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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
10.呪縛

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21/98

SCHIAVI GLI UNI DEGLI ALTRI 呪縛 I

 早朝。

 ダンテは、玄関ホールでコルラードと遭遇した。

 コルラードが玄関のドアノブに手をかける。


「こんなに早く出かけるのか」


 ダンテは声をかけた。

 動いている使用人の数は日中ほどではなく、屋敷内はしずかだ。

 ホールの高い天井に声がよく響く。

 コルラードは動作を止めたが、ふり向かない。

 軽い散策という感じの服装ではない。外出着だ。 


「兵営に戻るのか」


 ダンテは尋ねた。

「休暇はまだあったのでは」

 日付の分かりそうなものをさがして周辺を見回す。

「兵営でやることがあるのか?」

 コルラードは答えない。

 ダンテはゆっくりと近づき、玄関扉のほうを向いたコルラードの顔を覗きこんだ。


「身体は大丈夫か? 体調不良で休んでいると使いをやってもいいが」

「勝手にやめてください」


 コルラードがかすれた声で答える。

 まぶたが少し()れぼったい気がした。

 あのあと部屋に帰って泣いたのか、それとも最中にすでに泣いていたのだろうか。

 朝までいっしょにすごしたかったが、明るくなるまで引きとめたら廊下で使用人と鉢合(はちあ)わせしかねない。

 この子も気まずいかと思い、部屋に帰るのは止めなかった。


 泣いていると知っていたら、なぐさめてあげたのに。 


 コルラードはしばらくじっとしていたが、ややしてからあらためてドアノブを回した。

「そんな跡をつけたまま人前に出るのか?」

 コルラードが無言で動作を止める。

 何を言われているのかというふうに眉根をよせる。

「首のところ」

 コルラードは、戸惑ったように目線を泳がせていた。

 ほんとうに分からないのか。

「ここに」

 コルラードの耳たぶの下あたりを指さす。

「私が接吻した跡が残っている」

 コルラードは、不可解そうな顔をしていた。

 跡が残ることを知らなかったのか。

「鏡を見るか?」

 コルラードは、ゆっくりと指さされたあたりに手をあてた。

「女性とも経験はなかったのか」

「……関係ないでしょう」

 コルラードが声音を落とす。

「まあ、関係はないな。恋人がいるかどうかを調べようとしたことはあったが」

「そんなものまで」


「できればここに住んでほしいが、通勤はできないか」

「男娼を囲えばいい」

 コルラードが低い声で言う。

「男娼と遊ぶ趣味はないんだ」

「意味が分からない」


 ダンテはポケットから数枚の紙幣(しへい)をとりだした。

 コルラードに差しだす。

「当面の小遣いだ。たりなかったら言ってくれ」

 コルラードは手元すら見ずに玄関の扉を開けた。

 早朝のうすい陽光が白い頬に差す。

「こまごまとした金がなければ何かと困るだろう」

 ダンテはコルラードの肩をつかみ、紙幣を受けとらせようとした。

「相手をした対価ということか!」

 コルラードがダンテの手をふり払う。

「そうではない。自分の家の子に小遣いを渡すなんてふつうだろう?」

「触らないでくれますか、(けが)らわしい」


「今夜も私室に来てくれるか」


 ダンテはそう懇願(こんがん)した。

 コルラードがきつく眉根をよせる。

「……母と違うとじゅうぶん分かったはずだ」

「そんなものはじめから分かっている」

 紺青色の目が不可解さにおびえているように見える。

 抱きしめてなだめて、悪意などないと分かって欲しかった。

 つい手を伸ばしたが、コルラードの肩の手前で止める。

 コルラードは身を縮めてダンテの手を見ていた。

「……人目がありそうなところではやめておく」

 ダンテはゆっくりと手を引いた。

「きみが相手をしてくれるのも口外しない。きみが人目を気にしなければならないようなことはしないから」

 コルラードの反応を気にしながら、ダンテは告げた。


「夜だけ、いっしょにすごしてくれないか」







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