VOGLIO DIRLO AL TUO CUORE きみの心臓に言い聞かせたい
また熱が出ているかもしれない。
ダンテはあおむけの格好で額に手をあてた。
乱れた前髪に指を通す。
部屋は、だいぶうす暗くなっていた。
窓から入る陽光はすでにかげり、部屋は黒灰色に染まっている。
天蓋でしきられたベッドのなかは、さらにうす暗い。
そろそろあかりをつけなければ。
天蓋の隙間から、ダンテはぼんやりと窓の外を見た。
かたわらではコルラードが身動きもせずあおむけで横たわっている。
無表情で天蓋を見つめていた。
体を重ねている最中には、もう少し表情があった気がしたが。
いちど交わると頭が冷えて落ちついた。
ベッドに連れこんだときの状況を思い起こし、ダンテはにわかに罪悪感にかられた。
もしかして強淫と言わないか、これは。
コルラードを横目で見る。
反応が気になった。
そっと近づき、顔を覗きこむ。
コルラードは、目線すら動かさずに天蓋を見つめていた。
オルフェオが以前、「相手は子供だ」と言っていたことがあった。
「分かっている」と答えたが。
単純に言葉通りに捉えていたが、もしかすると乱暴に抱くなという意味だったのか。
感情に任せてこんなふうに扱ってしまうのを懸念していたのか。
「コルラード」
声をかけたが、コルラードの表情は変わらなかった。
もういちど名前を呼びながら、やわらかな銀髪をなでる。
白い肌には、接吻の跡がいくつも浮かんでいた。
あの男の跡がないか先にたしかめるつもりだったが、コルラードの肌を見たとたんに理性が弾けとんだ。
抵抗する小ぶりの手をおさえて、はげしく口づけてしまった。
「コルラード」
コルラードの顔を間近で見る。
銀髪をゆっくりとなで、頬を唇でなぞる。
コルラードは、あいかわらず表情もなく天蓋を見ていた。
何か反応してくれ。
切なくなる。
「その……あの家にいるあいだ、不自由なことはなかったか」
髪をなでながら問う。
「食事などは、どんな」
もしかして泣いているのだろうか。
コルラードの目尻に唇を這わせる。
「泣かないでくれ」
ダンテはささやいた。
強引にしてしまった。心を壊してしまわなかったか心配になる。
「やさしくするから」
コルラードの目尻から耳たぶに唇を移す。
首の付け根に顔を埋めて、脈打つ部分に唇を這わせる。
コルラードの肌の匂いがする。
肩に口づける。
背中側に手をさしこみ、抱きしめるようにして胸部に口づけた。
心臓の鼓動を唇に感じる。
ここにコルラードの心があるのだろうか。
入りこめないだろうか。
いちばん愛しているのは私なのだと、ここに直に言い聞かせてやりたい。
肌理こまかい肌に、軽く歯を立てた。
コルラードの目にかすかに表情がもどる。
噛みつかれでもすると思ったのか、やや怯んだ顔でこちらを見た。
「その……さきほどは悪かった」
ダンテは謝罪した。
「ケガなどは」
強くつかんでしまったコルラードの手をとる。
手首に口づけた。
ほそくてかよわい少年の腕だ。
申し訳なかった。
コルラードは、見くだすような表情で口づける様子を見ていた。




