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Dark Breakers  作者: verisuta
落ちこぼれ2人組
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落ちこぼれ2人組

剣の腕前なら主席クラスだった、でも聖剣が扱えない・・・。


そんな彼らの日常は黒魔術兵器から町を守る事ですが、姉の敵を討ちたかったシーズ チェラムにどうやら転機が訪れそうですね?

今回も長めでお送りいたします。



それからと言う物の、鍛錬は続けているがシーズはエルをダガー以上の大きさには出来ない。エルもすっかりふさぎ込んでしまっている。時には泣いている姿もよく見る。しかしエルとミナには聖剣になる為の適正が無い訳じゃない、同僚も羨む最高レベルの性能とデザインなのだ。聖剣技師の手では実剣化出来るし、どれをとっても完璧、非常に美しい剣の形をしている、姉妹なので見た目も同じなのだ。これは聖剣技師のミスでは無く、聖騎士自身の問題、理由は分からないがシーズは聖魔力を無意識のうちに何かに使用しており、一日の精製魔力量を常に使い潰している状態、ルナは病院嫌いなので分からないがおそらく同じだろう、聖剣病院にもそう言われている。

「・・・また、容量を上げられました?もう、おばばの主人の現役の頃の30倍はありましてよ?」

「訓練はしているのですが・・・」

「あらら、本日も聖魔力はほぼ空っぽに近いですわねぇ」

「主人もこうなる事がございませんでしたのに」

「マルテゴの実も良いと聞きましたわよ?」

「あのような可食部の少ない木の実の調理は相当難しくってよ?それにこのままではまた許容容量が・・・このままでは皇帝陛下すら超えてしまいましょう?如何ほどか存じ上げませんけれども」

「・・・色々調べて貰って、本当に申し訳ないです」

聖剣病院には元聖剣のご婦人が沢山いる。もうすっかり顔見知り、病院では薬こそ貰えるものの、完全に効果が無い。聖魔力回復増加を促す食材や料理、鍛錬の知識はその道のベテランからよく教わった、しかしそれでも万策尽きている状況である。

・・・食材に頼っても聖魔力容量が増えていくだけらしいんだよな。

そう、彼女らの提案は全て試している、しかし魔力、聖魔力容量が増えて回復量は据え置きとなるだけ。その料理を作ってくれるミナが経過観察としてよく教えてくれる。ご婦人方にも駄目だったと言った事もあったが、悲しい顔をされるのも本当に申し訳無いので最近は言わないようにしている。

待合室でどうしましょうかと一緒に考えてくれている彼女らは聖騎士と共に現役をリタイアした聖剣達、中には聖騎士学校の教官として現役を貫いている聖騎士も居るが、ここまで活躍すれば聖剣に実剣化しても飾りにしかならないので基本的には延命されない。聖騎士は代わりにパートナーと同型の装飾剣をオーダーメイドして着用するようになる。聖騎士学校の教員達は全てそうだった。

「あら、ミストローネの診察が終わったのね?」

一人のご婦人が診察室から出てきた。

「ごめんなさいね、私達、これからお買い物があるの」

「いつもありがとうございます、楽しいお買い物を」

「また今度お会いしましょう、お若い聖騎士さん」

ご婦人達は穏やかな表情で診察室から出てきたご婦人と合流し、定期健診の結果をお互い話し合いながら聖剣病院を出て行った。

聖剣というのは聖魔術と聖水を駆使して3年という長い期間をかけて作成される黒魔術魔法によって生み出されたサーヴァルという魔獣を打ち倒す為の武器で、その材料に若い女性が用いられる。聖剣としての寿命は約20年ほど、寿命を過ぎれば普通の女性に戻る。そのほとんどは聖騎士とそのまま婚約し余生を過ごすが、最近では聖剣のみが生き残ってしまうケースも少なくは無い。再契約も聖剣側を失った聖騎士以外とは不可、犯罪となるので変わりの相手も見つからず、生きる気力を失った聖剣の自殺が後を絶たない。聖剣病院はそうした聖剣のメンタルヘルスも担っている。

ちなみに非契約の聖剣は契約しているのとしていないので消費する聖魔力が少し異なるのか、一日一回実剣化出来る日もあったりなかったりで、ミナの実剣化自体なんども成功している。しかし問題は人の姿に戻せない事や、聖剣の力は契約しないとほぼ使えないのであくまでも励まし程度にしかならなかった・・・一応戻す事も可能だが、聖魔力が不足していて聖剣側に深刻な不調が出る。

ミナはこれのおかげで多少は元気、家の家事は全部任せている。当然シーズ以外とならばエルも実剣化が可能なのだが、ルナは両方実剣化出来ないのでその機会も少ない。だからこうしてカウンセリングに連れてきている。今日もこの後エルを家に置いてルナとファーヴァンラグニスの門番だ。結局聖騎士団には一般公募で入隊した。主にこの手は貧困層が使う手で、実力さえあれば何だっていいと言う代物・・・そして捨て駒である。これから行く西門でもサーヴァルが来れば最前線に走らされるポジションだ。そこで実力を認められれば上を目指す事も出来る。

「ミナ・・・エルを頼む」

「お気を付けて」

ミナは精一杯の作り笑いでシーズとルナを送り出す。二人は玄関に置かれた普通の片手剣を持って仕事に出かけた。

「シーズ・・・なんか最近多いよ?」

「やっぱこの前のロッキス砦の聖騎士が全滅した影響が出てきてるか?」

「かもしれない」

ルナはそう言いながらサーヴァルを叩き倒す、シーズもサーヴァルを2体同時に倒した。そして他の聖騎士の救援に走る。

「マルコー!トドメ刺して置いて!」

「まかせろ!」

近くの同僚の聖騎士に後始末を頼む、通常の剣では倒す事は出来ても浄化までは出来ないのだ。出来ないとどうなるか?復活するのだ。配属された当初は笑い者にされたりと散々だが、聖騎士学校時代は模擬剣で敵無し状態だったのがルナと自分、ルナと打ち合いを始めれば永遠と終わらないか、双方模擬剣粉砕で引き分けに終わる。勝った事も負けた事も無い、ライバル意識もゼロなのでこうして今でもペアを組みっぱなし。夫婦と呼ばれてもいた。本来歯がまるで立たない通常の片手剣で瀕死まで持っていけるおかげで、次第に信頼を勝ち取って今に至る。剣技だけは最強の二人組、西門ではそう呼ばれている。

「グレイ!大丈夫か?」

剣を弾かれ転んだ聖騎士に手を差し伸べ、引っ張り起こした。

「助かったぞシーズ!二人で突くぞ!行けるな?」

「分かった!」

シーズの一撃でサーヴァルが動けなくなる、そして同僚のグレイが聖剣を突き刺して1体倒した。

「次行くぞ次!」

その間にもう一人の同僚、マルコーが追いつく、ひと際大きいサーヴァルに怖気図いて尻もちついている聖騎士を指さして次の目標を提示する。

「げ!ギルド長押されてるぞぉ?」

「間に合わない!」

シーズとルナ、マルコーとグレイは全力で走るも遠すぎる。攻撃が届いた頃にはギルド長の頭が無くなっていた。やや大き目の小石の上にある聖剣の持ち手につま先をひっかけ、蹴り上げるように持ち上げてそれを突き刺してようやくサーヴァルは息絶える。

「・・・くっそっ!」

マルコーは息を切らしながら膝をつく。

「聖魔術士誰か呼んで来い!」

グレイは他の聖騎士に指示を出す、ひとまず鎮魂の儀式を行うのだ。行わないとどうなるか、おおよそ一日でサーヴァルとなり人を襲う事になるのだ。

「・・・くっ!」

シーズはサーヴァルに突き刺さった聖剣、メニカを引き抜く・・・かなり乱暴に扱ったが実はこれはギルド長の聖剣だ。実剣化を解くことはしない。回収出来る聖剣はこうして持ち帰られるのだ。

ローブを着た聖魔術士が走ってくる、略式の呪文を唱えた後、遺体は門の中へ運ばれた。門の中まで運んでしまえば聖石の力によりサーヴァル化しなくなる。しばらく安置していても安全という訳でもある。

もうあらかた片付いた、手薄な所の増援も他が既に補填に入っており、もう直ぐに終わる。なによりメニカを安全な場所に置きに行かなければならない。シーズは詰め所に戻り、メニカをテーブルの上に置く、他にも3本置かれていた。

「やはりシーズとルナは強いぜ・・・聖剣さえ使えれば今頃前線の英雄だ、流石、剣技だけは最強」

マルコーはドカッとテーブルの椅子に座った。グレイは長いため息をつきながらその横に、その後からフーリエ、セイレンがやって来た。2人はマルコーとグレイの聖剣だ。メニカを見て複雑な顔をする。

「・・・使えれば・・・なんだけれどな」

「まったくだ、聖騎士学校主席様が聖剣握った途端に弱くなりやがって、クリット様は実力調整なされたか?・・・・病院にも行ってるんだろ?」

「アイツは行ってないけどな、嫌いらしいし」

「いい加減エルちゃん連れてこいよ・・・短剣とはいえトドメ刺すのには使えるだろ?俺らが実剣化したっていい、それくらい手ぇ貸すぜ?」

「・・・どうだろう」

シーズはうつむく、その使い方もあるがエルはそれでさらに落ち込まないだろうか?それが怖い、怖くてしょうがない・・・。

「やめなさい!私だってそんな使われ方望みません」

「結局はエルちゃん次第なんだしさ、私らがつべこべ言う話じゃないよ」

セイレンとフーリエが腕を組みながらマルコーを見下すように横に立つ。余計な事口走っちまったな?という顔をしてその後マルコーは黙りきってしまった。だが、聖剣としての意見はこう言う事だ。

「聖騎士に騎士道があるように、聖剣にもプライドがあります」

「そ!強い聖騎士の傍にお仕えする為、私達も聖剣学校で修行をしてきたの!」

「自ら従える聖剣すら実剣化出来ない聖騎士にお仕えするなど、本来あり得ません」

「本当なら聖騎士失格だけれど・・・二人はその分強いから・・・」

セイレンとフーリエの言葉がグサグサと刺さる。本来ならば聖騎士になれず、卒業と同時に聖騎士学校を退学する事が決まるはずだった。しかし言い訳に過ぎないが、自分も、ルナも卒業後の聖剣授与式以前は問題なく聖魔力を持ち合わせていた。だから卒業出来てしまっている。適正については聖剣との披露会前の適正検査で判明するのだが、それを合格してしまっているのだ。

「とはいえセイレン、コイツが何故聖騎士を目指したかは聞いた事はあるよな?俺らの同期にも同じ目的の奴はゴロゴロ居るが、サーヴァルキング級に挑もうとしてるんだ、少しは聖剣も握ってもらわなきゃ困るんだぞ?」

「・・・分かってはいます、かつては貴族の聖剣となれば皇帝近衛騎士になれ、裕福な生活と老後も約束されていた・・・ですが今は家族を食われ、その復讐を目的に聖剣、聖騎士を目指す方も増えました、強い聖騎士と共にある、今の聖剣は皆、そう思っています」

セイレンはグレイの言葉にそう答える。聖剣・・・昔は奴隷を材料にしていた背景もあるが、現在では腕の良い聖騎士に恵まれれば退役後は裕福な暮らしと高い地位を約束される事から聖騎士になるのと同様に人気度の高い職業なのだ。だが、ブラックアウトの侵攻でその立場も大きく崩れ去っている。貧困層から貴族層まで幅広い志願者がおり、その大半が家族の敵を打つつもりで目指しているのがほとんど、貴族層には比較的その目的で志願する者は少ない傾向だが、そんな状況も理解している貴族も最近は少なくは無い、なぜならセイレン、フーリエの姉達もまた、聖剣として戦場で死んでいったのだから。

「聖剣に頼らなくとも良いよう、強くなれば・・・いい話なんだ」

「・・・いくら剣術に長けていても、無理にも程があるぞ?シーズ」

マルコーが睨んでくる。ただのめんどくさがり屋意外は至って優秀な紳士の鏡のような男だが、外ずらが滅茶苦茶悪いだけに滅茶苦茶怖い・・・なんでって?大手酒場チェーンのドルファネストファミリーの長男だからだ。刺繍もバチバチ、タバコも酒も全然余裕、ギャンブルに近い業種の人ほど怖い者はない。だが、貴族中の貴族な癖して貧困層にも優しい、マジで良い奴なんだ。

「・・・勝てれば美味しいだけだ」

「・・・最近のお前はいつもそうだ、強かったあの頃はどうした?最近は自暴自棄が過ぎるぞ?」

マルコーやグレイはかつての師が老いた姿を見るような残念そうな目で途方に暮れる。マルコーとグレイは聖騎士学校では自分とルナの一つ下、ナンバー2とナンバー3の実力者、そして一年後には皇帝近衛騎士になる事が約束されている実力者でもある。ちなみに言えば自分とルナは論外であるし、そもそも目指すつもりは無い、ルナに関しては知らないが、アイツはアイツで人生の選択すら自分に合わせてくる人任せな奴・・・全て自分に合わせてついて来やがる・・・何処出身か知らないがファーバンラグニスに生まれた家すら無い女だ、それでいて嫁だからと主張して当然のごとく自分の実家までついて来て居候している。そんな奴が皇帝近衛騎士を目指しているなど到底思えない。

「・・・どうしたのやら」

とりあえずそう返事した。答えにはなっていない。しかし、ここで議論をしても聖剣一族という名家、その中でも特に名高いブロックハースト家出身のお嬢様、超一流の聖剣を家政婦にしか使っていない事実は解消しない。力不足の自分が恨めしい事しか自覚出来ない。

シーズは劣等感で重くなる頭をテーブルに打ち付ける、その後長いため息をついたが、即座に背中から詰め所の地面に倒される事となる。メニカの実剣が解けた・・・いや、解けてしまった。メニカの体に押しのけられたシーズは椅子ごと地面に転がる事になったのだ。

「シーズ!何解いてるの!」

フーリエに怒られる、しかし、叱責しつつも駆け寄り、起こそうと手を差し伸べてくれる。その横でグレイが突然の事に驚きつつも鼻の下を伸ばしながらテーブルの上で吐き気を堪えながらゆっくり起き上がるメニカを眺める・・・大変素晴らしい体と、ほどよい巨乳にしばし魅了されるが口の悪いギルド長の聖剣だ、下手に眺めれば・・・そう言えばもうそのギルド長が居ない・・・もしかして眺め放題?

「なんの話だ!解こうとは一切思っていないぞ?」

床に転がったシーズは腰をさすりながらフーリエの手を借りて起き上がる。

「・・・魔力量は安定してるんだけれどなぁ・・・聖魔力が安定してないんだよね・・・許容値まで行ってる日もホントはあるんだけど・・・なんでだろうね?今日はゼロだよ?何に使ったの?」

「同じ話はミナから何回も聞いてる・・・」

「・・・それは私が・・・今、勝手に・・・おえっ・・・」

「メニカさん!」

フーリエはシーズから手を離してメニカの心配をしだす、メニカは今にもふきだしそうな吐しゃ物を必死に押さえている。多分聖魔力が足りなかったのだろう。ギリギリで戻ると副作用も発生するらしい。それでミナを何度も吐かせた事があったので解除は二度としないと決めているのだ。

「シーズ、ルナ、後でギルドに来い・・・確か騎士団本部から二人の人事異動指令書が来ていた・・・はずだ・・・うっぷ」

「・・・とうとうリストラかな?こりゃ」

「聖剣持ちにリストラなんかあり得るか?喜べ、遠征隊への参加だ・・・たしかな・・・」

メニカはテーブルから降りてよろめきながら机を蹴散らし、柱に手を付きながら詰め所を出て行くが・・・よほど足りなかったらしい、外に出た瞬間、胃の中に入っていた物を吹き出しながら倒れた。

「ちょっとメニカさん!」

フーリエとセイレンが走って行く、グレイが呼ばれて不足の聖魔力補給が始まった。

「なんだろうね?」

「さぁ・・・?」

ルナとシーズは見つめ合う。メニカを運びながら司令塔へ、ひとまずギルド長の椅子に座らせる、その頃には回復していた。

「・・・本来は、主人が言い渡す所だが・・・来週からのサーヴァルキング討伐の遠征部隊に参加が決定している。目標は闇魔術教会の根城、レーヴェンの攻略、及び支配魔術陣の破壊なのだが・・・私の意見としてはこの作戦は数年に一度の国民の士気を上げる恒例の政治パフォーマンス、それに合わせて聖騎士団幹部が必死に考えたつもりの捨て駒作戦・・・前回の使いまわしとも言う。報酬も破格なほどに高いが、毎度の事ながら支払う気は無い、なぜなら全滅を想定しているからだ。参加者も一攫千金を狙う貧困階級が中心、この前グリッテン防衛砦が陥落したからな・・・ひとますこれを囮にして人材の再配備の時間を稼ぐのが本来の目的だ・・・正直に言えば君達のような逸材が参加して良い作戦では無い。主人ならコレを貴官らに渡してなんの説明もせず行けとでも言うだろうが今はそんな主人などこの世に居ない・・・断ってくる事を推奨する」

「自分は参加します」

メニカはその言葉を聞いてゆっくりシーズを睨んで来る。

「・・・ただの捨て駒だぞ?あまり自暴自棄に走るのは懸命ではないな」

メニカの握る拳が震えている、聖魔力がまだ足りていない・・・訳じゃない。だが参加する理由はただの自暴自棄ではない。理由があるのだ。

「・・・いえ、姉の敵を打つ・・・自分はその為に聖騎士になりましたので」

そうだ、第24回目の遠征隊の隊長、レイア チェラムの所在だ。所在とは言っても戦死したのはわかりきっている。姉であり師でもある人間が何処でどういう死に方をしたのか、それを知りたい。そして殺した敵を倒す・・・ある意味の復讐でもある。愚かな考えとも言えるが、姉の稼いだ金で聖騎士学校に通った。母は姉の死を理由に自殺した。父親は聖魔術士だったが、魔法の暴発により灰になっている。姉が稼いだ金は文字通り好き放題使えた。遊んで暮らしても良かったがそれでは戦死した姉に顔を合わせられない。だからその金でここに居るのだ。

「・・・そういえば君の姉も遠征隊に参加したのだったな・・・全滅という話を聞いているが」

そういえばそうだったな・・・。そんな顔をするメニカ、震える拳が開いていく。その手の聖騎士は最近多いのもギルド長クラスの聖剣なら十分承知のはずだ。それを思い出した顔をまさに今している。

「それも十分承知の上で参加したいと思います」

「・・・しかし、君は聖剣をろくに使えない、そうだろう?確かに鉄剣で君達はサーヴァルを瀕死にする事が出来る、だが倒せなければ意味は無いではないかな?」

「参加するのは自分だけではありません」

「他が助けてくれるとも限らない、やめておけ」

「たとえ、そうであろうとも敵は打たねばなりません」

メニカは少しうつむいて黙り込む、迷いはあるようだが、曲げる事も出来ない、そもそも聖騎士を目指した理由はこの為だからだ。グレイやマルコーのようになんとなく聖騎士を目指し、聖騎士団で下積みをした後、皇帝近衛騎士を目指すようになりたい訳では無い。勿論現状では生きて帰れない、だがそれでいいのだ。

「・・・そこまで硬い意思があるのなら良いだろう、私はそもそも西門の管理者では無い、ただの剣だ、よって、君がどう言おうと君の勝手だ、好きにしたまえ」

メニカは立ち上がりシーズを抱き締める。硬いアーマープレートが当たるが、未だ震えている様子。主人を失ったせいか、顔見知りをさらに失う事への恐怖か・・・それは本人に聞かないと分からない。

「くれぐれも、命を大切にな」

「分かっています」

メニカはそれを聞くと部屋の扉に手をかける。

「ルナにも拒否権はあるぞ?」

「シーズが行くなら私も行きます」

「・・・あまり懸命な判断ではないが・・・私は全てを失った身だ、どうこう言える立場では無い、世話になったな」

「いえ、メニカさんもお気を付けて」

・・・その日以降、メニカの顔を見る事は無かった。遠征の三日前にギルド長の家で首を吊ったらしい。聖剣の自殺は近年後を絶たない、それは聖剣自身も人間だからである。最大限の回収はされるが長年連れ添ったパートナーを失う心身的ダメージは凄まじく、こうして後を追って自殺する事が頻繁に起こる。これを防ぐ為に回収された聖剣の実剣解除は禁止されている。実剣解除は聖剣病院のみで許可されている。今回のメニカのように聖剣側の意思で実剣解除されてしまう事故も多々あるが、この場合、誤解除者に責任は発生せず聖剣側にも処分は発生しない。ちなみに普通は誤解除者が実剣状態に戻す義務があるが聖剣側が拒絶してしまえば戻せない為、これは努力義務とも言える。聖剣病院で解除されれば半年の拘留とカウンセリングが実施される。これでも一部は退院後に自殺してしまうのだ。メニカさんは自分の弱い所を滅多に表に出さない人、そしてよく腰痛に悩まされてもいた・・・噂ではギルド長、下半身が立派らしい、女遊びで鍛えたんだろう?と噂もあるし、ギルド長の家では毎晩メニカさんの喘ぎ声が絶えないとも多々、西門の不真面目な奴らにはいいオカズとしても有名だったが、聖騎士達のオカズだったのが幸いし、早期発見に繋がったとも言える。だがギルド長の浮気現場を見た奴は居ない、あのギルド長、メニカさんに一途だった、メニカさんもそれだけ愛されていたと言うのだ、喪失感も人以上だった事だろう、その愛はすこし間違っている気もしてならないが・・・。

遠征が決まった日の夜、エルを食卓に呼び出す。ミナは応じてくれたがエルはだいぶ時間が掛かった。なんとか連れてきてどうやって切りだそうか悩みながらもシーズは口を開いた。

「その・・・野暮な話で申し訳無いんだが・・・」

「・・・なに」

「俺、闇魔術教会の根城、レーヴェンの攻略遠征部隊に参加するんだ・・・」

「・・・そう・・・良かったじゃ無い・・・お姉さんの敵がやっと取れるようね」

「その・・・付いてきてくれるか?無理にとは言わない」

「これでも私はあなたの剣よ、その為の剣として選んでくれたのじゃない・・・好きにすると良いわ」

「・・・ありがとう、愛してる」

「こんな出来損ないに・・・本気でも無い言葉は別に要らない」

エルを一度抱き締めて部屋まで送る。だが、エルは出来損ないでは無い、出来損ないは自分のほうだ、しかしそれを言葉にしてしまうと彼女は大暴れしてしまう。彼女を苦しめているのは強引に説き伏せた男が聖剣も使えないポンコツ騎士だったと言う事実、そして妹を巻き込みブロックハーストの名までを没落させてしまった事実、この2つだ。家からも子を宿し汚名を返上しろとしか言われず縁を切られた、聖剣名家の名を背負っていた長女にこの結末は非常に重く、生きている事さえ辛い心情、下手に刺激してしまえば直ぐに死を選んでしまう・・・自分やルナでは逆にさらなる刺激となる、唯一止められるミナが怪我を負ってまで落ち着かせる他無くなるのだ。

「おやすみ」

エルは黙ったままだ、シーズはエルを部屋まで送り、そしてゆっくりドアを閉める。閉めた後、ドアの横で座り込んだ。最近は会うのすら怖い、自分自身が彼女にとっての火器だからだ。その様子をミナに見られている、ミナは黙ってシーズの頭を撫でてきた。

「ホントにごめん、それに君まで巻き込んだ」

「いえ、そもそも私、シーズさんの剣じゃありませんし、主人が行くと言えば何処へでも・・・それが聖剣ですから」

「全ては俺の力不足が悪いんだ」

「シーズさんには力が無い訳じゃないんです。これまでにも色々試してさらに力がついているんです。問題はその力が何に使われているのか、使われる量も増えている理由が分からないのがいけないんです。ルナが私を実剣化出来ないのも、私に一切聖魔力を供給してくれないのが原因なんです・・・なにか・・・逆に吸われるみたいな?」

「それも変な話なんだ・・・何度も聞いてるけれど」

「明日も早いのでもうお休みになられてはいかがでしょう?ルナが先に寝てますよ?」

「またアイツは俺のベッドで寝てるのか・・・」

「いつもの事じゃないですか?いっその事、お姉ちゃんのベッドで寝れば良いのでは?」

「・・・逆効果だ・・・ミナ・・・君の方がふさわしいよ・・・君が唯一の同情者なのだから・・・」

「そんな事無いですよ?シーズさんも頑張っています、私はその努力を知っています、自信を持ってください」

ミナに抱きしめられ、頭を撫でられる。まるで母親のように暖かく、そして優しかった。

次回から町の外に出ます。果たして生き残れるのでしょうか?


・・・主人公補正あるだろ?って?


まぁ、無いと話進まないのでありますけれども・・・・。

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