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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
24.あなたの出かけた先は

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HO LA NAUSEA MA NON LO ODIO 吐き気はするけど嫌悪はない II


「あの従者は、あなたの執務がさいきん遅れがちで困るから、僕に体を使って協力しろと言ってきた」


 コルラードはそう答えた。

「主従そろってクズだな。気が合うはずだ」

 ダンテが手の動きを止める。コルラードの顔を据わった目でじっと見つめた。

 ウソでもついていると思っているのか。

 この男の頭のなかでは、自分はいったいどこまで淫乱な人間にされているのか。

 侮辱(ぶじょく)ではないか。腹が立つ。


「ではクズでいい。協力してくれ」


 そうダンテがつぶやく。

「たしかに執務も手につかん」

 抑揚(よくよう)のない口調でそう言うと、ダンテはコルラードを抱きしめた。

 上着の(すそ)をめくり両手を差しこむ。シャツをズボンから引きぬいて、コルラードの背中の素肌をなでる。

 コルラードはゾクリと感じて上半身をゆらした。


「そんな義理はない!」

「嫌ってもいいから」


 ダンテが、コルラードの服の留め具をあわただしく外す。

 あらわになった鎖骨に口づけ、喉仏(のどぼとけ)と首筋と耳たぶとをねぶる。


「なにをさわっているんだ! 一生さわるなと言ったはずだ!」


 コルラードはダンテの服をつかみ声を上げた。

「嫌いでいいから、体だけでもくれ」

 ダンテがコルラードの胸元に口づける。

 コルラードは息をふるわせた。

 唇を捕らえて、強く押しつける。

 抗議の声を上げようとしたが、はげしく口腔内をさぐられコルラードは小さくうめいた。

 後頭部を押さえられて逃れられない状態で顔をしかめる。


「頼むから」


 ダンテが譫言(うわごと)のようにつぶやく。

 コルラードのズボンの留め具を外し、腰をまさぐる。

「ゆうべ男娼と寝たんじゃないのか! だれでもいいのか!」

 コルラードはダンテの肩を両手で押して(もが)いた。

 大きくはだけられたシャツをダンテが乱暴に引き剥がす。

「クズ!」

 手首を強くつかまれる。

 足を(もつ)れさせるようにして引きずられ、ベッドに連れこまれる。

 押し倒され、シーツにグッと押しつけられた手首をコルラードはムリやりにでも外そうと肩を大きくゆらした。

 力ではかなわず、ダンテを睨みつける。 


 ダンテが、ゆっくりと指を絡めて手をにぎる。


 コルラードの肩に顔を埋めた。

 ダンテの首筋から、麝香(ムスク)の匂いが香る。

 押さえこむように上に乗った体からは、やや高くなった体温が伝わった。

 荒い息を吐くと、ダンテはおもむろに体を起こした。

 クラバットをゆるめて外し、シャツを脱ぐ。

 引きしまった大人の男の裸体をさらした。

 腕も肩も筋肉も、まるで自分とはちがう。コルラードはじっと見つめた。

 わずかに動くたびに二の腕と肩と首筋との筋肉が連動し、横腹に続いて締まった腰が動く。

 乱れた黒い前髪が顔にかかり、ダンテの据わった目元に影を作った。


 なぜ自分は、いつもここで逃げないのだろうかとコルラードは思った。


 なぜいつもダンテの裸体をこうしてぼんやりとながめているのか。

 父の不正についての話は、ウソだったととっくに分かっているのだ。

 もうベッドをともにする理由はない。

 毎回拒否するようなことを言いながら、けっきょくは受け入れている自分をダンテはどう見ているのか。

 こんなふうに受け入れるから、目につく男すべてにそうだと思っているのか。



 あの従者のいう嫌悪感というのは、どの時点で湧くものなのか。



 コルラードはおおいかぶさってくるダンテの動きを目で追った。

 ダンテの腰骨が下腹部のあたりでこすれ、脚が両膝(りょうひざ)のあいだに割りこんでくる。

 シーツに手をついて、ダンテはこちらを見つめた。

 思いつめた険しい目をしていたが、コルラードに逃げる様子がないと察したのか、わずかに目元をほころばせた。

 コルラードの顔を捕らえ、(ほお)に口づける。

 目尻に唇を這わせ、髪をなでた。

 じっとコルラードの顔を見ると、もういちど唇を重ねる。


 コルラードは思わずダンテの肩をつかんだ。


 どちらのものか分からない吐息が、唇と唇のあいだからせわしなく漏れる。

 「コルラード」とダンテがなんどもつぶやく。

 うっすらと開けた目に、天蓋(てんがい)から透ける何本ものロウソクのあかりが見えた。

 煌々(こうこう)と部屋を照らしている。

 いつもは一本にするのだが。


 それではダンテの体が見えない。


 鼻先にある大人の男の肩が、麝香の香りとともに感情をとりこんでいく。



 それで。

 嫌悪感というのは、どこで出てくるのだ。





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