PIOVE ANCHE SU DI TE きみの上にも降る雨 II
「父の言いつけできただけです。早々に帰ります」
コルラードが眉をよせる。
「まったく嬉しそうじゃないんだな」
「僕はいらないと思っています。断ったほうがいいと父にも伝えました」
「なぜ」
ダンテは問うた。
「無茶な見返りでも押しつける気では」
コルラードが言う。
「勘ぐりすぎだ。ただ喜んでほしかっただけだよ」
ダンテは苦笑した。
「本心を言ってくれませんか」
「本心だよ」
ダンテはテーブルに着いた。コルラードに椅子をすすめる。
いつものごとくコルラードは無視して立っていた。
「そこまで疑うこともないだろう。お父上にしてみれば、先代の当主から知っている家だ。言ってみれば懇意の……」
「では今後は父とだけやりとりしてください。僕は来ません」
「えっ……」
ダンテはつい間のぬけた声を上げた。
「なっ、何で」
「そのほうが話がまとまりやすいでしょう」
「いや、きみにも来てほしい」
「わざわざ反対する人間に来られて、面倒な会話はしたくないでしょう」
期待していたやりとりが外れ、ダンテは困惑した。
ともかくどんな形であれゾルジ家とつながっていれば、コルラードと会う理由がつくれるという思惑でいた。
「面倒なんて。きみと話がしたい」
言ってから、おかしなセリフかと思い言い直した。
「……いや、きみの意見も聞きたい」
「これまで言ったことすべてが僕の意見です」
コルラードが返す。
「その後に少しは譲歩しようと思った部分はないのか」
「ありません」
思った以上に頑固な子だなとダンテは思った。
自身よりも、よほど先代当主に性格が似ている気がする。
コルラードはチラリと睨むようにこちらを見ると、すぐにきびすを返した。
その一連のしぐさをダンテは見つめた。
何の脈絡もなく、抱擁したいと思ってしまった。
さぞかし身体はほんのりと温かいのだろうなと関係のないことを考える。
「いや……」
ドアノブに手をかけたコルラードを呼び止める。
「援助なしでゾルジ家は今後どうするのだ。没落するのにまかせるのか」
「僕が軍功を立てれば、まだ盛り立てる望みはあります」
コルラードが答える。
「きみはまだ入隊したばかりだろう。貴族の子弟ということで士官は約束されているかもしれないが、それでも軍功なんて立てられるようになるのに何年かかる」
ダンテは席を立った。
ゆっくりとコルラードに近づく。
「それまでゾルジ家は持つのか?」
コルラードがドアのほうを向いたまま押し黙る。
「気にすることはない。助けたいものがあっても力がおよばないなんて、きみくらいの歳ならいくらでもある」
コルラードの肩に手をかけようとして、またイヤな顔をされるかと思いやめる。
「だれかの手を借りてすごすなんて、みんなたどって来たことだ」
ダンテは、コルラードのうしろ姿を見下ろした。
もうここに来ないというセリフは、どこまで本気なのだろうか。
いきおいで言っただけで、徹底して避けるというつもりはないだろうと思う。
来ては、くれるだろう。
口ではどうと言っても、律儀な性格のこの子が実家の援助者に不義理なことはしないと思う。
だが、もっと確実に会える方法がほしい。
実家の用件で来てくれるのを待つのではなく、わざわざ訪ねて行って呼びだしてもらうのでもなく。
コルラードと、好きなだけ会える方法はないのだろうか。




