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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
10.呪縛

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SCHIAVI GLI UNI DEGLI ALTRI 呪縛 II


「毎日、外出許可をとって来るのか?」


 ロウソク一本で灯されたうす暗い私室。

 長い時間をかけて深い接吻をしたあとも、ダンテはコルラードの唇にそっと唇を這わせ続けた。

「大変じゃないか?」

 ベッドのサイドテーブルの横で、なんども舌を絡めては唇を()む。

 うっとりと甘い気分で話すダンテに対して、コルラードは人形のように冷めた表情をしていた。

 こうしてすごすのは、もう何回めかになる。


 コルラードは毎夜きまった時刻に屋敷にきてくれた。


 使用人と顔を合わせるのを避けるようにダンテの私室に直行し、夕食も拒否して体だけを重ねて真夜中ちかくに兵営へとかえる。

 いつも終始そっ気なかった。


「そもそも、きみがいまだに軍隊にいる意味はあるか?」


 ダンテはうす目を開けてコルラードの表情を伺った。

「うちが援助を続ければ、きみが軍功なんか目指さなくてもゾルジ家は何とかなるのでは?」

「関係ないでしょう」

 コルラードが、ようやく今夜はじめての言葉を発する。


「さっさとすませてください」


 そう言い、服の留め具をみずから外しはじめる。

 ダンテは小ぶりの手の動きを目で追った。

 色気も情緒もない。

 定型業務のような様子で、ばさりとシャツを脱ぐ。

 

「もう少し甘い雰囲気を楽しみたいんだが」

「ただの口止めでですか?」


 コルラードがそう返す。

 そういえばそういう設定だったとダンテは思い出した。

 はじめの経緯など、コルラードも忘れているだろうなどと都合よく考えてしまっていた。

 相思相愛の恋人と逢瀬(おうせ)を重ねているという頭のなかの設定に酔ううちに、コルラードも同じつもりなのではと思いこもうとしていた。

 勝手なのは分かる。


 だが、きっかけなどもういいではないか。


 むしろこだわるコルラードを非難したくすらなる。

「せめて名前を呼んで話してくれないか」

「必要ですか」

 コルラードが、怒気を含んだ声で言う。

「あなたはただ、母と似た顔が体の下にいるのを見たいだけでしょう?」

「顔なんか、はじめから終わりまで見せてくれないじゃないか」

 ダンテは眉をよせた。

 いつもコルラードは腕で顔をかくし、声すらもなかなか聞かせてくれない。終始そんな感じだ。

「そんなに注文をつけたいのなら男娼とすればいい」

 コルラードがイラついた口調で言う。

「あなたがもといた街では、女装した男娼が橋の(たもと)で毎晩客を引いていると聞いた」

「いたね」

 ダンテは苦笑した。

「役人も立っている場所なのにな」

「そんなに遠い土地じゃないんだ。買いに行ったらいい」

「きみとしたいんだ」

 ダンテは言った。

「いいかげん分かってくれないか」




 暗いベッドのなか、ダンテは息を吐いた。

 汗ばんだ体から離れて、まだ大きく上下している白い胸部を見下ろす。

 細い腕でかくされたコルラードの顔をじっと見る。


 余韻(よいん)にひたりたいところだが、兵営にもどる時間を遅くさせてしまう。

 ほんとうは腕まくらでもしてあげて、眠るまで甘い雑談でもしたいんだが。


 コルラードが、両手をついてゆっくりと起きあがる。

「帰ります」

 引き止めるかどうかダンテは迷った。

 毎回会話をするひまもなく、情交だけをして帰らせるような形になっている。


 これでは、ただ性処理の相手にしているだけだとコルラードが思いこむのもしかたがない。

 そんなつもりはないのだが。


 雨が降ってきた。

 ざわめくような音が聞こえたかと思うと、やや強い降りになる。

「これから帰るのか?」

 ダンテは窓を見た。

「朝にしたらどうだ」

「外泊許可はとっていないので」

 コルラードは、ベッドから脚を投げだして靴を履いた。そのままスルリとベッドを降りてシャツをはおる。

「暗いし、あぶないだろう」

「では夜になんか呼ばなければいい」

 コルラードが答える。

「だからここに住んでくれと!」

 ダンテは追うようにベッドから降り、コルラードの背後から両肩に手をかけた。


「除隊してくれないか?」

「身の振り方に関してまでどうこう言うのはやめてもらえますか」


 コルラードはダンテの手をふり払うように肩を大きくゆらし、上着をはおった。

 ロウソク一本だけの暗いなかで、首元の留め具をとめる。

 

 コルラードとは、対等な恋人同士として相対したかった。養父としての権限などあっても行使したくはない。


 だが、毎回コルラードが帰るのは真夜中ちかくだ。

 馬車で送ると言ってもぜったいに応じなかった。

 一人で馬を駆っておとずれ、一人で帰っていく。

 毎晩、コルラードが無事に帰れたかどうかを心配しながら眠る。

 次の日の夜に来てくれたとき、まずはじめに思うのは前日は無事に帰れたのだなということだ。

「この屋敷でも、きみができそうな仕事はあるが」

 ダンテはコルラードの背中に向けて言った。

「算盤は得意か。経理の分かる人間がもう少しいれば助かる」

 コルラードは背中を向けたまま上着の留め具をとめていた。

「いや……ほかの役割でも、できるかぎり希望を聞くが」

 何も答えてはくれなかった。






 コルラードと夜の私室で会うようになって二週間とすこし。


 うす暗いベッドのなか。

 ダンテが体をずらして一息つくと、コルラードはゆっくりと起き上がった。 

 すっかり慣れたのだろう。コルラードの様子は、もはやただ手順を覚えた事務仕事という感じだ。

 ロウソクの灯りが、うすい天蓋(てんがい)越しに見える。

 ダンテはベッドから降りようとするコルラードに手をのばし、手首をつかんだ。


「兵営なら、もどらなくていい。さきほど除隊の届けを出しに行かせた」


「な……」

 コルラードがふり向く。

「なにを勝手に!」

「ゾルジ家なら、うちの援助で盛り立てられる。そのための助言もさせていただくつもりだ。きみが苦労して軍功なんか目指すことはない」

 ダンテは、睨みすえるコルラードの目を見つめた。

 冷静に考えることができれば、彼を怒らせますます嫌われる行動だと事前に判断はついただろう。

 だが、これで思うぞんぶん時間をかけて夜をすごせる。その期待が頭のなかを占めていた。

「きみはここで、私の手助けでもしてくれればいい」

 コルラードがゆっくりと手をふり払う。

「……手助けってなんですか。この部屋での相手をこの先もずっと続けろと?」

「私と寝るのは気持ちよくはないか」

「気……」

 コルラードは困惑した表情をした。

 聞いたことに他意はなかったが、女性との経験もなかった少年にしてみればストレートすぎる質問だったか。

「楽しめないのなら、今後努力する」

 開き直りにでも見えたのか。コルラードはきつく眉をよせた。

「頭がおかしい」

 コルラードがつぶやく。


「あなたがこうしたかった相手は母でしょう」

 コルラードは声音を落とした。 

「いっしょにするとかどうかしてる」

「していない」


 ダンテは起き上がり息をついた。

「兵営に私物はあるのか? ついでにとりに行くよう言ったが」

 コルラードが黙ってこちらを睨み続ける。

「きみの部屋は、休暇にきたときのままにしている。掃除もさせてあるから、引きつづき使うといい」

 ダンテは横目でコルラードの様子を伺った。 

 今夜からは、引きとめてもいいのだ。


 たまにでいいから朝までいっしょにいてくれと言ったら、聞いてくれるだろうか。

「コルラー……」

「……部屋に行きます」


 コルラードがベッドから降りる。

「あ……ああ。おやすみ」

 のばそうとして動かした手を、ダンテはしずかに引いた。

 今日のところは、さらに機嫌をそこねてしまうか。

「コルラード」

 コルラードが窓ぎわのソファのまえでシャツをはおり、留め具をとめはじめる。

「朝食は何時ごろがいい。いっしょに食べよう」

 コルラードは無言で留め具をとめていた。





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