SIMILEM TIBI PROSTITUTO きみに似た男娼 IV
男娼の少年がロウソクを灯す。
濃厚なハチミツに似た香りがただよった。
朱色の内装の部屋。あまい香りのロウソクがゆらゆらと火をゆらす。
少年はラフにはおっていた服を肩からすべり落とすと、ダンテのそばに寄りそった。
「ほんとうにいっしょに寝るだけでよろしいのですか?」
「それでいい」
少年はダンテの顔をじっと見つめた。
ロウソクの火に照らされた顔立ちの感じが、コルラードに似ている。
瓜二つとまではいかないが、目の造形や全体的なふんいきが何となく。
惹かれたのがこの子だったら簡単だったろうに。
生活費を渡すなり別宅に囲うなりして、おだやかに関係していられたと思う。
心から好きになってくれることはなかっただろうが、コルラードとのあいだのような激しい遣りとりなどはせずに済んだだろう。
少年が碧色の瞳でじっと見つめる。
あなたが好きで堪らないのだと言いたげな表情で、唇を唇に這わせ押しつける。
「おいで」と誘うようにダンテは唇をうすく開けた。
少年が顔をかたむけてさらに唇を押しあてると、手なれた感じで舌を侵入させる。
あまく、ゆっくりと少年の舌がダンテの舌に絡む。
「コルラード」と心のなかで名前を呼びながら、ダンテはうす目を開けた。
あいかわらず自分から舌を絡めてくれることなどないコルラードと、少年を重ねていた。
最近はキスすらしていない。
唇にすら触れるのを拒否しておきながら、なぜあの子はその唇を私のまえに晒すのか。
せめて隠しておいてくれと思うことがある。
コルラードが目の前で話すたび、唇に目が行ってしまい堪らないことがある。
なぜ罵りを口にしながら、うす桃色の唇を私のまえで誘うように動かすのか。
ひどいではないかと思う。
少年の腰を抱いた。
コルラードとおなじような華奢な腰だ。
重いマスケット銃を持ち歩き、馬を乗り回していたわりには、コルラードの体は男性的な感じがなかった。
これからどう変わって行くのか。毎晩のように体を重ねていたら、その過程が見られるのだろうかと思っていた。
少年の項を押さえ、唇を押しつける。
おたがいに絡め合うようにして舌を舐め合う。
少年が、熱に浮かされたような声で小さく呻いた。ダンテの肩にそっと手をそえる。
舌の混じり合う音が、朱色の部屋にただよう。
少年がダンテの背中に手を回す。ダンテはうす目を開けた。
体のほうは欲情していた。
性処理がしたくて堪らない。
だがこの少年としようとすれば、コルラードとの違いのほうが気になってしまいそうな気がした。
コルラードに似た少年を代わりとして指名しておきながら、コルラードとおなじに何もできない。
われながら何をやっているのだと思う。
少年が頬にキスしてきた。
恋慕を受け入れてくれているような、頼りにしてくれているかのような。男として嬉しい感情をわき立たせるしぐさがやはり巧みだなと感じる。
これがコルラードなら、どれだけ嬉しいのか。
「きみも寝ていいよ」
ダンテはそう告げた。
少年がダンテの顔を覗きこむ。
目の色はコルラードとちがう。ふかい碧色だ。
「酒でもたのもうか」
そうダンテは言った。
「お持ちします」
少年が起き上がり、いちど脱いだ服を軽くはおる。
ダンテは財布から紙幣をとり出して、少年に渡した。
「貴腐ワインを」
「ここにはそこまで高級なものは」
「ではべつのでいい」
コルラードに小遣いを渡していた時期を思い出した。
あのとき小遣いをほしがったのは、情報提供の対価としてあの男に渡すためだったのか。
あの子としては、必死の色仕掛けだったのだろう。
翻弄された自分が惨めだった。
軍隊の給金の大部分を実家に渡していたコルラードは、除隊させられた今はほとんど金を持っていないはずだ。
小遣いもいっさい渡していない。
こういう関係は、何と言うのだろう。
稚児として囲っているのなら小遣いを渡すものだろうし、恋人なら軟禁などせず自由にさせるものだ。
少年がワインの入った水差しとグラスを運んできた。
グラスにそそぎ、ダンテに手渡す。
「きみも」
「はい」
少年が返事をし、釣りを数える。
「いいよ。とっておいてくれ」
「だいぶ多かったのですが」
「いいよ、あげる」
ダンテはそう返した。
少年が微笑する。
「ご奉仕しましょうか」
服を脱いで椅子の背もたれにかけ、少年はダンテの横に座った。身を屈ませて、ダンテの大腿に手を添える。
ダンテは少年の髪をそっとなでた。




