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【完結】呪縛 〜心を呪縛された男と、体を呪縛された少年の狂恋譚〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
9.私のものに

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19/98

SII MIO 私のものに I

 執務机に頬杖をついてダンテは窓の外をながめた。

 あわい陽光が射しこみ、ときおりのどかな鳥の鳴き声が聞こえる。


「私は今日も……」


 ダンテは、書棚のまえにいるオルフェオに問うた。

「怖い顔をしているか」

「少し」

 オルフェオが資料をさがしながら答える。

「私の父が、私を見るときにそれに似た顔をしていましたが」

 オルフェオが書棚から資料をとりだす。


「ダンテ様」

「何だ」

「きのうコルラード様と揉めたと聞きましたが」

「揉めたなんて……少し言い合いになっただけだ」


 ダンテは苦笑した。

「そんなことがもう屋敷内に広まっているのか」

「女中から聞きました」

 ダンテは眉をよせた。

「……女中も情報源なのか」

「屋敷内の女中はそこまでのつもりで話してはいませんよ。よく顔を合わせていたら世間話にくらいはなるでしょう」

 女中が(ほお)を染めて美貌の従者とはなす場面をダンテは想像した。

 あちらにしてみれば、しばらく仕事にならんのでは。


「コルラードは?」


 今日なんどめか分からなくなったセリフをダンテは口にした。

「さきほどお部屋のまえの廊下でお見かけしたので、夕食の時間だけお伝えしましたが」

「そうか」

「ダンテ様」

 オルフェオが資料を執務机の上に置く。

「相手は子供です。世間的には成人あつかいの年齢でも」

 オルフェオが真顔で言う。

 ダンテは従者の整った顔を見上げた。

 この従者には、自分はいまどんな精神状態に見えているのか。

「……分かっている」

 ダンテはそう返した。




 夕食後。

 私室へ来るよう言いつけると、コルラードは素直についてきた。

 燭台(しょくだい)に灯りをつけた従者が、会釈して立ち去ろうとする。

「ワインを」

 ダンテは従者を呼び止めてそう言いつけた。

「きみは?」

「いりません」

 コルラードがそっぽを向いて答える。

 従者が退室する。

 ダンテはおもむろに切りだした。


「きのうは悪かった」


 感情をおさえてそう口にする。

「きみにはわけの分からない言い方だったと反省した」

 コルラードが小さく息を吐く。

 きのうのような展開になるのをおそれて息をつめていたのか。


「どうしても本心を分かってほしかった」

「気にしてはいませんので、部屋に」


 「帰ります」と続けながらコルラードがきびすを返す。

 ダンテは無言でコルラードの二の腕をつかんだ。

 手に力がこもる。

 コルラードが、戸惑った様子でダンテの顔を見た。

「きみもまえに本心を聞かせてくれと言っていたではないか」

 恋慕(れんぼ)でしびれる頭を、ダンテは何とか冷静にと制した。

 オルフェオも言ったように、相手は十五歳の子供だ。

 感情をぶつけておびえさせてもはじまらない。


 もっとおだやかな語り口で納得させる方法などいくらでもある。


 ダンテは、ゆっくりと手を離した。

「……まあ、それはともかく」

 ドアをノックする音がする。

「ワインだろう。そのままいてくれ」

 ダンテはドアのほうに向かった。

「いえ、僕はこれで」

 コルラードがうしろを追うようにして足早に出入口のほうにくる。

 使用人の目の前で退室すれば、なりふりかまわず引きとめることはしないだろうと考えたのか。


 ドアノブに伸ばされたコルラードの手を、ダンテは横からつかんだ。


「いてくれ」

 手に力をこめる。

「本題はこれからだ」

 コルラードが身体を硬直させてこちらを見上げる。

 ダンテはゆっくりと手を離した。

 ドアを開けて、女中から水差し(カラッファ)とグラスを受けとる。

 窓ぎわに移動し、小テーブルにグラスを置いた。

「こちらに」

 そうコルラードに指示する。

「飲むか」

「……いいえ」

 コルラードは答えた。

「きのうも聞いたが、ワインはきらいなのか?」

 ダンテは尋ねた。

 コルラードは、答えずにダンテの手元を見ている。

「座ったらどうだ」

 かたわらのソファを勧めたが、いつものごとくコルラードは座らない。

「今日はべつの話だ」

 やや間を置いてからダンテは切りだした。


「ゾルジ家のお父上のことだ」


 コルラードが表情を変える。

 ゾルジ家の当主とコルラードの仲は、良好だと思われた。

 コルラードがことあるごとに「抗議する」と口走っているところからも分かる。

 面と向かって意見できる間柄なのだろう。

 おそらくは、ふつうの親子なみに(かば)う気持ちもあるのではとダンテは思っていた。

「きみに言ったものかどうか、まえから迷っていたんだ」

「父がなにか」

 コルラードが問う。

 これまでとは明らかに表情が違っていた。

 一転してダンテの顔をまっすぐに見る。

 グラスで口元をかくしながら、ダンテは目を眇めた。


 私の想いを伝えてもろくに聞きたがらなかったくせに。


 イラつきを覚える。

 自分よりもゾルジ家の当主のほうがコルラードの関心を占めていることに、うらやましさを感じた。

 自身が兄として彼を育てていれば、いまごろおなじくらい関心を持ってもらえただろうか。

「非常に残念なことなのだが……」

 ダンテはグラスをテーブルに置き、ゆっくりと口を開いた。


「ゾルジ家のご当主は、不正に手を染められている」


 室内を照らすロウソクの火が、ゆらゆらとゆれた。





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