表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
14.妄想に嫉妬する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/98

GELOSO DELLE DELUSIONI 妄想に嫉妬する I


「おかしな目に会っていなければいいが」


 私室のベッドの上。

 ダンテはミネストローネを口にした。

 ため息をついてスプーンを置く。

 歩ける程度まで回復してはいたが、階段の昇り降りのさいに痛むのでいまだ食事は私室でとっている。

 だいぶ残して食器をかたわらのオルフェオに渡した。

「もう少しお食べになりませんか?」

「心配でやはり少々……」

 ダンテは(ひざ)の上で手を組んだ。

 コルラードがもどってきて、手ずから食べさせてくれたらなどと考える。

 いくらでも平らげるのに。

 室内の薔薇(ばら)の花は、いまだものの置ける場所を占領していた。


「聞かれるのはお嫌かと思っていたのですが」


 オルフェオが皿を手に問う。

「おケガの原因は」

「刃物で遊んでいてのことだと説明しただろう」

 とっくにごまかせたと思っていたのに、まだ聞かれるのか。

「コルラード様では」

「ちがう」

「そうだとしても口外はしません」

 オルフェオが言う。

「それよりも、はじめのところから検証し直しませんか」

 そうと続ける。

 ダンテはゆっくりと顔を上げた。


「ただいなくなったのか、あなたを刺して逃げたのか。それによってもその後に身をよせる場所は違ってくるでしょう」


 オルフェオは言った。

「実家の援助をしている御家の当主を刺したとしたら、実家になど戻るわけはない」

「ではだれと」

「ダンテ様、だれとではなくどこにです」

「ああそうか……」

 ダンテは(ひたい)に手をあてた。

 コルラードが、(かくま)ってくれている相手と情交している妄想をいまだにしてしまう。

 しているのかしていないのかも分からない行為に、不快な胸やけがする。


「いや、だれとというのも重要かな」


 オルフェオが口調を固くする。

「ダンテ様、刺された原因は?」

「刺されていない」

 ダンテは語気を強めた。

 オルフェオがため息をつく。


「そもそも、そういった行為の合意はどの程度でした」


 ダンテはうっと(のど)をつまらせた。

 ウソをついてムリやりに承諾させたなどと言えるはずがない。

「いや……」

 ダンテはつぶやいた。

 どううまい説明をしようかと考えをめぐらせる。

「いやでも最近はけっこう……」

 ダンテは口元をゆるませた。

 心がかたむいてくれているのではと思えるふしもあった。


「刺されたという前提でお聞きしますが」


 (ほう)けたダンテに真顔で冷水をあびせるかのような冷静さで、オルフェオが問う。

「その場の感情の問題で突発的に揉めたのですか? それとも以前からあった問題がこじれて?」

 ダンテは顔をしかめた。

 後者にあたるかと思う。

 自身の卑怯さに対する嫌悪感と、二人の時間をウソと脅迫からはじめてしまった後悔とで、げんなりする。


「どんな問題かお聞きしてもよろしいですか?」

「あ……いや」


 あらためて考えると、いいおとなが聞いたら陳腐(ちんぷ)すぎるウソだろう。

 そんなウソを、少年の体ほしさにその場で必死についたなど、言うのも恥ずかしい。

「たいしたことではない」

 ダンテはさりげなく従者から目をそらした。


「以前からあった問題が関係しているのなら、それについて助言をした者がいたかもしれない」


 オルフェオが言う。

「……助言」

「もしコルラード様がだれかに相談していたのだとしたら、その者が行方についても何か知っている可能性が」

「人に相談などするかな……」

 ダンテは軽く眉をよせた。

 刺す直前にコルラードが口走っていたセリフ。

 あのセリフからすると、不正話がウソだと気づいたのだとは思う。

 だが父親の不正についての話など、だれに相談できるというのか。

「直前に何か変化は」

「……何も」

 ないというよりも、気づかなかった。

 コルラードがおなじ屋敷に住み、毎日でも逢瀬(おうせ)をかさねられるというだけで、うれしくて何も見えなかった。

 大ケガまで負わされておきながら、いまだコルラードがかわいくて愛しくてしかたがない。

 また抱きしめたい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ