CONFINAMENTO 監禁 I
呼びつけた女中が、燭台に灯をともす。
暗くなりかけていた部屋がオレンジ色に照らされ、天蓋のなかまでかすかに照らす。
何をしていたのか女中にさとられはしないかと、ダンテはベッドの上のコルラードをちらちらと伺った。
コルラードは、天蓋にかくれるようにして座っていた。
ダンテに剥ぎとられたシャツをはおり、合わせをおさえている。
女中が退室するのを待ってベッドに戻った。
コルラードの横に座ったが、目を合わせづらい。
そちらを見なくても、軽蔑するように睨んでいるのが何となく分かる。
「あの男と……その、何かあったんだとしても」
「気ちがい」
「……もう問わないから」
ダンテは言った。会話がまるで噛み合っていない。
「終わったんでしょう。部屋にもどります」
コルラードがするりとベッドから降りる。
シャツの留め具をとめ、ベッドのはしに放置された上着を手にとった。
「待ってくれ。もう少し話を」
「あなたと話なんかしたくない」
コルラードがそう返して自身の肘に上着をかける。
ダンテは切ない気分でその動きを見ていた。
私のところは、そんなにくつろげないのか。
そんなに居心地が悪いのか。
コルラードと、いつか甘い会話をしてみたかった。
せめて雑談くらいはしてくれないかといつも顔色を伺っていた。
この子にどうしたら気に入ってもらえるのか。そればかりを考えている。
だがそうやって徹底的に遮断して何の反応もくれなくなるから、せめて体の反応が欲しくなるんじゃないか。
今日は何を目にして何が心の琴線に触れたのか。
そんな軽い雑談すらしてくれないから、せめて体にふれたくなるんじゃないか。
体を重ねているときは、こちらを向いてくれる。
こちらのすることに、この子なりの反応をくれる。
声を殺したもどかしいくらい控えめな反応であっても、まごうことなき自分に対する反応だ。
嬉しくてたまらないのだ。
せめてそれくらい欲しくなる想いが、なぜこの子には分からないのか。
「コルラード」
ダンテはベッドから降り、歩みよった。
「まだだ」
コルラードを捕らえるようにうしろから抱きすくめる。
銀髪に顔を埋め、自分から移った残り香をたしかめる。
「まだ終わっていない」
腕にぎっちりと力をこめた。
「もう一回」
「いい加減にしろ!」
コルラードが大きく肩をゆらしてふり払おうとする。
「だいたいもう、こんなことをする理由はないはずだ」
コルラードが横目で睨む。
「ウソがバレたのだから」
「あの男にウソだと教えられたのか」
ダンテは問うた。
「あの男に、刺して逃げてこいと言われたのか」
「ウベルトはそんなことは言っていない」
目の前に火花が散るような激しい嫉妬を覚える。
私の名前は、呼んでくれたこともないくせに。
名前を呼んで話してくれと言っても、はっきりと拒否した。
あの男の名前は、そんなにあたりまえのように口にするのか。
あのせまい家のなかで、あの男と名前を呼び合っていたのか。
欲情するごとに名前を呼んで交わっていたのか。
なぜ私には、そんな些細なことすらしてくれないのか。
私のものなのに。
舌をからめる濃厚なキスも、肌に唇の跡が残るのだということも教えてあげたのは私なのに。
コルラードの首筋に口づけた。
シャツのなかに手を差しこみ、なめらかな肌をまさぐる。
「ベッドに戻ってくれ、コルラード」
「承知もしていないのにさわるな!」
コルラードが声を上げる。
ほんとうは感じていたくせに。
私の体が恋しかったくせに。
あんな男より、ずっとよかったくせに。
コルラードのズボンの留め具を外す。
「ベッドに。コルラード」
腕を引き、強引にベッドに連れこむ。
押し倒して服をはだけた。
コルラードが、平手打ちをしようとしたのか手をふり上げる。
その手首をつかみ、シーツに押しつけた。
あられもない声を上げさせたい。
ほんとうはあんな男より、ずっと欲しがっていたのだと認めさせたい。
「なにがやさしくするだ!」
コルラードがはげしく体をゆさぶり抵抗する。
「大ウソつきの強姦魔が!」
刺された箇所が痛んだがどうでもいい。
これは自分のものなのだと存分にたしかめるまでは、痛みなどどうでもいい。
シーツが乱れる。
何日離れていたのだろう。
「コルラード」
白くて細い手首を、シーツにグッと押しつけた。
麝香の匂いが立ちこめる。
コルラードは、いまだ気丈に罵倒の言葉を叫びつづけていた。
恋しかったくせに。
ほんとうは、とっくに私を受け入れているくせに。




