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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
16.監禁

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CONFINAMENTO 監禁 II

 コルラードがベッドから降りようとする。

 ダンテは彼の手首をつかんだ。

 ロウソクのあかりが、うすい天蓋(てんがい)を通してベッドを照らす。

 なめらかな背中がオレンジ色に染まっていた。


「どこに」

「部屋にもどります」


 罵倒(ばとう)をくりかえしたせいで、コルラードの声はかすれていた。

 ひどいことをしてしまったと思ったが、ひどいのはこの子もおなじではないかと思う。


「もうこの部屋から出ないでくれ」


 コルラードはふり向いた。怪訝(けげん)な表情をする。

「この部屋で生活してくれ」

 ダンテがそう続けると、コルラードは眉をよせた。

「食事は運ばせる。定期的に女中かオルフェオをよこすから、その他の用事はどちらかに言ってくれ」


「……監禁する気ですか」

 コルラードがそう問う。

「きみが逃げたりするから悪い」


「ここで僕にしていることは口外しないのでは。閉じこめたりしたら、さすがに屋敷中の人間が察する」

 ダンテは目をそらした。

 できるかぎり気をつかってあげたいとは思っていた。

 女性とちがうことももちろん分かっているし、十五歳の少年でも男性としてのプライドがあると理解していた。


 ほんとうなら廊下だろうが外だろうが抱きしめたいときに抱きしめて、コルラードの体も唇も愛でたいときに愛でたい。

 だれかれかまわず、これは私のものなのだと宣言したい。


 それを懸命に我慢(がまん)して、せめて夜のひとときだけでもと懇願した。


 だがそうやって懸命に気づかいをしても、まったく分かってくれなかったのはきみのほうではないか。

 そこまで我慢したのに、ほかの男にあっさりとなつかれた(みじ)めさがきみに分かるのか。

 黙って目を伏せたダンテの顔を、コルラードが軽蔑(けいべつ)するような目で見る。

「刺されて死ねばよかったのに」

 コルラードが、ダンテの手をふり払う。

「……致命傷になる箇所くらいは知っているだろう。ではなぜそこにしなかった」

 ダンテは苦笑した。

 コルラードが黙って紺青色の目を眇める。

 意地悪な返しだったか。

 軍隊にいたとはいえ、人を殺したことがあるわけでもない少年がそこまで手ぎわよくできるわけはないか。

 ダンテは身体を起こした。

 コルラードの肩に手を伸ばす。

 背中に密着して耳元に唇をよせた。


「これからは、終わったあとはいっしょに寝てくれ」


「もう屋敷内の人間にかくす気もないのか」

 コルラードが声音を落とす。

「ない」

「下衆」

 コルラードは言った。

「眠るときまで男娼のまねをさせる気か」

「そうじゃない。ふつうの恋人同士みたいにすごしたいんだ」

「母の肖像画と寝ていたらいい」

 切なさとイラつきの混じった感情がダンテの心のなかに広がる。

 開き直ってこの子を力尽くでも好きにしてしまえという気持ちと、ここまできてもかわいくて気持ちを損ねたくないのだという気持ちとが、交互に交ざりあう。

 何を言えば分かってくれるのか。


「愛している」


 ダンテは言った。

 これを言えば分かってくれるだろうか。

 コルラードは、無視して靴を履いている。

「ともかくこちらにもどってくれ」

 できる限り機嫌(きげん)を損ねないよう、おだやかな口調で枕元にさそう。

「いちどくらいいっしょに眠ってくれ」

 コルラードの銀髪に口づける。

 自身がつけた麝香(じゃこう)の香りが移っている。

「機嫌を直してくれないか」

 ふと思い立って、コルラードの肩にのせた手を下ろす。

 ムリやり情交をさせられたばかりだ。さすがにいまは触れられるのはイヤか。

 よけいに機嫌を損ねていたか。

「乱暴にしたのは謝るから」

 コルラードはしばらく沈黙していたが、やがて背中を向けたままで切り出した。


「……ウベルトの一家になにもしないと約束するなら」


 ダンテは目を眇めた。

 ふたたび嫉妬(しっと)心が渦巻いたが懸命におさえる。

「分かった」

「誓約書を書いてくれますか」

 コルラードがそう続ける。

「あなたにはいちどウソをつかれている。口約束では信用できない」

「……分かった」

 ダンテは脱ぎ捨てた服をはおり、ベッドを降りた。

 読書机に向かう。

 引きだしから便箋(びんせん)をとりだした。

 机の上の羽根ペンにインクをつけ、コルラードに言われたとおりの事柄を書きサインをする。

 コルラードが、シャツをはおってベッドから降りてきた。

 書き終えたものをコルラードの目の前にかざす。

「これでいいか」

 コルラードが手にとり、書面をじっと見る。


「これで不満なら、後日に公証人を立ち会わせて正式なものを書く」

「そうしてください」


 コルラードが冷たく言う。

 そこまであの男を(かば)うのは、やはり関係していたからなのだろうか。

 ついそう考えてしまう。

 シャツの胸元から覗くコルラードの素肌。

 夢中でつけてしまった口づけの跡が、くっきりと残っていた。

 あの跡がつくまえに、べつの跡が体のどこかにあったのだろうか。

 あの男は、コルラードの体のどのあたりに口づけたのか。

 あかりをコルラードに近づけて、体を念入りに確認したい。

 完全に嫌われるだろうが。


 とりもどしたのに、心はまえよりさらに離れてしまった気がする。


 どうしたらこちらを見てもらえるのか。

 書面をじっと確認しているコルラードから、ダンテは目をそらした。





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