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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
11.疑惑の種

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SEMI DI SOSPETTO 疑惑の種 II

 サイドテーブルに置かれた手燭(てしょく)の灯りがゆれる。

 うす暗いベッドは、ダンテがふだんつけている麝香(じゃこう)の香りがしていた。

 コルラードの肩を唇でなぞり、鎖骨に口づける。

 情交が終わったあとも、こうしてふれ合っているのが幸せだった。


「コルラード」


 ダンテは短い銀髪をなでた。

 コルラードの目元に口づける。

 今日は泣いてはいなかったようだとホッとした。

 衣ずれの音がする。

 コルラードが立てていた(ひざ)を崩したようだ。

 ダンテはもういちどコルラードの髪に接吻した。

 麝香の香りが、かすかに髪に移っている。


「あの」


 ふいにコルラードが声を発した。

「このまえの小遣いをくれませんか」

 ダンテは目を見開いた。

 コルラードが(こと)のあとに話しかけてくれたのははじめてでは。

 いつもは終わったと分かると無言で服をはおり部屋へと帰ってしまう。

 またそんなふうかと思っていたところだ。

「な、何だ」

 ダンテはあわててコルラードの顔を見た。

「何がほしい。買ってやる」

「……お金だけ渡してくれれば」

 コルラードが答える。

「いくらいる」

「まえに渡してくれた程度で」

「それでいいのか」

「……とりあえずは」

 ダンテは口元をほころばせた。

 そそくさと部屋着をはおりベッドを降りる。

 物入れのひきだしから財布をとり出した。

 数枚の紙幣(しへい)をつかみベッドにもどる。身体を起こしたコルラードににぎらせた。

「たりなかったら、いつでも言うといい」

 口元がゆるんでいるのが自分で分かる。


 こんなふうにして、男は愛人に身を滅ぼされたりするのだ。


 そんな言葉が頭に浮かんでしまった。

 だが、恋心に麻痺(まひ)した頭は、そんな理性など完全に無視する。

 コルラードのほうから話しかけてくれたことが嬉しかった。

 少しずつ自分を受け入れてくれているのだろうか。

 そのうち笑いかけてくれたりもするだろうか。

 そんなことも期待する。

「コルラード」

 コルラードは、うつむいて紙幣をじっと見ている。

 ダンテはコルラードのそばに座り、白い(ほお)を両手でつつんで上向かせた。

 少し半開きになったコルラードの唇にキスする。

 いまだ応えてくれようとしない舌を、自身の舌に誘う。

 手燭のみのうす暗い部屋に、濃厚な音が散らばる。

 唇が離れるさいの熱っぽい吐息。

 コルラードの唇に、ダンテはゆっくりと舌を這わせた。

「もう一回……」

 コルラードの耳たぶを唇で食んでささやく。

 コルラードは、とくにいやがる様子はなかった。

 白くなめらかな肌。ダンテはゆっくりとなでた。






 街の中心の通りから少し離れた酒場。

 最奥のテーブルに座ると、コルラードは向かい側に座ったウベルトに紙幣を差し出した。


 十以上のテーブルのある広い酒場。

 カウンターの向かい側から階段が伸び、手すりのついた踊り場の奥には二階の宿泊室のドアが見える。

 紙幣を指先でつまみチラリとだけ確認すると、ウベルトは尋ねた。


「何をお調べすれば」

「……父の不正の詳細と、どれくらい関与していたのかを」


 ウベルトが怪訝(けげん)そうな表情で顔を上げる。

「不正?」

 紙幣をシャツの胸ポケットに入れて眉をよせる。

「失礼ですが坊っちゃん、そんな話どこから」

「ヴィラーニ家が証拠をつかんでいると」

「ご当主がそう言ったんですか?」

 コルラードはうなずく代わりに目を伏せた。

「調べてみますが……」

 ウベルトは頬杖(ほおづえ)をついた。

 皿の上の安いチーズをつまむ。

 なにか不可解そうな表情で、酒場内をながめた。


「ちなみにその証拠とやらは見せてもらいました?」

「いや」

 コルラードは答えた。

「拒否された?」

「いや……」


 コルラードは戸惑った。その話を聞いたさいの様子を思い浮かべる。

「動揺してそこまでは」

「何なら、見せてもらったほうが早くないですかね」

 ウベルトがチーズをかじりつつ提案する。

 コルラードは目線をテーブルに這わせた。安っぽい木製のテーブルの細かい傷が目に入る。

「そうか……それもそうだな」

 ウベルトがチーズの皿を片手で持ち、こちらにすすめる。

「いらん」

「酒は? 強めのはあまりお飲みにならないんでしたっけ」

 ウベルトが上体を少しひねり、カウンターのほうを見る。

「ここは上等な紅茶なんかありませんからねえ」

「べつに何もいらん」

 コルラードは唇を噛んだ。


 また色じかけのようなことをしなければならないのか。


 (こと)のあとに金をねだるだけでも、じゅうぶんプライドに逆らっているのに。

 受け入れてもらったのだと勘違いしたダンテの表情を見るだけでイラつく。

 (とろ)けるような感じでこちらを見る目つきも、()れものにさわるような話し方も、巧妙にいい人ぶっているようにしか思えなかった。


 脅迫して性処理に使っているくせに。


 好みの顔のついた玩具とでも思っているのだろう。

 男娼あつかいしたところで、(かば)って文句を言う者などいない婚外子だ。

 都合がいいのだろう。

 いつまでもそんなことをされているつもりはない。

 父の不正の内容がくわしく分かれば、なにか助ける方法があるかもしれない。

 不正にどの程度関与していたのか。

 いまのところダンテの説明ではよく分からない。

 関与の度合いと内容によっては、法定代理人を立てるなどして大事(おおごと)にならずに済ませられるかもしれない。

 父がどんなつもりで養子を承諾したのか疑念は残るが、それでも血縁でもない子供を実子として面倒みた人だ。

 無下にはできなかった。

 自分が提案できることがあれば提案しようと思う。


 父か、せめてゾルジ家は守りたいと思った。





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