レイヴァン レオ
メーシェルバだと思い込んだ人工物、しかしたどり着いたのはレーヴェン、遠征隊の最終目的地、レーヴェンと認識した時にはもう遅い。
いよいよ物語も終盤、大4章、剣豪なる者、英雄となれが始まります。
・・・なぁ?おかしくないか?
・・・こんなにボロかったっけ?
ルナとゆっくり顔を合わせる、ひとまず大剣を構える、魔剣ドレッドウッドと言うらしい、ルナにはラピッドソレイユを貸してある・・・こんな重い大剣を運びつつ両手剣のラピッドソレイユを背負いたくないからだ。現れたボロボロの城門、メーシェルバの西門とは大きく構造が異なる・・・もしかしなくても違う町を目指していた事は確かなようだ。それなりの大きな都市、それこそメーシェルバとほぼ同格だ、中央にはメーシェルバ同様、大きな城がある、だが今までの町と大きく異なる点が一つある。建物がいずれも原型をとどめている所だ。
「やっぱり、おかしくない?」
「うーん・・・もしかしなくても・・・これはレーヴェン?」
「何故分かる?」
「・・・な・・・なんとなく・・・だってこれだけの大都市!あの地図、そう!指揮所のあの地図ではレーヴェンくらいしか無いよ!?」
「・・・怪しい」
「ここまで来たんだし、サーヴァルに隠れてさっさと術式破壊して帰ろうよ?」
「・・・2人で?それも聖騎士じゃねぇぞ?術式破壊なんてどうやるんだ?なんの為に聖魔術士がついてきた?」
「細かい事気にしない気にしない!行こ!」
「おい!ルナ!」
ルナは意気揚々とレーヴェンに入っていく・・・怖くないのか?自分の姉、レイア チェラムはおろか、手にしている大剣の持ち主すら叶わなかった相手が居る町だぞ・・・?なぜそんなにズカズカと足を踏み入れられる?
「早く早く!」
早くじゃねぇよ・・・目の前の女が非常に怖い、ヤケクソじゃないだろうな?だが一人に出来ない・・・しょうがなく足を踏み入れた。だがおかしい、この女についていくだけで町の中心の城がもう目の前・・・道に迷った?一切無い。
「・・・お前、もしかして一度ここまで来た事あるのか?」
「シーズ!敵だよ?」
「おい!質問に答えろ!・・・あの野郎!」
ルナはサーヴァルに切りかかる、肝心な質問には一切答えない、流石のルナ・・・だが目の前の敵に集中しないと駄目だ・・・程度は良いとはいえ、錆びだらけの大剣がサーヴァルを切れるのだろうか?
・・・いや・・・切れる訳は無い。
どちらかと言えば殴り殺しているような印象、刃の切れ味は残念ながら無い、しかも効率が悪い、これなら鉄剣の方がマシ、だが浄化は誰がやる?サーミャもキュリアも居ないし、ルナは何を持たせても浄化出来ない、だから俺はコレで戦うしか無い、これならばラピッドソレイユを返してもらうんだった。
しかし数が多い!
当たり前だ、サーヴァルの生命線、ブラックアウトの術式がある町だ、サーヴァルはこの町を守る為に集まっているのは当たり前の事、サーヴァルキングも平気で何体も居るだろう。ケンタウルス型のサーヴァルキングの一撃を大剣で受け止めようとするも、これだけ錆びているんだ・・・ドレッドウッドが折れた。通りの店の中まで吹き飛ばされる。
・・・終わった。
意識がもうろうとしている、手を見れば血だらけ・・・痛みは感じてない。
・・・エル・・・もうすぐ君に会える。
エルの顔が浮かんだ、目に見える景色は何一つない空間、下は水のようでそうでない、雲に覆われた景色の中、エルの冷たい目線が突き刺さる。
「エル・・・」
出会ったばかりの真顔、自分のせいで笑った顔をほとんど見せてくれない、そんなエルは何も言わずに足で水紋を奏でながら歩いて来た、そして右手に持っていた瓶、高速魔法修復材を一度見せつけ、自分の左手に収めた。
「・・・これを・・・どうしろと?」
エルは問いかけに答えない、かと思えば3歩後ろに下がり立ち止まって黙って少し笑いながら指を鳴らす、すると地面に飲み込まれるように世界が暗転し、気が付くと瓦礫の中に居た、左手に何かを握っている・・・未使用の高速魔法修復材だった。
・・・まだ早いってか・・・。
何故か涙が出る、そして瓶の蓋を引き抜き、ドレッドウッドに垂らして魔力を注いだ、ドレッドウッドが折れた剣先と結合し、錆びがみるみる取れていく・・・よく見れば辺りは高速魔法修復材が散乱していた、ここは魔法具店のようだ。ドレッドウッドの握って立ち上がる、動ける、傷も非常に浅いだけ、ドレッドウッドにどれだけ魔力を奪われようと関係ない、魔剣には生き物である期間と物である期間の境目が存在するはずだ、修復可能上限が存在するはずなので、気にせず流し続けても良い、魔力自体は使い道も無いんだ。
錆びも取れたドレッドウッドは嘘のようにサーヴァルを切っていく、大剣は使った事が無いので振り回す事しか出来ないが、重量由来の高い攻撃力はすさまじく、サーヴァルなど一振りで真っ二つ・・・たいした武器だ、しかし小回りが効かないのが少々困り物・・・だがルナの姿が見当たらない。
・・・アイツは何処へ消えた?
やられた?そのような奴じゃないだろ?
サーヴァルを切り倒しながらルナを探す、居ない、城まで追い込まれるが、そう言えばケンタウルス型のサーヴァルキングも居ない。正直に言おう、この数は一人では無理だ、ルナの捜索を諦めて元を破壊しなければ拉致があかない。
・・・くそっ!
何処もサーヴァルだらけ、追い詰められるように出た広い空間、なんの広間かは分からないが目の前にはサーヴァルキング、全身黒い人型、角と尻尾がある、クリット教では悪魔イルエルナ、リズリット王国などが信仰していたとされる白魔術教会では堕天使クリットと呼ばれているサーヴァルキングだ。
・・・レイヴァン レオ。
諸悪の根源、ブラックアウトで世界を覆いつくした悪魔の黒魔術師・・・世間ではそう言われている黒魔術師のなれの果てだ。そして皇帝の為にサーヴァルを開発しリズリット王国を滅ぼした後、用済みとされて追放された神聖帝国にとっての英雄であり敵でもある。
「全てを終わらせる」
終わらせてやるんだ・・・神聖帝国が犯した全ての過ちを・・・。
大剣を構えれば広い空間は青白い炎に包まれる、サーヴァルは近づけば炎に焼かれて絶命する・・・奴はやる気のようだ。
炎の玉が飛び交えばと思えば床からタコ足のような物を出してくる、黒いロッドから放つ白い光は分からなかったがたまたま外のサーヴァルに当たる、即死魔法のような物だ、他にも当たれば死ぬ、そう言った類の攻撃が散見される・・・これが黒魔術・・・今の世代は知らない、神聖帝国自らが無かった事にした危険な魔法の数々、うかつに近づけない!
距離が中々詰められないのだ、せめてルナさえ居れば・・・魔道具?有効打になる物なんて無い。
タコ足の攻撃を切って飛んでくる即死攻撃を避ける、キリが無い。
・・・あっ、まずい。
とっさの即死攻撃、ついドレッドウッドを盾にしてしまう、こんな事すれば魔剣はただじゃすまないはず・・・だが何も起きない。物には効かないからか?
効かないと分かればドレッドウッドを盾にしながら距離を詰める、だが斬撃を与えてもロッドで受け止められるし防御が出来ない隙に即死攻撃を放とうとするのだ。
・・・どうすれば・・・。
ひとまず斬撃を加えて魔法攻撃を止めておく、当然受け止められた後も魔法を放とうとしてくるのだが、ロッドにドレッドウッドが当たっている限り、いつまで経っても攻撃を放とうとしない・・・いや、放てないのか?
だがドレッドウッドに変化が現れ始めた、剣身が赤くなっていく、理由は分からない、だがあくまでも直感だが何かこのままだと爆発しそう、身の危険を感じるのだ。何か解放する物は・・・。
片手でロッドに抑えつけながらポケットをおもむろに漁る・・・そして俺は何故これを取り出した?
一旦距離を取り、腰のポケットから取り出した物を見る、魔法花火、こんな所で花火を打ち上げてどうする?それにここは屋内、こんな所で打ち上げ花火を上げたら大変な事になる。
・・・だが、何故だろう?凄く使いたい・・・。
屋内では何が怒るか分からない、だが、ドレッドウッドにこれをぶつけなければならない使命感をひしひしと感じる、理由は分からないが本能がそうしろと訴えている。
「・・・どうにでもなれッ!」
どうせ後も無いんだ・・・。
本能に従い、切り込みを入れてからドレッドウッドに中身のよく分からない液体を垂らしていく、盛大に燃え始めた・・・これはヤバイ、とんでもない火力、火器厳禁・・・と言うよりかは魔力厳禁。
・・・なんでこんな馬鹿らしい事しているのだろう?
炎の光は青白い、かなりの高火力、明らかに魔法花火の内容物の術式が暴走している様子、とんでもない魔力をたくわえ剣身が赤く染まっていたようだ・・・そう言えば蟹のサーヴァルキングの特性はなんだ?魔力吸引だ・・・つまりドレッドウッドの特性は魔力吸引と言う訳である。
・・・そっか、こうするしか無いのか、こうしないとドレッドウッドが溶けてしまうんだ。
だが吸い取った物は何処かで使わなければいずれ限界を迎える、発散させなければならない、その答えがこれ、契約していれば自由に解放も可能だろうが、残念ながら契約していない、指輪もルナが持っている、じゃあどうするか、魔法花火を点火剤とする・・・なぜそうしようと思ったかについては自分でもよく分かっては居ないが、何故かこうしろと思った。
「仕切り直しだ」
準備は出来た、レイヴァン レオにこのまま切りかかる、ドレッドウッドは吸い取る事を辞めない、そして魔法花火の起爆剤は完全暴走、レイヴァン レオは溶けていく、悪いが止める手段までは思い浮かばなかったんだ・・・。
そしてレイヴァン レオもとい、レイヴァン サーヴァルキングは消し炭になった・・・終わった・・・全てが終わった・・・訳じゃない、まだ雑魚が残っている、レイヴァンの魔力の残りカスがまだ有り余っている、サーヴァルに当たるだけで溶けていく、全てが燃え尽きる頃にはサーヴァルもほぼ燃やし尽くしていた。
・・・黒魔術師、レイヴァン レオの魔剣・・・。
ロッドの形状をしているが、契約指輪も一式揃っている・・・だが黒魔術師の魔剣など使いたいとも思わない。刻印はワイバーン。
「あーあ、魔王様、倒されちゃった」
「誰だ!」
ドレッドウッドを声の主へ向ける。
「ちょっとちょっと!危ないってば!」
剣先には小柄なピアスの多い女の子が居る、全身真っ黒のドレス、魔法具店の家具のように悪趣味な装飾が多い。
「・・・お前は・・・誰だ?」
「魔剣、ワイバーン、レイヴァン様にお仕えしていた魔剣ちゃんでーす」
剣を向けられているのにも関わらず、ノーテンキに自己紹介をする魔剣、ワイバーンという女の子、ちょっと剣先を近づけて見れば若干動揺するが、それでも何か自分が危機的状況にあるのを理解していない様子だ。
「どうやって戻った?契約とかしていないはずだが?」
「どーやってって?その魔剣ちゃんと君の魔力、ぜーんぶ使ってだけれども?それにしても君、魔力で満ち溢れてるじゃない!黒魔術師の才能あるよ?・・・見た目がイルエルナの使いその物だけれど・・・」
「・・・何故分かる?」
「ありゃ?もしかして魔剣の事、知らないカンジ?君の手に持ってるのが魔力を私に供給する為の魔法具、その指輪は私の心臓そのもの!・・・というかそれなんだけれどね?契約については年式によって色々変わってきちゃうんだけれども、基本は接吻か指輪に血液を垂らすか術式を要する、この3つ!中には性行為とか魔剣の血を吸うとか爪アカ煎じて飲むとか変わった物もあるけれど、私は一般的な血を垂らすだけのタイプだから安心していいよ?それに人の体に戻るだけなら契約要らないし!逆は必要だよ?・・・でもそんな事知らずに私のご主人様殺っちゃった訳?」
「これは拾い物だ、世の中魔剣は無かった事にされ、聖剣が支流となっている・・・さて、ブラックアウトの術式は何処だ?壊し方も教えろ!」
「術式は中庭の下の納骨堂、壊し方はリズリット王国の聖魔術師が30人くらい必要かな?魔王様の術式壊した事ないから分かんない」
「案内しろ!」
「そろそろこれ、降ろしてくれないかな?君が私のそれを持っている以上、私の主人は現状君なんだ、契約してようがしてなかろうが関係なく・・・ね?前の主人に君を殺せとは言われていないし、君がここに来た時点で前の主人はとっくのとうに死んでたし・・・それにしても、君結構厄介な体してるよね?」
「何が言いたい?」
「魔剣と聖剣、それぞれ一本ずつと契約しているみたいなんだけれど、魔剣はこれじゃない、指輪も別の子のしてるじゃん?しかも契約済んでないし?聖剣は何処かに置き去り、生きてはいるみたいだね?君の魔剣、ずいぶん遠い所にあるじゃん、東の方かな?しかも魔剣経由で聖魔力を一方的に吸われっぱなし・・・吸ってる相手は死人、この様子だとサーヴァルキングかな?魔剣でも契約者から普通こんなに吸わないよ?逆ならこの子みたいに吸えるのもあるけど・・・でもそれだけ吸われて平気でいられる君は非常に興味深い、黒魔術研究を生きがいとしていた魔王様なら殺してバラバラに解剖している所だよ?とっくのとうに死んでてよかったね?」
ワイバーンはドレッドウッドの剣先をつまんで隙あらば下げようとする。
「サーヴァルキングに吸われている・・・?東?」
「そそ、東、君の聖剣は何処に置いてきたの?」
「メーシェルバだ」
「メーシェルバかぁ・・・って考えるともーっと東、ファーバンラグニスかな?」
「ファーバン・・・ラグニス・・・?!」
「え?君、そこから来たんじゃないの?魔剣も置いてきてないの?」
「俺は契約しているとされる魔剣を知らない」
「そりゃー・・・厄介・・・ま、とりあえず術式のある納骨堂へ案内するからいい加減、降ろしてくれないかな?」
「分かった」
「よーし!じゃあ行こう!」
ワイバーンは足元から黒いロッドを拾い上げる。
「・・・まてまて!それはなんだ?」
「こり?レイヴァン様の杖、老人がよく突いている系の杖の魔術師っぽい奴、かっこいいよね!私特に形態を持たないんだ!しばらくはこれをベースに憑依してたけど、その気になればそれみたいに大剣にもなれれば包丁にもなれるから!便利でしょ!で、これが納骨堂の鍵・・・って言ってももう蹴り飛ばせば開けられると思うけど」
「何百年経ってると思ってる」
ワイバーンはロッドの上の部分をくるくる回して鍵を取り出して見せた。錆び付いているのでどの道使い物にならないだろう。
「じゃー行こう!」
ワイバーンは張り切って自分自身が苦労して来た道を戻って中庭へ出た。階段があり下へ下がると扉がある、だが押しただけで内部の鍵が折れる音がした・・・月日が経ちすぎて鍵の意味をなしていなかったようだ、薄気味悪い納骨堂を下へ下へ降りていくと諸悪の根源へたどり着いた・・・確かにこれは物理的な破壊は不可能だ、聖魔術士が高度な解除呪文をぶつけて少しずつ解いていくしか方法が無い。
「レイヴァン様を頑張って倒したけど君じゃ無理!ごめんね!知り合いにリズリット王国の聖魔術師でも居ない?居たらワンチャンあるよ?」
「神聖帝国の聖魔術士なら60人近く知ってる」
「じゃあ、彼らにここに来てもらうしか方法は無いね?どうせこれを壊せと皇帝に命じられてここまで来たんでしょ?もう君は用済みになる訳だし自由にファーバンラグニスに帰れる!戻って君の魔剣探しでもしようか!このワイバーン様が手伝ってあげよう!」
「用済みって言い方・・・」
「だってそうじゃん!術式の道まで開いたら君のような剣士は要らなくなる」
「分かった、ひとまずここを出よう」
そしてワイバーンの指輪をワイバーンに渡す。
「ちょっとちょっと!私を捨ててく気?」
「なんか・・・面倒っぽそうだしな」
「失礼な!高貴なる魔王様の魔剣に対してなんて物言い!君が一度手にしたんだから私はもう君の物だよ!」
ワイバーンは左手を掴んで手袋を抜き取り強引に薬指に指輪をはめる、自然とピッタリだが何故だろう?
「ついでにお嫁さんの座も頂きっ!」
「黒魔術士の魔剣を嫁になんか取りたくねぇ・・・」
速攻で引っこ抜く、ひとまず人差し指に移した。
「うっわ!乙女の面に向かってそれ言う?ひどっ!」
「バチバチピアスに悪趣味なドレス、どう考えてもやべぇだろ」
「これでも一途なんだけれどなぁ・・・君に子孫が居なければお墓の中までついていくよ?」
「付いてくんな!」
「子孫が出来れば君の家に永遠とお仕えする、これが魔剣、君は本当に魔剣の事を何も知らないなぁ・・・あっ!でも私とエッチしても私は子供作れないからね?王国製は確かソウルフリーズ式だからもしかしたら出来るかもだけど神聖帝国製ならハーツチェンジ式だから成功してもガッツリ死人!残念だけどこの可愛いワイバーンちゃんとは子作り不可!私とは別に妻をもう一人作る必要があるのも忘れずに!性欲処理に使っても全然構わないけど、魔剣って本来そういう道具じゃないのも頭の片隅に入れてもらえると嬉しいなぁ・・・数えたくもないけれどうん百年生きてるおばあちゃんだしさ!見た目ぴちぴちだけど実の祖母より年上の女とエッチなんて考えたくも無いでしょ?しかも元奴隷だよ?」
「いや、だから付いてくんな!」
「魔剣はごはん要らず!何も食べなければ排泄もしない!ちょっと聖魔力を君から吸い取るだけ!とっても経済的!」
「ペットを進めるような言い方で売り込んでくるのもやめろ!」
気が付けば城を出て東の方向へ、この道を道なりに行けばきっとメーシェルバまで戻れるはずだ、城の門から坂を下り、角を曲がれば動く物の気配を感じる、ドレッドウッドをそれに向けると完璧に受け止められた。
「・・・なんだ、グレイか」
「お前の剣撃を受け止めると初撃でもう手の感覚が無くなるぜ・・・左腕に絡みついている悪趣味な女は誰だ?」
「魔剣、ワイバーン!この子の妻だよ?」
「・・・お前にはルナと言う妻が居たよな?ポンポン浮気ばっかりしやがって・・・」
グレイは呆れた顔でワイバーンを得体の知れない目で見る。
「わお!既婚者だった?子供は居るの?何歳?子供の世話だって出来るよ?だって魔剣は永遠の命を持ってるからね?君の子供、孫、ひ孫、その先まで続く限り君の家に尽くすよ?ね?どう?」
「ルナはただの戦友だ、子供も居ない!・・・そう言えばグレイ、ルナを見かけなかったか?」
「一緒じゃないのか?」
「サーヴァルキングに致命傷食らわされて気絶した合間に見失った・・・と言うかコイツ、欲しけりゃやるぜ?」
そう言って人差し指から指輪を外してグレイに見せる。
「・・・見るからに面倒そうだからやめておく・・・だがそれを従えていると言う事はやったんだろ?」
グレイは全力で拒否してくる。確かに面倒極まりない。
「これはレイヴァン レオのなれの果てが持っていた魔剣だ、だが、それとは別にサーヴァルキングが居たんだ」
「おいおい・・・レイヴァン レオだって!?剣豪ソルも叶わなかった相手だぞ?しかも一人で?」
「・・・なんとかなっちまったな、拾い物と相性が良かっただけだが・・・」
ドレッドウッドをグレイに渡す、グレイは重そうにそれを眺める、控えめだがとても豪華な印象を受ける物、蟹型サーヴァルキングの持ち物で間違えない・・・はず。
「おいおい、まじかよ・・・で、ブラックアウトの術式の場所も分かったのか?」
「ウィーン城の中庭の納骨堂の一番下だよ?なーんだ、もうお友達の聖魔術師君達がここまで来てるんじゃん、やったね?魔王様の完璧な術式を破壊できる腕があるといいけれど・・・」
「俺らは君の元主人の術式を破壊しに来たんだが君はそれでいいのか?そんな易々と場所を吐いて良い物なのか?」
「私の今の主人はこの子!魔王様の意思なんてもう関係ないんだから!・・・それに内心、この術式は不幸しか生んでないって悩みもあるから・・・ちゃっちゃと破壊してよ!魔王様の書斎は城の地下にあるよ?たぶん術式の弱点とかヒントになる物があると思う!知らないけれど!」
「・・・伝えておこう・・・ひとまず門の外に馬車を置いてある、腹減ってるだろ?ルナの捜索は俺に任せてパンでも食ってこい」
「・・・パン・・・!」
食料があると聞いて、やはりワイバーンも目を輝かせる、要らないとは分かっていても食欲はラ・クインテット・ストラトス同様にあるようだ。馬車を目指して歩けばファナとエリス、セベストリアとマーキュリーが居た。キュリアとサーミャは相変わらずのようだ。ファナ以外はまた気味悪い女を連れてきたな・・・と言う顔で出迎えてくれる。
「・・・飯に釣られて姿を現わすと思ったが・・・」
「ルナさんはまだご帰還していませんよ?」
「パンは何処?ねぇ!パンは?」
「・・・どうぞ?」
なんか騒がしい女だなと内心思っている気がしてならないファナ、馬車の荷台からパンを取り出し、ワイバーンに渡した。
「おお!パン!」
「・・・あまり美味しい物とは言えんがな」
ワイバーンはパンを崇拝するかのように両手で持ち上げ喜んでいる。
「・・・で、その明らかにヤバい女は誰ですの?」
「・・・レイヴァン レオの魔剣、ワイバーンだ」
「・・・流石は我が主、世界最強の黒魔術師すらをも倒してしまわれましたか・・・」
「・・・で、この大剣はもしかしなくても・・・神聖帝国近衛騎士団レーヴェン制圧隊隊長、ピッコリーニ ルスウスさんが持っていた魔剣・・・ですね?」
キュリアよりかは静かな方ではあるセベストリアは変わらずだが、マーキュリーのこの態度は見た事が無い、初期の頃の見下す仕草は何処へやら・・・エリスはさっき渡したドレッドウッドを支えるのに必死になっている。
「あの蟹はブラックアウト発生初期の魔剣持ちだったんだな・・・」
「聖魔術士長さんから聞いた話なんですけれども・・・シーズさん、強いなぁ・・・」
「・・・本当に」
「これからもお傍に置いて頂きたく思います」
「お前ら・・・やめろ、俺は聖魔力が常時カツカツな聖騎士モドキだと言う事を忘れるなよ?皆の元主人より下の出来損ないだぜ?」
「今更何をおっしゃいますの?」
「セベストリア、何故顔を赤くする・・・?マーキュリー、現状君の主人はキュリアだぞ?俺は君を一切使った事が無い!」
「角紫とは正式な契約を行っておりません事よ?」
「あんなキーキーうるさい奴の所有物になるのはいささか不満です」
「まぁまぁ・・・二人とも・・・?」
セベストリアとマーキュリーは例のうるさい紫色の奴を思い出してムスッとする、それをエリスがなだめる。
「シーズ、はい」
「ありがとう」
その横でファナがパンを持ってきてくれた、それを頬張る、その間にファナに抱き付かれた。
「無事で良かった」
「・・・最初からそう言ってくれるのはファナだけだ」
そう言いながらファナの頭を撫でた。
・・・それからと言う物の、ルナは見つからない、ラピットソレイユもだ・・・死んだ、そんな事はあり得ない、そうこうしている間に聖魔術士長がここまで来た、メーシェルバにはもう守衛の人間がほとんど居ない、メーシェルバを守る唯一の聖騎士はマルコーのみ、いざとなればミーナ達聖剣が居るし、西門で倒れた聖騎士達も時期に戻ってくるとはいえ、かなり大胆な賭けをしているとしか思いようが無い。
「後は任せろ、ここからは俺達、聖魔術士の仕事だ」
「頼みます」
聖魔術士長に頭を下げる、グレイについてきた救援隊なる部隊の聖魔術士がワイバーンの言う通りに地下の書斎を捜索し、解除方法を探しはしたが、流石は神聖帝国最高の黒魔術師が考えた術式だ、簡単に解けそうには無いのは明白・・・そして生前のレイヴァン レオもどうやら反省していたらしい、後悔と反省を綴った日記もあった。
そもそもブラックアウト術式をより安全な防衛用術式にしようとしていたようだ。最終的には上手くいっていたが、真の目的は術式の書き換えによる術式の安全化だったようだ。だが黒魔術は危険と方針転換され、その象徴だった彼は国外追放、事実、黒魔術は危険だし、仕方の無い事だとも自覚はしていたようだ。
この状態を招いたのは剣豪ソル、魔術師が騎士に叶う事など無い、安定していたブラックアウト術式を突破され、死を恐れたレイヴァン レオは最初の頃の試作品を起動してしまったようだ、その試作品こそが目の前のこれらしい。
試作品はレーヴェンの人達の亡骸を呼び覚まさせ、レーヴェンの人を襲い、サーヴァルにした、剣豪ソルも押し負けて一度退散・・・これがブラックアウトの始まりだったようだ。
ブラックアウト術式は地下の聖石を魔力変換する機能を持っている。レーヴェンは聖石鉱山だったようだ、勿論聖石が尽きれば自然消滅する・・・と本人は思っているが、埋蔵量が計り知れない、なんとしても止めるべく、生涯をかけて研究をしていた事が見受けられる。
一方で偉大なる黒魔術師として暗黒教とやらの信者にもされていたようだ、国策により黒魔術の使用を禁じられ敵が使っていた聖魔術を使う事を不満に思った者達の集まりと言う事だろう、レイヴァン レオは彼らに資料収集をさせる他、ファーバンラグニスへ侵入する為、テロを指示していたようだ。
ー皇帝陛下のお言葉通り、死者を兵とすれば民が戦争で命を落とす事も無いと思っていた、だがこの研究こそが間違いだった、そもそも戦争が起きない世界を他の国と共に目指さなければならなかったのだ。ファーバンラグニスの術式を安全な物に変え、一刻も早くこの世界に光を戻さなくてはならない。ー
事実、この言葉以降、レイヴァン レオの行動が過激となる、ファーバンラグニスへサーヴァルを送り込みファーバンラグニス侵入を目指していたようだ、しかし、あと一歩の所で剣豪ソルに撃たれているようだ、自らをサーヴァルキングの姿に変え、研究を進めようとした、しかし時が経つにつれて人では無くなっていく、ウイーン城まで逃げ帰ったものの、剣豪ソルと同時討ちしたらしく、レイヴァン レオは復活、ソルはサーヴァルキングになり、レイヴァンを求めてウイーン城の近辺を徘徊し始めた。全て失敗に終わったのだ。
そこからしばらく日記は続くが次第に文字が書けなくなっていく、そして途切れた。レイヴァン レオはある意味では神聖帝国の被害者とも言える訳だ・・・全ての元凶は死の兵隊を作ろうと命じた皇帝家にある。
日記や資料の解析が進むにつれ、レイヴァン レオに足りなかった物が明確になってくる・・・それは聖魔術に関する知識だ、聖魔術ならばこうすれば打ち消せるなど、聖魔術士長は対策をどんどん組み立てていく、やっぱりあの人は凄い人だ、それでいて気取らない、部下達もどんどん意見を出してくる、人望も大変厚い、仕事が出来る大人というのはああいうのを言うのだ・・・しかしなぜこんな所に居るのかも疑問・・・優秀過ぎて左遷でもさせられたのだろうか?
そんな聖魔術士軍団を少しでも解析に集中させる為、脳筋な聖騎士はちょくちょく沸くサーヴァルを退治しなければならない、その脳筋な聖騎士もこの場にはグレイしか居ない・・・俺はそもそも聖騎士と呼べた物ではないから除外する、エリス達に限っては聖剣である。
「あっちこっち行ったり来たり大変だねぇ?わたしと契約する?その気なら血をちょうだい?」
「既に知らない魔剣と契約してるんだ、これ以上契約する魔剣を増やしたくない」
「まぁ、結構な魔剣コレクションを持ってるからね?こんなに一杯抱え込んでる人今まで見た事無いよ?それ、エーベルケニウスだっけ?」
「ドレッドウッド、斬撃は強いが重いんだよな・・・」
手に持っているエーベルケニウスを見る、救援隊としてここまで来たこの馬車、遠征隊として自分達が初期から使っている馬車だった。当然乗っている物なんてほとんど乗せっぱなし・・・だから後ろには今まで拾ってきた魔剣が山のように積まれている。
「これも、あれも指輪は皆東の方にあるね?どうして?」
「ほとんど俺は指輪を拾ってこなかったんだ」
「そりゃもったいない、魔力と聖魔力、一緒に混ぜて流し込めば契約無しでも今頃魔剣ハーレムでウハウハ出来るのに、しかも魔剣は指輪を持った時点で主従関係が構築されるからね?あーんな事やこーんな事もやりたい放題!」
「魔剣は性欲処理用の玩具と思ってほしくはないと言ったのはあんただよな?」
「そんな事言ったっけ?」
「お前はおもちゃにされたかったのか?」
「シたいの?良いよ?」
ワイバーンは馬車の荷台から飛び降りてスカートをめくり下着に手をかける。
「やめてくれ・・・第一お前はその気でも、他は絶対そうは思ってないからな?」
「そーかな?主人の性欲管理やその息子の性教育も魔剣の仕事だけれど」
「お前ら魔剣は相当雑な扱いを受けてきたのはよく分かった、だからパンツを降ろそうとするのをやめろ」
「ちぇーつまんない!」
「戦場でいきなりおっぱじめる主人も存在する訳無いだろ!」
ワイバーンはスカートを整えると再び荷台に座る。
「そー言えば人差し指にしてた子はあの中のどれ?」
「ここには無い、ルナって奴が持ってるはずだ」
「へー貸してみてよ?」
「しょうがないな・・・」
ワイバーンにラピッドソレイユの契約指輪を渡す、それをワイバーンが受け取る、少し気難しい顔をした後返してきた。
「・・・たぶん、たぶんなんだけれど、君の魔剣と同じ所にあるんじゃないかなぁ・・・」
「それは無い、昨日までルナが使ってたんだ」
「でも、東の方に聖魔力の流れを感じるんだけれど?」
「だが、ファーバンラグニスに一日そこいらで着けるはずが・・・」
「オービット平原、特に何もなければ馬で1~2日の距離だよ?」
「だが俺らは馬を持ってなかった」
「えっ・・・マジでどうやって来たの?」
「メーシェルバまではこの馬車で来たさ、メーシェルバでピッコリーニ サーヴァルキングにさらわれて近くの町まで来た、そこからは徒歩だ」
「そっかぁ・・・あーそう言えば、魔王様、足が滅茶苦茶速いサーヴァルキング級を恐れて居たような・・・」
「なんだと?」
「確かねぇ、魔王様がサーヴァルキングになった時かな?相打ちになったソル クレムニルはケンタウルス型の高速突撃魔獣になったんだ・・・」
「そいつだ、そいつにくっついていけばファーバンラグニスまで一日もかからずたどり着けてしまうぞ・・・?そして俺はそいつに一度やられて、しかも倒していない!」
「おー・・・帝都大ピンチ・・・でも無いか、皇帝一族は天使クリットの加護により生まれながらにして強いから」
「・・・そうだと良いんだが」
「ま、ここに君の妻が居ない事は分かったし捜索はもう打ち切ってもいいんじゃないかな?」
「何故そう言い切れる?」
「指輪はね?君のポケットの中か、たぶんファーバンラグニスにあるかの2択なんだ、つまり君の妻がこっそり指輪を回収している・・・そんなに魔剣が欲しかったのかなぁ?女の子が女の子を沢山集めるメリットなんて強さくらいしかないんだけれども・・・集めるだけ集めて契約も一切していないのも不可解、君の奥さん、どういった趣味してるの?」
「だから妻じゃねぇ・・・アイツの趣味も知らん!アイツは自分の事は一切言わない主義なんだ」
「・・・変な関係」
・・・確かにルナに関しては自分でも変な関係だとは思ってる・・・アイツは何者なんだ?クレムニルと言うのだからソル クレムニルの子孫である可能性はここに来て気が付いた、だがそのような事をアイツの口から聞いた事が無い・・・何も知らないのだ。何故聖騎士を目指したのかすらも・・・。
・・・ルナが消えてから一週間経った、聖魔術士長ら聖魔術士部隊はブラックアウトの術式解除に成功した。これで大陸全土を覆っている黒い雲は消える事だろう。
「・・・消えんのだが?」
「・・・俺らは術式を止めただけだぜ?生成された物は残り続けるんだ、残念ながらそういう仕様らしい」
聖魔術士長は溜息をつきながら馬車の車輪にもたれかかる。術式解除と同時に空を覆っていた黒い雲が消える、そう想像してた・・・残念ながらそんな事ある訳無かったようだ。
術式解除でなにが変わったか、ブラックアウトの範囲拡大が終わっただけだった、生成その物は止まるも、生成された物は残り続ける・・・つまり今まで通り、聖魔術士達が浄化をして回らなければならないのだ。ちょっと期待外れの結果を迎えつつもひとまずメーシェルバに帰り着く、メーシェルバの上空の浄化は後回しなので未だ暗い。
「これはセルアンナ リズリット王女、よくぞご存命で」
「お会いするのは何世紀ぶりでしょうか?魔剣 ワイバーン様?」
全身真っ黒のワイバーンが、悪趣味な装飾が一杯付いたスカートを持ち上げてお辞儀する、一方で全身白に近いラ・クインテット・ストラトスも同様の仕草で返す、しかし明らかに因縁があるように見受けられる挨拶だ、それもそのはず、純聖剣に対して暗黒魔剣、属性が完全に正反対・・・今となってはどちらも中立だが、歴史上今まで敵対していた者同士、指揮所は不穏な空気に包まれていた。
「で、レイヴァン レオ様の魔剣が本日、どのようなご用件で?」
「そちらこそ、何故この世にまだ居られるのでしょうか?」
・・・オメー主人だろ?どうにかしろ!
・・・宿敵同士だぞ?たまたま拾った奴がどうにか出来るわけないだろ!?
・・・いいから行け!このままじゃここで宗教戦争が勃発する!
グレイに尻を叩かれ一歩前に出される・・・もうバチバチだ・・・怖い。
「ラ・クインテット・ストラトス、もうそいつはただの魔剣だ、聖魔術と相対する存在だとか白魔術教会とクリット教とか関係ない・・・ただの落とし物だ」
「しかし!この者は!」
「落とし物とはなんだ!偉大なる黒魔術師、レイヴァン レオ様の魔剣、ワイバーン様だぞ!」
「魔剣に決定権は無い、レイヴァン レオは死んだ!レイヴァン サーヴァルキングも倒した!主人なる者を失ったただの魔剣だ」
「とは言いましても、リズリット王国を滅ぼし、なおもロンドクルツ神聖帝国の民をも食らいつくす黒魔術の現況たる者の魔剣・・・生かして置くには!!」
「レイヴァン様はクリット教の使いである皇帝の命に従い、人界を混乱させる悪魔イルエルナの使者を倒すべく、黒魔術の研究を進め、神聖帝国と人界の安泰に務めた!」
・・・こりゃ、拉致があかん。
ポケットから指輪を2個取り出す、ラ・クインテット・ストラトスとワイバーンの物はひと際豪勢なので見つけやすい。
「・・・お前らの主人は・・・今、誰だ?」
二つの指輪を見せれば二人は黙り込んだ。
「ひとまずは術式破壊に成功した・・・が、ブラックアウトの侵攻が止まっただけで今後も浄化は必要、我々はメーシェルバを引き続き防衛する・・・問題はルナだ、アイツ、ソル サーヴァルキングに引っ付いてファーバンラグニスまで行った可能性が高い」
「どうしてそう分かるんだ?」
マルコーが良い質問を投げてくる、それで左手の人差し指の指輪を外してメーシェルバの地図の上に置いた。
「エルを失った後、俺は姉が使っていた魔剣、ラピッドソレイユを使用していた・・・それは言わんでも分かるだろ?」
「言われなくともそうだな?」
「今、ラピットソレイユはルナが持っている、変わりに俺は道中で拾ったドレッドウッドを持ち運んでいたんだ・・・ラピッドソレイユは両手剣、ドレッドウッドは大剣だ、こんな重量物を一人で抱えられなくてな?」
「・・・なるほど?」
マルコーが首をかしげている、その隙にラピッドソレイユの契約指輪をラ・クインテット・ストラトスに投げた。
「・・・さぁ、本体は何処だ?」
「・・・凄く遠い・・・東の方・・・?」
「・・・と言う訳だ、ちなみに同じ事をこの趣味悪い奴も言ってる」
「趣味悪いって何!?魔剣ワイバーン様だぞっ!?ちなみにこれはクリット教の由緒正しい黒魔術師の正装だぞっ!?」
「・・・そのバチバチピアスもか?俺達神聖帝国人がデフォルトでなんとなく信仰している宗教はそんなに悪趣味なのか?」
「君達みたいなイルエルナの使いの真似みたいな恰好の方が信者としておかしいよ?」
「クリット教は本来、大変ご趣味の悪い装飾を身にまとうのが通例でございます、よってピアスも例外ではございませんよ?」
ラ・クインテット・ストラトスはニッコリ。
「・・・俺らの祖先はどうやら皆コレだったらしい」
「まじかぁ・・・」
フーリエがドン引きするが、聖魔術士長は話を戻したくてウズウズしていた。そうだ、そういう事を聞きたい訳じゃないからだ。
「・・・つまり、魔剣なら足取りと言うかなんかを追えるって事か?」
「おっさん惜しい!魔剣と契約リングは見えない糸で繋がっている!」
「その間を通る聖魔力がどこの方へどの程度の量が流れているのかをなんとなく私達は感じ取れる・・・それだけです」
「へーっ・・・便利だな?」
聖魔術士長はワイバーンとラ・クインテット・ストラトスの説明で今、目の前で何が起きたかを理解する。
「聖剣も、それ、出来ますけれど」
グレイの横でセイレンはボソッとそう言った。
「そこは聖剣も、魔剣も変わらないのかもね?」
フーリエもマルコーの隣で呟く、しかしミナは否定的だ。
「・・・いえ、聖剣は恐らく・・・聖剣だけしか追えないかと・・・現にお姉ちゃんはシーズさんが契約しているとされる魔剣を特定出来ていません、キュリアさんもそうです」
「えっ・・・うそっ!」
「ラ・クインテット・ストラトスさん、それ、貸していただけないでしょうか?」
セイレンはラ・クインテット・ストラトスからラピッドソレイユの契約指輪を受け取りしばらく黙り込む・・・。
「・・・本当に・・・分からない」
「セイレンまで?」
「うそじゃない」
セイレンは指輪をフーリエへ
「・・・あっ、駄目だこりゃ」
その様子を見て、ワイバーンは魔剣こそお前達下位互換より優れた存在であるのだよとドヤ顔、しかし、ラ・クインテット・ストラトスは何か物言いたげだ。
「あのー・・・シーズ様?」
「なんだ?」
「わたくし・・・てっきり貴方の魔剣、ルナ様だと・・・なぜいつもお使いにならないのだろうと・・・思っておりました・・・」
「・・・ルナ?」
・・・理解出来ない、この場の魔剣以外がそういう顔をする。
「いや、だが・・・アイツに聖魔力を注いでも剣にはならなかった!跳ね返されるだけだ!」
「だから行ったじゃん、わたしら魔剣を使うには聖魔力の他に魔力も必要だって!」
「それに、普通は聖魔力を通しますが、人の状態であれば、意識さえすれば通さない事も可能です・・・」
「だが、魔剣は聖魔力とか持たないんだろ?なぜ聖騎士の資格を持ってるんだ?おかしいだろ?グレイ君、マルコー君?君達は少なくともその試練を乗り越えたはずだ、抜け道はあるのか?」
「聖魔力を持たない・・・はここまでで十分当てはまります・・・が・・・」
「聖魔力が無ければそもそも聖騎士学校の卒業資格が得られないはずだ」
聖魔術士長達はそこに疑問を感じる、職業は違えど、聖騎士になるまでの過程を知っている、そしてその過程を超えてきた者達、勿論自分もそうだ。しばらく部屋に静寂が訪れる。その静寂の中で動き出したのは・・・セイレンだった。机の上の魔法ランタンをおもむろに手にした。
「・・・もしかして・・・これでは?」
「そう言えば、学生時代は似たような物を腰にぶら下げてたよね?そもそも魔法ランタンってファーバンラグニスでは中々手に入らないし、使い方もよく分からないガラクタ・・・もといアンティーク家具だよね?装飾品として身に着ける物でも無いはず・・・」
「・・・そういう事か」
魔法ランタンに聖魔力を貯めて普段使いしていた、それならば納得が行く。
「それならば、ルナ クレムニルが魔剣だと説明出来るな・・・と言う事は、ルナは魔剣だからミナを使う事が出来なかった・・・そもそもだ」
ミナがグレイの口から発せられる言葉に備えてつばを飲み込む。
「ミナは今まで誰とも契約していない可能性もある」
「・・・やっぱり」
ミナは泣き出す、そして右手に絡みついてくる。
「ミナ・・・?」
「・・・シーズさん・・・私を貰ってくれませんか?」
「俺にはキュリアが既にだな・・・?」
だが、腕を思いっきり下に引っ張られ、ミナの唇が自分の唇に重なった、この場が同様する。しばらくの静寂の後、ミナが唇を放し、満足そうな吐息を立てる。そしてこう言った。
「・・・これで、私は貴方の聖剣・・・です」
「ミナ・・・一体何を・・・?」
「2番目・・・いや、4番目でも構いません!傍に・・・置いてください」
ミナは顔を真っ赤にしている・・・セイレンからグレイ、マルコーにフーリエ、そして聖魔術士長の順に自分は顔色をうかがった・・・一番に声を上げたのは、聖魔術士長だ。
「・・・あー・・・俺は、黙っといてやる」
「シーズ、お前は・・・そのだな?」
「元々聖剣をまともに・・・」
「使えませんからね?」
「・・・本来は犯罪だよ?ミナ・・・シーズが元々ポンコツでよかったじゃん」
「私らはねぇ?」
「魔剣なので神聖帝国の法律までは存じ上げませんし?」
だが、全員動揺しっぱなしだった。
「・・・皆・・・すまない」
ひとまず謝った。
「まぁ・・・お前の周りは聖剣だらけだからな?困った時は他の聖剣に頼れるし魔剣でもごまかせる・・・で、お前は自分の魔剣を迎えに行く必要がある・・・そうじゃねぇか?」
ズレた話を聖魔術士長は上手く戻してくれる。これに乗るしかない。
「そうだ」
「ここは俺らで任せろ、俺は同期の中でナンバー3!グレイはナンバー2だ!お前とルナは同格1番・・・そうだろ?ここに残っている仲間達も俺の下に続いていく主席クラスの強者ってもんよ!お前が抜けたってメーシェルバを守れる・・・武功を立てればヴォンデール城もお前の城に出来るかも知れんぞ?」
「マルコー・・・」
「ついでに・・・だが、俺達の家族も頼みたい・・・本来は俺らが行くべきだが、お前をファーバンラグニスに行かせる代償だ、お前が行かなければ何も始まらない・・・サーヴァルキング級を倒せるのはお前だけだ」
「アーシェリア家には実の親のごとく色々と世話になってる・・・必ず救って見せる」
「行ってこい!英雄!部下に急ぎ準備をさせよう!」
聖魔術士長はそう言って指揮所から出ていく、セイレンとフーリエに追い出されるように自分らも指揮所を後にする、向かった先は病棟だ。
「なんだ、生きてたのか、クソ聖騎士」
「ご無事でしたのね?クソ聖騎士」
「サーミャ、キュリア、元気そうだな?」
「これの・・・」
「どこが・・・?」
二人は全身の包帯を見せびらかして怪我人である事を全力でアピールする。
「皆さんお揃いで・・・どうしたんですか?」
「俺が契約している魔剣・・・ルナだったんだ」
なんの冗談だ・・・?サーミャ、キュリア、エリスは混乱して酷い顔をする。
「ルナは恐らくサーヴァルキングに引っ付いてファーバンラグニスに向かった、俺はルナを迎えに行かなきゃならない、エリス、ファナ、二人の面倒を頼む」
「お気を付けて」
「生きて、帰ってきて?サーミャもキュリアもあんな事言ってたけど、本当は凄く心配してたから」
「べっつに!たいした心配してた訳・・・!」
「どーせ貴方の事ですからサーヴァルキングくらい!いともたやすく倒して来ると思ってましたわ!!」
サーミャとキュリアは顔を真っ赤にしてつべこべいう。
「・・・ほらね?」
ファナは両手を上げて困った顔だ。
「おとなしく怪我直せ、特にキュリア、キーキー騒いで傷口開けるんじゃないぞ?」
「誰がうるさい奴ですって!?」
そう言い放った後、腹部を抑えて悶絶する、それを見届けた後病棟を出た、用意するとは言っても馬車に食料を積むだけ、もう準備は出来ていた。
「お前らも、来るのか?」
「私達の主人は」
「誰だっけ?」
「・・・俺だな」
馬車まで行けばミナが待っている・・・までは分かる、ラ・クインテット・ストラトスとワイバーンも居たのだ。
「ミナも・・・良いんだな?生きて帰れるか分からないぞ?」
「たとえ、使い物にならなくても・・・私はシーズさんと一生を添え遂げたいと思います」
「・・・ミナ、エルの代わりは演じなくて本当に良いんだ」
「いえ、本心です・・・それより、早くしましょう!る・・・ルナさん!魔剣とはいえ!生身ではいずれ命を落としてしまいますっ!」
ミナは顔を真っ赤にして荷台の方へ走っていく・・・原因は後ろの魔剣どもだ、何か腑に落ちない笑顔でミナの告白を眺めていたのだ。
「・・・言うねぇ」
「どんどん恋敵を増やしてくれますわね?」
・・・魔剣は・・・基本的に・・・愛が重くて困る。
既に非常に疲れてしまう・・・だがこれからだ。馬車に積む最後の食料をセベストリアが持ってきた。
「積む物はこれで最後ですわ」
「助かる」
「お礼はまだ早いですわ?」
セベストリアはそう言って前の方へ、馬車の運転台へ乗り込んだのだ。
「・・・行くんでしょう?ファーバンラグニスまで」
「いいのか?」
「馬車の運転くらいは任せなさい、貴方が安心してここに戻ってこられる足を守るのがわたくしとマーキュリーの仕事ですわ?貴方には死んでもらうつもりはありませんので」
「分かった、馬車を頼む」
セベストリアに馬車を頼む、マーキュリーも運転台の反対側に居た。馬車はメーシェルバを出た後、当然のごとくオービット平原を突き進む、最短ルートなのである。
レイヴァン レオの正体が明らかとなり、彼は完全なる極悪人と言いきれなくなってきました。しかしルナがソル サーヴァルキングにさらわれ、ファーバンラグニスに重大な危機が迫ります。
最後までお付き合い願えると幸いです。