SESSO CON UN ANGELO 天使との情交
この屋敷のダンテの私室は、先代の私室だった部屋から少し離れたところにある。
私室のドアを開け、コルラードを室内に促す。
来ることを事前に知らせていたからだろう。カーテンが開けられ、陽光がさわやかに射しこんでいる。
空気の入れかえをしたのか、室内の空気は清澄だ。
そっぽを向いたコルラードのほうを見る。
外を二人で歩くのは楽しくしあわせだったが、満たされない部分もあった。
いつもとちがう場所でちがう姿を見れば、またちがう愛しさがこみ上げる。
今日だけで、どれだけはじめての姿を見たのか。
その場で抱きしめたいのに、それができないのはもどかしい。
せまい路地にかくれて抱きしめてしまおうかとなんども思った。
「コルラード」
ダンテは力をこめて抱擁した。
外を歩いているあいだ、ずっとこの子に気がねして必要以上に近づくのを我慢していた。
ようやくふれることができた。
外出着がしわになるのもかまわずコルラードの背中をかき抱く。
「コルラード」
「ふざけるな。ここまでだ」
コルラードは肩を大きくゆすり抵抗した。
「毎回言わせるな。あなたとこんなことをする理由はもうない」
「させてくれ」
「聞いているのか!」
コルラードはダンテの肩を両手で押して逃れようとした。
「くだらない散歩につき合ってやっただけありがたいと思え!」
「このまま抱かせてくれ」
ダンテはコルラードの首筋に顔を埋めた。
「外に出て男娼としてくればいい」
「男娼はきみじゃないじゃないか!」
「なにを言っているんだ!」
コルラードが声を荒らげる。
「服を脱いでくれ」
ダンテはそう懇願した。
「下衆」
コルラードは吐き捨てた。
コルラードの首に巻かれたクラバットに手をかける。
「外してあげる」
シュル、と上等な布がこすれる音がする。
コルラードはダンテの肩をつかみ、逃れようとした。
コルラードの襟を引ったくるようにして、首の留め具を外す。
あらわになった鎖骨のあたりの肌に目を奪われる。
「何でもしてあげるから」
だから、すべてをくれ。
コルラードの鎖骨を唇でなぞる。コルラードが全身を縮ませた。
襟ぐりをはだけ、首の付け根に接吻する。
「そう言って僕の要求なんか聞いたことがあるか!」
コルラードは声を上げた。
「きみが無茶な要求ばかりするからじゃないか!」
「部屋から出して養子を解消しろの、どこが無茶だ!」
「できないことを言うんじゃない!」
「できないわけがあるか!」
ダンテはコルラードの細い両の手首をつかんで抵抗をおさえた。
「ほかのことなら何でも聞いてあげる」
「ほかはいりません」
「何でも買ってあげるから」
何を提示すればいいのか分からず、ダンテはついそう口にした。
「小さな子供でもあるまいし。ほしいものがあれば自分で購入します」
コルラードがますます機嫌を悪くしたように声のトーンを落とす。
「ここから帰ったら、養子を解消してください」
「いやだ」
「話にならない」
「いいから脱いでくれ。性交の跡をつけた服でほかの者たちのまえに出てほしくない」
「最低だな」
コルラードが眉をきつくよせる。
大きな紺青色の目が、もはや誘っているように感じる。
「コルラード」
コルラードを抱きしめ、背中をかき抱く。
愛おしさが止まらない。
ダンテはコルラードの服の留め具を一つずつ外した。
合わせが女性の服と違う。利き手では外しにくい。
事後に着せてあげるときもこうなるのだと考える。
こういうときだけは、ほんとうに男の子を相手にしているのだとはっきりと認識する。
コルラードの小ぶりの顎を両手で捕らえる。唇を食んだ。




