表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dark Breakers  作者: verisuta
落ちこぼれ2人組
5/17

聖剣の心得

前回城塞都市ルーデンを奪還しましたが、その後の防衛では他人の聖剣な事を良い事に好き勝手使いましたね、シーズ チェラムと言う男は・・・。

おかげで彼女らのメンタルも吹っ切れましたが、主人の喪失でふさぎ込む聖剣は他にも沢山居ます・・・どうするのやら。

来週、増援が到着した。

「よう、ひっでー顔だな?」

「・・・うるさい」

一団の中にはマルコーが居る、グレイもだ。

「他の聖騎士って何処だ?」

「これだけ」

シーズは隣にいるルナを指さす。

「これだけって何!?」

ルナはその指を掴んで下に思いっきり引っ張った。痛い痛い!

「・・・マジ?」

「マジ」

グレイは周りをよく見る、聖騎士らしき人は他に居ない、聖魔術士なら沢山居る。

「ひとまずは・・・そうだな、町の守衛と・・・限界聖剣の監視、どっちかをやる事になるぞ」

「・・・その限界聖剣の監視がそれか・・・」

マルコーはシーズの顔を痛そうな顔をして見る・・・フーリエ、セイレンも大丈夫?と心配してくるがこのアザや傷は罰も兼ねている、エルとミナは毎日これ以上の苦痛と闘いながら生きてくれているのだ、それに比べればこれくらいどうとでも無い事だ。

「何人かは・・・新しい職業に就けたんだが・・・」

「新しい職業?」

グレイは首をかしげる、そもそも聖剣が他にやる事でもあるのだろうか?と言う顔だ、それをお前が見向きもしないだけで私達は色々やってるんだぞとフーリエとセイレンは黙って目で訴える。それは実はミナがいつもしてくれている事でもある・・・そう、家事だ。

「飯所兼酒場と洗濯係・・・でも大人しく聖剣に戻れる子が回してるだけに過ぎない・・・それ以外は・・・」

「シーズと私で手なずけてる」

横から自信満々にルナが口を出してくる。マルコー達は理解出来ない様子だ、それもそもはず、その内容は非常識にも程があるからだ。

「なんじゃそりゃ」

「暴れ足りないなら暴れさせればいい、それだけ」

マルコーは理解出来ずにさらに首をかしげる。

「ようするに、聖剣に聖剣持たせて戦わせてるんですよ、この人達」

サーミャが腕を組みながら大きくため息。

「聖剣が聖剣で戦う・・・よく聖剣が許しましたね?」

聞き捨てならない、セイレンはお怒りモードの笑顔でシーズを睨む、当然、フーリエも冗談だよね?という目でこの非常識な問題をジョークで済ましてくれと訴えてくる。だが事実だ。被害者はさらに語る。

「まぁ・・・基本的に振り回すのは、私、隣のエリス、そしてミナさんですから・・・もう慣れました、なんなんですか、この聖騎士は!」

サーミャはシーズを指さして異常さを訴える。その腕をエリスが下げる。

「まぁまぁ!」

「ちょっと!エリス!」

これはしばらく続く、そう察したエリスはサーミャを後ろに引きずっていく。

「だからすまないって言ってるだろ?」

「「そんな事出来るのかよ・・・」」

マルコーとグレイは引きずられていくサーミャを眺める・・・とても整ったボディラインだがそんな事は思ってない・・・思ってないぞ?

「そんな事、出来ちゃうんだよね・・・だって聖剣もまた、人間なんだから」

ルナはお手上げのポーズでマルコー達の視線を戻す。

「その発想は無かったぜ」

「一度、聖剣の心得とやらに反する事やらせればああなる・・・と?」

「今のところは大人しくはなる・・・今の所はな?」

「・・・ハズレ、引いてないだけなんだよね、いずれハズレは出てくるよ?」

もうフーリエ達の沈黙は押さえられない、シーズとルナも分かっては居る、だが流石にマルコーとグレイも気が付いていない訳じゃなかった、早々にこの話を切り上げなければならない、マルコーはそう思って話を終わらす方向へ会話の舵を切った。

「大変なこった・・・俺等は守衛に行くぜ?絶対な!」

「ひとまず、あの馬車にここを守る事になった部隊長が居るから多分後で呼び出しが掛かるはず・・・遠征部隊はさらに侵攻するんだろうね・・・僕らはここの守衛として来たから」

「なんだ、遠征部隊に参加しないのか」

「やなこった」

「だろうな・・・ひとまず家は南側が比較的無傷だ、早い者勝ちだぞ?」

・・・そうなると新居の争奪戦が始まるはずだ、こうもあろうかとこの街の不動産情報は調べてある。南側は比較的戦闘が発生しなかったのか、倒壊している民家があまり無い、ちなみに中級市民層の暮らす前提の区画、家自体もそこそこ立派な物が多い。東側もそうだが、無事な建物も多くは無く、もう聖魔術士が全て入居してしまっている。北は壊滅に近い。西は半壊である。

「シーズ、お前はどの辺なんだ?」

「北東の豪邸、酒場も近いし今まで司令部としていた聖魔術士ギルドも近い」

「そっちの方が便利そうだな?」

「あの辺はやめとけ、無事な建物が少ない」

「そっかぁ・・・残念」

「まぁ、良い家見つかるといいな?」

「後で行くわ!そんじゃ」

シーズはマルコーとグレイを見送った。そしてその足で聖剣病院へ足を運ぶ。中は悲惨だ、なにせカウンセラーが居ない、精神安定剤も無い、聖騎士を見るなり殺せ殺せの大騒ぎだ。しかも聖剣が聖剣を使えるとバレたらしいので町中に散らばる聖剣病院へ急いで隔離している最中、大体10部屋の独房があるが全く足りない、それ以外はもう刑務所の独房で鎖に繋いである。少しでも空きを作る為、今日も威勢の良い一人を連れ出す。そしてまずは酒場に行き酒を飲ませて落ち着かせる。

「・・・落ち着いたか?」

「どうして・・・私らを生かしておくんだよっ・・・!」

「俺も人間、あんたも人間だからだ」

「もう聖剣として役に立たないって言うのに!あぁ!?」

立ち上がってシーズに向かって怒鳴り始める。

「いいから落ち着け・・・そんなあんたに朗報がある。もう一度、聖剣として戦場に立たせてやる事も出来る・・・俺ならばな?」

「は?あんた自分の聖剣毎回襲撃で無くしてるのかよ?」

「今ここで実剣化してやる、答えは直ぐに分かるぜ?」

「実剣化した所で何が?」

シーズは問答無用で彼女の手首を掴む、実剣化出来た。そしてしばらく眺める。聖剣セルベッタ、セルベッタ アーカディアだ、傷が多い、相当場数を踏んでいた感じがするが手入れの度合いはまぁまぁ・・・鈍く輝いている、装飾は量産型そのもの、聖剣学校では真ん中の成績の聖騎士が手にするグレードだ。シーズはセルベッタをミーナに差し出す。

「・・・ミーナさん・・・戻してくれない?」

「良いけど・・・毎回思うけどそのままにしておいた方が・・・」

「今まで飲んでいた物を絶対ぶちまけるはずだ、そもそも戻るに戻れないはずだ」

「うーん・・・分かったわ」

セルベッタはミーナの手で実剣化解除・・・お決まりの文句が帰ってくる。

「お前なんだよ!この聖魔力の無さは!それでも聖騎士か!?」

「それが答えさ、俺は聖魔力が極端に無い、だから聖剣を使えない」

「良くそれで聖騎士やってられるな?ふざけてんのか!そのネックレスを皇帝陛下に返上してとっとと家に帰りやがれ!」

「聖剣が使えないから俺は相棒に呆れられてるのさ・・・だがサーヴァルの襲撃は気まぐれで訪れる、君の役目はその代打という訳だ」

「・・・とんだ聖騎士だな、自分の剣も説得出来ないとは」

「もうズタボロなんさ、君達みたいにね」

「この聖騎士モドキ!いい加減にしろ!」

「この要求が飲めなければ君はしばらくあの独房の中だ、カウンセラーが来るまで永遠にな?一度だけでも次の迎撃に参加して貰えれば後は自由を約束しよう、ここで酒も飲み放題、なんなら迎撃じゃなくともここで働くのもいい、ここの女将は元聖剣だし他も皆聖剣達だ・・・もう一杯飲むか?」

シーズはセルベッタのコップを持ち上げて目の前で揺らす。

「・・・卑怯だぞ貴様!」

「と言う訳でもう一杯」

「分かった」

ミーナにコップを渡した後、セルベッタをもう一度カウンターの椅子に座らせる。そしてセルベッタの前にワインがまた出てくる。

「・・・まぁ、何か生きる気力さえ持ってくれりゃ別に戦場に立たなくたっていいんだ。悔いなく戦場を去れるようにあえて俺と戦う事を提案しているだけに過ぎない」

ミーナの目の前に金貨を一枚置く。

「ま、ゆっくり考えてくれ、この先にある屋敷に居る」

シーズは席を立ち上がって店の扉に手をかける。

「そうだ、ここの女将は聖剣の力と引き替えにルーデンを奪還した英雄、ミーナ ドレッセンだ、覚えておくと良い」

そう言い残してドアをあけて屋敷を目指した、庭ではエリスとサーミャが他にも説得出来たファナ、キュリアを使って筋トレをしていた。


「・・・あの人は大げさだなぁ・・・それにここで出しているお酒、支給品だからお代なんて要らないのに・・・」

特に静まる事も無い店内、私もお酒で説得されたっけ。とかウエイトレス達が嘆いている中、ミーナはカウンターに置かれた金貨をめくって両面を眺める。ロンドクルツ神聖帝国の通貨だ、金貨は多少珍しいが、余程貧しくない限りは別にそこまで珍しい貨幣でも無い・・何故そこそこ珍しいか、一番価値のある高額貨幣だからだ。大体どれくらいの価値か、それは目の前でセルベッタに飲ませている微妙なワインを樽で購入出来る金額である。

「・・・私はここに居て良いのか?」

「言われた通り屋敷に行く事を勧めるわ、戦いを選べば屈辱を味わう事になるからおすすめしないけれど・・・うちの他には洗濯屋、糧食兵、物資管理、見張り兵、衛生兵、予備聖剣の選択肢がある、既存の建物で新たに何かしても良いかもね?・・・ここは職業案内所じゃ無いんだけれども・・・」

「・・・完全に乗せられてる・・・あんたらのペースに・・・」

「私は関係ないわ、彼の注文通りそれを提供しただけ・・・彼の所に行くならこれ返してきて?あなたの目の前にあるそれは支給品なの・・・欲しければ黙ってポケットに入れてもいいけれど・・・」

「・・・使い道などここには無い、大体なんで・・・」

「お願いね?」

「・・・クソッ」

セルベッタは立ち上がり、ミーナから金貨を一枚受け取って店を出た。屋敷そのものは分かりやすいが、着いてみれば聖剣だらけじゃないか?

・・・良くも騙したな?

庭に居た聖剣から聖剣を一本奪い取る、そしてドアを蹴り飛ばしてクソ聖騎士を探す、そして見つけた。

「答えは出たか?」

「貴様よくも騙してくれたな?」

セルベッタはシーズに斬りかかる、何故避けない?

「そこまでにおし!」

そんな声、気が付けば手に持っていた物が無い、クソ聖騎士にも避けられた、その先にあったのは窓だ。セルベッタは窓をかち割って外へ転がる・・・幸いにもここは一階だ。

「っぁー」

セルベッタはガラスを払いながら起き上がる。

「大丈夫か?」

「誰のせいでこんな目に合ってると思ってやがる!よくも騙しやがったな?ぶっ殺してやる!」

「そ・こ・ま・で・ですわ!」

「なんだこの角紫!」

「角紫とは失礼ですわね!聖剣 キュリア メルブロアでございますことよ!まったく!そこのクソ聖騎士も懲りずにまた聖剣をナンパしてきたんですのね!?」

「ナンパとは心外だな、やさぐれた聖剣の更正だ」

「そうやって騙して聖剣に聖剣持たせて浄化だけやらせようとしているんですのね!?侮辱にも程がありますわ!」

「だから言ったろ?嫌なら他にも仕事はあるとな?」

「そ・う・で・す・け・れ・ど・も!!!!」

・・・なんだコイツら。

セルベッタは拍子抜けする、代わりに角紫がクソ聖騎士を締め上げている。とりあえず室内に入る、角紫を押し出して胸ぐらを掴んだ。

「引っ張り出しておいて聖剣の心得に反する事をやらせようとしてたなんてとんでもねぇクズだな?あぁ?」

直後、セルベッタは押し倒される。

「そんな風に言わないで!」

ここに居なかった聖剣が怒鳴る、角紫も、外に居た2人も、黙って腕を組んでこちらを見てくる。

「・・・んだよお前ら・・・どうせコイツにたぶらかされてここに居るんだろ?」

「・・・まぁ、確かにでは有るんですけれども・・・このクソ聖騎士、剣術の腕だけは一流でございますわ・・・そう、聖剣を使えない以外は」

角紫はまず先に口を開いた。

「ま、普通の片手剣でサーヴァルを瀕死に出来るんだ、正直言って馬鹿に出来る奴じゃない・・・そ、聖剣を使えない以外は」

外に居た一人も口を開く。

「それだから、私達は聖剣の心得を無視してサーヴァルを浄化する仕事をしているの・・・馴れれば案外悪くない、皆の為になるんだから・・・ね?どうする?」

外に居たもう一人が手をさしのべてきた。

「・・・別の仕事探すわ・・・やってらんねぇ」

「もう・・・一人で生きていける?」

「あったり前だ、ソイツの顔見てどうでも良くなった」

「その息だよ?でもどうしても辛くなったら、ミーナさんを頼ると良いよ?私達、主人を失った聖剣のリーダーのような人だから」

「・・・そうする」

セルベッタは引き起こされる。

「・・・そうだ、これ、酒場の女将が」

セルベッタは金貨を投げた。

「・・・別に良いのに」

「どーせ、今日みたいにまた別の聖剣をナンパするんだろ?そん時また使えば良いじゃん・・・あんたと話して良かった」

セルベッタはそう言い残して屋敷を後にした。

「・・・まーた聖剣一本の更正に成功してしまいましたわね・・・」

キュリアは頭を抱える。

「うるせぇ・・・刑務所にも収まりきらない本数がまだ残ってて聖魔術士がヒーヒー言ってるんだ、少しでも綺麗な聖剣病院に移してやりたくてよ・・・マジでカウンセリング出来そうな聖剣知らないか?」

「それは聖剣の仕事じゃないよ」

サーミャはため息をつきながら壁に立て掛けていたファナを手に取り、また庭に行く。

「窓、直して置いてね?キュリア、行くよ」

「分かりましたわ」

エリスもキュリアを連れて庭に戻った。

「・・・で、お前は隠れてダンマリか?」

「えー?だってシーズが引っ掛けてきた女じゃん、私の出る幕ないでしょ?」

長いすの裏からルナが出てくる。

「これ、さっき聖魔術士長が持って来た」

「あぁ?・・・どうせ作戦続行だろ?」

「うん、今回は魔術士置いて行く事になるかもね?」

「・・・嘘だろ?この人数でか?・・・浄化魔法結構アテにしてたんだが」

ひとまず内容を見る、やはり作戦続行、しかし聖魔術士はルーデンで引き続き浄化作業となる。ルーデンを浄化している聖魔術士は多ければ多いほど短期間で済む、今居る聖魔術士の3倍の数、恐らく一ヶ月で終われるかもしれない・・・が、問題はルナと二人だけで今後はサーヴァルの軍勢、そしてサーヴァルキングに挑む事となる・・・不可能だ。

「どーするの?」

だが、この女、なんとかなるでしょ?と言うような顔をしているだけ、怖い物知らずと言うべきなのか、うらやましいくらいに二人だけでは確実に命を落とすと言う危機感が無い。

「増援は本当に無いのか?」

「聖魔術士長が用意してくれないって事は、ありゃそこまで権力持ってないねぇ」

「ルーデン防衛隊から少しでも引っ張れないか?」

「頼んではみたけどねぇ・・・君が騎士団ギルド跡地で見つけた紙束を盾に拒否されたんよ・・・この町の防衛を減らせないとね?」

「・・・嘘だろ?」

「残念ながら私達も底辺だからこれ以上何も言えないんだな?これが・・・」

やれやれ。ルナはそんな仕草をする。

「所でサーミャ達はどうすんの?私達の権限で引っ張ってこれる戦力って言ったら聖剣しか無いけど」

「・・・本人達次第だな・・・ひとまず、騎士団ギルドに行くぞ、もう一度頼んでくる」

「無駄だとは思うけどね?そう言う訳だからミナ、お留守番よろしく」

「お気を付けて」

シーズは立ち上がって玄関へ、サーミャ達を横目に酒場近くの東門の聖騎士団ギルド庁舎へ、なんか頼りなさそうな聖騎士団部隊長が東門の聖騎士ギルド長の執務室に居た。

「だから守衛からお前ら遠征隊に増援は割けないと言ったはずだ、ルナ クレムニル!残りで何とかしろ!捨て駒風情が町一個奪還したくらいで良い気になるな!」

「でも町は奪還しました、それも聖騎士は二人で」

ルナは親指でシーズを指さす。

「あれだけ居て生き残ったのはお前らだけか?サーヴァルキング級を二人でか?死んでいった仲間の成果を横取りするのは大概にしたまえ」

「聖魔術士の力は借りましたが、聖騎士は接触時から現在も私とシーズ チェラムの2名のみです、遠征隊は部隊としては壊滅しております。援軍のご用意、もしくはこれ以上の進軍を中止を打診します」

「チェラムだと・・・?クレムニルと言い・・・聞き覚えがあると思えば聖騎士学校に泥を塗ったコンビじゃないか・・・どんな手を使った?・・・まぁいい、残り人数がどれだけ居ようとも貴官らに命令されたレーヴェン攻略作戦は続行だ、貴様らとは指揮系統は異なる、従って私にはファーバンラグニスから通達される命令を伝達する事はあっても遠征隊の侵攻作戦を止める権限は無い、馬車は2台用意してある、2人くらいなら3ヶ月は持つだろう、特別に補給にこの町に戻る事は許可する、我々守衛部隊もそこまで厳しくは無いからなぁ?話は終わりだ・・・神聖帝国に忠義を尽くせ」

「「神聖帝国に栄光あれ」」

態度に腹は立つがひとまず敬礼して執務室を後にする。聖魔術士長は下の受け付けカウンターの奥に居た。ちなみにギルド長クラスの資格を持つ上級聖魔術士官、上の部隊長よりかは身分が上のはずである。あれは中級聖騎士官、自分達一番下である低級聖騎士官から上官、長官を経て中級にクラスアップした後の最初の地位、中級になれば部隊長になる資格を付与される。つまり下から3つ目に偉い、それは聖魔術士も同じ階級制度なので、上級となれば金に困る事は無いだろう、この人は本当に職務優先で捨て駒部隊に放り込まれたのは容易にうかがえる。何故かゲッソリしていた。

聖騎士団ギルドを出るとそれらしき馬車の所へ行く、ここまで乗ってきた馬2頭と追加で2頭が繋がれている。物資としては食料、着替えその他、そして聖石が20個ある。捨て駒にしては以外としっかりした内容だ。

「なんだ、しっかり揃えてある」

「多分、これ用意したの、聖魔術士長なんじゃない?」

「・・・それもあり得るな」

ひとまず馬車を持ち帰るとエリスは役割を変えて居た。紫色の長髪カール、通称角紫と呼ばれるだけあって剣身は少し紫が入った豪華な装飾のキュリア メルブロア、実は聖剣家系のメルブロア家出身、そしてエグバンゼル先生の弟子、レイモンド ワーグナーが手がけた上級聖剣である。つまりを言えばエルとミナの次に凄い聖剣という訳なのだが、そんな物を手に出来る聖騎士は何処かの誰かさん2人を除いてはこんな作戦に投入される訳が無いのである。

「・・・結果はいかがです?」

「駄目だ、俺とコイツでここからレーヴェンまで・・・」

「わたしらもご遠慮したい所だが・・・?」

「こら!サーミャ!」

「いや、聖剣を連れて行く気は無いよ」

「えっ・・・流石に無理があるのでは?」

エリスは重そうに抱えているキュリアの実剣化を解いて歩み寄ってくる。

「・・・流石に無茶がありましてよ!?クソ聖騎士」

「・・・無謀」

キュリア、そしてサーミャが今しがたまで握っていた低級聖剣ファナ ファルマがさらに加勢してくる。

「とはいえ無謀な作戦に君らを巻き込む訳にはいかない」

「・・・でも・・・」

エリスはうつむく。

「わたくし達を口説いておいて置き去りとは何を考えてますの?クソ聖騎士!」

「あくまでレーヴェン侵攻作戦続行は聖騎士に課せられている命令だ、主人を失った君達には適応されない、なんならもうファーバンラグニスに戻っても良かったんだ」

「でも、ファーバンラグニスの聖剣病院のカウンセリング室は一杯、あの状態の聖剣、放っておけば首を吊る・・・そうだよね?」

ルナが腕を組んで知識を自慢するかのように目の前の聖剣に問う。だが、お前、聖剣の更生は一切加担してくれないよな?

「全てがそうとは・・・」

「いいや、エリス、俺の上司の聖剣は全然平気そうな顔をして首を吊ったんだ・・・喪失感に耐えられなくて・・・一見平気そうな聖剣が一番危ない」

「・・・ですが、少なくともわたくしはあなた方についていくと宣言しましてよ?ファーバンラグニスに返そう?だが受け入れる場所が無い?関係ありませんわ?」

「聖剣は聖騎士についていく物・・・そのはず」

「本当に無理強いする気は無いんだ、ファーバンラグニスに戻れば生涯安泰・・・とはいかないがそれなりの平和な生活を送れるんだ」

「そうやって貴方は上級聖剣を授かるのを拒んでいたのではありませんか!そんな考えを抱いてるからこそブロックハーストの聖剣を泣かせるんですの!今時強い聖騎士と一緒になって生涯安泰なんて通用しませんわ!いつの時代の話を信じていらっしゃいますの!いい加減にしてくださいまし!」

「まぁまぁ・・・」

「落ち着け」

・・・ガツンとキュリアに言われる。エリスとサーミャが抑えにかかっている光景が目に映っているが、同じ事はグレイの聖剣、セイレンにも言われた事がある。

「・・・一緒に来るかどうかはそれぞれの判断に任せる、今日はもう上がってゆっくり休んでくれ」

「・・・ちょっと!」

そう言って屋敷の玄関まで歩く、ルナがついてきた。

・・・エルも含め、彼女ら他の聖剣は、どんな心構えで聖剣になったのか、未だに理解出来ていなかったらしい。

その日の夜、エルを除く全員が食卓に着く。エルの食事はいつものごとくミナが運んでくれてある。

「さて、聖剣諸君には話がある」

「レーヴェン攻略作戦の件ですわよね?行きますけれども?」

「あぁ・・・そう」

「しけた顔していますわね?もっと私達が嫌がるとでも?」

「拍子抜けしただけだ」

「そもそも、わたくし達、貴方が拾わなくてはとっくのとうに死んでおりましてよ?ただでさえわたくしは主人選びに失敗したと言うのに・・・」

「・・・他のクラスの奴に口説かれたんだっけな?」

「ええ!これでも貴方の隣は狙っておりましたのよ!?ですがまぁ・・・在庫品に囲まれて!!一切近寄れませんでしたわ!」

「去年の聖騎士は極端に少なかったらしいからな」

そう言えばそうだ、原因は俺とルナで、先輩をコテンパンにし過ぎたせいで自主退学が絶えなかったのだ。

「・・・キュリアちゃんも苦労したんだね?」

「よくもまぁ、剣術しか取柄のないポンコツを選ぼうとしたよな?」

エリスとサーミャは意外そうな目でこちらを見てくる・・・その時はそのポンコツが発覚していなかったんだ。

「ところが在庫品をお一人も選ばなかった!二次謁見会!三次謁見会も顔を出さない!お待ちしておりましたのに三次謁見会でしょーもない主人を選ばざる得なくなりましたのよ!このクソ聖騎士!!」

「そこまでは知るか!!」

「で、結果、親の借金で没落した聖騎士家系の元貴族の聖剣となり、家の借金返済の為にこの作戦に参加・・・挙句の果てには憧れのポンコツ男に拾われた・・・ある意味ではツイていますわね、せっかく拾われたからにはキッチリ聖剣として使い倒して貰いたい所ですこと」

「聖剣としての理想はかなりかけ離れているんだけれどなぁ・・・うん」

「ま、所詮聖騎士モドキだ、聖剣として使い倒されるのは諦めろ、角紫」

「わたくしはキュリア!メルブロアですの!いい加減覚えてくださいまし!この中級聖剣ごときが!」

「キュリア、サーミャいじめない!」

ファナがキュリアの髪の毛を引っ張って黙らせる。

「いったっ!?何するんですの!?この低級聖剣!!」

「そうやってすぐグレードで人を差別をしちゃ駄目!」

「・・・くっ!?」

あの口を開けばうるさいキュリアがファナの言葉にぐうの音も言えなくなる。貴族育ちはあまり寛容的では無い、それだけ厳しい躾を受け、お嬢様、お坊ちゃまにふさわしい貴族ルールを身に着け家を背負って貴族社会で生きていく。だが聖剣、聖騎士となってしまえば実際、周りには上級から下級聖剣、貴族から貧民まで幅広い人間だらけ、その者達と一緒に業務を遂行しなければならない、貴族は大概そのまま押し通すが、考え方も人それぞれ、一部の貴族は差別癖を辞めようと必死になる、キュリアもその類だろう。

キュリアを黙らせた黒いサイドダウンの髪型をしている少女、ファナ ファルマは下級聖剣、聖騎士学校に通ってない聖騎士や聖剣に恵まれなかった学生が自力で手に入れる聖剣。前の持ち主は一発逆転を狙って志願したようだ。下級聖剣は聖魔力の伝導効率がさらに下がる。普通の聖剣が契約無しで5%しか発揮出来ないのに対し、下級聖剣は契約無しで0~3%とかなりの粗悪度を誇る。主に奴隷女性を材料とし、大概が否認可の聖剣工房で制作される他、唯一闇市で取引される。最初から最後まで恵まれないのは当然ながら犯罪にも使用される事も珍しくない、もちろんこの手の聖剣は生まれ変わって人生をやり直したいと言う願望から死を選びやすく、勿論ファナも例外では無かった。また、聖剣としては幼いのも特徴の一つだったりする。なぜそんな子に生きるよう説得したか、本当はミーナの下で楽しくお料理を教わりながらちゃっかり働いて貰う為だった・・・だがタイミング悪く、サーヴァルが攻め込んできた、その時に使って欲しいとファナ自身から頼まれ、そして今に至っている。ルナには小さい子が趣味だったか・・・と茶化されたっけ・・・オメーもだいぶ小さいけどな?

侵攻継続についての話はミナにはルナから話が行っているだろう・・・ルナの奴なんかこの話をする気すらなさそうにミナの作った食事を食べ進める。幸せそうな奴だ。あれだけどうやって話をしようか考えたと言うのに。戦力として正面に立たせるつもりは一切無いが、聖剣達には浄化要員として着いてきて貰わないと困る一面もある。

・・・あとはエルだけだ。

ミナの説得が既に済んでいる事を期待しつつ、食事を完食してエルの部屋に行く、食事は取っていない・・・良くある事だ・・・こう言う時は流し込む。

「少しでも食べてくれ・・・食料は無限にある物じゃないんだ」

エルは辛そうにスープを飲み干して行く・・・無理に飲ませているからだ。

「明日にはここを出る、着いてきてくれるよな?」

・・・エルの返事は無い。シーズはエルを抱き寄せて頭を撫でてから食器を持ってドアを開ける、ミナが両手を広げて部屋の前に居た。

「・・・いつもすまない」

ミナの両手に持っていた食器を収めると何も言わずに下へ降りていった。シーズはゆっくりドアを閉める。

・・・やはり置いていくべきだ。ここまでも強引に連れてきてしまった、皆直ぐに死ぬ覚悟が出来ている訳では無いのだ。

朝起きても食卓、エルの部屋にもエルの姿は無い・・・エルは玄関にあった。

「置いていく気でしたよね?でも私も行くんです、たとえミーナさんにお世話をお願いしても、私が居なくなればお姉ちゃんは直ぐ死んじゃいます、これならお姉ちゃんも運びやすいかなと思って・・・」

「・・・強引だな」

「自分の聖剣を置いて行く聖騎士が何処に居るんですか?」

ミナはそう言って持っていけと催促する、エルが寝ている隙に実剣化させて玄関に置いたのだろう。

「羨ましいくらい傷一つありませんこと」

「・・・それ、ほとんど私もだから」

キュリアもエルを眺める、傷一つ無い刀身はだいぶ青空が戻ってきた朝日に綺麗に照らされて居た。ミナはそれに作り笑いをしながら答えた。

その後酒場に顔を出す。

「ミーナ居るか?」

「何かしら?支給品のお酒に金貨は払わなくてもいいわよ?」

「俺達の家、ミーナの好きに使ってくれ」

「今度はお家・・・ひとまず、無事に帰ってくるまで維持しておきます・・・それで良いかしら?」

「好きにしてくれ」

「いってらっしゃい」

ミーナに若干半ギレの笑顔で送り出されればここからは8人のみ、西門から盛大に送り出されればひとまずはサーヴァルの襲撃はしばらく無かった。

人様の聖剣のエリスとサーミャ、それ以外にも低級聖剣ファナとやけに騒がしい上級聖剣がメンバーに加入し、聖騎士と呼べる人が居ない遠征隊は次の町、エルデンを目指す事になりました。


・・・完全に遠征隊として機能していないような?って?全滅が大前提ですから・・・。

最後までお付き合い願えると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ