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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
11.疑惑の種

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DESTINAZIONE DEL SOSPETTO 疑惑の行き先


「お父上の不正の証拠なんて、どっこさがしても出てこないですよ。もうカケラすら」


 街の酒場。

 いつもと同じ最奥のテーブルで、ウベルトは姿勢悪く(ひじ)をついた。

「さぐり方が足りないんじゃないか?」

 コルラードは不機嫌な表情で言った。

 すすめられた酒のつまみを首をふって断る。

「そもそも、おまえが不正に誘ったわけではないだろうな」

「それなら自分からお調べしましょうかなんて言わないですよ」

 ウベルトが肩をすくめる。

「坊っちゃん(だま)して小遣い程度の金せしめたって、わりに合わないですからね」

 そう言い片手をひらひらとふる。

 コルラードは目を眇めた。


「金でつながった相手は裏切らないと言ったな。もし僕よりも多く支払った相手が裏にいて、証拠など見つからないと言えと言ったら?」

「こう言っちゃ失礼ですけど、坊っちゃんをそんな込みいった手で騙して得する人なんて……」


 ウベルトは、はたと何かに思いあたったような表情をした。

「……いや」

 考えこんでいるのか、しばらく目線を横にながす。

「もとより、ないものの証拠をざすのは難しいんですよ。分かると思いますが」

 ウベルトは言った。

「ウワサすらなかったですし」

 ビアマグの(ふた)を開けて、飲みかけのビールを口にする。

「あたしらの界隈では、経済的な不正だったらすぐにウワサになりますよ。金の話に敏感すぎるやつだらけですからね。他人の収支の資料を一文字一文字なめるみたいに調べて、ときにはゆすりに使ったりね」

 ウベルトは軽く眉をひそめた。

「で、証拠を見せてほしいとは言ってみました?」

「……燃やしたと」

 コルラードは答えた。

「ご当主は中身は見てるんでしょ? 説明してもらえばいい」

「ややこしいので、あまりよく理解できなかったと言って」

「御家の財産を管理しているような方が?」

 ウベルトは鼻で笑った。

「むしろ、そういう不正を日常的に警戒しているお立場じゃあ」

 コルラードは唇を噛んだ。


 おなじことは考えた。

 だが分からないものは分からないで通されたら、さらに言い返す材料はあるか。

 きみが経済を知らなすぎるだけだと言われたら、こちらには反論するほどの知識はない。

 どう追及できるかと考えたが、とうとうなにも言い返せなかった。

 ふたりきりの場では、分が悪すぎる。


「で、何でご当主はせっかく証拠までそろえて告発をやめたんですか?」

「それは……」

 コルラードは目を泳がせた。遠回しに言おうとしたが、うまい言い方が思いつかない。

「……条件をのむならと」

「坊っちゃんが?」

 ウベルトがつまみのチーズをかじる。

「どんな」

「いやそれは」

 ウベルトがこちらをじっと見る。

 何かを考えているのか、目線を外さずにモグモグとつまみを口にしていた。


「その取り引き、どちらから持ちかけました?」


 コルラードは顔を上げた。

「ご当主のほうから?」

 ウベルトが問う。

 どちらからだったかとコルラードは思った。

 あのときは動揺していた。

 覚えていない。

 ウベルトが黙ってつまみをかじる。

 やがてつまんでいた指先をなめ、ゆっくりとビールを口にした。

「こう言っちゃ何ですが、坊っちゃん」

 ウベルトが指先で軽く口を拭う。


「もしかして、ご当主にウソつかれてたんじゃ」


「え……」

 コルラードは目を見開いた。

「その不正話、どんなタイミングで持ちだされました」

「どんなって」

「稚児になるのを拒否したさいにとか」

 タイミングなど考えてはいなかった。

 いつの時点で言われたのだったかと、懸命に前後のできごとを思いおこす。

「しかも坊っちゃんの性格からして、えっらくかたくなに。正論までかまして」

 コルラードは頬を(こわ)ばらせた。

「あーらら」

 ウベルトがおどけた声を出す。

 どこからウソだと気づいていたのか。おどろいた様子もない。


「ウソで脅迫して承諾させるとか。あのご当主、好人物そうに見えたのになかなかやるなあ」


 ウベルトが肩をゆらし笑う。

「あのね、坊っちゃん」

 ウベルトが続ける。

「腹立つとは思いますけど、知らんふりして今までどおりいたほうがいいと思いますよ」

 ウベルトはふたたびチーズをつまんだ。

「出世のいい切っかけをつかんだことは間違いないんだし、そういう形で気に入られて出世した人は男でもけっこういますよ」

 コルラードは表情を固まらせて、ウベルトの手の動きを見ていた。

 なにか言おうとしたが、頭が動かない。

「分かるかな? 坊っちゃん」

 ウベルトが反応のないコルラードを心配したのか、表情を伺う。

「食べます?」

 チーズを乗せた皿をこちらに向ける。

 いらんと答えようとしたが、口を動かすことができない。

 まずプライドを保つほうに頭が動いた。


 騙されてベッドの相手をさせられていたなど、ウベルトの勘違いだということにしたい。


 コルラードはできるかぎり平静を保ち、財布から紙幣(しへい)をとり出した。

 いつもの金額をウベルトに渡す。

「……引きつづき調べてくれ」

 ウベルトが少々おどろいた顔をして、コルラードの表情を伺う。

「坊っちゃん」

 コルラードは無言で席を立った。





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