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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
20.神経を逆なでする

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SFOGLIATELLA 焼菓子 II

「あの従者の旦那つきでおでかけですか」


 コルラードが噴水の(ふち)に座ると、ウベルトが小声でそう声をかけてきた。

 いつ従者が戻るか分からないので、背中あわせの位置に座り顔を会わせずに話す。

 周囲はあいかわらず人々でごった返している。

 話し声もざわめきにまぎれやすく、見ず知らずの者同士がただ違うほうを向いて座っているだけというふりをしやすいのはありがたい。


「監禁ではなく軟禁といったところですか。まあ、おでかけを許していただけるなら」

「このまえは当主自身に海の街を連れ回された」


 コルラードは唇を尖らせた。

「やることは健気(けなげ)なんですけどねえ、ご当主」

 ウベルトが肩を大きくゆらして笑う。

「どうしたかと思ってましたよ」

 そう言い、無作法なしぐさで脚を組む。

 視界の端に、ウベルトの靴のさきがゆれるのが見えた。

「いちど逃げるのに失敗したそうで」

「ステラか。言うなといったのに」

 コルラードは(ひざ)の上で頬杖(ほおづえ)をついた。

「そういうときにご連絡くださいと言ってるのに」

「おまえでは家族に迷惑がかかる」

 コルラードはそう返した。

「エルサはああ見えて、多少のことは大丈夫ですよ」

「それでも小さな子供がいるんだ。僕のために無茶することはない」

 ふう、とウベルトが息をつく。

 いろいろと言いたいことが内包されているようなため息だ。

 コルラードは従者の入って行った路地をながめた。

 けっこう時間は経つと思うが、まだ戻ってきてはいない。

 人の通りはさきほどよりいくらか少なくなり、人を押し退けてまで歩くほどではなくなっている。

 やや離れた箇所に座っていた男性が、立ち上がり大きな袋を持って人混みにまぎれていく。

「ご当主はあれからどんな様子ですか?」

「いまは落ちついている」

 コルラードは答えた。

「おだやかな感じですか」

「そんな感じだ」

 コルラードは、イラついてテーブルの脚を蹴ったときのことを思い浮かべた。 

「強気でものを言えば、泣きそうな顔をしてなにもしてこない」

 コルラードは鼻で笑った。

「いい大人が泣き顔とはな。あきれる」

 は、と息を吐いてウベルトが笑う。

「思ったより元気そうなので安心しました」

 肩のあたりを動かす。両手を組んだようだ。

「無茶なあつかいをするお人ではなさそうだと思いましたが」

 ウベルトが言う。

「それでも、坊っちゃんがもう少し大人になるまで距離を置いたほうがいいと思いますけどねえ」

「それは向こうに言ってくれ」

 コルラードは眉をよせた。

「ご実家にもあいかわらず帰ってはいないんですか」

「ずっと帰っていない」

 養子を承諾したという話を父に聞かされて以来か。

 いまとなっては、どんな顔をして実家に顔を出したらいいのか分からない。 

「経済援助は続いているようですね」

 ウベルトが言う。

「実家は変わりないか」

「こっちもいまは出入りしてないですからねえ、さすがに」

 ウベルトが身体を大きく横にかたむけて脚を組み直す。

「このまえ門の外を通りかかったら、シモーネ様に声をかけられましたが」

「……何をかけているんだ」

 コルラードはあきれた。

「坊っちゃんと違って、人懐(ひとなつ)こい方ですからね」

 ウベルトが身体をゆすり笑う。

「ちょっと背が伸びられましたね」

「そうか」

 ふたたび人の多くなりだした周囲の様子をコルラードはながめた。

 路上に座り物売りをしていた者のなかには、そろそろ荷物をたたんでいる者もいる。

 オルフェオの入って行った路地の入口を確認した。

 まだ姿はなかったが、もしかするとべつの路地から出てくるのかもしれない。

 近辺の路地の入口を見回す。

「ステラはまだとうぶんお屋敷にいるみたいですから、何かあったら遠慮なく」

 やや間を置いてから、ウベルトがそう告げる。

「ああ……なんどか部屋にきたが」

 コルラードは両手を組んだ。

「あれは」

 男なのか女なのかと尋ねようとした。

 いまだ会うたびに困惑する。

 どうしても女装した細身の男に見えるのだが。

「……いや、いい」

 コルラードは眉をよせた。

 ウベルトが背中を丸めて小さく鼻で笑う。


「まあ、この辺にしますか。従者殿がずっと待っていらっしゃるみたいなので」


「えっ」

 コルラードは身体を大きくゆらして立ち上がりかけ、周囲に視線をめぐらせた。

 どこにも従者の姿はない。

「坊っちゃん、気づかないふりするのが礼儀ですよ」

「礼儀って」

 コルラードは目を左右に動かし、あたりを見回した。

「 “間男” と話すのを容認してくれるとは。主人にあまり忠義がないのか、何か思惑でもあるのか」

 ウベルトが身体をまえにかがませ、組んだ脚の上で頬杖をつく。

「それとも単に、主人の恋狂いにあきれてどうでもいいのか」

 あたりを歩く一人一人の顔を、コルラードは目で確認した。

 どこにいるのかいまだ分からない。

「しかし、あの目立つ容姿で間者まがいのことまでするとは。おもしろい方だ」

 ウベルトがつぶやいた。





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