葉をつまらせてコルラードを見る。

 どういうの意味で絶句しているのかと、コルラードは眉をよせた。


 ややしてから、ダンテが苦笑いのような複雑な表情になる。

「……いや」

 そうつぶやき、口元をゆるませる。

 なんだその表情は。コルラードはイラついた。

 楽しんでいたと思われていたのか。顔が紅潮したのが分かる。


 ゆうべ受け入れたのは生理現象だと言ったのに、まったく理解していないではないか。


「いやその」

 ダンテが決まり悪そうに口元に手をあてる。

「ゾルジ家には、もうずいぶん帰っていないそうだが」

「あなたに関係あるのか」

 コルラードは顔をそらした。

「その」

 ダンテが口に手をあてたまま、横を向く。

 ゆうべの性交の様子を思い出しているのか。

 いつまでそんなことに記憶をめぐらしているんだと、コルラードはイライラと奥歯を噛みしめた。 

「いや……」

 ダンテが表情をおさえつつ切り出す。

「お父上も心配されている。最近は、たびたびきみの様子を聞かれていた」

「父に僕の生死でも疑われましたか」

「そこまでではないが」

「それで、なんと言ったんです」

 コルラードはそっぽを向いた。

「元気でいると」

「軟禁して玩具にしている一方で、よくも真顔で答えられたな」

「玩具にはしていない」

「うるさい」

 コルラードは吐き捨てた。


「僕がウベルトに(かくま)われていたあいだは? とうぜん実家をさがさせたでしょうが、実家にはなんと言ったんです」


「……変わりないと」

「大ウソつきが」

 コルラードは声音を落とした。

「しかたのないウソだろう。ムダにご心配をかけるわけにもいかない」

 ダンテは心地悪そうに目を泳がせたが、ややして続けた。


「除隊した経緯だけは、だいぶ以前にお父上にご説明した」


 コルラードは目を見開いた。

「私がムリを言って辞めさせたと」

「……そこはウソはつかなかったわけだ」

「お父上が、それくらいは自由に選択させてやってほしかったと言われたので、その場で謝罪した」

 コルラードは床を見つめた。


 謝罪したのか。


 格上の身分で経済援助までしている側がか。

 コルラードは無言でダンテから顔をそらした。

 体裁のためにいい人のふりをしているだけだ。そう思いこもうとした。



 怖い表情で肉体関係を迫られるまでは、おだやかな好人物なのだと思っていた。



 なにを言っても怒らなそうだったので、兵営ではついつい反抗的なことばかりを言った。

 (じゃ)れているようなつもりだった。

 それだけに、据わった目で私室に連れこまれたときも騙されたと知ったときもショックだった。



「……不正を行っているなどと作り話の種にした相手に、よくもシレッと会えるな」

 コルラードは吐き捨てた。

「経済援助と御家の運営の助言をしているんだ。会わないわけにはいかないだろう」

(つら)の皮の厚い」

 コルラードはそう(なじ)った。

 ダンテがしずかに息を吐く。

「……私への不満はあとでいくらでも聞く。応接間に顔を出す気はないか」

 コルラードは顔を逸らして答えを拒否した。

「ないか。分かった」

 そうダンテが言う。きびすを返した。

「元気だと伝えておく」


 ややしてから、ドアの閉まる音がした。





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