二重契約と蟹
エルとキュリア、今となっては二重契約ではありませんが、重複していた期間がある・・・常識的に他の聖剣も許しがたいはず・・・しかしエルの残した魔剣との契約と言う言葉、これがどうもシーズには引っかかっている。その魔剣とはいったいどれなのか?
・・・ようやく来たか。
メーシェルバ確保の第一関門は突破、聖魔術士さえ居ればブラックアウト浄化をもってサーヴァルが容易に近づけない状況を作り出せる。連絡隊が連れてきた一団の中から聖魔術士長を探す、だが本人がこちらに向かってきた。
「ついにミスリルまでやったって?すげぇな・・・」
「連絡隊の話、何処までファーバンラグニスに知らせた?」
「メーシェルバ奪還は伝えた、返事待ちだが、ファーバンテセウスの守衛がそのままマリサックに押し出し、グランゴッツに兵は置かないそうだ、いよいよ聖騎士の在庫が切れたって感じだな?こんな大都市を抑えて疲れていると思うが、ここからは迅速にレーヴェンを取らなきゃ押し返されていく」
「ひとまずの第二関門も抑えた・・・か」
「第二関門?なんだそりゃ?」
「頼みがある、ここから先の都市の奪還報告はファーバンラグニスにしないでほしい」
「何故だ?」
「うちに居る王女の故郷だ、あんたくらいだったら面識もそこそこあるから良いとはいえ、今までの町の守衛隊に屋敷とかの接収や統治は避けたい」
「・・・なるほどな、分かった、協力する・・・と言うより俺ら後方支援もメーシェルバ以降の町まで支援を伸ばせない、お前がこの先の町を奪還しようとも俺らはここまでだ」
「構わない、そしてあんたにふさわしい椅子がある、座面は抜けないしテーブルも割れない、棚が崩れる事も無ければ床も抜けない、ドアも頑丈、最高の部屋が待ってるぜ?」
「そいつはありがたい所だぜ」
今度はどんな部屋が待っているのか・・・聖魔術士長は不安になりながら連絡隊の馬車に乗り込む、馬車にはヴォンデール城まで行くよう指示した。
「・・・しかしほぼ完全体じゃないか・・・本当に高速魔法修復剤を町中にばらまいたのか?」
「そうする他無かった、だがメーシェルバには魔法具店が無数にある、高速魔法修復材についてはむしろプラスだろうとは思う」
「在庫については気にしちゃ居ねぇ・・・30人程度でよくもまぁこんな広範囲を・・・」
「聖剣にも協力してもらって倍だ」
「相変わらずオメーは聖剣使いが荒いな」
「今に始まった事じゃないだろ?」
「そうだがよ・・・?」
馬車かつ、人が歩いていない大通り、流石に一直線では敵に簡単に攻め込まれる為あちらこちら曲がるものの、10分でヴォンデール城にたどり着く。
「こりゃすげぇ」
「だが、これは行政庁舎・・・らしい」
「全部一か所なのか・・・効率よさそうだな?」
「勿論民間人が行政手続きする役所は点々とはしている・・・あんたの部屋はこっちだぜ?」
聖魔術士長を連れて行政庁舎の一番上、総合執務官、いわゆる元老院議長のような役職に居た人間が使う部屋へ入れる。
「マジで良い部屋じゃねぇか・・・?お前らはどうすんだ?」
「俺ら?西門に近い宿屋だ」
「なんなら西門に近いギルドみたいな建物でも良いんだが?」
「あんたはこの城が聖騎士団や政治家なんかの手に渡るのを防ぐ人質みたいな物だ」
「俺が?俺ごときが?ギルド長階級は持っているが大した権限もねぇぞ!?」
「別に何か抗議しろと言う訳じゃない、肝心なのはここが遠征隊の本部である事だ」
「つまり?」
「遠征隊の作戦機能をここに統一している、下には元王国騎士団の本部がある、近衛兵用の病棟も使用中だ、今の所は西門に戦力を集中しているが、聖魔術士も加われば兵舎も使っても良いだろう・・・だが現状誰も居ない事がほとんどだ、そこでそれらしい地位に居るあんたが必要と言う訳なんだ」
「見かけだましでも常に人を置いておきたい・・・と」
「そういう事だ、悪いな」
「良いさ良いさ、あんたのおかげでここまで来れたんだ、何処までも付き合ってやるよ」
「それじゃ、頼んだ、城の事は下の指揮所に居るラ・クインテット・ストラトス・・・いや、セリアンナ リズリット陛下にでも聞くといい」
「おう・・・分かった」
聖魔術士長は出ていくシーズを見送った・・・そうか、そう言えばあの魔剣、リズリット王国の王女様だっけ・・・。
聖魔術士長を置いて下の指揮所に戻ればラ・クインテット・ストラトスだけが暇そうにティーカップで何かを飲んでいた。シーズを見るなり手にしていたティーカップをテーブルに置く。
「これはシーズ様、何かありましたでしょうか?」
ティーカップを見れば湯気が立つ透明な液体・・・どうやらお湯を飲んでいただけのよう、紅茶のような嗜好品は無いらしい。黙ってラ・クインテット・ストラトスの手を握る、顔を真っ赤にするが、何を試されたかぐらいは分かるようだ。
「・・・あの・・・ご契約なさらなければ・・・そのー・・・」
「・・・いや、魔剣に聖魔力を注いだらどうなるか・・・を知りたかった」
「それは・・・背中の魔剣とも変わらない気が・・・」
「・・・確かにそうだった、悪い、変な事をした」
「えぇ・・・えー・・・」
顔を真っ赤にして動揺しているラ・クインテット・ストラトスは指揮所に放置して今度は病棟を目指す、サーミャとキュリアがベッドの上でひたすら天井を眺めてぼーっとしていた、エリスとファナが様子を見ている。
「調子はどうだ?」
「・・・最悪ですわ」
キュリアはそんな弱弱しい返事を上げる・・・が、確かめたい事が一つある、キュリアの手を握った。
「そんな・・・死ぬような状」
・・・やはりか。
キュリアがのろけのような何かを言い終わらないうちに手元に現れた物を眺める、美しい紫の剣身こそ変わらない・・・だが短剣だ。
「えっ・・・それどういう・・・?」
「エルさんと同じ現象・・・」
それでサーミャが飛び起きた、エリスが手に持っていた包帯を地面に落とす、ファナは一切動揺していない、ルーカスの一件ではキュリアの協力者だからだろう。
「・・・おい・・・クソ聖騎士・・・?お前・・・いつ角紫と契約した・・・?」
「・・・ルーカス奪還後・・・だよ?」
サーミャの質問に、ファナが答える。
「それって・・・」
「二重契約してた・・・だよな?」
「ああ、そうだ」
エリスとサーミャが困惑し始める、そう、普通は犯罪だからだ。
「でもキュリアから仕掛けた、睡眠薬を紅茶に混ぜて眠らせた後、シーズの聖魔力が何処へ消えているのかを勝手に調べようとしただけ、シーズは悪くない」
ファナはうつむく。
「・・・見ての通り、エルに問題は無かった、問題があるのは俺だ」
キュリアをベッドの上に置く。サーミャの目は完全に畜生を見る目だ。
「エルさんを失ったから今は合法とはいえ・・・」
「二重契約をしていた事実が発覚した時点でお前、聖騎士の資格はく奪されるんだぞ?おいファナ!なんで黙ってた?」
「だからシーズには落ち度が無い、それにシーズは聖剣を実剣化出来なくても問題化しない、それにシーズを訴える事はエルがやる事、でもエルはそれをしなかった、だから誰にも言わなかっただけ・・・でもなんでサーミャやエリスにこれを見せたの?」
「今となっては合法だからだ、だが俺自身に起こっている問題はもっと別にある」
「キュリアは低級聖剣と沢山契約してただとか、犯罪に関与していただとか、色々考えてたみたいだけれども・・・」
「全く見当外れもいい所だが・・・もし、魔剣と契約しているのだとしたら・・・?」
「一本で聖魔力を根こそぎ吸い取るのも・・・出来そう?」
ファナが鋭い答えを言いつつ首をかしげた。
「それじゃ、お前は相棒の魔剣を何処へやった・・・?それがあるくらいならエルと契約しなくても良かったよな?」
サーミャがベッドから立ち上がりシーズの首を締めてくる、腕の包帯から血がにじむ。
「ちょっとサーミャ!」
エリスにサーミャを抑えて貰うが、サーミャの怒りはそれでは収まらない。エリスは実剣化され、シーズの喉元に突きつけられる、それをファナがキュリアで抑えつけた。
「お前がアイツと契約しなければアイツはお前をかばって死ぬ事も無かった!なぜ契約した!最初から死なせるつもりだったか!?私ら聖剣の命はお前の中では消耗品と言えるほど軽いのか!?」
「そこまでだよ!サーミャ!」
目の前のサーミャは急に白目を向いて倒れた、ファナが腹部を蹴ったのだ。エリスの剣身が大きな音を立てて床に当たる金属音が病棟に響き渡った。
「・・・シーズは、聖剣を消耗品と思っていない」
ファナはベッドの向こう側に移動し、頭から地面に落ちたサーミャからエリスを奪い取り、実剣化を解除する、エリスはサーミャを急いでベッドの上に持ち上げる、その間にキュリアの実剣化を解除した。
「・・・何をしたんですの?このクソ聖騎士」
「エルに起こった事と同じ事が起きるのをお前で確認したかっただけだ」
「・・・場所くらい選びなさい!」
キュリアは痛みを堪えながらベッドに座る。
「ともあれ、いずれサーミャ達にはバレる」
「それは・・・そうですけれども!」
「ねぇ・・・キュリア・・・ファナの話って本当?」
「えぇ、全てわたくしが勝手にやった事ですわ?コイツは元々聖魔力が足りない、エルさんさえ大声を上げなければ二重契約など誰にもバレやしません事よ?」
「・・・で、何か得られたの?」
サーミャをベッドに寝かせた後、エリスは腕を組んでキュリアを見下ろす。
「・・・ブロックハーストの二人が知っていた事以外は全く掴めませんでしたわ」
キュリアはうつむいた。
「まぁ、別に、それを知ったからと言って、シーズさんを法廷に突き出す気はないんだけれど・・・その、キュリアが考えていた原因の相手、魔剣・・・だとしたら?」
「・・・魔剣?あり得ませんわ?」
「・・・恐らく魔剣と俺は契約しているはずなんだ、だが、俺はその相手を知らない」
「もし、そうなら・・・その背中の物じゃありませんの?お姉様がお持ちでいらしたのでしょう?」
「もし、そうだとしたら俺はラピッドソレイユを人の形に戻せるはずなんだ」
「でも戻せない・・・少なくともラピッドソレイユではなさそう・・・かな?」
事件はまたも迷宮入り・・・エリスは眉間のしわを増やす。
「聖魔力の流れ・・・分からない?」
「それが・・・全然見えませんの、かなり遠い所にあるような・・・そんな感じですわ?エルさんもそう言っておられましたし・・・でもなぜそれが魔剣と?」
「エルが最後に言ったんだ、貴方は魔剣と契約している・・・と」
「そう言われれば異常な聖魔力の消費も納得が出来ますわ・・・しかし、魔剣も普段はわたくし達と変わらない聖魔力消費なはず・・・」
「それは初耳」
「ラ・クインテット・ストラトスが言うんだからこれも事実ですことよ?」
「・・・聞いたんだ、それでキュリアは魔剣では無いと確信してたのね?」
じゃぁ、さらに答えが分からないじゃないか!エリスの口元が歪み始めた。
「もしかしたら・・・レーヴェンとかに落ちているのかも?」
ファナがいかにも的確な答えのような予想を立てる。十分にあり得る話だが、レーヴェンに行った事も無ければ姉もレーヴェンまで到達していないはずだ、そこに答えがあるようにも思えない。
「その可能性もありますわね・・・ひとまず、そこをどいてくださいまし!わたくしもそろそろ起きているのが限界でしてよ?」
「・・・悪い、邪魔した」
「全くですわ!怪我人をいきなり剣に変えるだなんて!非常識にも程がありますことよ!サーミャが起きる前にとっとと何処かに消えてくださいまし!このクソ聖騎士!」
「悪かった」
「・・・後は任せて」
「・・・うん、サーミャは私とファナで説得するから」
「仕事増やしてすまない」
ファナに軽く押されながらエリスに謝った、そして病棟から出される。正面の門の先に広がる大広間ではメーシェルバ浄化の準備が着々と進められていた。
西門へ戻ればサーヴァルの襲来だ。
「遅すぎますわ?何処で油を売っていたのかしら?」
「セベストリア・・・お前剣を振れるのか?キュリアより細い腕して・・・」
「差して抜く事くらいは誰だって出来ますわよ!?いいから早く前に行きなさい!」
セベストリアに引っ張られるように西門の外へ出る・・・サーヴァルキングのお出ましだ。
「・・・マジかよ」
だが状況がおかしい、ルナしか居ない。
「おい!セベストリア!状況はどうなってる?」
「皆、聖魔力を吸われて全滅ですわ?ミナ ブロックハーストですら痙攣してお嫁にすらいけない痴態を晒していますことよ?そういう訳ですのでわたくしはこれにて」
「おい!待て!」
セベストリアは西門の通路を閉めてしまう。
「ルナ!どういう事だ?」
「マルファナの森のアイツ・・・そう!ゴーゴン サーヴァルキングと同じ奴!」
「あぁ・・・マジか」
・・・と言う事は・・・これしかない。
ラピットソレイユを地面に突き刺し鉄剣を抜く、ルナが持っているのも鉄剣だ。
「これねぇ・・・私達じゃないと無理っぽい」
「何故だ?」
蟹のような見た目のサーヴァルキングの攻撃をかわしながらルナへ近づく。
「聖魔力が無い奴じゃないと直ぐ吸われて意識を失う、おかげで全滅だよ?」
「じゃあ?」
「もう皆セベストリアとマーキュリーが中に入れたよ!!」
「なら良かった、ひとまず足止めるぞ!!」
「分かった!!」
・・・しかし切れたのは腕だけ、足が細い上に30本以上はあるのでは?という本数の多さ、関節の柔らかい部分が全く狙えない・・・完全に積んだ。
・・・やっぱり頭か?
・・・サーヴァルキングじゃなければ、食える部分多くて美味しそうなんだけれどなぁ?
・・・てめぇ。
コイツは食べられる物では無いのだが、色合いが茹でた蟹その物なので食いしん坊のルナがそう思うのも無理は無い、だがサーヴァルキングだ、元々人間だった屍だ、きっと美味しくない、そのはずだ。
・・・だが、それにヒントがあるはずだ、そもそも加食部分は足だけじゃないはず、甲羅の中も美味と聞いた事があるが、あいにく売られている所は見た事があっても蟹自体高級食材なので、ここは食べた事ありそうな食い意地の強い相棒の知識に頼る他無い。
「おい食いしん坊!蟹の甲羅の外し方教えろ!」
「食いしん坊って何!?付け根に指をかけて持ち上げるんだよ!?食べた事無いの!?」
「悪いな!うちはそこまで金持ちじゃない!」
ひとまずラピットソレイユを持ち替える、この大きさだ、手をかけて簡単に外れる訳が無い、だったら極力長い物でこじ開けるのみ、これでラピットソレイユが死ぬ可能性は無いだろう、前回のゴーゴンサーヴァルキングの時はエレベラを使用して問題なかったからだ、たぶん。
流石は俺の相棒だけはある、やりたい事は理解しているようだ、顔に近い甲羅の付け根に同時に剣を差し、そしてこじ開けようとした、その時だ。下向きに激しい負荷を感じた。
・・・うっそだろ!?
下に地面が無い、かと思えば急に迫ってくる、そしてまた離れるを三回耐える頃には剣がサーヴァルキングから抜けてしまった。ルナと同じタイミングなようだ、二人で地面を転がる。足の感覚がおかしくなり立てない。
「くっそっ!」
だが立たなければならない、ラピッドソレイユを杖にして立ち上がる、ルナの足も生まれたての小鹿だ、周りは町、サーヴァルキングは教会のような瓦礫に足を取られている・・・その不整地に強そうな足はほとんど飾りなのか?とは思うがどうやら足が細すぎて飛んだは良いが着地時の自重を受け止められる太さが無く、半数の足を目の前で破壊してしまったようだ、それで立てない・・・うーん、アホらしい・・・。
生まれたての小鹿同然の足でサーヴァルキングを目指す、甲羅は取れかけのようでそうでない感じだ、土埃が飛んでいけば状況が分かってくる、そして教会内の石作りの椅子に凄く使えそうな物があった。
「シーズ!アレ!」
「分かってるっ!」
よたよたと走ってラピットソレイユと凄く使えそうな物を交換する・・・聖剣だろう、それも形状は大剣だ、とても重い、それを甲羅の付け根に突き刺す、出来る限り助走を付けで確実に刺さるように・・・。
「ルナ!」
「そーれっ!」
・・・なんて察しの良い事、恐ろしいくらい思い描いた事をしてくれるこの相棒・・・ルナは瓦礫の上を飛んで、シーズを踏み倒して宙を舞う、そして大剣に向かってドロップキック、それで甲羅が完全に剥離した、踏まれた衝撃に苦しみながらもラピッドソレイユを拾いに行く、そして甲羅の中身に突き刺した・・・中身は到底美味しそうな様子は無かったが、これで全てが終わったのだ。
「・・・お前・・・よくあれだけで分かったな?」
「だって甲羅、外すんでしょ?外した先にある蟹味噌、あれが絶品なんだ!それを食べた事が無いなんて人生損してる!」
「だから俺の家はそんな金持ちじゃないと言っただろ?・・・と言う事は、お前貴族出身か?」
「それはー・・・どうかな?」
ルナは大剣を軽々持ち上げて押し付けてきた、重さでそのまま下敷きになる、その頃にはサーヴァルキングは灰になり始めていた。
「・・・さて、帰りたい所だが・・・ここは何処だ?」
「・・・さぁ?」
「・・・だよな」
まずは地図が欲しい・・・だが、高速魔法修復材の持ち合わせは無い。教会はかなり頑丈なのか原型をとどめていた様子があるが、さっきので崩壊が始まっているようなそうでないような・・・ひとまず危険だ、出よう。
外を目指す、教会を出ると本格的に崩壊が始まった、周りは何もない、町があった跡しか無い、教会の崩れる土埃からひたすら逃げて落ち着けば遥か彼方に城のようなとんがった人工物が見える。
「結構拉致られたねぇ?」
「メーシェルバに帰るぞ・・・」
「蟹食べたい!」
「補給にそんな高級食材は無い!」
「うそー!!」
「ミーナに聞いてみろ!絶対無いはずだぞ?」
「えー!食べたい!」
「馬鹿!海産物は足が早いんだぞ?」
「食べたい食べたい!」
・・・拉致があかねぇ。
ひとまず人工物を目指して歩き始める・・・帰ったら飯だ、蟹の話をしていたら腹が減って来た。
「・・・わたくし、怪我人なんですけれども」
「そーだそーだ・・・」
「文句をいうんじゃありませんわ!?西門の守衛が全滅ですのよ!?それに聖騎士様も連れていかれているんですのよ!?」
「そう、今我々は自衛手段が無い、怪我人だろうと聖魔力を注げ!たいして動けないならこれくらいやれ」
「後で覚えてなさい・・・?セベストリア!マーキュリー!」
エリスは口喧嘩しているセベストリア達を眺めながら汚れた軽量鎧の下半身を外へ持っていく、上級聖剣ともなれば鎧もおしゃれ、ミナの鎧は髪色と同じ赤い配色が至る所に施されている、勿論装甲スカートにも色が入っている。自身の髪の色に合わせるのが最近のトレンドである。その為キュリアは紫、セベストリアは金、マーキュリーはミナと同じく赤だがマーキュリーとミナとでは模様のデザインも若干異なる、家紋の紋章がモチーフになっているので当然の事・・・エリスが手にしているのはミナの物、全身の筋肉が痙攣している為、筋肉がゆるんだ事によって漏れてしまった汚物で汚れてしまっているのだ、外には他の聖騎士、聖剣の鎧もあるが、圧倒的に聖剣の物が多い、体の構造的に女性の方が下回りは弱いせいだとは思う・・・異臭もそこそこだが洗うのは後、ミーナさん達も食事の用意は後回しにして救援に来てくれているので聖魔力補給は直ぐには終わると思うが、なぜ、シーズさんとルナさんは平気なのだろう?元々無いから?無い状態に慣れ切っているから?
エリスはミナの鎧を地面に置く、レースの装飾のある貴族らしい下着が無残な事になっている、貴族は下着もおしゃれなようだ・・・とても高そうである・・・うらやましいな、こんなのが履けるお金持ちの家に生まれたかった。
途方にくれながらひと際大きい行政庁舎を眺めた。その行政庁舎では・・・。
「ひとまず聖魔術士を送っているが・・・マルコー君一人だけでどうにかなるかね?」
「心配しなくて構いません、あのガラ悪い奴でも自分らの中ではナンバー3です、そう簡単にやられる奴じゃありません、勿論、自分も、そう簡単にやられるつもりはありません」
「だが厄介な事に相手は聖魔力を吸う化け物だ」
「そう言えばファーバンテセウスにはソロモニスで消息を絶った神聖帝国の部隊の報告書があると?」
「ああ・・・えーっと・・・ちょっと待てよ?」
聖魔術士長は手帳を取り出し、それをめくる、そして答えを見つけた。
「神聖帝国近衛騎士団レーヴェン制圧隊だ、きっとブラックアウトが発生して直ぐの部隊だな?隊長はピッコリーニ ルスウスが務めていた、出生地はファーバンテセウスだ、姿が蟹なのも影響がありそうだな?」
「とはいえ蟹は高級品かつ希少品、まぁ、それはさておき、シーズとルナしか接触出来ないのは不味い状況、おまけにアイツらは連れてかれてしまった、西に行ったとの事、そこで救援隊を編成したいところですが・・・」
「聖騎士も全滅だ、聖剣を振り回せる聖剣も普段は振り回される側だぞ?」
「聖魔術士だけで防衛は可能・・・でしょうか?」
「・・・場合によるな?だが不可能では無い、それに少しは救援隊に割ける、むしろうちの部下を連れて多少の聖騎士は残して欲しい、動けない奴でも構わない」
「調整します」
「分かった、救援隊用の馬車を用意しよう、準備が出来次第西門に送る・・・それまでは」
「マルコーに合流し、西門の防衛に努めます」
グレイはそう言って指揮所を出て行った・・・聖魔術士長はソロモニス上に置かれた二つの駒を眺めながら無言でただのお湯を飲んだ。魔力で決められたお湯を瞬時に沸かすと言う、ティーポットの4倍くらいの大きさの不思議な機械、魔導ケトルとやら・・・非常に素晴らしい、元王女様いわく、対して高性能な物では無い安物らしいが、なぜこんな便利な魔道具が廃れた?
夫婦二人組が拉致され、マルコーとグレイが表に出てくるようになりました。
所で拉致られた夫婦二人組はメーシェルバまで戻れるのか?
最後までお付き合い願えると幸いです。