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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
16.監禁

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CONFINAMENTO 監禁 I

 呼びつけた女中が、燭台(しょくだい)に灯をともす。


 暗くなりかけていた部屋がオレンジ色に照らされ、天蓋(てんがい)のなかまでかすかに照らす。

 何をしていたのか女中にさとられはしないかと、ダンテはベッドの上のコルラードをちらちらと伺った。

 コルラードは、天蓋にかくれるようにして座っていた。

 ダンテに剥ぎとられたシャツをはおり、合わせをおさえている。


 女中が退室するのを待ってベッドに戻った。

 コルラードの横に座ったが、目を合わせづらい。

 そちらを見なくても、軽蔑(けいべつ)するように睨んでいるのが何となく分かる。

「あの男と……その、何かあったんだとしても」

「気ちがい」

「……もう問わないから」

 ダンテは言った。会話がまるで噛み合っていない。

「終わったんでしょう。部屋にもどります」

 コルラードがするりとベッドから降りる。

 シャツの留め具をとめ、ベッドのはしに放置された上着を手にとった。

「待ってくれ。もう少し話を」

「あなたと話なんかしたくない」

 コルラードがそう返して自身の(ひじ)に上着をかける。

 ダンテは切ない気分でその動きを見ていた。


 私のところは、そんなにくつろげないのか。


 そんなに居心地が悪いのか。

 コルラードと、いつか甘い会話をしてみたかった。

 せめて雑談くらいはしてくれないかといつも顔色を伺っていた。

 この子にどうしたら気に入ってもらえるのか。そればかりを考えている。


 だがそうやって徹底的に遮断して何の反応もくれなくなるから、せめて体の反応が欲しくなるんじゃないか。


 今日は何を目にして何が心の琴線(きんせん)に触れたのか。

 そんな軽い雑談すらしてくれないから、せめて体にふれたくなるんじゃないか。

 体を重ねているときは、こちらを向いてくれる。

 こちらのすることに、この子なりの反応をくれる。

 声を殺したもどかしいくらい控えめな反応であっても、まごうことなき自分に対する反応だ。

 嬉しくてたまらないのだ。


 せめてそれくらい欲しくなる想いが、なぜこの子には分からないのか。


「コルラード」

 ダンテはベッドから降り、歩みよった。

「まだだ」

 コルラードを捕らえるようにうしろから抱きすくめる。

 銀髪に顔を埋め、自分から移った残り香をたしかめる。

「まだ終わっていない」

 腕にぎっちりと力をこめた。

「もう一回」

「いい加減にしろ!」

 コルラードが大きく肩をゆらしてふり払おうとする。

「だいたいもう、こんなことをする理由はないはずだ」

 コルラードが横目で睨む。

「ウソがバレたのだから」

「あの男にウソだと教えられたのか」

 ダンテは問うた。

「あの男に、刺して逃げてこいと言われたのか」

「ウベルトはそんなことは言っていない」

 目の前に火花が散るような激しい嫉妬(しっと)を覚える。


 私の名前は、呼んでくれたこともないくせに。


 名前を呼んで話してくれと言っても、はっきりと拒否した。

 あの男の名前は、そんなにあたりまえのように口にするのか。

 あのせまい家のなかで、あの男と名前を呼び合っていたのか。

 欲情するごとに名前を呼んで交わっていたのか。


 なぜ私には、そんな些細(ささい)なことすらしてくれないのか。

 私のものなのに。


 舌をからめる濃厚なキスも、肌に唇の跡が残るのだということも教えてあげたのは私なのに。

 コルラードの首筋に口づけた。

 シャツのなかに手を差しこみ、なめらかな肌をまさぐる。

「ベッドに戻ってくれ、コルラード」

「承知もしていないのにさわるな!」

 コルラードが声を上げる。


 ほんとうは感じていたくせに。

 私の体が恋しかったくせに。

 あんな男より、ずっとよかったくせに。


 コルラードのズボンの留め具を外す。

「ベッドに。コルラード」

 腕を引き、強引にベッドに連れこむ。

 押し倒して服をはだけた。

 コルラードが、平手打ちをしようとしたのか手をふり上げる。

 その手首をつかみ、シーツに押しつけた。


 あられもない声を上げさせたい。

 ほんとうはあんな男より、ずっと欲しがっていたのだと認めさせたい。


「なにがやさしくするだ!」


 コルラードがはげしく体をゆさぶり抵抗する。

「大ウソつきの強姦魔が!」

 刺された箇所が痛んだがどうでもいい。

 これは自分のものなのだと存分にたしかめるまでは、痛みなどどうでもいい。

 シーツが乱れる。


 何日離れていたのだろう。


「コルラード」

 白くて細い手首を、シーツにグッと押しつけた。

 麝香(じゃこう)の匂いが立ちこめる。

 コルラードは、いまだ気丈に罵倒の言葉を叫びつづけていた。


 恋しかったくせに。



 ほんとうは、とっくに私を受け入れているくせに。





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