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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
23.きみに似た男娼

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SIMILEM TIBI PROSTITUTO きみに似た男娼 III


 「これから出かけるので」


 夕方。

 ダンテは私室に戻りコルラードにそう告げた。

 机に置きっぱなしにしていた本を重ねる。あらたに設けた寝室のほうで読もうと思った。

 さきほど女中が灯していった燭台(しょくだい)のロウソクが手元を明るく照らす。


「いちいち僕に報告しなくてけっこうです」

 カウチに脚を組んで座ったコルラードがそう返す。

「そうか」

 ダンテは苦笑した。 


 以前はおなじ部屋で親しくすごせば、いつか受け入れてくれるのではないかと思っていた。

 いつか、にこやかに雑談を楽しめる仲になれるのではないかと。

 だがいまは、ムダなのだと理解した。

 潔癖症のこの子には、ウソをついて肉体関係に持ちこんだ男など一生ゆるせないだろう。

 受け入れてはもらえないだろうに、部屋から出すのは嫌だった。

 触れたくても触れられなくて身悶(みもだ)えするほど切なくても、手元にはいてほしい。

「オルフェオは午後から休みをとらせたから、あすの朝までこないと思う」

 ダンテは部屋に置いた上着を腕にかけた。

「男手が必要なら……」

 そう言いかけて、ダンテは押し黙った。

 「ほかの従者を」と言おうとしたが、コルラードにほかの男をなるべく近づけたくない。

 やはりどうしても、取られてしまうのではと考えてしまう。


「……オルフェオと夜中に話しをしたのか」


 コルラードは何も答えず、向こうを向いていた。

 思わず首のあたりをじっと見る。

 オルフェオに接吻された跡でもあるのではと目でさがしてしまう。

「コルラード」

 ダンテは手を止めた。

「オルフェオとどんな話を」

 コルラードが横目でこちらを見る。

「いや……」

 いかがわしい妄想に走りそうになった頭のなかを、ダンテは懸命におさえた。


 私のコルラードは、そんなふうに男という男を節操なく受けいれるような子ではない。そこまで淫らな子ではない。


 そう必死で頭のなかに言い聞かせる。 

「その……あれはときどき、意地悪な言い方をするところがあるから。何か刺々(とげとげ)しいことでも言われなかったかなと」

 ダンテは苦笑して取り(つくろ)った。

「根は悪い男ではないんだが」


「ではここに来ていないで、あの従者が休んでいる部屋にでも行ってやったらいい」


 コルラードが吐き捨てる。

 ダンテは困惑して眉をよせた。

「……何でオルフェオの部屋に」

「僕なんかよりも、よほど気に入っているのでは?」

 コルラードがイラついた口調で言う。

「いや何というか……そもそも気に入っているから従者にしているんだが」

「うるさい」

 コルラードが、ダンテの言葉をさえぎるように返す。

 何だこれはとダンテは当惑した。

 話の脈絡(みゃくらく)がよく分からない。こんな話し方をする子だったか。


「あの従者になにを吹きこまれたか知りませんが、あなたがいないからといって、寝られないなんてことはないですから」


「……そうか」

 会話がいまいち噛み合っていないが、つまり変わらず嫌っていると言いたいのだろうか。

「きちんと寝つけているのか」

「とうぜんでしょう。一人のほうがぐっすり眠れる」

 それはそうだろうと思う。

 この部屋に閉じこめられるまえは一人で寝ていたのだ。


 コルラードが以前使っていた部屋は、そのままだと執事が言っていた。

 さすがに血痕(けっこん)のついた絨毯(じゅうたん)などは替えてあるのだろうが、その部屋を使って屋敷に住んでもらうだけでは耐えられないのだろうかと自分でも思う。


「執務の関係の外出だというなら、なおさらです。僕にはまったく関係ない。知らせはけっこうです」


 コルラードがそう言い、なぜかこちらの表情を伺うようにチラッと見る。

 やはりあの男娼の子より、目つきがきつめだなと思った。

 目の造りは似た感じなのだが、コルラードのほうがいかにも気の強そうな目をしている。

 情交の最中には、あの目が(うる)んで無防備になると知っているが。

 コルラードのアイボリー色の肌が恋しかった。

 もう相手をする理由などないと(ののし)りつつも、おとなしく応じる瞬間がかわいいのだ。

 私のものなのだと思うと、しあわせだった。

 心はくれないが、体はゆるしてくれている。

 それでいいのではと、心に懸命に折り合いをつけようとしていた。


 ダンテは顔をそらした。

 ウソをついたのは、いまでも申し訳ないと思っている。

 だが、挽回(ばんかい)の機会すらくれないコルラードの清廉さも残酷だなと感じる気持ちがある。



 きみのせいで外出が増えているんじゃないか。



「実家の援助をやめたいなら、やめればいい。もともと僕は反対していたことだ」

 とうとつにコルラードが切りだした。

「なぜここでゾルジ家の話が」

 コルラードが横を向いたまま無言で脚を組み直す。

「ああ……そうだ」

 不意にダンテは思い出した。

「ぬいぐるみが好きなのか?」

 コルラードがゆっくりと顔をこちらに向けた。

 不可解そうに眉をよせる。

「オルフェオがそんなようなことを」

 コルラードはますます不可解そうに眉をよせ、じっとこちらを見つめた。

「何なら女中に作らせるが。大きいのがいいのか?」


「あなたの従者は、頭がおかしい」


 コルラードがそう返す。

「いや……変わり者なのは否定しないが」


「僕は用足しの介護などする気はない。必要ならあの従者にやってもらえばいい」

 コルラードが語気を強める。

「……何の話だ」

 ダンテは困惑して眉をよせた。





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