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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
13.きみの行方

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DOVE TI TROVI きみの行方 II

 読書机、暖炉(だんろ)の上、テーブルと、ものの置ける場所をことごとく占領している薔薇(ばら)の花があいかわらず強めの香りをだよわせている。

 片端から枯れて片づけさせるのであふれることまではなかったが、こうして熱心に見舞ってくれるのがコルラードならうれしいのにとダンテは思った。


 コルラードの行方がつかめないまま、十日が経とうとしている。


 傷の回復は順調だが、体力がもどるにつれて不安やイライラは募っていった。

 ベッドにずっといるのに、ここで毎晩なでていたやわらかな銀髪がない。

 枕を背に座り、ダンテはため息をついた。もはや心配で目眩(めまい)がする。

 なぜあんなウソをついたのか。

 なぜもっとゆっくりと口説くことができなかったのか。

 恋心がたかぶりすぎて、おかしくなっていた。

 相手は恋すらきちんと理解しているかどうかという年齢の子だ。分かっていたはずだ。

 ドアをノックする音がした。

「入れ」

 入室したのはオルフェオだった。

 いつもとおなじ時間にあらわれたところを見ると、おそらく成果はなく定期報告だろう。

「コルラードは」

「申しわけありませんが、まだ」

 調べた場所やあたった人物の素性を羅列した紙片を差しだす。 

「立ちよったという話すらなしか……」

「ええ。いまだ」

 オルフェオが腕を組み窓のほうを見る。

 部屋中にならべられた薔薇が、開けられた窓から入る微風でベッドに強めの香りを運ぶ。


「べつの路線で考えてみませんか」

「べつの路線」

「つまり、小さな子供ではないのですから」


 ダンテは顔をゆっくりと上げた。従者の顔を見る。

「まったくつながりのない赤の他人と話をつけて転がりこむということもあり得るのでは」

「赤の他人を家に泊める人間がそうそう……」

 ダンテは鼻で笑った。

「引きかえに体を提供していたとしたら」

 表情が(こわ)ばる。

 ダンテは冷静すぎる従者の顔をもういちど見上げた。

「少女のような男の子なら、承知する人間もいるのでは」

「あの子がそんな男娼のようなまねをするわけが……!」

「可能性の一つというだけです」

 オルフェオが冷静に返す。

「あの子はプライドも高いし潔癖症なんだ!」

「だから可能性のひとつというだけで」

 オルフェオは返された紙片をポケットに入れた。

「はじめてのときなんか、あそこをちょっとさわってあげただけでパニックを起こして……!」

 はたとダンテは口をつぐんだ。

 どう反応したものかという感じで、オルフェオが視線を泳がせる。

「……いや」

 ダンテは手を口にあてた。

「……聞かなかったことに」

「はい」

 オルフェオが落ちつきはらって言う。

 やはり屋敷内では、みなが気ついていて公然の秘密になっていたのだろうか。

 勘のいいこの従者など、真っ先に気づいていたのでは。

「……何の話だったかな」

「可能性はうすいので、却下(きゃっか)ということで」

「……ああ」

 ダンテはそう返事をした。


 


「では」

 オルフェオが退室する。


 あの子がそんな男娼のようなまねなど。


 一人になった部屋。

 ダンテはオルフェオの推測を否定した。

 だが否定すればするほど、だれとも分からない男に裸でよりそうコルラードの姿が頭に浮かぶ。

 成長しきっていない、細く小柄な体。

 なめらかで肌理(きめ)のこまかい肌に、だれとも分からない粗野(そや)な男が口づけている想像が止まらない。

 コルラードが淫猥にほほえんで、首をのけぞらせる。

 自分とするときよりもずっと積極的に男の肩をかき(いだ)き、嬌声(きょうせい)を上げ少女のような可憐な顔をせつなくゆがませ。

 そして。


 「ダンテよりもいい」などと言っていたら。


 ダンテは眉根をきつくよせた。

 くやしくてたまらない。

 その男はだれだと、つい声に出して(とが)めたくなる。


 ただの想像なのに、胸が嫉妬(しっと)で焼けこげそうだ。



 想像だ。


 

 なんどそうくりかえしても、淫靡な笑みを浮かべて(よろこ)ぶコルラードの姿が頭の中でつぎつぎと展開されていった。

 ウソをついたのは悪かった。

 恋慕(れんぼ)が募りすぎてしまったがゆえのことなのだ。


 落ちついて話を聞いてくれれば、一晩かけても説明した。


 そんなことよりも。

 私は、できる限りやさしくしたのに。

 きみが育った家も助けてあげたのに。

 私のほうが、その男よりもずっときみを愛しているのに。


 分かろうともしないでそんな男にしがみつくなんて。


 頭の中にほんの少し残った理性が、ただの想像なのだと呼びかける。

 だが、嫉妬でかきまぜられてしまった頭の中は、想像と現実の境界線を失いそうだった。





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