VA ALL'INFERNO 地獄に落ちろ II
馬車が屋敷の敷地内に入る。
ダンテは完全に止まるのを待たず、みずから屋形のドアを開けた。
コルラードの手首をつかみ、強引に馬車から降ろす。
そのままつかつかと屋敷内に入ると、出むかえの者にほとんど目もくれずコルラードを私室につれこんだ。
無言でドアを閉める。
コルラードは手を振りはらおうとしたが、ダンテが強くつかみ直すといったんあきらめた。
「刺したことは謝罪しません。好きなように罰したらいい」
コルラードがきっぱりと言う。
「そんなことはどうでもいい」
ダンテはさらに強く握った。
「あの男にさせたのか」
コルラードは、ポカンとした表情でこちらを見上げた。
とぼけているのだと思った。
関係したに決まっている。
事情をすべて知る男なのだ。なついて困りごとを真っ先に相談した。
こちらの弁解などいっさい聞こうともせず、あの男の言葉だけを信じたのだ。
何日もいっしょに暮らして、おなじ部屋でくつろいでいた。
関係していないはずがない。
馬車の屋形のなかでずっと、コルラードがあの男と裸でからみあい艶っぽくあえいでいる想像ばかりが頭に展開された。
蹄が地面をたたく音を聞きながら、嫉妬でおかしくなりそうだった。
「させたのか!」
ダンテはコルラードの華奢な両肩をつかみ、責めるようにゆさぶった。
「何回させた! あの男にはすんなりとやらせたのか!」
「なにを言っているんだ気ちがい!」
コルラードが声を張り上げる。
「私のときは拒否したくせに!」
「だましてまでそんなことをしようとするのは、あなただけだ!」
「あの男とはだまされなくてもやったのか!」
思わず声が裏返る。
もはや何が世間の基準で、何が一般論なのかもよく分からなくなっている。
自分とおなじ男性が、おなじような感情をコルラードに抱かないはずがない。
欲情しないはずがない。
そんなふうにしか考えられない。
自分がこんなに会いたくて抱きしめたくて、さわりたくて体をつなげたくて堪らなかったのに、あんな無頼の男が手も出さずにいるわけがない。
「何回させた!」
「死んでしまえ!」
コルラードは吐き捨てた。
肩をおおきくゆらしてダンテの手をふり払おうとしたが、ダンテはさらにぎっちりとコルラードの両肩をつかんだ。
「きみみたいな子が行くあてもなく外に出たら、どんな目的の男が群がってくるか分からないのか!」
「自分のことを棚に上げていうのか下衆!」
「愛しているんだ。その辺の体目的の男とはちがう」
表情が切なくゆがんだ。
ダンテは、コルラードの肩を引きよせ抱きしめようとした。
コルラードが両手で抵抗して阻む。
「母と混同するのはいい加減にしろ!」
「そうではないとどうして分からないんだ!」
コルラードの細い手首をつかむ。
「嫉妬で気が狂いそうなんだ。どうにかしてくれ!」
ダンテは絶叫した。
「きみが子供すぎるんだ。分からないなんて」
「その子供をだまして関係を迫るとか、いますぐ地獄に堕ちたらいい!」
自身の目が、スッと座るのが分かった。
ふいに、頭のなかが異常なほどクリアになる。
分かろうともしてくれないのは、わざとなのか。
理解してやる価値もないと思うくらい、嫌って軽蔑しているのか。
「では……」
ダンテは、コルラードの細い手首に頬ずりした。
「いっしょに地獄に堕ちようか」
「一人で堕ちたらいい」
コルラードが吐き捨てる。
「いっしょに堕ちてくれ」
「言っていることがメチャクチャだ!」
ダンテは、コルラードをがっちりと抱きしめた。
背中をかき抱き、上着の裾から手を差しこむ。
ズボンに入れていたシャツの裾を引っぱり、素肌に両手をすべらせる。
「さわるな汚ならしい!」
コルラードがはげしく手足を動かして抵抗する。
蹴りつけようとした足が、密着しているせいで的が定まらずなんども宙を蹴る。
「頼むから」
ダンテは、コルラードの肩に顔を埋めた。
「あの男と何もなかったと証明してくれ」
「妻女がいるんだ、失礼だと思わないのか!」
「何もなかったと証明してくれ!」
すべらかな背中を、ダンテは激しくさぐるようにかき抱いた。
「体を見せてくれ」
「気ちがい。地獄に堕ちろ!」
コルラードがダンテの服をつかんで懸命に引き剥がそうともがく。
コルラードの背中をかき抱き、体と体温をたしかめる。
こんなのでは足りない。全身をたしかめさせてくれ。
壊しそうな勢いで、コルラードの襟の留め具を外す。
コルラードは両手で懸命に制止した。
ダンテの顔に手の平を押しつけ、ともかく自身から引き剥がそうとする。
ダンテはコルラードの両手首をつかむと、引きずるようにしてベッドに連れこみ、押したおした。
細い手首をシーツに押しつけて口づける。
上気した唇を、逃がさないよう唇で捕らえた。
なんども顔の角度を変えて口づけ続ける。
口腔の奥まで、すみずみまでさぐるように味わい続けた。
コルラードが、抗議するように呻く。
手首を押さえられているので抵抗がかなわず、おおきく上体を上下させてダンテを退けようとした。
コルラードの唇に舌を這わせ、こぼれた唾液を舌でぬぐう。
コルラードが眉間にしわをよせる。
ダンテはコルラードの服の留め具を外していった。
刃物で刺された箇所が鈍く痛む。
だがそれを気にしていては、また逃げられてしまうと思った。
唇を離した瞬間、コルラードが罵倒の言葉を叫ぶ。
すぐにダンテの唇に阻まれ、くぐもった呻きを上げた。
刺された箇所は、いまだ完治していない。
鈍い痛みがある。
患部がときおり熱をもち、微熱で休養をとるときもいまだある。
無理をして激しい動きをすれば、命に障りがあるかもしれないとは思う。
だが、もしそうだとしても。
この子を抱いたまま死ぬなら、しあわせだと思った。
開いたシャツの合わせから、なめらかな肌が覗く。
コルラードの抵抗を全身でおさえこみ、強烈な飢えを満たすように手あたりしだいに口づける。
このあと、もし死んで地獄に堕ちるとしたら。
そのまえの最後のしあわせと悦楽の時間を。
コルラード、私にくれ。




