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Dark Breakers  作者: verisuta
魔剣と聖剣、そして聖騎士モドキ
7/17

夫婦二人組

元々二人はクラスメイト、卒業後もペアを組みっぱなし。婚姻関係は無いが常に一緒なので付いたあだ名が夫婦二人組・・・そんな2人がエルデン奪還に挑みます。

「・・・強ぇ」

1対1の模擬戦でクラスメイトは一瞬でやられてしまう、この時は完全無欠の女聖騎士候補生だった、無口なクール系・・・流石に相手にしたくは無いと思っていたが、俺達の敵を討ってくれと言われてしまったからには引き下がれない。

「・・・次はあなた?」

「・・・そのようだな?」

ルナとシーズが地面を蹴ったのはほぼ同時、ルナは一撃で仕留めようとしてくるがそれを弾く、一撃を防がれた事にルナは少し動揺したが、距離を取って戦術を考える隙を作る・・・良い作戦だ。

正面からは無理と悟ったルナはフェイント攻撃も使いながら後ろに回り込もうと考える、なら迎え撃つのみ、だが自分が攻撃を読んでいるように、ルナも攻撃を読んでいる、一向に決まらない戦い、それは1時間にも及ぶ。

「・・・もう・・・いい加減降参しないか?」

「そっちが降参すればいい」

「・・・だよなぁ?」

もう限界だ、さっさと終わらせたい。そんな思いで突撃を仕掛ける、ルナもそう考えて居たようだ、模擬剣がぶつかり合って・・・そして両方砕け散る・・・これは予想していなかった・・・ルナと顔がぶつかり合いようやく引き分けを迎えたのだった。

「・・・痛ぇ」

起き上がってみれば医務室、両者頭を強く打ち付けてルナと共に運ばれたらしい。

「中々の強さだな・・・」

「そっちこそ」

体を起こしてみればルナがベッドに座っていた。シーズが起きた事を確認すると医務室を出て行く、

翌日は二人ペアの戦闘訓練、ルナも、シーズも取り合いになるが、何故かルナがこちらへ歩いてくるのだ。

「・・・どうかな?」

「どうかな?じゃねぇだろ!!パワーバランス崩壊だ!!授業にならないぞ!!」

「だからと言って他と組んでもいずれは当たって一騎打ち・・・昨日みたいに永遠に打ち合い合戦だよ?」

周りからは大ブーイングの嵐だ。

「・・・打ち合い合戦も・・・勘弁して欲しい所だな」

「決まり!」

「はぁ!?」

ルナはシーズの手を掴んで演習場の真ん中に立つ。

「相手はどのペアから?全員で来ても良いよ?」

「組むとは一言も言ってないが・・・?」

それを聞いたクラスメイト、無理に決まってるだろ?と言いながら全員で掛かってくる。教官の静止も聞かない、ルナに背中を任せてクラスメイトを次々にダウンさせていく、気が付けば辺りは倒れたクラスメイトだらけだった。

「・・・流石じゃん」

「・・・お前強すぎ」

痛みに悶えるクラスメイトをシーズは見下ろす。

「何?私ともやる?」

振り返ればルナが腕を組んで余裕そうな顔をしている。

「・・・もうこの辺にしておけ、俺は真面目に授業を受けたかったんだ!」

ひとまず機嫌の悪い教官を指さしてそう言ったが、この後打ち合いをする体力がもう無いのが本音。「優等生ぶっちゃってぇ?・・・ま、これじゃ授業じゃないよね?」

そっかそっかとか言いながら模擬剣をくるりとバトンのように回して腰の鞘に収める。そしてもう一度腕を組んで一言。

「残念」

「残念だったな」

ルナは演習場の出口に向かって歩いて行く、授業終了の鐘が鳴った。

それからは座学も隣の席、ついには弁当まで作ってきてくれるようになった。

「そういやお前、なぜ俺をライバル視しない?」

「えー?強いのと組んだ方が楽出来るでしょ?」

「それは・・・そうでもあるんだが」

無口なクール系だと思って居た女、気が付けばベタベタデレデレ系で正直今でも拍子抜けしている。付き合いを申し出て居ないのにこの距離感だ、そして付いたあだ名が夫婦二人組、案の定ペアを組めば聖騎士学校最強、一騎打ちとならば4時間打ち合いが続いた事もある・・・そうして聖騎士学校を主席で卒業したのだ。

・・・だが聖剣との適正が無かった。

聖騎士学校始まって以来の汚点、学校への批判も相当で、聖騎士を目指す若者がその後は急激に減る事となる・・・そしてファーバンラグニスを守る防衛砦が陥落後の聖騎士不足は現在ロンドクルツ神聖帝国が抱える最重要の悩みとなった。ある意味での国家転覆罪とも言えるが、そもそも想定外が重なった事なので国から処罰は免れている・・・はずだ・・・。


目の前に現れた大きめの街、ルーカス・・・小麦の生産拠点で粉ひき風車が多い、風の街とも呼ばれていたが、風車の羽根は脱落し、建物だけが残っているに過ぎない、街の中心に大きなお城もあるのが特徴、昔は別の国で、戦争の繰り返してロンドクルツ神聖帝国の領土となり今に至る、この城が無ければ田舎も良いところで、観光業も盛んだったと言うほど・・・街の収入源の大半を占める外の小麦畑も荒れ放題、ここまで来てようやく10体以上のサーヴァルと対峙する事になる。

「居るなぁ・・・」

「正面から行くしかやりよう無いよね?」

サーヴァルが目視出来る程度の距離でひとまずルーカスの様子を見る。その間にキュリア達は聖石を使って馬車の防衛網を構築している・・・正直作戦も有った物じゃない、馬車を狙われない位置から始める他無い。

「ひとまずは城門まで行くぞ」

「そうするしか無いよね?」

ルナと覚悟を決めて馬車まで戻ろうとするが、キュリアがミナだけを持って待っていた。

「・・・エルは?」

「今日はわたくしにしてくださいまし」

「なぜだ?」

「お察しなさい!」

キュリアはミナをルナに押しつけるとシーズの手を握ってくる。何も起きない、それだけ。

「・・・このクソ聖騎士!」

「いきなりそう言われるのも心外だな」

「なんで聖魔力が無いんですの!?いったい何に使っているですの?・・・エリス連れてきますわ!」

「なんか悪いな」

キュリアはエリスを呼びに行った。シーズは手を見る、どうやら知らないうちに聖魔力が枯渇しているようだ。エリスが来た所で作戦開始、エリスにエルの事を聞けば、精神状態が不安定で実剣化出来なかったらしい。

・・・俺のせいだ。

その話を聞いて自分の特性を恨む・・・やはり置いてくるべきだった、ミーナさんの手に掛かれば戦いの事も忘れて前向きに生きてくれるようになるかもしれない、さらに自分がそのうちくたばれば彼女は自由、まともな聖騎士と再契約出来る。聖剣を使えない聖騎士を主人に持つ事は無くなるし、ブロックハースト家の地位の回復も出来るのだ。しかし自分もすべき事がある、姉を殺したサーヴァルキングと対峙しなければならない、その為に3年も費やしたのだ、エルにはもう少し待ってもらわなければならない・・・作戦開始だ。

エリスがキュリアを実剣化して渡してくるが、それを無視してサーヴァルに片手剣で斬りかかる。

「ちょっと!シーズ!ペース早い!」

「お前が遅いだけだ!」

「なにそれ!」

「・・・無理ぃ」

ルナが付いてこない、エリスももっと後ろ、このままではキリが無い、そこでルーカス城を目指しつつ、ここで態勢を立て直し、さらに街の半分を制圧していくつもり・・・だった。

「シーズ!無茶し過ぎ!」

「うるせぇ」

ルナが息を切らして壁にもたれかかってくる、体力回復があるとされる栄養ドリンクの瓶を投げてきた、エリスなんかキュリアをその辺にぶん投げて突っ伏している。しかし壁が微妙に振動している。

「・・・シーズ?」

「居るな・・・コイツは何と想定出来る?」

「ゼルダ クライオネス・・・聖騎士団ルーカス支部の支部長かもしれない、そう書いてある」

ルナは腰のポシェットからルーデンで拾った手帳を取り出してこの街に何が起きたのかを調べるが、その暇自体無いようだ、ゼルダ サーヴァルキングが奥の扉から顔を出している、その扉はできる限りの封印がされていたがそれももう解けた。

「おぉう・・・ドラゴンじゃん」

ルナが扉を見てぼやく、サーヴァルには珍しいドラゴンタイプの個体、当然炎攻撃が得意なはず・・・しかし吹き飛ばした扉の攻撃を見るにこれは・・・風だ・・・まぁ分からなくも無い。

「歴史のお勉強は後だ」

「・・・マジ?もう少し休憩させて!」

シーズは走り出す、ルナも遅れて着いてくる・・・とにかく羽根だ、これが風属性攻撃を生み出しているがうかつに近づけない・・・しかしこの城、これだけの風属性攻撃にさらされても崩れないとは・・・よほど強固な作りらしい・・・ひとまず石作りの階段の横に隠れる、引かれた絨毯は吹き飛び、ついでにその先に転がっているエリス達を吹き飛ばす、攻撃が止めば扉の近くまで走る、そしてゼルダ サーヴァルキングの下を滑り抜け、広いダンスホールへ入る、一度下がっては突進で扉を完全破壊しようとしているゼルダ・サーヴァルキングの羽根を攻撃・・・硬いが集中的に切りつける事により落とせた。

・・・弱点は何処だ?

しかしこれが問題、今までのサーヴァルキング同様に露出している訳では無いのが悲しい所、その頃には外へ出る事を諦め、シーズ達を食らおうとダンスホールで暴れるようになった。腹は硬い、とても剣が刺さる気はしない。

「そもそもどうやってコイツはここに入った!?」

「ここでやられたんじゃないの!?」

「何か効きそうな所は?」

「知らないよっ!?」

・・・どこだ!どこだ!だが攻撃が届く所はあらかた試して不発だ。

「頭はどう?」

「・・・それだ」

ルナもルナなりに探っていたようだ、そうして行き着いた答えが頭だ。

「私が引きつける!」

「分かった」

ルナはミナを押しつけてくる、代わりに鉄剣を抜いた。ゼルダ・サーヴァルキングを引きつけてくれる、そしてゼルダ サーヴァルキングが正面を向いた、そのタイミングで走り出す、そして額にミナを突き刺した・・・手応えはあった・・・断絶魔と共にゼルダ・サーヴァルキングがその場に倒れた。

「ぐわんぐわんするぅ・・・」

静かになったダンスホールにルナの声が響いた、一人で踊っているかのようにフラフラしていた・・・終わった。

耳鳴りに悩まされながらシーズはミナを引き抜き、ダンスホールの出入り口を目指す、隠れて様子を見ていた装甲プレートが剥がれていたり、取れかけで若干目のやり場に困るボロボロのエリスにミナを投げつけ、その先にある階段に座る。

「外のサーヴァルは街から出て行ってるようです」

「・・・あいつらに撤退という言葉があるのか・・・」

「・・・みたい・・・かな?」

一方でダンスホールに取り残されたルナは灰の中からゴールドに輝く契約指輪を見つける、それを黙って拾い上げた後、ダンスホールの脇にある瓦礫にささっていた剣を引き抜いた。当然これも魔剣だ、魔剣セーリン・・・ルナはそれを持ってシーズの後を追った。

「もう引き返してもよくね?」

馬車まで戻ればサーミャが今度こそルーデンに引き返すべきだと言う事を強く主張してくる。馬車も方向転換させてあった。

「戻る気満々だな」

「ルーカスまで奪還したらもう文句ないだろ?」

「まぁ、もとよりそのつもりだ・・・戻るぞ」

疲れた、馬車はサーミャとファナに任せてキュリアに手当を受ける、打撲がかなりある、見た目のわりには攻撃は低め、ただし風属性攻撃でかなりすっ飛ばされたのが多かった。

道中に敵無し、エルデンを通過し、ようやくルーデンに戻って来れた。

「・・・たった二人でか?・・・報告は下の男に言え」

「・・・」

はなくそをほじってギルド長の机に両足をのっけている聖騎士団特別守衛隊の隊長にそう言われたのでもう黙ってその部屋を出て行く、下に行けば聖騎士ギルドの受け付けに聖魔術士長が居た・・・何度見てもこの男、本当に役職的な地位で言えば上の男より偉いはずなのに、何故ここで下っ端の尻に敷かれているのだろう・・・。

「・・・そこまで俺にやらせるのか?まぁ、聖魔術士団は前衛が居なけりゃ何も出来んくらい戦闘向きでは無いからな・・・聖騎士団に見下されるのも日常的だが、アイツは何をしに来たんだ?今の所良い食材ばかり消費して椅子にふんぞり返ってるだけだぞ?・・・まーお前に愚痴を言ったところで何のことやらだろ?ひとまずゆっくり休むといい、そのうち意味が分かる」

とか言いつつ聖魔術士長は名簿を渡してくる・・・聖剣病院も書かれていると言う事はこれは聖剣の名簿だ・・・つまり戻ってきたなら聖剣の更正もしてくれという事のようだ。

「あら英雄さんいらっしゃい」

ひとまずはミーナの酒場に行く、聖騎士で賑わっていた。

「・・・んだよ」

「こらセルベッタ、エルデンとルーカスを奪還してきた英雄になんて失礼な口聞いてるの!」

横を見ればウエイトレス姿のセルベッタがワインの入ったコップと料理を持って立っていた。

「なんでこのクソ聖騎士に敬語使わなきゃなんねぇんだ!」

「腕は確かなんだからつべこべ言わない!さっさとそれテーブルに運んできて!」

「へーへー」

セルベッタはふてくされたように料理を持っていく。ひとまずミーナの前に座るとなにも頼んでいないのにまず酒が出てくる。

「・・・あのセルベッタをよくぞまぁ・・・」

「でも正直な子よ?元はと言えばあなたが連れて来たんでしょ?」

ミーナは腕を組んで頬を膨らませる。確かにそうだが、ミーナの下で働く事を選んだのはセルベッタ自身である。とても正直な性格のようには見えないのだが・・・。

「そう言えばこんなのを渡されたんだが?」

そんな話はさておき、さっき聖魔術士長に貰った名簿をミーナに見せる・・・そもそもミーナに見せるよりこれは聖魔術士長がどうにかすべき問題でもあるのだが、これを見てミーナの目が泳ぎ始めた。少なからずミーナも聖剣の更生に関わっているはずである。更生した聖剣はほとんどミーナの配下にあるのだから。

「あー・・・それはー・・・まだ聖剣の更正が進んでないの、あなたがこの町を出発してから」

「まさか一本も?」

「そう、一本も」

おいおいまてまて・・・。シーズは頭を抱える・・・聖石と聖魔術士を待つ間、更正に励めという事か?

「・・・分かった、協力しろ」

「・・・なんで?ここは職業案内所じゃないわ?」

ミーナは凄く困るような顔を見せるが、更生が上手く行った所でその先の事は彼女の担当範囲だ、協力して貰わなければ成功しない。

「そこを頼むよ」

「・・・んもう・・・あなたの頼みだけだからね?」

ミーナは腕を組んで大きくため息をつく、そして厨房から出てきた料理をシーズに出してきた。

「・・・なにも頼んでいないが?」

「帰還祝いよ、一応言っておくけれど、食材も聖騎士団からの支給品だから・・・最近は良い食材が少しだけ支給されるの、とてもじゃないけれどここでは出せない量だけど今回は特別」

「じゃ、遠慮なく」

シーズは料理を食べ始める、他の聖剣の手料理だが美味しい、食材も高価な物をふんだんに使っているが、普段はここで提供されない物・・・つまりおそらくは聖騎士ギルドの椅子でふんぞり返っているアイツ向けだ。

久しぶりにミーナの店の料理を堪能した所で屋敷に戻る、聖剣達は久しぶりの我が家でくつろいでいた・・・その中でも一番だらけているのが・・・ルナだ。溶けるように長いソファーを一つ占有している。

「・・・だらしねぇなぁ」

「今日くらい良いじゃん」

「まぁ良いけどさ」

シーズもリビングのソファに腰をかける、少しボロいが高価なソファだ、流石と言った座り心地、一瞬で眠くなる。

「まぁ、長旅でしたからね」

ミナが紅茶を持って入ってきた、そしてシーズの真横に座る。

「お姉ちゃんは・・・相変わらずですけれど上の部屋に居ますから・・・」

「俺が悪いんだ、全て・・・その場に流されて、エルと契約してしまった事こそが間違いだった」

「あまり自分を責めないでください・・・お二人はその分お強いんですし・・・シーズさんがお姉ちゃんを選んでくれなければ・・・その、今、聖剣ですらなかったので・・・」

ミナはしゅんとする。聖剣にも留年出来る期間がある。それが3年だ。エルは当時3年目だった、それを過ぎれば聖剣学校から強制退学、他の道を進むか、闇市で聖騎士を探すか、死を選ぶ必要が出てくる。

「留年期間を作ってしまったのも俺とルナが全ての原因なんだ・・・フーリエも、セイレンも・・・俺の同期が手にした剣の一部は俺らが聖騎士学校に入学して2年間のうちに辞めていった先輩達が本来握るはずだった、エルもそのうちの一人だ」

「そんな事は無いんですよ?成績不振な方と組まされた先輩達は非常に少ないんです!」

「だがエルや留年してしまった他の聖剣も追い詰めていたのは事実だ」

「その聖剣達が、今生きて居られる、とても優秀な方達の聖剣で居られるのも貴方のおかげですよ?」

ミナはそう言いながらシーズの頭をミナの胸に埋める、そして頭を撫でてきてくれる・・・頭を包み込む柔らかい感触とぬくもりで頭の中が真っ白、もう何も言えなくなった、たまに大胆な行動を取るのはずるい。

「あなた達の欠点は私達で補いますのでお気になさらず突っ込んで行ってくださいまし」

キュリアは目を細めながら一人がけのソファでお上品に紅茶を飲む。

「なんか・・・悪い」

「お気に召しませんでしたか?」

「いや・・・そういう・・・君はルナの剣だし」

「遠慮しなくても良いんですよ?」

「俺は人の聖剣を平気で奪う事が出来るような性格じゃないんだ」

紅茶を飲み干してローテーブルにティーカップを置く。

「片付けはやりますのでもう皆さん休みましょう」

「そうですわね」

ミナがトレーを手にした所でリビングでくつろいでいた者は解散する。シーズも流れに合わせて入浴場へ行く、少しぬるい湯船が残っているのでそれで汗を流してから自分の部屋へ戻る途中、エルの部屋の前で立ち止まる。そっと開けるとまず天井から下がるロープが見えた。

「ミナさんのお胸を堪能した後、エルさんの部屋を覗いて・・・全くあなたは・・・」

振り返ればキュリアが居た、部屋の中でガタンと椅子が倒れる音がする。

「丁度良い!」

「ちょっ!まっ!」

キュリアの手を掴みとっさに実剣化、そして扉を開けて天井から下がるロープを切り落とした。キュリアをぶん投げてエルの首を絞めているロープを緩める。

「エル!なにやってんだ!」

エルは咳き込む、だが何も言わない、代わりに文句をキュリアが唱えている。実剣化を解除しながらぶん投げたので頭痛と激痛と吐き気に悶えているようだが大きな物音を聞いてやって来た野次馬に状況を説明してくれる程度には無事らしい。だがキュリアなんてどうでもいい、問題はエルだ。

「答えろ!何してた!エル!」

「役立たずの聖剣なんて要らないでしょ・・・」

「俺はそんな事一言も言っていない!」

「でも事実・・・他の聖剣の方があなたにふさわしい、貴方についていく覚悟は誰でも私以上にある」

「言っちゃ悪いがそこの聖剣だって契約しちまえば短剣にしかならなくなる!そのはずだ!そもそも俺の聖魔力が足りないからあそこでアイツは頭を抱えているんだ・・・全部俺が悪いんだよ!」

「私が死ねばあなたは新しい聖剣と契約が可能になる!私を捨てて!聖剣の役目を果たせてない聖剣は聖騎士に必要無い!そうでしょ?」

「俺が居なくなれば君は自由だ!まともな聖騎士と再契約して再スタートが出来る!だから・・・もう少し耐えてくれ・・・俺にも人生を賭けてやらなきゃいけない事があるんだ・・・もう少し、耐えてくれ」

「でも私は貴方のその瞬間に立つ事が出来ない」

「出来損ないは俺の方、君は被害者だ、君が留年した原因を作ったのも、君が両手剣の姿になれない事も、家から縁を切られた事も・・・不幸にしているのは全て俺だ、君が恨むべきは自分じゃない、俺だ!だが俺も一生君を苦しませる程馬鹿では無いと思っている、俺と言う呪縛はもう少ししたら解いてやる・・・頼むからその時まで待っていてくれ」

シーズはエルを強く抱き締める・・・エルは泣き出してしまった。

「・・・そんなの・・・出来ない・・・貴方を選んだのは私だもの」

「・・・盛大に俺を恨み、呪うといいさ、そして俺が死んだ時は笑え、そして言ってやれ・・・ようやくあのクソ聖騎士から解放されたと・・・」

「・・・そんな事・・・出来っこない」

翌朝、もうルーデンの浄化は終わっている、朝日がベッドを明るく照らしていた。隣にはエル・・・やましい事なんてなかったが見張りも兼ねて一緒に寝たのだ。エルが起きる。

「おはよう」

「本当に朝まで一緒に寝るなんてありえない」

「毎晩一緒に寝たいくらいなんだが?」

「・・・最低」

エルは顔を真っ赤にしてうつむく、シーズはエルの手を引いてベッドからおろす。そして手をつないだまま食卓へ、昨日の扱いについて物申したいキュリアはさておき、他の聖剣達も昨日の件について何も言わないようにしてくれている。あのルナすら気を使ってくれているのには驚きだ・・・ただ皆、昨日の俺自身から発せられた言葉に不満を抱えている・・・それは事実だ。

ミナが椅子を引いてくれた、そこにエルを座らせる。

「今日は一人で食べられるな?」

「・・・悪かったわね」

エルの前にはとにかく栄養価の高い料理が運ばれてくる。エルの食事といえば基本スープが支流、しかし毎日液体の食事は体に良くない、ミナも出来れば固形物を食べさせたかったようだ。ミナはとりあえず満足して自分の朝食に手を付け始めた。

食事を終えればミナがエルを外へ連れ出す、連れ出すとは言っても屋敷の庭までだが昨日の件については全く触れず、姉妹で話す事もかなりあったようだ。その様子を眺めているとキュリアがやって来る。

「昨日はよくも・・・!それに・・・貴方!!ずいぶんと!!」

「悪かった悪かった・・・そしてこれ頼むわ」

キュリアに金貨一枚と聖剣のリストを渡す。

「・・・なんですの?って・・・はぁ?!なぜわたくしが聖剣の更正をしなければなりませんの!?」

「困ったら、ミーナ ドレッセンを頼れ、以上だ」

「最近あなた、私の扱いが悪いですわね・・・」

「それだけ頼りにしてるって事だ」

「・・・こんの・・・クソ聖騎士!」

キュリアはそう言い残してずんずんと一番近い聖剣病院の方へ歩いて行った。

「・・・何カリカリしてるんだ?あの聖剣は・・・」

キュリアに押しのけられた聖魔術師長は何か持ってシーズの元までやって来た。

「アイツなら、俺より効率よくマトモに聖剣を更正できるはずさ・・・」

「オメーも聖剣使いが荒いなぁ・・・来週にエルデンとルーカス用の守護聖石が届く、俺らはルーカスで浄化を開始する、この街を浄化した一団丸々がルーカスだ、エルデンは守護聖石を運んでくる部隊が担当する」

「聖騎士団の特別守衛部隊の隊長は?」

「安心しろ、居残りだ、次に来る特別守衛部隊の押し出されるはずなんだが、上にゴネてやる気ある下っ端のみ次の部隊と一緒に押し出される」

「意外だな?ついてこないのか?あんたも肩身狭かったろ」

「ぶっちゃけ・・・な?またあんたと一緒になれて嬉しいぜ?」

「ぜってーそんな事思ってないだろ?」

「おじさんもう帰りたい」

聖魔術士長は涙目になりながら大きくため息をつく。

「そうそう、聖剣も全部持ってくぞ?」

「おいまて、あのリスト全部か?」

「・・・そう言う事だ、聖剣も死ぬまで帰ってくるなのようだ」

「聖剣くらいファーバンラグニスに戻っても良いだろ!?」

「前にも言ったが、ファーバンラグニスの聖剣病院も受け入れ限界で溢れてるんだ、低級聖剣はもう野放し、セルフ殺処分状態だぜ?」

「・・・まじか」

「マジだ・・・角紫が何処まで説得してくれるかに期待だな」

「せいぜい今この街を維持してる子はここに残るとか無いのか?」

「それはやめとけ」

「なぜだ?」

「守衛部隊長のお貴族様達の大部分はどうやら女遊びが好きらしい・・・俺等聖魔術士団も実は女遊びこそしているが最低限の節度は守ってる・・・容認はできんがな?」

「・・・まぁ聖騎士の下っ端と言えば半数はそういう物だし、あんたらも女っ気は無いしストレスばかり溜まる仕事なのは否定出来ないが・・・」

「問題は聖騎士団の方だ、低級上がりの兵士が多い、なんか成功しちゃったパターンの連中だ、自分達の聖剣交換して毎晩やりたい放題とも聞く・・・昨日ついに主人を失った聖剣にも被害が出た所だ」

「聖魔術士団も同じ事してないか?」

「俺等は基本ガリ勉童貞コミュ症集団だ、おっぱいに挟んで貰いながら愚痴聞いて貰ったり、晩酌の相手して貰ったり、交際して貰ったり程度に過ぎん・・・更正の一環で交際しているのもあるが成功した試しは・・・お前くらいしか居ない」

「交際を申し出た覚えは今まで無かったんだが?」

「まぁそう言う事なんだ、連れ出した方が良い」

「・・・それは承諾した」

「ひとまず来週までに準備をしておいてくれ、この家ももう帰れない物と思うんだな・・・お気に入りの家具があるかもしれないが運ぶ程の余裕も無い、衣服程度にしろ」

「分かってる」

聖魔術士長はそう言い残してふらふらと屋敷を後にした。


「殺して!」

「・・・うーん、もう少し、やりたい事とかございませんの?」

「聖剣としての役目なんてもう果たせない!それなら死んだ方がマシ!」

・・・クソ聖騎士の聖剣と同じ事を言っておりますわね・・・。

キュリアは檻の外で鼻をつまみながらめんどくさそうに面談をする、ガリガリにやせ細った聖剣達、中には同期も居る、聖剣学校時代はあんなにイキってたお嬢様達もさぞやおしゃれだったパンツを排泄物でパンパンに膨らませており見る影もない。とにかくこの独房は糞尿臭い・・・一応トイレの桶も各部屋に設置されているのだがそこに用をたそうともしない・・・そこはブロックハーストの姉より酷い。

「あなたの主人、あの程度で死んでしまうレベルだったのですのよ、当然、わたくしの主人も例外ではありませんわ?」

「旦那を馬鹿にしないで!」

「そこで一つ提案があります事よ?わたくし達の主人より遙かにお強いクソ聖騎士の下働きでもいたします?聖剣使いは荒いですが腕は一流・・・大事には・・・うーん・・・してくれますわ、一応」

「聖騎士は聖剣を一つしか持てないのに何を・・・?」

「確かに聖騎士は聖剣とは1本しか契約出来ませんわ・・・そこで聖剣が聖剣を持って聖騎士の補助をいたしますの・・・あなた達、見た事くらいはありますわよね?あのクソ聖騎士を・・・アレは実は聖魔力をほとんど持ってないポンコツ聖騎士ですわ、そう言えばセベストリア、学生時代は聖騎士学校最強の2人の主席の聖剣になる事を夢みてましたわよね?」

「・・・いまさらそんな話・・・!」

「それの片方がそれですのよ?おかしな話ですわね・・・ちなみにもう片方なんか聖魔力すらありませんわ」

独房内がざわつく、理解していない奴は低級グレードしか居ない。

「・・・ま、あのポンコツのしもべになるよりもマシな仕事、用意してあげない訳でもございませんが・・・そうですね、ミーナ ドレッセンに皆様方は一度お会いした方がよろしいかと・・・きっと人生変わりますわよ?・・・ひとまず、その糞尿でパンパンに膨らませている汚い下着を着替えなさい!それを洗ってくださるのもわたくし達と同じ、主人を失った聖剣達ですのよ!?ある程度自力で洗ってからにしてくださいまし!とくにセベストリア!マーキュリー!名前は存じ上げませんがあなたとあなた!名家出身のお嬢様でしょう!はしたない!・・・明日また来ますわ!それまでに少しはこの異臭をどうにかなさい!」

キュリアはそう言い残して独房を後にする。監視役の聖魔術士しか居ない待合室の空気が美味しくてしょうがない。

・・・おのれクソ聖騎士!

キュリアは自分の服の臭いを気にしながらひとまず屋敷に戻ることにした。

翌日・・・多少はマシにはなったか・・・ひとまずミーナに会わせる為に着替えさせる。聖魔術士に手伝わせながら全員酒場へ送り込む・・・ミーナには根回ししてある、ひとまずとびきりに美味しい料理を出して貰う。その横でキュリアは金貨一枚を眺めていた。この金貨はこれに使えと言う事か?だがミーナは受け取りを拒否してくる。ならばお小遣いか?だが使い道が無いのも事実。ファーバンラグニスではそれなりの大金ではあるのだが・・・。

「どうかしら?ひとまずは私の元で働いて貰う事になるけれど・・・」

後はミーナの手腕にかかっている、お昼のピークがもうすぐだ、それに備えて即投入されるだろう。

「それじゃ、後はお願いしますわね?」

キュリアはミーナに10人を預けると店を後にする。入れ替わりで腹を空かせた聖騎士や聖魔術士が流れ込んでくる・・・あとは忙しさで自殺願望も薄れていくだろう。


一週間後、意外な事にキュリアは20本の聖剣の更正に成功、ミーナの傘下で働く事を大体選んだ、やはり出来る女だ、自殺させるには惜しい聖剣である。

・・・俺は奴隷商かな?

聖魔術士長は糞尿くさい馬車を引きながらそう思う。流石にミーナも耐えがたい様子、顔が歪んでいる。そりゃそうだ、俺も吐き気を堪えるので必死なくらいなのだから・・・ひとまずエルデンまでは我慢する、エルデンで全員洗ってやる。

エルデンに到着すれば聖魔術士長は一人ずつ民家に連れて行き浴場で洗っていく、とにかく真っ黄色になった下着、洋服を脱がしてお湯をかけていく・・・もはや抵抗しようが体力のある人間の力に一切叶わない、欲情できるかと言えばノー・・・ガリガリの肋骨が浮き出た体はむしろ性欲を削る、着替えは立ち直ってる洗濯係の聖剣達にやらせるが、着ていた物に関してはあまりの臭いのキツさに皆吐き気を覚える・・・無気力とは恐ろしい物である。

40人ほどを洗い終わった所でミーナの炊き出しへ、異臭に馴れかけた鼻には感動を覚える程の良い匂いだ。

「お疲れ様です」

「・・・意外だな、女の服を無理矢理剥いで体をなで回してた男だぞ?俺は・・・」

「でも、興奮は出来なかったんでしょう?今のあなたはそんな顔をしている」

「当たり前だ・・・」

「ごめんなさいね、手伝ってあげようとは思ったけれど、皆のご飯の支度もあるから・・・」

「汚れ仕事や面倒事はいつも俺の仕事だ・・・別にいいさ・・・洗濯係の介抱もしてくれ」

「一番苦労したのにまだ他に気を使えるだなんて」

「管理職ってそんなもんだぜ?部下の事もちゃんと気にしてやらなきゃ部下も信用してくれねぇ・・・当然っちゃー当然なんだが中々出来ない奴もいるもんさ、そういう奴を今まで散々見てきたからかな?」

「それでも凄いと思います」

「よせよせ、褒めたって何も出ないぞ?」

聖魔術士長は民家の食卓に突っ伏す、既に夜食のピークタイムは過ぎている、むしろ最後の方、残っているご飯も少なく、どちらかと言えば残り物処分をしている状態、それはミーナも、酒場のウエイトレス達もそうだった。

・・・ミーナちゃんは優しいなぁ・・・。

聖魔術士長はそっとミーナの顔を見る、まさに天使とはこの事だ・・・正直惚れた。

翌朝、ファーバンラグニスから来た増援を置いて、遠征組とルーデン浄化を担当した聖魔術士とその護衛の聖騎士はルーカスを目指す、馬車の糞尿臭さは見違える程に改善、しかし・・・。

・・・やっぱり俺は奴隷商かな?

後ろを見ればそんな感じ、それでも隣に座るミーナの顔はマシになった。

いくらサーヴァルキングを倒したからとはいえ、やはりサーヴァルは馬車を襲いにやって来る、そのたびに角紫が後ろの聖剣を使っていく、シーズ傘下の聖剣達はどんどん増える、そしてあんな使い方をされるくらいならと開き直ってしまうのも多々、特にプライドの高かったはずの上級聖剣は全て売り切れた。角紫・・・アイツはいったい何者だ?ちなみに聖魔術士にも聖剣持ちが何人か居る・・・上手いこと口説いて彼女にした奴らだ。

・・・もうしらね。

聖魔術士長はミーナと一緒に聖剣片手に馬車の防衛・・・しかし馬車までサーヴァルは到達しない、聖騎士が楽々防いでいるが、彼らが対峙しているのはシーズとルナの取りこぼし、調理済みは聖騎士よりも前に居る聖剣達がザクザクと・・・。

持っている聖剣を眺める、低級グレードらしい。手入れは無し、刃こぼれもあり・・・こんなの役に立つのか分からない、聖魔力が全然伝達出来ない・・・非合法の出来損ないそのものだ。

「元とは言え、聖剣を持って戦場に立たされるなんてな・・・」

「あなたも本来聖剣を使う役職じゃ無いでしょ?」

「そうだよ・・・俺は・・・こっちだ」

聖魔術士長は袖から魔術書を取り出す、聖魔術士はこの魔術書を媒介にして魔法を放つ、しかし聖剣とは違い人間がベースになる事は無い。魔術書の原理は術式の組み合わせによる物、呪文を唱える事で発動する。攻撃特化型や支援特化型もあるが、大体はオールマイティに活躍出来るようにバランス良く組み合わせている、ちなみに聖魔術士はこれを自分で製作しなければならない。使用頻度が高いと平均1週間で使えなくなる消耗品でもあるので聖魔術士の業務の大半は魔術書作りである。

「どうやら終わったみたいね」

「角紫もすげーな、2本持ちだぜ?サーミャちゃんも聖騎士と変わらねぇ」

「・・・聖剣がする事じゃ無いんだけれども」

「生きて帰れば聖騎士に転生した聖剣として長く名を残せるな」

「たしかに前例は無いものね・・・出発の準備しましょう・・・もうすぐルーカスですよ?」

「よーやく次の街か・・・少しは気を休めると良いんだが・・・」

聖魔術士長はうっすら見えるルーカスを見つめてため息をついた。


「・・・もうお嫁に行けない」

「下着姿で檻の中に居た挙句、人の手で食事を口に放り込まれては排泄の概念も忘れてその辺に糞尿まき散らしていたお方が一体何をいまさら・・・」

「・・・くっ!」

キュリアは腕を組みながら今日適当に掴んだセベストリアとマーキュリーを見下ろす、その辺をうろついていたので適当に使ったのだ。

「勝手に使ってなんて言い草!」

「お邪魔な所をうろついていたあなた達が悪いんですの!憧れの聖騎士に使って貰ってむしろ喜ぶべきでなくって?」

「剣術しか能のない聖騎士に使って貰う筋合いなどありません!」

「あの頃、是非ともシーズ様の聖剣になりたいとか申していたのはどちら様でしょうか?」

・・・散々の言われようじゃん。

・・・うるせぇ、お前もだろ。

馬車を操りながらルナと小言で荷台で繰り広げられる口喧嘩を聞き流す。セベストリア、金髪ロングなせいもありやはり装飾は金装飾が目立つ剣、キュリアが二刀流していたうちの片方で、サーヴァルに突き刺した後、別のサーヴァルの攻撃を防ぐ際に手放した物、それを引き抜いてキュリアの背中を狙うサーヴァルの攻撃に充てた剣でもある。もう片方のマーキュリーは赤髪のロング、刀身全体が赤いのが特徴、上級聖剣にしては珍しい装飾無しの聖剣、この手は攻撃性能極振りなのが特徴、とにかく威力が強い、その代わりデザインが無骨、やはりその両方を兼ね備えるエルとミナは聖剣の中でもトップクラスという訳なのだ・・・なのに俺は・・・。

ルナは気にもしていなさそうだがめっぽう精神的にくる。

「そう言えば次の拠点、決めないとな」

「この前の民家があるじゃん」

「あーそう言えば・・・でもあれ階段抜けてるんだよな」

「直せば良いじゃん」

「まぁそうだが・・・」

ルーカスに入るとひとまずその民家の前に止める、後続もさっさと街の中心に守護聖石を配置して浄化を始める、ミーナの新しい酒場はルーカス城の近く、その近くには聖騎士ギルドだった物と聖魔術士ギルドもある、聖魔術士ギルドは一部倒壊で済んでいるので使えなくは無い。

「ようやくそれらしい部屋が手に入ったようだな?」

「でもなんかにあわない」

「・・・うるせぇ」

聖魔術士長は支部長の椅子に座る、しかし座った瞬間座面が抜けた。ルナは腹を抱えて大笑いするが、一歩後ろに下がったら今度は床が抜ける・・・気を付けねば。

「・・・ボロいな・・・そういや次の家決めたか?」

「ああ、東門に一番近い民家だ」

「どうせならアレにしろよ・・・英雄には最適な物件だぜ?一応お前の名前で差し押さえてあるぜ?」

「あんたが住んでもいいぜ?これからこの街を仕切る長だ・・・と言うか、ギルドがあの建物でもいいと思うんだが・・・このボロさじゃな?」

「遠慮すんな、もう既に3つの街を奪還している英雄だぞ?手下の聖剣も増えてあんなチンケな民家じゃもう部屋が足りないだろ?ついでに残りの聖剣も家政婦に使ってやれ、余り物はもう下級聖剣ばかりだぜ?命令すりゃ働いてくれるだろ・・・」

「・・・そこまで言うなら・・・」

「残りも全部頼んだぜ・・・ああ、そう言えばレーヴェン攻略も忘れるなよ?」

「まだ再編成は出来ないのか?」

「残念ながらな・・・まぁ一ヶ月くらいはゆっくりしてけよ・・・街の防衛も兼ねてな?」

「むしろ街の浄化が完了するまで戦力を残しておきたいだろ?」

「そう言う事だ・・・頼むよ」

「そうさせて貰うさ」

シーズはそう返事して部屋を後にすべくドアノブに手をかける・・・ドアはメシっと音を立て、廊下側に倒れた。手元にはドアノブが残った。

「・・・わりぃ」

シーズはドアノブをその辺に放り投げて聖魔術士ギルドを後にした。民家に戻ると荷物は全て降ろし切っている。

「・・・サーミャ、エリス・・・悪いが・・・引っ越しだ」

二人はその言葉を聞いて嫌な顔をする。

「・・・そんな顔するな・・・新居は・・・あれだ」

ルーカス城を指さす・・・ルーカスが栄えていた頃は有名なランドマーク、領主が居住していたはずだ。

「嘘は良くないですよ?」

なんの冗談か・・・エリスはそう言ってくるが冗談では無い。

「街3つも奪還した英雄にふさわしい物件だとかオッサンに言われた・・・精神的にアレだが家政婦付きだぞ?」

「あのオッサンが言うなら住んでやっても良いな」

「なによりお嬢様方が喜びそう・・・」

「そう言う訳で荷物を積んでくれ」

えー・・・二人は文句がある顔をした。しかしながら肝心のお嬢様方、お城暮らしに興味が無いらしい、キュリアなんか、部屋が足りないなら宿屋だった建物を探せば良くって?と言ってしまう始末、確かにルーカスは小麦と観光で栄えた街、宿屋など相当数あるはずだ。

「相変わらずデカいね」

「そりゃこの街が誇る一番のランドマークだ、デカくなきゃ物足りないだろ?」

バロック様式の飾り気の多い巨大な城、窓ガラスはヒビ割れ等多数、状態は当然良くないが、流石は石作りの立派な建物、ゼルダ サーヴァルキングの繰り出す風系攻撃にも耐えてみせただけはある。至る所に聖石が埋め込まれている事から守護聖石の役割もしていたようだがこの程度では足りないはずだ・・・その本体は城の中心部にあった・・・守護聖石を置いていた塔が破壊されている、大きさとしてはここまで持って来た新しい守護聖石の2倍近くがあっただろう事は推定出来る、それがあれば街の外10km圏内も平気でカバー出来るはずだ、なぜそこまでの物があったのか・・・ロンドクルツ神聖王国の重要な食料生産拠点だったからだ。当然守りも強固、ありとあらゆる魔術攻撃に対する防御策が施されているのがよく分かる・・・しかしなぜ陥落してしまったのか、これが疑問に残る事だろう・・・その答えは内政だ。

陥落から遙か前、ルーカスには一定数の独立派が居た。元々ロンドクルツ神聖王国領になる前は別の国だった、それが力を付け、まずはルーカス城の占拠を計画し、そしてそれは成功、神聖王国の支配の象徴とも言えた守護聖石の塔を破壊、ルーカスは独立への道が開けた・・・そのはずだった・・・守護聖石の破壊はサーヴァルの襲来を受け入れるような物だったのだ。瞬く間にブラックアウトに飲まれる事になったルーカスは神聖王国の聖騎士による独立派の制圧とサーヴァル迎撃で戦火に包まれ、そして滅んだのだ。恐らくは独立派の中に黒魔術士が居たとも言われるが真相は明らかになっていない。

シーズとルナは建物の状態をさらに確かめていく。

「広いなぁ・・・」

サーヴァルキングを探し回る事無く討伐に成功したのでほとんどは初めて見る、とにかく一部屋一部屋が広い、ベッドもキングベッド・・・しかし寝れた物かと言えば微妙・・・カビが生えている・・・これならば正直東門近くの民家がよほど程度が良いだろう。

しかし程度の良い部屋もあった。

「どうやら、書庫らしい」

「凄い数」

2フロアを丸々使った立派な書庫、手頃な本を掴んで見れば若干湿気ているか・・・そこまで劣化している訳じゃない。埃っぽい空気が漂うだけの空間があった。

「一応、寝床の候補はここだな、他も探してみるか」

「出来ればベッドで寝たいね」

流石に長テーブルや椅子で寝たくは無い、欲を言えばやはりちゃんとした部屋がいくつか欲しい。

書庫を出て、その建物の部屋の状態を確認して行く。どうやら司書などの家来が仕事をしていた建物らしい。街の権力者や防衛を担う人間が居ない建物な為か、攻撃された痕跡は無い、建物は完全体と言えよう。執務室などは腐食も無く、十分居住が可能と言う事が分かった。

「ひとまずは・・・ここだな」

「あともう一棟あるよ」

「そこに・・・期待だな」

見た目からして使用人の宿舎か・・・そんな建物がある、この辺は崩れている物も多い、多分兵舎と独房だろう、食料庫らしき建物も崩れているようだ。

建物に入れば無難な劣化具合、ベッド類も無事だがやはり使用人用か、根本的に水簿らしい。

「・・・一応、あったけどどうする?」

「これだったら・・・執務室のソファが良いかな?」

「・・・だよなぁ」

シーズは肩を落として宿舎を後にする・・・やはりキュリアの言う通り、近場の宿屋を探すべきかも知れない。

とりあえず大元の城へ戻る、現状使えた部屋は4部屋・・・それらは全て聖剣達用だ、エルとミナ、エリスとサーミャ、キュリアとファナ、そして気が付けば遠征部隊に加入しているセベストリアとマーキュリー・・・聖騎士の寝床は無いが、家具は近場の民家から持ってくる事でそのうち確保出来る。ルナくらいはエル達の部屋に押し込んでも良いだろう。厨房周りは無事なのでそれは使える、使用人用の宿舎はそのままこの建物を管理する聖剣達用にしてしまう事にする。これで解決だ・・・そのはずだった。

「・・・お前はいつまでそこにいるんだ?」

「あら、さっきの部屋割り、あなたの寝る所が無いじゃありませんこと?」

「俺の寝る所はそこだ」

キュリアの座ってるソファを指さす、執務室の家具はとても良い物、ここがリビングのような扱いだが部屋が無いかわりにここはシーズが占拠している。

「確かに座り心地は良いとはいえ、聖騎士にふさわしい寝床とは言えないのでは?エルさんと一緒に寝れば良いのに」

「ルナが居るんだ・・・ミナにも悪い」

「いつもルナさんと一緒に寝ていらっしゃるのに?」

「それは・・・否定出来ないが」

「しょうがありませんわね、わたくしと寝ます?」

「・・・お前には恥じらいとか常識とか無いのか?」

「市民階級の聖騎士など、普通に毎晩他人の聖剣を抱いて寝ているではありませんか、何をいまさら・・・」

「良いからもう寝ろ」

キュリアを立たせて部屋を追い出すがそのまま腕を掴まれて執務室から連れ出される、だがシーズには奥の手がある・・・実剣化してやれば簡単に解放される。

「ちなみに言っておきますが、今のあなたの聖魔力、ゼロですわよ?」

「なんだと!?」

・・・聖剣は聖騎士のステータスを見破れる・・・契約すれば聖魔力の流れやそれ以外の状態まで全てを把握出来るが未契約では聖魔力の容量程度しか見られない・・・らしい。

実剣化出来るからとたいして抵抗しなかったが、無理と分かってしまえば抵抗しなければならない・・・が、最近は両手剣を二刀流する聖剣だ。この細い腕に見合わない力でぐいぐい引っ張られる、引き剥がす事も可能だがこれ以上無理にやれば彼女も怪我をする・・・しょうがないから送り届けるだけ送り届けて戻ろう、夜道も危険だからな?

「それじゃな」

「あら、ここまで大人しく付いてきたのですからてっきり一緒に寝るものかと」

「・・・夜道は危険だから付いてきてやっただけだ」

「たまーにそう言うお優しい所、素敵ですわね・・・まぁ、戻るのも疲れるでしょうし、本日はここで寝てくださいまし」

「どうしてそう言う流れになる?ファナも居るだろ?」

ファナを指さすが、どうやらその気・・・らしい、脱いだ服を掴んでいる。

「一緒に・・・寝る?」

・・・なんだこの可愛い子。

ファナにも引っ張られてクイーンサイズのベッドに投げ込まれる・・・天井付きのさぞかし良いベッド、おそらく領主の家族が使っていた物だろう・・・こんなベッド寝心地が悪いはずが無い、一気に今までの疲労が押し寄せて、起き上がる気にもならない、キュリアに布団を被せられればもう意識が無くなった。


・・・さて、一通り調べさせて貰いますわ。

シーズは寝た、持って来た紅茶には睡眠薬を混ぜてあった、相当粘ったようだがこのベッドの柔らかさに掛かればもう我慢の限界を迎えるはず。

キュリアはシーズにキスをする・・・契約完了、これでキュリアはシーズの聖剣になる、そして二重契約状態となり、普通なら短剣にしかならなくなる・・・そして犯罪にもなる。そもそも聖騎士は二重契約をするメリットが無いのでこんな事は普通しないのだが、酒、女遊び等々でよく発生する問題で、聖騎士は聖騎士の階級剥奪、そして聖剣への罰金、そして禁固10年が言い渡される、しかしシーズは実剣化すらまともに出来ないのでこの問題が露呈する事はほぼ無いだろう。

・・・今日こそこのクソ聖騎士の生態を暴いて見せますわ・・・。

そうキュリアは意気込んでシーズに抱きついた・・・まず聖魔力の容量・・・これは聖騎士としても優秀な部類、相変わらず聖魔力自体は枯渇している、魔力もそうだ、聖魔術士も羨ましがる容量、これは消費があるものの半分以上をキープしている・・・しかし使う場面などここ最近あったか?心当たりが無い。だが、ここまでは契約無しでも分かる事、そこから先がどうなっているのか、それを知りたい。

続いては聖魔力の供給先・・・これは契約しない限り感じ取れない内容、一方はエルだろう、しかしもう一方ある・・・普通の聖剣ですら搾り取れない量の聖魔力がもう一方の供給先に常時供給されているのだが、契約の代償として常時抜かれる聖魔力にしては異常な量・・・その為三本目であるキュリアに対しては余力がなさ過ぎて一切供給が無い・・・これで分かった。

・・・この男、元々二重契約をしている。

それが分かった瞬間、キュリアはシーズを突き放した。

・・・この男、何処までもクソでしたわ。

ひとまずエルを問い詰める必要が出てきた・・・エルはキュリアより性能の良い聖剣だ、一緒に居てこの事実を知らずに落ち込んでいるなんてお粗末な話などあり得ない。おそらくはファーバンラグニスにもう一本の聖剣が居るはずだ、それも余程の出来損ない・・・出来損ないで無ければ常時こんなに聖魔力を聖騎士から引き抜かない・・・つまりこの男、学生になる前に闇市で粗悪品を購入し、何かしらの犯罪に関与していた、そうとしか言い切れない。


「ミナ!!」

「ひゃいっ!?」

翌日、キュリアは厨房で片付けをしているミナに声をかける。ミナは驚いて皿を地面に落とした。

「聞きたい事がございますの!!」

「ききき今日の・・・スープ・・・お口に合いませんでした!?」

ミナは涙目で洗い場に座り込む。

「シーズ チェラムの件ですわ!」

「シーズさんが・・・どうかしました?」

「あのクソ聖騎士!二重契約している事はご存じで!?」

「・・・なぜそれを?お姉ちゃんから聞いたの?そもそもそんな事、絶対言わないと思うんだけれど・・・それを知っている位なら二重契約な気が・・・?」

ミナは姿勢を崩して床に尻もちを付く・・・どうやら知っている様子だ。

「その聖剣・・・!!割れてますの!?」

「シーズさん、あれでも容量だけは聖騎士トップクラスの超優秀なお方ですよ!?それを常時吸い取る聖剣なんてこの世にいる訳ないじゃないですか!!」

「現に吸い取られてるじゃありませんの!!」

「私達の90倍の消費量ですよ!?聖剣じゃない別の物に吸い取られているとしか・・・」

「どういう事ですの!?」

「そこまではシーズさんの聖剣じゃないから分からないんですってば!!」

もうやめて・・・ミナはそんな顔をする。

「そういえば、ルナについても聞きたいんですけれど!」

ついでだ、こっちの問題も知りたい。

「えぇ・・・!?ルナはそもそも聖魔力の流れとか一切分からな・・・」

「エグバンゼル先生の作品でも!?」

「ひぃ!!・・・私達が出来損ないなだけなの!!もう許して!!」

「エグバンゼル先生がそんな物を作り出せるはずが!!」

「・・・もう辞めよ?」

ファナがキュリアの腕を掴んでくる・・・少し冷静になってみれば落とした皿の破片で怪我をしたミナが大泣きしている姿が目に入る・・・やりすぎた。

「・・・ごめんね、ミナ」

ファナはキュリアを押しのけてミナを立たせる、そして厨房から連れ出して行った。ファナは協力者だ、シーズ チェラムの謎を解明すべく昨日の夜中、協力してもらった・・・それなのに何も解決出来ていない。キュリアは頭をかきむしりながら割れた皿を片付けはじめた。


・・・やってしまった。

ファナは何喰わん顔だったがキュリアは昨日の夜とは別人、ゴミを見るような目をしていた、きっと寝ている間に何かしたのだろう。

・・・最低だ。

エルに合わせる顔も無い。シーズは溜息を付きながら魔剣関係の古い書籍を執務室の机に放り投げる。ひとまず外へ行こう、そういえば家具の調達も・・・いや、そもそも外で寝泊りすれば良いのでは無いか?そうすれば昨日の事など起きない。

・・・出るか。

シーズは執務室のドアを開けて町へ、大通りの建物は商業物件なので居住する者など居ない、城を出て目の前の武器屋へ、鉄製の武器が山ほど残されている、建物自体の状態も良い・・・二階へ上がれば居住部分、もちろん誰も居ない、普通のベッドもあった・・・ここでいいや。

ここで暮らす為の片付けをする、武器に関しても磨けば使えそうな物ばかり、それにその為の職人の道具もある・・・正真正銘鉄剣や防具しか無い、聖剣の取り扱いは無しだ。していたとしても、もうとっくのとうにサーヴァル化している。

魔剣に関して、分かった事がいくつかある。一つは契約方法、口づけを交わすのは聖剣と同じだが別途、契約リングが必要ならしい。この時点で今まで回収した魔剣は使えない、契約リングを回収していないからだ。二つ目は特性・・・聖魔力と別途魔力を必要とする、おそらくは実剣化も聖剣とプロセスは同じだろう。三つ目は製法だ、奴隷女性を原料としていたらしい・・・今で言う、低級聖剣と同じだろう。しかし聖剣とは異なり魔剣化させる為の術式や施術が対象者の生命を脅かす程の危険な物である事だ。引き換えに魔剣は肉体的ダメージを受けない限り永遠の命と食事や睡眠と言った人間らしさとも無縁になれる、そして力も強大という訳である。しかし成功率も極端に低い・・・そしてその下位互換として生み出されたのが現在の聖剣と言う訳だ。聖剣はほぼ100%成功するが魔剣に比べれば遥かに性能は劣るし命も有限・・・それくらいは知ってる。魔剣という存在が無かった事にされているのは国家ぐるみで大量殺戮をしていた事実を隠ぺい・・・もしくは発覚して禁止になったかしたからだろう・・・学校で教えてもらえなかったのはこういう背景があったからだ。

ある程度片付いた所でミーナの酒場へ、昼食を取ろうとしている聖騎士や聖魔術師でにぎわっている。

「おっ!シーズじゃねぇか!一緒に食おうぜ?」

「と言うかミナちゃんが作ってくれるんじゃないのか?」

「・・・たまには外で食いたい時もあるさ」

フーリエとセイレンはマルコーとグレイの後ろでダンマリ笑顔・・・その気になれば後ろの二人だって料理くらい作れるからだ。ならなぜここに来るか、食材は基本的にここにしか降りてこないからだ。しかしそれでもなぜミナが料理を作ってくれるのか・・・エルの為に食材をミーナから分けて貰っている、そして遠征の食材の残り物をやりくりしているだけだったりする。

マルコー達に続いて奥のテーブルに座る。酒場と言うよりは大きな宿屋の食事処で、おおよそ100人単位の人間が一度に食事出来る広さがある。当然部屋数もそれなりにあり、ミーナ傘下の従業員を全て納めた所で全く埋まらない。

「そういや王宮暮らしだって?」

「いいなぁ・・・」

マルコーがそんな話を切り出してくる、フーリエはお姫様に憧れがあるようだ、大変羨ましがっている。実際、お姫様カールの茶髪、最初あった時は本当にお姫様のような印象、王宮暮らしに憧れを持ってても説得力がある。だが、あの城の現実は悲惨だ、悲惨すぎる。

「実際そうでも無いぞ?大半がカビだらけ、使える部屋が全然無い」

確かに6人くらいが寝られるキングサイズのベッドもある、だがカビが酷い、窓ガラスが割られたかのように全滅しているので野ざらしもいい所、おまけに日の光が届かない、城は湿気が凄いのだ。

「ルーカス城ってそんな状態悪いのか?」

グレイの表情が一遍する。

「そもそもルーカスがブラックアウトに包まれた原因は独立運動だぜ?」

マルコーはそういいながら皿にフォークを置いた、今来たばかりなのにもう全て平らげている・・・美味いからな。

「あーそうだね」

グレイも中々のペース、あと一口だ、フーリエとセイレンはまだ半分ある。

「独立運動がありゃルーカス城が標的になってもおかしくは無い、無事な部屋が無いのも納得なんだが・・・美人だらけで良いよな?・・・あーいや、なんでもない」

マルコーが美人と口にした瞬間、フーリエがフォークを皿に突き刺す音を立てたので流石に無かった事にしようとする・・・しかし口走ったのはマルコーなのにその事実が無いかどうか、フーリエが無言の笑顔でお伺いを立ててきた。ないない、そういう風に手を振ればフーリエはまた食事を再開する。

「こんなに強固で守りやすい街なのに・・・中から攻められればそりゃひとたまりも無いんだなぁ・・・へー・・・」

「ルーカスまで奪還したと聞いた時はなんの冗談かと思ったけれど、サーヴァルキングはルーカス城内に居たんだろ?だいぶ聖石と守護聖石で弱体化してたんじゃ無いか?オマケに聖石の力で魔法攻撃は建物自体が防ぐ構造だ、金のかかった建物ならよくある話でもある」

「・・・まぁ、その通りだったな・・・次から2人じゃ厳しい・・・お前らだけでも来てほしい所だが」

「嫌だよ、俺らの仕事は街の防衛だ」

「・・・この野郎」

コイツらはこういう奴だ、知ってたからテーブルをひっくり返すとかそういう事はしない、首を締め上げる気にもならない・・・こういう奴らだと分かり切っているからだ。

「今日はこれからどうするんだ?お前、しばらく無職になれるらしいじゃん」

「無職じゃねぇ、休暇だ!休暇!」

仕事してないのは心外なので一応訂正しておく、するとテーブルの横に誰か来た。

「・・・楽しそうじゃない」

エルだった・・・皆珍しい顔をする。

「エルちゃん!座って座って!」

セイレンは長い椅子を詰めてエルに座るよう勧める。

「・・・いや、私は・・・出かけたっきり帰ってこないコイツを・・・呼び戻しに来ただけで・・・ミナが探してこいって言うから」

「いいじゃん!皆で一緒に食べよ?久しぶりにね?」

「契約していれば大体どの辺に居るかは聖魔力で追えますからね?・・・浮気なんて直ぐ見破れます」

そう言いながらセイレンはグレイ達を見る。

「お前のような美人が居るんだ、する訳ないだろ?」

「うちの稼業のメインは酒だ、ガキの頃から浮気で駄目になった奴をかなり見てきたんだぜ?やなこった」

「・・・俺は・・・説得力はなさそうだな?」

「シーズさんは・・・危ないわね・・・まぁエルさん座って!立ち話もなんでしょ?」

「・・・うぅ・・・」

セイレンはエルを座らせる。引きこもりがちなエルは筋力的にも逆らえず、されるがままに座らせられる。

「それにしてもずいぶん久しぶりじゃない!元気にしてた?」

「だいぶ細くなりましたね?ご飯はちゃんと取られてます?」

「う・・・それは・・・」

エルはセイレンの問いかけに目を逸らす、セイレンとフーリエ、ついでにグレイとマルコーと面識が全く無い訳じゃない、良くも悪くも自分とエルを引き合わせた決定打はグレイとセイレン、ミナについてはエルのおまけ同然だったが、聖騎士になりたての頃は聖魔力が乏しいおかげで孤立していた自分らを一番に心配し、一緒に飯を食べてくれていた時期もあった。エルとミナを勇気付けるのは決まってフーリエとセイレンの仕事だった・・・そしてそれに罪悪感を抱いてしまったのか、ついには二人とも引きこもってしまい、その後全然会わなくなってしまった。

「それはそうと・・・その・・・ミナが昼を用意して・・・」

流し込まれてた・・・なんて言えなさそうだよな?話を逸らしてエルは再度立とうとするもそれは叶わない。

「ほらよ、なんか珍しいのが居るな?」

「えっ・・・と・・・頼んでない・・・」

セルベッタがエルの分を置いていく・・・基本的に提供される料理は日替わりであれど、その時間帯毎に決まっている・・・座ってしまえば出て来るのも早い。セルベッタは料理をエルの前に置くと直ぐ別のテーブルに料理を運びに行ってしまう。エルの言葉など一切聞く耳を持たなかった。

「食べなよ!美味しいよ?ボリュームもあるし!」

「そうですよ?エルさん、ただでさえ細いんですから少しでも食べて置くべきです、食べ物も無限ではありませんので」

「ぐっ!?・・・食べるわよ・・・」

エルは目の前に出てきた料理を見て、立ち上がるのを辞めた・・・食べないといけない流れをなんとなく察したのだろう。自分やミナがエルの口にスープを流し込む時の決まり文句もセイレンは抜かりなく決めて見せる、これが効いたようでエルは料理を食べ始めた。そして最初は完全に警戒していたエルもセイレンとフーリエの女子トークに囲まれて次第に心が開いてきている・・・もっと元気になってくれると良いが・・・。

食べ終われば4人と分かれる。引き釣りがちなエルの笑顔は特に誰も気にしていない様子、笑おうとするのもエルにとってはかなり久しぶりだからだ・・・次第に笑えるようになってくれる事だろう。

「・・・ミナが昼飯用意してくれてたんだって?」

「・・・そう」

「・・・悪いな」

「いいよ、どうせ角紫辺りが食べちゃってるから」

エルは赤い癖っ気気味の髪の毛を指に絡めるしぐさをしながら隣を歩く、こうなるとは予想外だった様子だ、シーズは武器屋の前で止まる。

「・・・どうしたの?」

エルは首をかしげる。

「いや・・・今日から俺はこっちで暮らそうかな・・・なんて」

「使える部屋も少ないもんね」

エルは武器屋を眺める、そしてついてくる。

「まだ片付けの途中なんだ」

「大変そうね」

店を抜けて二階へ上がる、リビングとキッチンは一階、上はベッドルームのような構造、3階建てで屋根裏まである。

「結構良い所じゃない」

「正直、あの城より全然住みやすい感じだ」

「私もここで暮らそうかな」

エルはシーズの腕に絡みついてくる・・・そして言った。

「・・・やっぱり」

エルはベッドにシーズを押し倒す、盛大に埃が宙を舞う。エルが上に乗ってきた。

「・・・角紫と契約・・・したでしょ?」

・・・?

身に覚えが無い。

「どういう事だ?」

「とぼけないで!」

「とぼけてない!本当だ!」

「私はあなたの聖剣よ?ごまかせると思ってる?・・・角紫が私達の関係を探ってる・・・正確にはアンタのいつもカツカツな聖魔力が一体何に消費されているのかを・・・」

「・・・そういう事だったか・・・だが、君に分からない事ならアイツも分からないんじゃ!?」

「何か知っている様子ね・・・吐きなさい」

「昨日、キュリアが俺の部屋が無いのを理由に一緒に寝ろと言い出したんだ」

「・・・ほう・・・それで一緒に寝たと・・・最低」

「寝る気は無かったんだ・・・だが・・・」

「・・・別にいいわ、角紫が昨日の夜、紅茶に睡眠薬を仕込んでた証拠は既に見つけてあるから」

エルはポケットから茶色い小ビンを取り出す。

「・・・アイツ・・・!」

・・・やられた。シーズはその小ビンをエルの手から分捕り、ラベルを見る、どう見ても睡眠薬だ、それをその辺にぶん投げる、割れはしなかった。

「知ってたの、あなたは必死で鍛錬をしていたけれど聖魔力の消費は据え置き・・・常に枯渇、そして聖剣病院の歳の離れた貴方のお友達が教えてくれる料理の効果もあって容量だけがどんどん増えていく、全部ミナから聞いてるに決まってるでしょ?ミナがそれを作ったんだから・・・私が聖魔力を取りすぎなのも疑った・・・けれどあなたがその聖魔力を何に供給しているのかが分からない・・・それがただただ、もどかしかった」

「・・・悪い」

「あなたのせいじゃない、私にそれを特定出来る力が無かった、エグバンゼル先生でも心当たりが無い問題、誰も知らないからこそあなたは苦しみ続けてる・・・角紫なら根気よく探ってくれると思った・・・でもメルブロアのお嬢様でも私と同じ程度まで調べる事は出来なかった・・・つまり聖魔力が何処へ行っているのかは誰も特定出来ない・・・そして聖魔力の流れは聖騎士自身は流し込む感覚はあっても何処へ流れるかの把握するのは不可能、私達聖剣にしか出来ない事・・・謝るのは私の方・・・頼りなくてごめんなさい」

エルが大泣きしながら倒れてくる、シーズはそれを受け止めるしか出来なかった。

「・・・さて、一人で生きていけるか?エル」

「・・・私を捨てる気?」

「二重契約が発覚したんだ、君は俺を訴え、俺はこれから君とキュリアに賠償金を払い、そして禁固10年の刑になる、聖剣にはなれないけれど、少なくとも普通の生活を送れるようになるはずだ」

「黙ってればいいじゃない・・・どうせあなたはロクに聖剣を使えない、突然実剣化出来なくなった訳じゃなく元から実剣化出来なければ他の聖騎士にも怪しまれる訳が無い、角紫も分かっててやったと思うわ、私と角紫が黙ってさえいれば別に良い」

「・・・良いのか?俺から離れるチャンスだぞ?」

「だから角紫が勝手にした事よ?そんなに私を捨てたいの?それに貴方の実力はミナから耳が痛くなるほど聞かされた・・・貴方は死んで私を自由にする気だけれども、貴方にはやるべき事がある、その時まで我慢しろと言ったのも貴方よ?なのにやる事もやらずに牢屋に入る訳?理解出来ないわ?・・・他に部屋はあるの?」

「・・・いくらでも」

「そう、一部屋貰うわ」

「好きにしてくれ」

エルはシーズの許可を聞いてから部屋を出ていく・・・それを見届けてから片付けを再開した。キュリアが武器屋に来たのは夕飯時だった。

「晩飯ですわよ!クソ聖騎士!」

「あら、泥棒猫がよくも・・・」

「げっ・・・あなたもいらしてたのですわね!?」

「・・・そりゃ・・・こんな事されれば・・・ね?」

エルは睡眠薬の小ビンを振る、キュリアはしまったという顔をした。

「しばらく戻りませんので・・・ミナにそう伝えておいて」

エルは小ビンをキュリアの胸の谷間に突っ込んでそのまま店の外へ追い出し、ドアを閉め、ドアノブに錆びた剣を通して開かなくした。

「・・・それじゃ、酒場に行きましょうか」

「・・・そうだな」

外でキュリアが何か言っているがエルはそれを無視して店の裏口を目指す。裏口は大荒れで、裏の家の瓦礫が流れ込んでいる・・・暗いとなおさら危ない。シーズは瓦礫の上を歩き、エルの手を引いて裏の道へ出る。

「ありがと」

エルはそういいながらシーズの横を歩く、裏の道は正直瓦礫だらけだ、なんとかして大通りに出れば混雑している酒場に入る。直ぐに料理が出てくる・・・そろそろ長期保存の食材が目立ってきた。

「珍しいのが居るな」

よいしょと言いながら聖魔術士長がシーズの隣に座ってくる、それでエルはむっとするが空いている席が無い。

「どうだ?王宮暮らしは」

「案外不便だぞ」

「・・・意外だな、住み心地はよさそうだと思ったんだが・・・」

「これなら無事な宿屋を探した方が良かったな・・・だが収穫もある」

「なんか良い家具でもあったか?」

「書庫が無事だったんだ」

「お前は読書が趣味なのか?」

「・・・大半はどうでも良い物ばかりだが・・・魔剣と言うのはあんた知ってるか?」

「なんだそりゃ?」

聖魔術士長は首をかしげる、40代のオッサンだがこの年齢層でも知らないらしい・・・となると相当昔に存在そのものを抹消された武器であると言う訳だ・・・。

「まぁ、その辺の書物がそこそこあったのが収穫だ」

「・・・書物だけあっても、物が無ければ役に立たない気がするんだが?」

「それが、実は今までに3本回収に成功している」

「そりゃすげぇ・・・で、なんだそれは?」

「どうやら聖剣が出来る前の黒魔術武器だったらしい、魔剣は聖剣の上位互換・・・というよりかは魔剣の代用品が聖剣だったらしいんだ」

「古代の遺物みたいな物か・・・じゃあ強いんだな?」

「ああ、聖剣の何倍も力があるらしいんだ・・・ただ、製造方法が非人道的で量産性も無かった・・・100人以上犠牲にしてようやく一本出来るみたいな代物だったらしい」

「聖剣は製造過程で死者が出るのも稀なのにか?恐ろしいなそれ」

「犠牲が多い代わりに力はある・・・オマケにほぼ不死身らしい」

「・・・だから拾えたのか」

「・・・ああそうだ、そうなんだが・・・使うには契約リングが必要・・・俺はそれを拾ってこなかった」

「やっちまったなぁ?でもお前にも聖剣は居るだろ?聖剣が使えないから魔剣に手を出すのも愚かな考えだぜ?やめとけ」

「・・・分かってるさ、そもそも使おうと考えてない、どうやったら実剣化を解く事ができるかを知りたいんだ・・・彼らの主人は少なからずサーヴァルキング級と戦っている、もしかすれば討伐に有益な情報を持ってるかもしれない」

「なるほどね・・・そういえば、レイア チェラム率いる24回目の遠征部隊は今から6年前にこの先のフロウド村で大部分が全滅した、その前の23回目のエドモント サルザンの部隊の骸に食われたようだな、23回目は400人も居た大部隊だ、無理もない、そんな報告書が聖魔術士ギルドに残っていたよ・・・そういえばお前の姉だったか?もしかしなくてもサーヴァルキングになってる可能性はあるぜ?」

「・・・覚悟はしてるさ」

「極力は力になってやりたい所だがこの街を死守するのが俺の役目だ・・・悪いな」

聖魔術士長を置いて立ち上がる、食事はもう終えている、武器屋に戻ればそれぞれ入浴を済ませ、それぞれのベッドで横になる・・・まだまだ埃っぽいが朝に比べればだいぶマシだ。

レイア チェラム・・・。

とにかく出来の良い姉だった。今は無き父に聖魔術を学びつつも喧嘩に強い、棒を持たせればゴロツキなんて一瞬で気絶させる。体力はあまりなかった自分を守ってくれる強さ、いつかは追いつきたいと思っていた。

いつまでも守ってばかりの存在は嫌だったが、そんな強い姉が嫌いな訳ではない、憧れがあったのだ。だから姉と同じく聖騎士を目指したのだ。

・・・だがもうそんな姉は居ない。

フロウド村、そこに行けば、おそらく変わり果てた姿で会えるかもしれない、この先何を目標に生きて行けばいいのか・・・その答えはもうすぐ分かる、だが調べたい事も山ほどだ。

翌日は室内の埃は大体片付けた後、午後から書庫に行って魔剣に関する書物の棚をしらみつぶしに読み漁る・・・しかし、一段読み終えればもう後の4段くらいはほとんど同じ内容だった。

「・・・肝心の運用方法が書いてねぇ」

・・・それもそのはず、魔剣の性能は魔力で引き出せる違いを除いて聖剣と変わらない、聖剣と変わらなければつまり聖剣の力を引き出すのに聖魔力を使う違いを除いては一般的な剣と変わらない事を意味する。運用方法は基礎剣術で学べというのが当時のスタンスであるし、正直今も変わってない。

「・・・だいぶ古い書物・・・今から200年くらい前の物じゃない」

「そのようだな・・・と言うか、200年前くらいから対して文明が進歩していないのもなんかアレだな」

「それ以前に、だいぶ歴史が湾曲しているのだけれども」

「黒魔術自体は神聖帝国が生み出した物、これが事実なら隠ぺいしたいよな?」

「・・・そもそも他の国は今どうなっているのかしら?」

「さぁな?俺たちは神聖帝国しか知らない世代だからな・・・」

エルは目をこすりながら本を床に置く、もう外が暗い、せっかく片付けた武器屋だが、魔剣に関する書物4棚分がリビングをそこそこ埋め尽くしている。たいした量じゃないし、工房にあった人力荷車で運んでこれた量、しかしオマケが二人もついてきた。ルナとミナだ。ルナは下で新しい剣を新調すると言ってついてきたっきり帰る素振りを見せない、ミナはその付き添いだが、主人が居座っている以上帰る事が出来ないで居るのだ。

「・・・飯は作らないで良いのか?」

「・・・ここには食材無いので・・・そういわれましても・・・」

ミナはここでも作るのか?というような顔をする。言葉足らずだった。

「いや、この家は別にいいんだ、あっちの事」

「お城のほうですか・・・キュリアさんがいますし・・・」

「そういやアイツも作れるんだったな・・・だが、ここには食べ物は一切ない」

シーズはそう溜息を付くと立ち上がる、手に持っていた本でソファーで転がっているルナの尻を叩いて起こす。

「いったぁ!何!?」

「飯行くぞ?ここはミーナの所に行かないと飯にありつけないんだ」

「ミナ!作って!」

「ですから食材がありません・・・」

ミナはだらしない主人だなぁと言う顔をしながら外へ出る準備を始める、エルも黙って支度をしていた。

ルナを一度外に出してしまえば酒場へ一目散、そういえばこの光景はファーバーンラグニス以来だ。そう、落ちこぼれの烙印を押されて一月くらいまでの光景。だが今は状況が違う、エルもミナも元気、シーズとルナも落ちこぼれとは言えない状況でもある。

「四人組とは珍しいな」

「そんな日もあるさ」

酒場に入るとマルコーに招き寄せられたので4人のテーブルの横に座る。

グレイはエルミナ姉妹が揃っているのを凄く珍しそうに眺めてきた。フーリエとセイレンは自分らのテーブルから直ぐに主人を蹴りだしてエルとミナの手を引いて席に座らせた。マルコーとグレイはしょうがなく皿を持ってシーズとルナの座ったテーブルに移動する。

「ミナちゃんが居るという事は、食材尽きたか?」

「いや?俺とエルは元々別居してるんだ」

「私も!」

「お前は新しい剣を調達しにきただけだろ?」

「夫婦別居は許されない!」

「・・・それは学生の頃の話だろ?」

それを聞いて目の前の二人は笑い出した、おかしな事言ったか?

「つーことは聖剣お嬢様放り出して皆で別居か!」

「そんなに居心地悪いんか?」

「俺は・・・男一人だしな?」

「でも距離を置くべきかなー・・・私とシーズは・・・」

急にボケをかましていたルナが真剣な顔をする。それでヘラヘラしていたマルコーとグレイは何かを察したのか、咳払いしてから少しでも真面目な顔をしようと努力し始めた。

「そろそろ刺される状況になってきた?」

「ちょーっとね・・・キュリアが私達の問題に探りを入れてきてる」

小声でルナがそう言う。

「もしかして、聖騎士なのに聖剣が使えない問題?」

グレイは気の毒そうな顔をし始めた。さっきのヘラヘラ気分から完全に切り替えられたのか凄く深刻な顔をしている。

「ご名答」

「でも、解明されるならお前らの為になるんじゃ・・・?」

「私達のパートナーや、聖剣病院、聖剣技師達が解明出来ない問題、他の聖剣が解明出来ると思う?」

「普通に考えて無理じゃね?」

「方法はあるにはある、私達と契約してしまう事、そうすれば聖魔力の流れは把握出来るようになる」

「それ普通に犯罪」

「でもキュリアはそれをやりかねない状況、だって主人はもう死んでいる上に元々使えなきゃ発覚すらしない」

「うーん、確かに」

「それを防ぐ為にも、私達は城から出る必要がある、実はミナに問い詰めたらしいんだ」

それを聞いて二人はミナを一度見る、それがあの右手の包帯か・・・状況を理解した二人はまたルナの方に目線を戻した。

「こっわ・・・」

「角紫は結構即決で行動するタイプだしなぁ・・・おっそろし」

マルコーとグレイは震えあがる。あの美人にキスされるくらいなら別に願ったり叶ったりな所もある。怖いのはその後だ、聖騎士としての人生が終わる、家が没落する・・・そういうニュースはよく聞いてきた。人生が終わるから怖いのだ。

「そういう訳だから、シーズも気を付けなよ?」

ルナはそういってシーズの唇に人差し指を当てた。

「ちなみに!私は聖剣じゃないからいくらでもキスし放題だからね?」

「・・・するか!」

シーズはそういいながらルナの腕をどける、ルナはケラケラ笑いながら運ばれてきた飯にかぶりついた。

・・・ばれたかと思った。

しかし時既に遅し、ルナにはバレてる可能性がある。何か知っている、そんな目をしていた。

飯を食べ終えれば空き部屋を出来る限り片付け、だがせっかく部屋を作ってやったのにルナはいつものように俺の部屋で寝ようとする。

「付き合ってもいないのに・・・」

「長い付き合いじゃん」

ルナはシーズの寝る所を開けてベッドをポンポンする。いつもの流れだ。

シーズはろうそくを消してベッドに寝転がる。

「・・・酒場の件、どこまで知ってる?」

「うーん、キュリアに襲われた所まで」

・・・終わった。シーズは深い溜息をついた。全部じゃないか。

「心配しないでいいよ?3股してようが、私が一番目の妻には変わりはないから」

「・・・いつまで引きずるんだ・・・夫婦ネタは」

「一生」

「・・・マジ?」


ルナにバレてから一週間経った。昼の町がだいぶ明るくなってきたが、いい加減サーヴァルに襲われても良い頃合い。たっぷり休めた・・・訳でもないが、再びルーカスが戦場となる日が来た。信頼できる仲間が居るのは良い事、今日は聖剣達の出番が無い。

「ほらよ、シーズ」

「助かる」

「これでいいんだな?」

「ありがと」

シーズとルナはマルコーとグレイにエルとミナを実剣化してもらい、それを受け取った。二本揃うとやはり姉妹、見た目も性能もほぼ同じ、ミナの方が少し小傷がある程度、だがフーリエとセイレンに比べれば全然綺麗、実戦経験としてはほぼ無いに等しい聖剣であるから当然か。

しかしエルを使えばやはり別格、キュリアより性能が良い。

「・・・素が化け物に最高峰の聖剣持たせたら、たとえほぼ生かせなくても、回転効率上がるってもんだなぁ・・・」

「ほんとだ・・・いつも以上に追いつけない!」

2人が突出しすぎている、かといって横から回り込まれている訳ではない、ルナは元々ゼロなのでミナの性能もゼロなのは致し方ないにしても、全て倒しきっては後ろの意味が無い。ちゃっかりシーズも一定数の致命傷を負ったサーヴァルを取りこぼしている・・・楽は楽なのだが、それも聖騎士としてのプライドを傷つけられる、しかも聖魔術士も取りこぼしを掃討している、取りこぼしの取り合い合戦が勃発している。ルーカスは元々それを考慮した城塞都市だ、専用の増幅器なんかも城壁の設備に存在する。聖騎士達は自分の存在意義を問うような生ぬるい戦いをひたすら生き残る・・・流石に死ぬ方が難しい。

「・・・こりゃ楽勝だな」

「・・・そのようですわね」

あーあー・・・そんな顔で聖魔術士長が城壁の上から下の様子を眺める。キュリア達は本日待機、あれだけ馬鹿にしている聖騎士も、たかが5%しか聖剣の力を発揮していないとはいえ3百の大軍勢相手に出来る事、冷静に本来は凄い騎士2人組であるのはよく分かる。見かけはセベストリアとマーキュリーが憧れていた聖騎士像そのもの、二人はその憧れの姿を見て、考えを改めようともしているようだ・・・もちろんキュリア自身もあのレベルの聖騎士のパートナーになる事を目標にしていた・・・憧れの聖騎士達なのだが・・・蓋を開けてみれば聖騎士失格レベルの聖魔力の無さ・・・シーズは聖剣以外の何かに吸われて常時枯渇、ルナはそもそもステータスが見れないらしいと来た、ルナに関しては確かめようが無いが、少なくとも、シーズに関してはある程度情報がある。引っかかる点と言えば・・・。

聖剣以外の何かに吸われている。

これが一番引っかかる・・・低級聖剣のファナに聞いてもどんなに粗悪な聖剣でも、そこまで効率の悪い極悪聖剣は闇市でも聞いたことが無いと言っている・・・ただし、聖剣がサーヴァル化してしまった時、一定数吸われる事もあるらしい・・・粗悪な聖剣は使い捨てなので戦場に置き去りにされてサーヴァル化してしまった時、不明な供給先が生まれてしまう例があるとの事。しかしそれは常時食いつぶすほどのレベルにはならないらしいので、可能性があるとするならば、数百本の低級聖剣を今まで戦場に置き去りにしてきた・・・この説に限る。

この仮説を提唱した時、ファナには年齢的にそれほどの本数を戦場に置き去りにするのは不可能、2,3本目は稀にあるが4本目を失う頃には聖騎士自体もたいがい死んでいる、闇市での聖剣探しはアタリを引くまで契約しては殺してを繰り返す事はそもそもしなくていい、元々聖剣職人だったとしても契約してある聖剣はそもそも売り物にならない、それだけ前科があれば上級聖剣は与えられるはずが無い、そもそも私達は本来回収されていない、現状でシーズと契約していない事そのものがおかしいなど、冷静に考えれば学びが無い人間でも簡単に思いつく反論ばかりを指摘された。

だが、それ以外考えられない以上、後は他に有力な情報を持っていそうな人間・・・隣で勝利を確信しきっている聖魔術士長を問い詰める他出来る事は無い。キュリアは聖魔術士長に寄る。

「・・・なんだ?何を言われようと今回は戦場に出さんぞ?完全に戦力が足り切ってる」

聖魔術士長は下を指さして必要無さを訴え始めた。そんなの見れば分かる。

「シーズ・チェラムに関して色々聞きたい事がございまして」

「・・・なんだ?お前らの方が詳しいだろ?俺はそもそも遠征隊の指揮官じゃなかった、大した情報は持ってない」

「そもそも、どういう背景でこの作戦に参加したかくらいは」

聖魔術士長はそんなの本人に聞いた方が早いだろ?と言う顔をしながら見つめてくる。

「たしか・・・実の姉を追って参加したんだっけな?24期の遠征隊、レイア・チェラム率いる部隊だ、フロウド村・・・この道を行った村で消息を絶ってる部隊、そこまで行けばアイツの目標は達成される」

「家柄については?」

「はぁ?・・・姉が聖騎士団の指揮官クラスなら最低でも市民階級だろ?俺は聖魔術士団所属だ!そこまでは知らねぇ!」

「シーズ・チェラムの犯罪歴は?」

「いやだから俺の所属は聖魔術士団!そんなの知らねぇよ!なんであいつを疑うんだ!あの実力だぞ!もう少し評価しろよ!あれでも聖騎士学校主席の片割れだぞ!?」

聖魔術士長は魔導書の表紙の紋章を見せつける、聖魔術士団の紋章だ。だがルナについての情報がまだ足りない、それを聞こうとした時。

「そこまで、おじさんいじめない」

ファナに止められた。そしてサーミャに引きずられて城壁の階段へ連れていかれる。

「何を詮索してるか知らないが、あんまりアイツの揚げ足取ろうとするな」

「貴方はあのクソ聖騎士の聖魔力の無さに何も疑問を抱きませんの?」

「そりゃ・・・思う所はあるんだが・・・世の中には深く触れてはいけない事だってある」

「原因を調べればブラックアウトから世界を解放するのも夢では無いのに?」

「たとえそうだとしてもだ!そもそも私達で探れる範囲はたかが知れている・・・少しは落ち着くべきだ」

サーミャは溜息をつきながら階段を降りていく、だが諦める訳には行かない、階段を再び上がれば聖魔術士長と他の聖剣は居なかった。


「あー・・・」

「今日は圧勝だったというのになんですか?その顔」

ミーナは疲れ切った聖魔術士長の顔を見ながらワインを提供する。それは一瞬で飲み干された。

「角紫がシーズ・チェラムの過去を探っているんだ・・・俺の管轄外だぞ?」

「またなんで・・・」

「恐らく、アイツの聖魔力の行方を知りたいようだ・・・俺も聖魔力を人生の大半は勉強してきたつもりだが、枯渇する程の聖魔力を常時消費する聖剣や魔術書、あと魔道具は存在しない、これは断言できる」

「この道20年のベテランが言うんだからそうでしょうね・・・私も聞いた事ありませんから」

「・・・だろ?なのに角紫のヤツ、アイツに前科があると思ってる・・・たとえ前科持ちでも聖魔力を全吸収されるような事例は聞いた事が無い」

がしゃん。聖魔術士長は酒場のカウンターに頭を打ち付ける・・・頭の近くにある空のコップが倒れそうにはなるが、なんとか持ちこたえて再び自立した。それをいつもの事と、ミーナは眺めるだけ、強いて思う事と言えば、白髪が増えたかなくらい。

「たとえ全消耗する事態になっても、普通は一晩経てば全回復しますからね・・・」

「常に全消耗はおかしい・・・おかしいんだ」

「回復しない体質と言う訳でも無いはず・・・一応一定量回復してましたし・・・あの容量全部使えたらと考えれば確かに未来も明るいのだけれども・・・」

「やっぱ主席なだけあるぜ・・・ただ強いだけじゃ無かったか」

「当たり前でしょ?その程度の人にエグバンゼル先生は自分の作品を与えられるはずがありません・・・ちなみに二人が使いすぎな線も無い、だって私でも実剣化が出来るんですもの、平均その物です」

「・・・聖魔術士の俺にはよく分からんが、そこまでの代物なのか・・・なおさらもったいない」

「ちなみに聖魔力を吸収する魔法は存在するの?」

「あー・・・その手は・・・いや、ある」

「もしかして常にそれかけられてる?」

「それも考えにくい、術者のキャパを超えれば吸収すら出来ない、魔力変換する魔法も同様だが、無限に取れる訳じゃない、有効時間は最大でも30分しか聞いた事が無い、しかも延滞性の致死魔法で使用は禁止されている。そもそもこの手は皇帝側近レベルの・・・すなわち皇帝魔術士が30人かかりで精密な制御を要する高難易度魔法、失敗すれば術者全員死亡するハイリスクかつ、何もメリットが無い魔法、これを一人でかけられる術者と言えば・・・黒魔術師のレイヴァン・レオか、皇帝ミハエル・ロンドクルツが代表格だろう・・・俺ら底辺なら一万集めてもまず無理な代物さ、そのレベルの魔法を殺さずにかけ続ける奴らは知らない、それだけの人間を集める暇があるならさっさと毒盛って暗殺した方が早い・・・ちなみにファーバンラグニスの聖魔術士の人口は非正規をだいぶ盛っても7千人くらいだ、もちろん俺も含まれる」

「魔法も、考えられない・・・かぁ・・・」

「深く・・・詮索しない方が良いぜ、面倒だ」

「・・・私も・・・辞めておきたいかな?」

話は途切れてしばらく調理場の音しか聞こえなくなる、外が騒がしくなってきた、夕飯の時間だ。


・・・そういえば、クソ聖騎士は書庫に出入りしていましたわね・・・。

そこにヒントがあるかも知れない。キュリアは書庫に行く、様々な本があるが特に違和感を感じたのは丸々持ち去られている棚がいくつかあるだけだった、メインの通路にある大きくて長い読書テーブルにはロンドクルツ神聖帝国の歴史などの過去の資料が積まれている。おそらくこれの定位置がその空いている棚なのだろう・・・聖魔力の事に関して調べていたとはとうてい思えない。

・・・ハズレですわね。

きっとこの先の情報を調べているだけ、そうに違いない、一週間かけて痕跡を探したし、ついでにその手の書籍も探したがそんな物は無かった。そうこうしているうちにルーカスを離れる日が近づいて来た。もう離れる準備で忙しくなり、調査どころではなくなった。


いよいよだ・・・。

見えてきたのはフロウド村、ルーカスからもそう遠くない、サーヴァルはあまり居ないものの、明確にサーヴァルキングと分かる巨体が村の中央広場に鎮座している。

姉さん・・・。

目の前のドラゴン、情報通りなら変わり果てたシーズの姉、レイア チェラムの成れの果て、レイア サーヴァルキングと考えて良いだろう。

「君が、聖騎士なった目的・・・だっけ?」

「いいや・・・俺の獲物はその次だ」

「・・・そーだっけ?」

「俺は姉の敵を討ちに来た、姉を射ちに来た訳じゃない・・・だが、やらなければならない」

・・・本当は、サーヴァルキングになって欲しくは無かったが。

姉と思わしき姿を見て大きく溜息、姉をこの手でやれるか?姉を超える事は出来るのか?

「・・・勝てる自信・・・無いなぁ・・・さて、どうしたものか」

周りに怖気付いていると感じさせないようにそう口にしてみるものの、姉の変わり果てた姿を見て絶望している自分がいる。

「初手を見てから考えるしか無いじゃん」

ルナに正論を言われる、相手がどういう手札を持っているかを確かめなければ攻め様が無い・・・一度馬車の方を向く・・・相変わらず察しの良い奴が待っていた。

「実姉を前にして酷い有り様ですわね?」

キュリアがエルを渡してくる、そこまでお見通しか・・・。それを無言で受けとるとレイア サーヴァルキングに向けて前に歩みを進めた。思う事は沢山ある、強くて優しかったあの姉・・・なぜこんな姿になってしまったのか・・・。

・・・だが、自分は強くなったんだ・・・貴方の残した財産で・・・それを証明するのは今この時だ。

「・・・姉貴・・・今自由にしてやる」

その独り言でレイア サーヴァルキングは自分に狙いを付けるかのごとく顔を向けてきた。

・・・俺は貴方を超えなければならない。

そう思いながら地面を蹴る、数少ない取り巻きはルナに任せて、姉の元まで一直線・・・そうなるように取り巻きのサーヴァルが道を開けているかのような無防備な所をすり抜けていく。

「いきなり詰めすぎ!!」

ルナに怒鳴られるが進むのは止めない、流石の察しの良い相棒も察してくれなさそう。キュリアとサーミャを呼んで渋々取り巻きのサーヴァルを引き付けようとしている声がする。それは聞き流していとも簡単にたどり着けた姉の前、やはり大きい、流石サーヴァルキング級と言った所、しかしサーヴァルには撤退すると言う思考回路はあるが、流石にシーズを理解する事は出来ないようだ、容赦なく攻撃してくる。ドラゴン系の体だが攻撃属性は氷、生前の性格で属性が決まると思っていたが、姉の性格を考えるとその考察はハズレと言うのが分かる。

一瞬で氷付けにされる攻撃、それを避けきって攻撃を加える。攻略自体はリンク サーヴァルキングと同じ・・・だがエルデンのように守護聖石での弱体化が無い。リンク サーヴァルキング自体はエルデン放棄の際に遺体がサーヴァル化しないように城に集められたような気もするのだが聖石が足りずにサーヴァル化した、だからリンク サーヴァルキングは大広間に居たのだ。

比にならない強さ、聖剣が弾かれる。

「強すぎ!!」

しばらくすれば取り巻きをさっさと片付けてきたルナが加勢、そしてその後も文句を度々漏らす、聖剣で通らないのだから鉄剣が通るはずもない、完全に押し負けている。

確かに姉は強かった、だから遠征隊の隊長に選ばれた、それと関係はあるか?いくらなんでも強すぎる。

勝ち目が無い、最初は姉を自由にするつもりで倒しにかかっていた意思も諦めの気持ちが湧いてきたようなのか、弱ってきており中々体が攻めようとしなくなってくる、ついには尻尾の攻撃でエルを吹き飛ばされた。

・・・くっ!!

シーズはとっさに片手剣を抜いてその場しのぎのリカバリーをする、しかしちょっと嫌な感覚がした、それは次の攻撃で何だかが判明する。尻尾の攻撃を防いだ時だ、片手剣が折れた!無理も無い、聖騎士団入団時から酷使し続けている両手剣だ、そしてそもそもが非常時用のその場しのぎに使う物、軽さを求めて耐久力が無い。

・・・なんだと?

片手剣の破片を見ながら思う、嫌な感覚はこれか、吹き飛ばされながら理解する、頭を硬い物に打ち付け意識が朦朧とする中、なんとか立ち上がるも・・・遅かった、鋭い前足の爪が横から迫って来る!

吹き飛ばされると同時に血飛沫が飛んだ、しかしそれが自分の物で無い事に気が付いたのはルナの叫びからだった。

「エル!!」

・・・何故エルが?

朦朧とした頭で何が起きたかを確認する。視界が鮮明になってきた時、こちらに走ってくるキュリア、そして倒れているエルが視界に入った。

猛烈な喪失感がシーズに襲いかかる。そして井戸の横に落ちていた剣を拾ってレイア サーヴァルキングに真正面から突っ込む、どうにでもなれ。エルの後を追う覚悟で瓦礫の山を踏み台にして高く飛ぶ、そして拾った剣をレイアサーヴァルキングの頭に突き刺した、だが硬い、さらに蹴って押し込んでいく、それでレイアサーヴァルキングの頭が地面に激突した。

「ルナ!!」

ひとまず相棒の名前を怒鳴る。

「何!?要件は!?ちょっと!!」

倒したかどうかはどうでもいい、エルの所へ走る。それでも察しが良い、レイア サーヴァルキングを押し付けられたと察して付いてこない。急いでエルをすくいあげる。

「エル!!」

「私は・・・やっぱり・・・貴方の剣には・・・ふさわしくなかった」

「違う、俺が君にふさわしく無かっただけだ!今薬持ってくる!」

「あなたは・・・魔剣と・・・契約してる」

「何を言っているんだ!?」

しかしそれからエルは口を開く事が無かった。

「出血が多すぎますわ・・・聖魔術士さえいれば・・・」

「・・・そんなの居ないよ・・・うちの部隊には」

色々手を尽くした、キュリアの手は血だらけ、サーミャの手には医療品全てが入った箱・・・だが全てが遅かった。

「シーズ・・・」

ファナが意識を現実に戻すかのように肩を揺すって来る。

「・・・戻るぞ」

そうだ、いつまでも悲しみに明け暮れている暇は無い、直ぐにルーカスへ戻らなければならない。ルーカスに戻れば助かる事も無い、だが、この美しい姿のまま弔うには必要な儀式がある。それが無かったから姉はあの醜い姿になってしまったのだ。

「用意する」

ファナはそう言いながら村の出入口へ走り出す。エルを抱き上げるとルナについていった。馬車にはエルの死を残念でならないエリスとミナが居るが、馬車の運転はやると言って聞かない、ファナとミナに運転を任せる、二人は馬車を全力で走らせてくれた、半日も立たずにルーカスに着いた。それからは葬儀と埋葬はミナがどんな手でも使ってファーバンラグニスの本家で行うと言ってくれた、具体的に言えばエグバンゼル先生を仲介人にするそうだ。エルが絶縁関係にあるという事はミナも同様、絶縁しているのだから実の親でも顔すら合わせない、だが名だたる聖剣技師から声がかかれば名誉回復の為に聖剣技師のいう事を聞かざる得なくなる。幸いにもエグバンゼル先生はいくらでも頼ってくれと言ってくれていた協力的な人、卒業生のお願いも恐らくは聞いてくれる事だろう。しかしエルをまともに使いこなせず死なせた、そんな出来損ないの聖騎士はエグバンゼル先生にすら顔向け出来ない。

結局エルとルナ、ミナを乗せた馬車を見送るしか出来なかった。

一人だけになった家、新たに増えた物と言えば、姉の使っていた聖剣、折れた両手剣の代わりは下から新しい物を拾って来た。

・・・なぜ君は俺をかばったんだ。

深いため息と同時にベッドに倒れた。

ルーカスの基礎構造が幸いし、ゼルダ サーヴァルキングが弱体化していたおかげか攻略は比較的容易でしたが、基本的にエルが完全にお荷物状態、当然彼女の精神状態も良くありませんが、キュリアの事件をきっかけに少し表に出るように・・・。

次回こそ聖剣として活躍するのでしょうか?いよいよサーヴァルキングと化した姉との対決です。

最後までお付き合い願えると幸いです。


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