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Dark Breakers  作者: verisuta
終章
17/17

青い空、白い雲、眩しい日の光

シーズ チェラムの聖魔力不足はルナ クレムニル経由でソル サーヴァルキングに吸収されていた事、ルナ クレムニルはそもそも魔剣ルナ・グレイプニルである為聖魔力を持たない結末でした。

ソル サーヴァルキングを討伐した事で、今まで必死に鍛えてきた聖魔力回復力と許容量が功を奏したのですが・・・その後、無い訳がありませんよね?

その後の記憶は無い、目が覚めれば青空が広がっていた・・・ただそれだけ。全身が崩れそうな疲労の中起き上がる、床以外何もない空間が見える、両脇にはエルとミナが横たわっていた・・・そして床には指輪・・・皇帝、ミハエル ロンドクルツの遺産だろう。

「・・・ここは・・・?」

エルが起き上がる、無性に抱きしめたくなった。今は生きているのか死んでいるのかどうでもいい、彼女がただただ恋しかった。

「エル!」

「ちょっと!いきなり抱き付かないで!」

エルは顔を真っ赤にしながら抵抗するも凄く弱弱しい。

「・・・ごほっ・・・!」

その後ろでミナが咳き込みながら意識を取り戻す。それでエルの抵抗は本気になる、あっさり引き剥がされてしまった、そしてミナに駆け寄る。

「ミナ・・・!なんでミナが!?」

「・・・悪い、俺のせいだ」

「使ったの!?どうして・・・!?」

「3本分の魔力を1本に注ぎ込むとエル・・・君とルナ、ドレッドウッド、エレベラを失う所だったんだ」

「私一人でっ!」

「・・・シーズの言う通り・・・だよ?お姉ちゃんだけが犠牲になる訳じゃなかった、魔力を流す剣がもう一本必要だったの・・・お姉ちゃん、もう少し私も頼って欲しいな・・・そして・・・ごめんシーズ、たぶん、私は役目を終えてしまったんだと思う・・・」

「まさか・・・?」

「ううん!死んじゃったとかそういうんじゃないんだ!きっと・・・ミーナさんみたいになっちゃったのかな?なんて・・・えへへ・・・聖剣になる為術式の感覚が無いんだ・・・?」

「聖剣としての力が・・・消し飛んだ?」

「たぶん・・・そうだとおもう・・・ミーナさんもあの時、こんな風だったのかな?本当に全てをやりつくした感じがするんだ・・・」

ミナが手を差し伸べるそれを握っても何も起きない。

「これから・・・どうしよっかなぁ・・・シーズ、お嫁に貰ってくれる?」

「俺には・・・エルがだな・・・?」

「あのねぇ、私はもう死んでるの!どうせこの体、子は宿せないんでしょ?私との結婚は諦めなさい?・・・その代わり、ミナ、私の分まで子供を生む事、子育ては手伝いますのでブロックハーストの血は貴方が紡ぎなさい!そして私は魔剣としてこれから貴方とその子孫に仕えていく事になる・・・ミナを泣かせる事があればただじゃおかないからね?シーズ」

「君も大事のする」

「お姉ちゃん公認だね?」

ミナが顔を真っ赤にしながら口づけをしてきた、エルは顔を赤くして目を逸らしている、そしてミナの満足そうな吐息を聞いて立ち上がってしまう。

「・・・お姉ちゃんも・・・どう?」

「私は別にいい!・・・末永く幸せに!」

「・・・本当はしたいくせに」

ミナも立ち上がってエルの後をついていく、エルの行先は床から飛び出た金髪の頭・・・セベストリアだ・・・セベストリアの居る階段まで行けば町の全容が見えてくる・・・ほとんどの家屋の屋根が吹き飛んでいる、エルマ・カセドル城も今立っている棟以外は瓦礫と化していた。ブラックアウトの黒い雲は西の方に残るものの、大部分が吹き飛んでしまっている。しばらくは忙しそうだ。

「流石愛しの聖騎士様!わたくしを是非お嫁に!」

「ごめんね!セベストリア、もう私の旦那様なんだ!」

「くっ・・・!」

「あの状況を見て置いて、私の妹の男を寝取ろうとするだなんて、いい度胸ねぇ?セベストリア セフラリーン?」

「いや、その・・・これはー・・・」

セベストリアはエルに怖気づきながら後ろに下がる。

「流石、我が聖騎士様、今後とも是非お傍に置いて頂きたく存じます」

「無事だったか・・・いや、君も新しいパートナーを探すべきだ」

「しかし、お話を聞く限りでは、ミナ ブロックハーストは聖剣の力を有していないと・・・是非ともその代役、わたくしめが!」

「元々キュリアと契約があるんだ、それに魔剣も使い切れない本数が居る、もう十分なんだ、気持ちは嬉しいけど君は別の聖騎士と幸せになってほしい」

「「あの角紫・・・!!」

セベストリアとマーキュリーはキュリアの名前を聞いて歯ぎしりする。

「聖騎士とではなく、魔剣が欲しいなら好きなのを持って行ってくれ・・・エル以外で」

「「要りません!!」」

「・・・そうか」

凄く嫌そうな顔をするセベストリアとマーキュリーを置いて階段を下る、エルが隣についてくる。

「・・・そう言えば、その魔剣、町中に散らばっているわ、ラ・クインテット・ストラトス以外は・・・要らないとは思うけど回収も忘れないでよね?」

「グレイ達に押し付けようかな・・・?」

「わたくしはこれからも貴方にお仕えするつもりですが?」

階段を降りればラ・クインテット・ストラトスが腕を組んでさっきの言葉に嫌そうな反応をしていた。下のフロアでは皇帝近衛騎士達が全てが終わった事に喜んで大騒ぎしていた。

「・・・君は神の使いか何かかね?」

「いえ、ただの聖剣をロクに使えない欠陥聖騎士です」

「・・・適当な事をいうんじゃない」

セルスは壁に持たれて座ったまま鼻で笑う。しかし、目の前に石が落ちてくる。

「・・・長居は出来ないようだ」

セルスはその石を拾い上げそう言った。セルスに肩を貸して城から脱出する、城が崩れ始めたのは3時間後だった。

「・・・し・・・死ぬかと思ったぁ・・・」

「あの高さから落ちて無傷とは・・・流石暗黒魔剣」

「あのねー?剣の形だったから無傷だったんだよ?」

もうこんなのコリゴリだ、そんな顔をするワイバーン、オベルニウスも持っている。所持したまま魔剣の姿になっていたようだが、これは皇帝家に返還しなければならない、皇帝ミハエル ロンドクルツには既に皇太子が居るはずだ・・・ついでにワイバーンも押し付けたいのだが、残念ながら契約済み。駄目だ。

「それを寄こせ」

「何でぇ?これは私のお姉様!」

「それは皇帝家に返却しなければならない・・・例え、魔剣でも皇帝家の資産だからな?」

「君の物にしちゃえばいいじゃん!契約方法は私と同じだよ!指輪に血を塗りたくれば契約完了!とっても簡単!」

「お前の姉だろ?どうせもっと厄介に決まってる・・・と言うか、事実、そうだ!聖剣にしては人の姿は腹黒過ぎ、皇帝家も使役するのに苦労を強いる聖剣と言われている、だから寄こせ、俺はそんなのと付き合いを持ちたくない」

「なんでなんで!私からお姉様取り上げないでよ!良い子にするから!」

「お前も一緒に皇太子殿下に献上しても良いんだぞ?」

「君と契約したばかりじゃん!まだ一日も経ってないよ!エッチな事だってなんでもするからお願い捨てないで!」

「シーズさんとエッチな事をするのは私とお姉ちゃんだけで十分です」

ミナがわがままを言うワイバーンからオベルニウスを抜き取る、そしてそれをセルスに渡しに行った、指輪も全てセルスさんが持っている。

「返して!」

「今日から私が貴方のお姉様です!いいですね?」

「・・・うぬぅ」

ミナがワイバーンを抱きしめ、頭を撫でる、ひとまず動きは止まった・・・ミナの得意技の勝利、アレをやられて自分も、エルも勝てた試しがない。不思議と何もかもが抜けていく技である。

「相変わらず、ワイバーンは騒がしいのう」

「ルナも無事だったか」

「剣の姿であればどんな高さから落ちても命に別状など無い・・・それにわらわはルーン・グレイプニルと言う・・・これからもおぬしの一番目の嫁としてよろしく頼むぞ?」

「嫁ポジションは変わらないのか」

「当たり前じゃ、この中では一番の付き合いじゃぞ?」

「・・・まったく、散々な事に巻き込んで貴方ときたら・・・この後に及んで私の元彼、そして妹の旦那を寝取るつもり?」

「だからその気は無かったと言うておろう!」

「言い訳はこちらで聞きます・・・ルーン・グレイプニル様?」

「おぬし!助けろ!」

「・・・散々自分の事は話して来なかったんだ、この際たっぷり話したらどうだ?」

「この薄情者!それでもわらわの旦那かっ!!」

ルナ・・・もとい、ルーン・グレイプニルはエルに連れていかれる。ルーン・グレイプニルの後に来たのはセーリンだ。

「無事で良かった、君のおかげだ」

「いえ、剣の形の我らであれば心配ご無用でございます、主様、ミハエル ロンドクルツ様に勝利なされたのも主様のお力あってこそ、今後ともお傍に置いていただきたく思います」

「ゆっくり休んでくれ」

「ありがたきお言葉」

まるで貴族の執事のような印象のセーリンと握手した後、彼女はラ・クインテット・ストラトスの方へ歩いていく。

「ご主人様!ご無事でなによりですっ!」

「ドレッドウッド、エレベラも・・・よく耐えてくれた」

「あれくらい、造作もありません、ご主人様」

「ゆっくり休んでくれ」

「勿体なきお言葉」

エレベラはスカートを持ち上げてお辞儀する、そしてドレッドウッドを連れてセーリンに合流していった。

「ご主人様の弟君・・・ご主人様より遥かに強い」

「今度の主人は仕える価値が十分ある坊やでお姉さん満足だ!これからも頼むぜ?ベッドの中までお世話してやるよ!」

「ラピッドソレイユ、姉がお世話になった、君は俺でチェラム家に仕えるのは2代目になるんだよな?エルの事も長く頼むよ」

「任せて」

「・・・そして、フロウドレル、ベッドの中までは遠慮しとく」

「えー?じゃぁこれからお姉さんと酒でも飲むか?」

「悪いな、今営業している酒屋は無い・・・ゆっくり休んでくれ・・・それとー・・・」

「ワレ、ツバキザクラ、ヌシ、アラタナル、トテモツヨイ、シンゲンサマヲウチトッタダケ、アル、ダカラ」

「大和国の嬢ちゃんガチガチだなぁーほら、行くぞ?お姉さんと一緒に酒でも探そう!」

「マテ!チョット!」

フロウドレルはツバキザクラを引きずっていく、明らかに異国の服装・・・あれが外国人と言う物なのだろう、ラピッドソレイユもそれに付いていった、ちなみにこの辺に酒は無い。

・・・散った魔剣達は帰って来た。

ライゼンガルドはそもそも純聖剣、ラ・クインテット・ストラトス同様契約の術式こそ必要だが、戻るだけのプロセスは魔剣と同じ、ゆえに人の姿に戻り、ラ・クインテット・ストラトスの隣に居る。

「これで全て・・・だな?」

「そうです」

「それでは行こう、皇女陛下がルーデンでお待ちだ、実質の皇位継承権は皇太子殿下であられるはずだが幼い・・・しばらくは皇女殿下様が皇帝代理を務めるであろう、しかし市民階級育ちは本来謁見できないお方だ、くれぐれも無礼の無いように、作法は私が教えよう」

「よろしくお願いします」

セルスに連れられて馬車に乗り込む、ルーデンにたどり着けばあの屋敷、ルーデンで一番立派な建物と言えばこの屋敷他無いからだ。かつてのリビングに通される。皇女陛下の隣には8歳になる皇太子殿下がふてくされた表情で一人掛けのソファーに座っていた。

「フィリーネ ロンドクルツ皇女殿下、マクシミリアン ロンドクルツ皇太子殿下、ファーバンラグニスの現状についてご報告に上がりました」

「ミハエル・・・ミハエルは無事なのでしょうかっ!?」

皇女陛下はセルスを前に立ち上がる、周りの家臣が慌てて座るようになだめている。

「ミハエル ロンドクルツ皇帝陛下は・・・お隠れになられました」

セルスは立ち上がる、それに合わせてラ・クインテット・ストラトスがオベルニウスの契約の指輪を、ライゼンガルドが魔剣オベルニウスを持って立ち上がる、それをセルスに手渡ししていき、セルスが家臣が慌てて用意したローテーブルの上に綺麗に置いていく、それで皇女陛下はその場に膝を着き泣き始めてしまった、家臣が取り乱している皇女陛下をなだめている、しかし皇太子殿下も何が起きているか理解できてしまう年頃だ。皇女陛下はなんとか立ち直る。家臣によって椅子に戻された。

「・・・それで・・・ファーバンラグニスの状態は?・・・黒い渦は何が原因で?・・・あのサーヴァルキングは・・・?」

「はっ!まずファーバンラグニスの状況といたしましては、エルマ・カセドル城は全壊、都市は全ての家屋が屋根を吹き飛ばしている倒壊具合、黒い渦はブラックアウト術式、遥か昔にエルマ・カセドル城に仕掛けられた城の防御用黒魔術術式という事が第28回レーヴェン攻略遠征隊より報告が上がっています、これらはミハエル ロンドクルツ皇帝陛下がご生成なされた魔法攻撃がきっかけとなり作動してしまった物とされております。襲撃してきたサーヴァルキングにつきましては、これを追ってきたレーヴェン攻略隊隊長、シーズ チェラム中級聖騎士官らにより討伐済み、サーヴァルキングとなられたミハエル ロンドクルツ皇帝陛下も討伐が完了、ファーヴァンラグニスで発生した一連の騒動は全て収束いたしました」

「ミハエルが・・・」

皇女陛下は口を抑えて大泣きしている、皇太子殿下も涙が溢れていた。

「シーズ チェラムという奴は誰だ!」

皇太子殿下に呼ばれた。

「はっ!私でございます」

「・・・父上を殺害した罪として国家転覆罪で死刑を言い渡す!」

「それは軽々口にする言葉では!」

「そうですぞ!皇太子殿下殿!この者は!」

「うるさい!どうだろうと父を殺したんだ!僕がコイツを殺す!父上の敵を討つ!あの者を捕らえろ!処刑しろ!!」

「どうか殿下!落ち着いてください!」

家臣達が頑張って皇太子殿下を抑えにかかる。

「シェフィード!エルダー!・・・息子を連れ出して!今すぐ!」

「「承知いたしました」」

皇女陛下の命令で家臣達は皇太子殿下を抱えて外へ連れ出して行く。

「母上!僕が父上の敵を討つんだ!放せっ!」

皇太子殿下が喚く声がどんどん遠くなる、そして聞こえなくなった所で皇女陛下がようやく口を開いた。

「先ほどの皇太子の発言、撤回させていただきます。シーズ チェラム中級聖騎士官・・・よくぞファーバンラグニスにおける一連の騒動を納めてくれました・・・褒美を与えねばなりませんね・・・しかしながらあいにく通貨の価値はほとんど無い、宝物を授けようにも授ける宝物も無い・・・領地でもいかがでしょう?貴官の素晴らしい活躍により我が国の領土はこの短期間でブラックアウトから多く解放されました、しかしながら統治出来る権力者も居ないのが事実、皇帝代理としてお好きな土地の領有権を与えましょう、手続きは家臣に一任します」

「ありがたく存じ上げます」

「お下がりください」

それから後はセルスさんの仲介で正式にメーシェルバの領有権を貰う事が出来た、ファーバンラグニスの復興も早期に進んでいるが、経済的ダメージが深刻で多くの貴族が路頭に迷う始末だったり・・・自分が英雄として祀り立てられる事はおろか貴族達に目の敵にされているまでにはなる。

月日が立つにつれ、経済の中心がファーバンテセウスとメーシェルバに分散、半年後にはロンドクルツ神聖帝国の経済はエルマ・カセドル城再建より迅速に立ち直っていった。しかしブラックアウトは終わった訳じゃない。ブラックアウトはレーヴェンを栄え目にいまだ衰えない、レーヴェンが悪い訳じゃない、その先に何か原因があるような感じがしてならないのだ。


「・・・なぁ、メーシェルバくらい、治めてくれないか?」

「何をおっしゃいます?今のメーシェルバの領主は貴方様でしょう?」

「お前の家は守ってやったんだ、それに王女だろ?平民上がりの俺より全然知識あるはずだ、ライゼンガルドも家臣だったんだろ?」

「だからこそわたくし達が街の運営にご協力しているのですよ?」

「町の行政はほとんど魔剣や聖剣に丸投げしているではありませんか?貴方様のする公務も限られているはず」

ラ・クインテット・ストラトスは聖魔術士ギルドの来年の予算案の申請用紙を渡してくる。聖魔術士ギルド、メーシェルバ支部のギルドマスター、エイドリアン マクドネルのサインの下に自分はこれからサインをしなければならないのだ。

「あのオッサンも出世したよなぁ・・・」

「聖魔術士長も元々人望溢れる優秀なお方でしたから・・・この町に残って頂けるのも奇跡と言う物です、むしろ足りません!」

「ミーナが残るからって残ってくれた・・・いい加減くっつけばいいのに」

「貴方様が行政負担を押し付けていらっしゃるのでそのお暇も無いかと思われます」

サインを書いた神聖用紙はライゼンガルドに回収される。

「・・・それを言われるとだな?」

積まれた書類を一枚めくって眺める。商業ギルドメーシェルバ支部のギルドマスターはミーナ ドレッセン、そのほかにもミーナ傘下の聖剣達は町で色々なお店を経営している、特にセルベッタ アーカディアの経営するセントラルホテルはメーシェルバで一番の観光資源だ、ファーバンラグニスとは打って変わって白に統一された美しい街並みを一望出来る立地かつ、料理も別格、魔道具が現役で稼働する高機能ホテルを是非訪れようと貴族の往来が絶えない。

・・・しかし、本当にいい部屋だ。

元々聖魔術士長が居た部屋だが、自分がメーシェルバの領有権を得た途端、元白魔術師教会の部屋がこの行政庁舎にはあるらしい、俺はそこの方が適任だと言い残して引っ越してしまったのだ。

ロンドクルツ神聖帝国領ではあるが、リズリット王国国旗やらがそのままの行政庁舎、訳あってそのままなのである。異国そのものを知らない為か、異国の雰囲気を皇女陛下が大変気に入られ、保全を命令されたからである・・・当然行政庁舎がそうなら街中の教会から行政施設まで全てそう、それも観光資源になっている節がある。クリット教信者である我々が一切排斥運動を起こさない事も不思議な所だが、少なくともこの町に住む領民は無頓着か、聖魔術発祥の地だから極力そのままにしたいと思う所があるようだ、そうでなければ住めた物でも無い。

窓の外は太陽の光で白く輝く美しい町が一望出来る。改めてみれば大変美しい町だ。やはりこの部屋は最高の部屋、だからこそ領主の執務室となったのかもしれない。

しばらく外の景色を見ていれば扉をノックする音がした。

「どうぞ」

「失礼します、シーズ チェラム様」

「・・・これは聖騎士団メーシェルバ支部ギルドマスター、グレイ アーシェリア上級聖騎士官、そしてメーシェルバ聖騎士学校校長のマルコー ドルファネスト様・・・いい加減今まで通りじゃ駄目なのか?市民育ちが貴族育ちに様付けされるのに慣れないんだ」

「とはいえ、領主たるもの、これからは貴族の身分だ、慣れて貰わないといけない」

「これからも命ある限り、この町に尽くしますぜ?」

「と言う訳で聖騎士ギルドの来年の予算案の申請だ、それとこの前の討伐報告」

「こっちは教育方針とか教育予算案の申請と承認だぜ?」

「ほんとさ?俺の領地、メーシェルバの周囲10km県内なんだ、なんでレーヴェンとソロモニス、グランゴッツまで聖騎士を置き統治してるんだろうか?皇女陛下には再三領主を置くよう願い出ては居るのに」

「知らん」

「知るか」

「レーヴェンはともかくグランゴッツはなぜ領主がつかない?流通ルートで商人の往来も多い、実際税収もかなりあるんだぜ?なんなら領主として斡旋してやろうか?」

「それは・・・皇太子がここを流刑地みたいな扱いしてるからだろ?西の方からサーヴァルも沸くし、それにやる事がある」

「それに、ファーバンラグニスには学生も聖騎士も全然居ないからな、嫌ったらしいお貴族様くらいしか居ないぜ?ファーバンラグニスの人口の半数はこことファーバンテセウスに移ってる、ついでに言えば皇帝側近も生き残ったのは皆メーシェルバに来ちゃったしな?なぁ?グレイ?お前の兄貴までセベストリアについてくるとは思いもしなかったぞ?」

「・・・兄貴は・・・その、本当はあの手の女が好きなんだ、リエーシャさんは真逆だからな?兄貴の好みを知ってよく俺に泣きついてくる・・・まだセイレンの方が兄貴の好みに近いんだ、妻を兄貴にやる気は無いけど」

「お前の家は色々と極端過ぎるから同情するぜ?・・・ともあれファーバンラグニス、来年の学生の数はヒデーぞ?28人だってさ?それに比べ、なぜ流刑地扱いのメーシェルバの聖騎士学校は定員オーバーなのか・・・500人超えだ」

「聖剣学校は・・・分かる、エグバンゼル先生とレイモンド先生、師弟子揃って越してきたのが原因だが・・・聖騎士学校はキュリア、サーミャ、セベストリア、マーキュリー目当てが大半とは意外・・・そんなに教師として人気があるのか?」

「二刀流の重戦士と閃光の女神、軍神の女王様に大剣騎士・・・いずれも聖剣上がりだ、俺らの同期も一歩及ばずのイカれた奴ら、キャラが濃すぎる上に実戦経験豊富で指導センスも完璧だ」

「・・・そこまでかぁ・・・それは予想外」

「全部、お前とルナの聖剣使いの荒さのおかげだ・・・出す物は出したから僕らは失礼する、これからの準備があるんでな?」

「書類は見て置くよ」

グレイとマルコーは部屋を出ていく、入れ替わりでミナが入って来た。

「聖剣学校の予算案です、ついでにマクズウィルさんから聖魔術学校の予算案も預かっています」

「魔剣達は仕事してるか?・・・特にワイバーンが心配だが・・・」

「それがワイバーンさん、黒魔術に関する防護術の授業では聖魔術学校から、対黒魔術の授業では聖騎士学校の方でもかなり定評があるんですよ?お手本のセルスさん達が完全に黒騎士になっている気がしてならないのですが・・・それに魔剣の皆様のおかげで聖剣技師さん達が生徒さんの要望に悩まされています・・・エグバンゼル先生はお歳関係なく術式開発とか魔道具制作を楽しんでいるご様子ですが・・・」

ミナが半泣きの顔をする。

「属性付きの次世代聖剣はメーシェルバ聖剣学院のトレードマークですからね?仕方ありません」

ラ・クインテット・ストラトスは溜息、そういうラ・クインテット・ストラトスも行政維持の傍ら、講師として出向いている。ちなみにエリスは一般教養の方の初等から高等までの総合学院の校長をしている。リズリット王国では一貫校が多いらしい。ファナは水などのインフラ関係の維持の総括をしている。都市機能としてはファーバンラグニスより栄えている町かもしれない。

「そう言えば、これからサーヴァル退治?」

「ああ、またレーヴェンだ、今日は遅くなる」

「気を付けてくださいね?」

ミナがキスをしてくる、ラ・クインテット・ストラトスに見せつけるようにいつもより長め、その分満足した後の吐息も大きい。

「分かってる、愛してるよ」

その後ミナを抱きしめながら書類を受け取る。ライゼンガルドはあらあらという感じ、と言うのも彼女はラ・クインテット・ストラトスがセルアンナ リズリットとして生まれる前から純聖剣、セルアンナ リズリットを乳母として育て、ラ・クインテット・ストラトスになる瞬間まで見届けている人物となればもう余裕の表情、完全に母親のような顔で手にした書類を持って少し後ろに待機する。ミナはそんなの眼中に無さそうだ。

「たまには・・・お姉ちゃんにもしてあげてください」

「・・・君さえ良ければ」

「お姉ちゃん以外の妻とは駄目です!夜のお誘いもお姉ちゃん以外とは駄目ですからね?」

少し出てきたお腹を撫でながら浮かべるミナの笑顔がラ・クインテット・ストラトスに突き刺さる、しかもラ・クインテット・ストラトス自体はその妻には入っていない・・・何故ならミナの言う妻とは魔剣の事を指すからだ、よって高度な契約術式を要する上にその術式すら行方不明のラ・クインテット・ストラトスは誰とも契約していない・・・だからである。ちなみにライゼンガルドも同様である。

「分かっているよ、それにエルは君がいつも連れて来るんだ・・・君に言われるがままに抱いているけれど、本当に良いのか?普通は浮気だぞ・・・?」

「ほっとくとお姉ちゃんはすぐ塞ぎこんじゃうからだよ?それに、シーズは元々お姉ちゃんの男だったんだよ?私だけ良い思い一杯して不公平でしょ?初めても無しに死んじゃったんだもん!その分一杯してあげなきゃ駄目!それにシーズとイチャイチャしてるお姉ちゃんも可愛いし!だから、お姉ちゃんにもしてあげてね?戸籍上の夫婦と魔剣との夫婦関係は別枠だよ?」

ミナは唇に人差し指を数回当てた後、執務室を出て行った。

「・・・ミナ・・・本当に君はそれで良いのか?」

「ミナ様の姉妹愛は大変素晴らしい物です・・・聖騎士様は毎晩女性を二人も侍らせられて幸せでは無いのかと?本当は配下の魔剣達も貴方と寝たくてウズウズなさっているのですよ?」

ライゼンガルドはラ・クインテット・ストラトスを横目にそう言う、歪んでいた顔のラ・クインテット・ストラトスは何かを期待している様子だが、純聖剣の二人とは契約すらしていない、配下の魔剣に含まれていない。魔剣は皆愛が重くて困る。エルは真逆ではあるんだがミナがそうはさせてくれない。

「ライゼンガルド・・・一般常識的に駄目に決まっているだろ?神聖帝国は皇帝以外、多重婚は認められていないんだ・・・現皇帝家に皇女が一人だけなのは実は歴史上あってはならない事、10人30人は当たり前だったそうだ」

「リズリット王国でも同様、王族だけですよ?平均5名ですが上限その物はありません」

「・・・またラ・クインテット・ストラトスの婿にしようとしているな?その君主とかに捧げる忠誠心は立派だが、その王国はもう無いぞ?王族にもなりたくない。第一、貴族作法にすら慣れてないんだ、俺は市民階級育ちなんだぞ?・・・ライゼンガルド、後は頼む」

「お気をつけて」

大抵この話になって、こうぼやけばラ・クインテット・ストラトスの顔は妬みで歪むのはいつもの事だ。書類にサインをした後の処理はライゼンガルドに丸投げして部屋を出る、暗黒騎士の鎧をまとったエルが腕を抱えて待っていた。

「待たせたね、エル」

「さっさと片付けてミナを怒らせないようにしましょ?」

「分かってる、西門でグレイ達が待っているはずだ」

エルを抱き寄せて頬に一度キスをする、勿論、ラ・クインテット・ストラトスに見られている。

「またミナに頼まれたの?いいから行きましょ?恥ずかしい」

「そう言えばミナの鎧を貰わないのか?体格も同じだし、赤い鎧の方が似合ってるのに」

「胸がスカスカなのよ!・・・バカ!夫婦揃って意地悪ね!・・・それにっ!・・・最近お腹が出てきて・・・あんな細いの入らないの!・・・他の魔剣からは太る事は無いって言われてるんだけれど!・・・毎晩毎晩なんで私は貴方達の夜の営みに巻き込まれなければならないの?それも魔剣の責務の一つなの?」

「一応、ミナも君の事を心配しているんだ、君の事も彼女と同じくらい愛せとね?・・・間違ってる気しかしないが・・・」

「間違ってる・・・わよ・・・嬉しいけれど」

エルは顔を真っ赤にしながらも左腕に絡みついてくる、そしてラ・クインテット・ストラトスに自慢するように目線を向けた・・・そこはやはり姉妹、見せつけるクセがあるのは二人とも昔からである。振り向けば妬みのこもった鋭い目つきが執務室のドアから当てられていた。ひとまずは執務室からエルを遠ざける為に直ぐ外を目指す。


「・・・魔剣のくせにっ!子を宿せるだなんて羨ましい・・・」

残されたラ・クインテット・ストラトスは白い手袋を噛んで悔しがる。

「姫様、エル様は元々聖剣とのお話・・・ともあれば、純聖剣化のプロセスとほぼ変わりません、魔剣の製法で作られたにも関わらず、純聖剣の特性を持つと言う事を考えれば、我々と同じ体質なのかと・・・ともあれ、己の欲求に毎晩エル様を巻き込んでしまわれるミナ様の性欲には姫様一人では到底叶いません、いい加減退くべきです、わたくしもそれとなく縁談の話を仕組むのはもう無理です」

ライゼンガルドは少し目を放せば夜這いに行ってしまいそうなラ・クインテット・ストラトスを執務室の中へ引っ張りこんだ。

「まだ、仕事が残っています、姫様」

「聖騎士様の仕事でしょ?」

「サーヴァル討伐も領民を守る仕事の一つです、さあ、ファーヴァンラグニスに送る書類をまとめましょう、明日には発ちますよ?」


長らくお疲れ様でした。彼らは残るブラックアウトやサーヴァル達の対処に今後も活躍する事でしょう。


添削も他人を通していないので不備や読みにくさもあるかもしれません。

基本的に書き溜め主義なので次作については当分先になるかと思います。

出来れば高評価等頂けると幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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