LA TUA SITUAZIONE きみの状況
「ダンテ様」
オルフェオが、入室の許可とほぼ同時にドアを開ける。
つかつかと早足でダンテの座る読書机に近づいた。
「コルラード様と思われる方の情報が」
帳簿を見ていたダンテは、思わず身を乗りだした。
「どこだ」
「例のウベルトの家です」
オルフェオが答える。
「野菜売りをよそおって家を訪ねさせた者が、家のなかに銀髪の少年がいたと」
「たしかにコルラードか」
ダンテは膝にかけたブランケットを退けた。
「少女のようにかわいらしい顔をしていたというのと、ウベルト宅の幼児をなれた感じであやしていたとの様子を語っていました」
「幼児?」
「コルラード様は、ご実家にまだ小さい弟君がいらしたでしょう」
マロスティカのゾルジ家に行ったさい、六、七歳ほどの子供を見たのを思い出した。
「……おまえに話したか?」
「あなたからは聞いていませんが、コルラード様のことを調べたさいにゾルジ家の関係者には何人か接触しています」
オルフェオが二つ折りの紙片を差しだす。
ウベルト宅と思われる住所が筆記体で記されていた。
「弟君はシモーネ殿といいましたか。菓子をあげると、兄君のことをいろいろと話してくださったので」
幼児まで情報源にしていたか。ダンテは額をおさえた。
「それでコルラードは。脅されるなりして監禁されているというわけではないのか?」
「見てきた者の話だと、くつろいだ様子でウベルトの家族と接していたということですが」
オルフェオが答える。
安心させるために言ったのであろうが、ダンテはむしろ胸が不快に焦げつくような感情を覚えた。
つまりそれは、自分の意思でその男のもとにいるということではないか。
眉をよせる。
私といるときは、くつろいだ様子など見せたこともないくせに。
微笑すらしてくれたこともないくせに。
激しい嫉妬で胸が焼け焦げそうだ。
ベッドで二人ですごすようになってからは、不機嫌どころか無表情のときが多くなった。
たしかにウソをついたし、強引に除隊させたりもした。
だがきみがいまいっしょにいる男は、私よりもずっと人をあざむき足をすくってきた男ではないか。
ダンテは唇を強く噛んだ。しばらく机の一点を見つめる。
「外出着を用意してくれ」
「……どなたの」
オルフェオが目を眇める。
「私のものに決まっているだろう」
「コルラード様は、使いの者を行かせて説得し戻っていただきます。ケガ人は寝ていなさい」
「ケガ人ではない!」
ダンテは声を張った。
「ケガ人です」
「ケガ人と決めつけるのか!」
「だれが止血したと思っているんです!」
ダンテよりもさらに鋭い声でオルフェオが一喝する。
「シャツを破って患部まではっきりと見ています。あなたはケガ人です」
「外出着と拳銃を用意しろ。命令だ」
ダンテは声音を落とした。
オルフェオはしばらくこちらの顔を見つめていたが、ややしてから口を開いた。
「用意します。ただし」
ダンテは無言で紙片をオルフェオに返した。
オルフェオが紙片を受けとり、ポケットに入れる。
「執事殿に話を通してからと、私が付き人としてついて行くということでよろしいですか」




