表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dark Breakers  作者: verisuta
遠征隊としての責務
13/17

王都メーシェルバでの決戦

高速魔法修復薬の準備は万全!魔法花火も点火準備ヨシ!さぁミスリル サーヴァルキングとの決戦だ!

・・・さぁ、決戦だ。

目の前にはリズリット王国首都メーシェルバがある、ブラックアウトには飲まれていた。完全放棄はブラックアウト後なはずなので草木に覆われ、荒れ放題となった跡こそ無いが、経年劣化で風化してしまっている。

「お前の実家だぞ」

「見る影も無いですね・・・」

ラ・クインテット・ストラトスは寂しそうな顔をする、だが涙を拭いてやるのはまだ早い、ミスリル・サーヴァルキングは確実に居る。

「そろそろ上げるぞ?」

「頼む」

シーズはマルコーに魔法花火の打ち上げを頼む。魔力を注がれた魔法花火の玉を発射装置に入れ花火の玉が空に打ち上がった。

「・・・綺麗なもんだなぁ・・・」

マルコーは上を見上げている。

「行くぞ、ルナ、キュリア、サーミャ、グレイ、マルコー」

「いつでも行けるよ?」

「さっさと片付けますわよ?」

「今に始まったことじゃない、どんどん突っ込め、クソ聖騎士」

先制攻撃隊の準備は万全だ。

「ラ・クインテット・ストラトス、俺らがミスリル・サーヴァルキングに接触したら2発目だ、ファナ、頼んだぞ?」

「お任せあれ」

「分かった」

ラ・クインテット・ストラトスに望遠鏡を渡して先陣を切る、サーヴァルは勿論一点集中、作戦はこうだ、さっきの花火でメーシェルバを囲むように配置した同僚達は割り振った配置に一斉に目指す、二発目の花火で高速魔法修復材を散布開始、聖剣も散布に加わる為、実質68人で1200本近い高速魔法修復材を町中に撒き始める。自分達はその揺動、ミスリル・サーヴァルキング傘下のサーヴァルはマリサックやグランゴッツなどでかなり数を減らしている、もう手駒としてもそこまで居ないはずなので、自分達を迎え撃つだけの配置しか出来ないはず、それに賭けている。賭けているのだがそこまで時間をかけられない、時間がかかる程、無防備な仲間が危険に晒される。

「さあ!行きなさい!!クソ聖騎士!!スケベ聖騎士!!」

キュリアがサーヴァルを切り刻みながら叫ぶ。

「ルナ、頼んだ」

「分かってるよ!!」

正面の一団をルナとキュリア、サーミャ、マルコーに任せ、グレイと一緒に裏路地のような瓦礫だらけの道へ避ける。

「角紫!アイツいつまで根にもってやがる・・・!!」

「諦めろ、所詮はあれも貴族様だ」

「だが!ありゃ事故だ!」

「そう言う事にしておいてやる」

「お前もか!!」

グレイとひたすら走る、そして作戦開始地点から近い高台をチラ見する、メーシェルバのヴォンデール城にたどり着く頃にはもうラ・クインテット・ストラトス達はたどり着いている事だろう・・・ここからは瓦礫で見通しの良いメーシェルバの町が一望出来る、綺麗なお花も咲き誇るお姫様時代のお気に入りの場所だったらしいが、今では草木も生えないただの丘、しかしメーシェルバ攻略の重要な場所だ。変わり果てた場所を見る事となるがしっかり役割を果たして貰いたい所である。

そう言えば何故今日の相棒はルナでは無いのか、普通の聖騎士が必要だからだ。ルナや自分のような聖騎士のような何かは本来必要ではない。

全力で走って30分、ラ・クインテット・ストラトスいわく、現役時代は裏道縛りで王宮までの最速ルートだったらしい道、本来存在した壁を突き抜けるショートカットもして最速記録を更新と言う訳だが、それでも本来1時間以上かかる大都市、しかもその先にボスが居る。

「・・・居た!」

「・・・マジ?」

グレイもクタクタ、だが戦わねばならない、しかも抜かりなく護衛のサーヴァルを配置している、爆発しそうな肺に鞭を打ちながらミスリル・サーヴァルキングに切りかかる、サーヴァルを避けて避けて攻撃を加える、その時空が明るくなる、予定通りの2発目だ。

・・・これは・・・予想以上だぞ?

建物がみるみる再生を始めていく、ミスリル・サーヴァルキングも何が起きているのか分からない様子、それを理解出来る事がそもそもの疑問だが同様しているのには変わり無い。

「攻撃が・・・届いてやがるッ!!」

グレイはセイレンをミスリル・サーヴァルキングに叩き込む、傷の再生速度は他のサーヴァルキングと変わらない、大成功だ。しかし元が強い、ここでどのサーヴァルキングでも共通、何処が弱点か分からない問題が浮彫りになる、通例では頭だが、その頭が硬いのだ。

「まずい」

時間が掛かり過ぎ。町の再生はもう十分な所まで進んでしまっている。

「どうする!」

どうするも、柔らかい所から攻めていく他ない・・・首でも落とすか?

考えていてもしょうがない、ミスリル・サーヴァルキングの背中に上がり、首を力任せに叩き切る、何回かやってようやく切り落とせた、しかししぶとい、胴体だけが動く。

「そっち!頼むぜ?」

「は?頼むったって・・・?」

だがグレイは胴体を引き受けてくれる。魚のように跳ねる首の根本に向かってラピットソレイユを刺し、首ごと押すようにその先の壁を目指す、そして頭を壁にぶつけてラピットソレイユを根本まで突き刺した、そして断絶間・・・胴体も動きを止める、だがどうだ?と様子も見られない。ラピットソレイユをそのままにして鉄剣を抜いて護衛のサーヴァルを攻撃する。結果が分かった時には一番近い担当の同期達が加勢しにきてくれた。

「・・・やって・・・やったぞ・・・・!」

手が痺れて感覚の無い指でライゼンガルドの契約リングを拾い上げる。そしてその場に座り果てる、民間人の気配が無い周りの家屋の軒先に吊るされた魔法ランタンが中途半端に暗い町を照らしていた。

「上手くいったな」

同期に肩を叩かれ、立たされる、同期に肩車をされて作戦開始地点に近い東門まで連れていかれる。ラピットソレイユは同期の聖剣が運んでくれていた。キュリアとサーミャはまた大怪我、聖魔術士が居ないが、魔法傷薬と言う物がある、しかし普通の薬剤傷薬より若干優れている程度、通常の手当で動けなくなっている。

「やったなシーズ!流石我らの主席様だぜ!」

「無事か!マルコー!」

マルコーが出迎えてくれる、ひとまず抱き合った、そのあとマルコーはグレイにも同じ事をする、勝利を喜んでいる傍らでラ・クインテット・ストラトスに目が行く、涙目だ・・・自分らの帰還がうれしかった訳が無い・・・王都メーシェルバ、懐かしい故郷を目にして泣いているのだ。その横でファナが放って置くようにと手で合図している。しばらく触れない事とした。

大体が落ち着いた所で今後の事を考える。メーシェルバでしばらく足を伸ばしたい、そうするべきだ。ひとまず同期が連絡隊を編成してくれた。マリサックから聖魔術士軍団が来るのは割と直ぐになる事だろう。

「シーズ様」

「なんだ?」

ラ・クインテット・ストラトスに声をかけられる。

「少しお時間を頂いても・・・?」

「・・・構わないが・・・?」

顔が少し赤いラ・クインテット・ストラトスの手を引かれ、町の中心まで連れていかれる。立派なヴォンデール城の門をくぐりぬけ、建物の中まで・・・同期の連中がまんべんなく撒いてくれたおかげで町は多少倒壊が残る完全体である。王宮の外を見れば非常に美しい、異国の街並みが広がっていた。

ラ・クインテット・ストラトスはひと際大きい扉を開ける、明らかに目の前の椅子は玉座だ。きっと、王の間とかそう言った名前の部屋だろう。

「・・・立派だなぁ」

「我が国が誇る最高の部屋でございます、さあ、こちらへ」

「まだ進むのか?もういいだろ?それに本来市民階級の人間を入れるような場所でもないんだろ?」

「王国騎士団ともあれば階級など関係ありませんでした」

ラ・クインテット・ストラトスはシーズの手を引き、そして玉座の前に立たせるとそのまま玉座にシーズを押し込む。

「今日から貴方がこの城の主です」

そう言って微笑んだ・・・理解が追いつかない。

「元々あんたの家だろ?あんたが好きに使えばいい、俺らはその辺の民家で十分だ」

「これはリズリット王国王家よりメーシェルバ奪還の褒美です、今は無き国民もさぞかし喜ぶ事でしょう」

「いや、要らないんだが・・・?」

「ならば、わたくしと・・・その・・・婚約・・・いたします?神聖帝国製とは異なり、純聖剣は・・・そのー・・・お世継ぎ作りも・・・可能・・・なんですよ?」

「そこまでしてなぜ王位継承させる?」

「決まっています、王国復活の為でございます」

「俺は神聖帝国人だぞ?目を覚ませ」

「しかしながら、神聖帝国が我が祖国を侵略し、そして自らの歴史を大きく改変していた。そもそもは聖魔術こそ女神イルエルナが我が国にもたらした神聖なる魔法術式、堕天使クリットが神聖帝国にもたらした物ではございません、堕天使クリットはそもそも女神イルエルナの弟であり、序列上では天界の権力を握る事は無い、知識の神になられるはずだったお方、しかし天界を支配する野望は規則だからと諦める事はなさらず自らの物とする為、暗黒魔法にその身を染めていきました。

女神イルエルナは弟を極力かばって天界追放を避けていましたが、天神オーデリックにより女神イルエルナに天界の治安かクリットの追放を打診し、最終的にはクリットと共に天界を去る事を選びます、しかし天神オーデリックも先は長く無く、天神の座を女神イルエルナ譲る為、再び天界に引き上げました、その事に堕天使クリットは激しく激怒し、イルエルナを偽りの神と人界人に説き、人界の神となる事を決意なされたのです。暗黒魔法に染まり、人界の秩序の崩壊を防ぐ為、リズリット王国は女神イルエルナの使いとしてロンドクルツ神聖帝国と聖戦を500年も繰り広げたのです」

「・・・とはいえ、俺はそのクリット教の人間だ・・・たいして信仰もしていないが・・・」

「だからこそ、イルエルナの使いとなっていただきたいのです」

「信仰者そのものがいなくなってしまった宗教を信仰しろと言われてもだな?」

「実際、ロンドクルツ神聖帝国に疑問を持っていらっしゃる・・・そうでしょう?」

「やっぱり何が目的だ?」

「・・・この町だけは・・・信頼出来る方に統治してもらいたくて・・・」

「・・・最初からそう言え!神話を持ち出すんじゃない!」

ひとまず玉座から立ち上がり、ラ・クインテット・ストラトスの束縛をほどく、元々ひじ置きに座っていたラ・クインテット・ストラトスはバランスを崩し、玉座に倒れ込んだ。そしてかぶらされていた王冠をラ・クインテット・ストラトスの頭に置く。

「流石王族だ、それはお前の頭の上が一番良いだろう」

そう言い残して王の間とやらを後にする、ドアの横でミナが顔を真っ赤にして立っていた。

「・・・全部、見たか?」

「・・・い・・・いえ」

「忘れてくれ」

ひとまずミナの手を掴んで東門まで戻る、ミナの手が異様に熱い、熱でもあるんじゃないか?と思うくらい、だが別の理由だろう。

「本当にこの町の王様になるつもりでしょうか?」

「そんな訳無いだろ?・・・だが、ファーバンラグニスの屋敷のように本土から来る統治者に明け渡さないようにするべきかもしれない」

「ラ・クインテット・ストラトスさんの為でしょうか?」

「リズリット王国再建は無理だとは思うが、所有者が明確なんだ・・・さて、どうするか・・・」

道中もミナと悩む。

「・・・そうだ!遠征隊の詰所にしましょう!私達の拠点であれば下手に接収が出来ないはず」

「だが、守衛用の騎士団の増援が来てしまえば守衛隊隊長に追い出されてしまう」

「・・・そっかぁ・・・そうですよね」

ミナはしょんぼりする、再び城を振り返ってみれば、ラ・クインテット・ストラトスが王冠をもって自分達の後を付いてきていた。

「・・・いっその事報告しない手もある・・・いや、だがもう手遅れだな・・・」

しまった、連絡隊はもう先行している、何処まで報告しているかにもよる。だがどちらにせよ、自分達の拠点として確保はしないといけないはずだ。

目線を東門へ戻すとルナが腕を組んで待ち構えていた。凄く何かを訴えたそうな顔だ・・・ゆっくり右手を見る、ミナの手を握ったまんまだった。

「・・・これは・・・だな?」

ひとまずゆっくりミナの手を放す。

「・・・君の一人目は私・・・だよ?」

ルナはそう言い放つとミナは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

ひとまずあまり美味しいとは言えないパンを食べた後、守衛隊をヴォンデール城に集める、正面入口に構えるひと際立派な建物、この建物は行政庁舎と呼ばれていたらしく、王宮本殿を囲むように存在する分棟含めて現役時は数万人の行政官がリズリット王国の様々な国家運営の業務をしていただけでなく、元老院などの大きな議事堂も併設、リズリット王国の中核となるヴォンデール城で最も大きい建物だ。勿論軍事用途の部屋がここにはある。

「この辺はリズリット王国時代の物だな・・・戻し過ぎたか?」

指揮所に掲げられているのはリズリット王国旗・・・見た事が無いので間違え無い、グレイが辺りを物色しながら感想を呟く。

「だいぶ手こずったからな・・・」

机に広げられた地図はリズリット王国全土、グランゴッツも、マリサックもリズリット王国領の時で東側に防衛陣地がいくつも築かれている・・・ように見受けられる駒がいくつも置かれている。

今いる指揮所と言うのは正面に構える行政庁舎の5階、正面にあるだけあり、王国騎士団などの軍事行政に割り当てた区画が最も多く、かつて王国騎士団が使っていた部屋はメーシェルバ防衛の指揮所としてそのまま再運用出来るそうだ。ここにグレイとマルコー、そしてこの町を最もよく知るラ・クインテット・ストラトスを常駐させる。

ついでに行政庁舎の奥には大きな庭園、そして行政庁舎より高い王宮本殿、その奥に王族が暮らす建物などがあるが、メーシェルバの地図を見ても、王宮単体としては防御壁が薄い、ヴォンデール城はメーシェルバの街並み含めて最強の要塞となるようだ・・・と言う話は、置いておいて、メーシェルバまでがリズリット王国領と言う訳では無い、レーヴェンもリズリット王国領だったようだ。

レーヴェンから先もリズリット王国領、その先のベルフェスト、ここから先がマインゴッツ公国と別の国になるらしい。ロンドクルツ神聖帝国で教えられる世界地図はレーヴェンまでしか無いのだ、マイゴッツ公国なんて初めて聞いた、ちなみに言えばグリンゴッツに向かう道中で遭遇した”サムライ”とやらの祖国、大和国も聞いた事が無いのだ。知った所で滅んでると言われればそれまでだが、知っている世界の狭さにまず驚いた。

「レーヴェンまではソロモニスと言う町を経由して直ぐだ・・・多分、サーヴァルキング級は居るだろう・・・ミスリルみたいに苦戦しそうなんだよなぁ・・・」

「お前の下に入って早々だが、この大都市、それもここを遠征隊本部として運用するならば居残りが必須・・・しかも全員居残っても足りない問題がある」

「結局俺とルナで行け・・・だろ?分かってるさ」

「まぁ、あの聖魔術士長と酒場の店主らは全員押し出しでここまで来るはずだ、聖魔術士長をこの辺に立たせておけば遠征隊本部の居残りは確保は出来る」

「だがグレイ、王女様の家を差し押さえられるのも時間の問題だぞ?」

マルコーが既に存在しない迎撃隊の駒をマリサック、グランゴッツの上を移動させた後、メーシェルバの上に置く。

「それについては案がある、メーシェルバから先の奪還をファーバンラグニスに報告しない・・・だ」

「それがどうして差し押さえの手が入らない理由になる?」

「うちの後方部隊は、次の町を奪還すると押し出されるからだ」

グレイは騎馬隊の駒をファーバンテセウスに置き、兵士の駒をルーカスに一度置く、そしてルーカスからファーバンテセウスに動かした後、陣地の駒をルーカスに置いた騎馬隊の駒をマリサックに動かすと陣地の駒をファーバンテセウスに、兵士の駒をマリサックに動かして見せる。確かにそうだ、聖魔術士長達は次の町を奪還すると押し出される。

「・・・まぁ、押し出しになれば良いと言う判断はあくまで賭けだがな?メーシェルバはリズリット王国の首都だ、皇帝は何としてでも懐に入れておきたいと考えるだろう、特別に守衛隊が編成される可能性もゼロじゃない・・・だが低いはずだ」

「低い・・・?」

「お前は諸悪の根源だから知らないだろう、ここまで前線が伸びきってるんだ、補給物資は大量輸送手段を確保しているからマシとはいえ、他の町を守る人員が増えれば増える程補給が滞る、だが神聖帝国が最も守らなくちゃいけない場所はファーバンラグニスだ、守衛に人を割きすぎると今度は首都に聖騎士不足が生じる・・・いや、俺達がルーデン守衛として招集された時点で聖騎士不足が無視出来ない状況になっている」

「ルーデンとかに割り振られた守衛隊はファーバンラグニスでぬくぬくしてる貴族だ・・・俺ら貴族の出が言うのもなんだが・・・」

「良いんだ、マルコー、貴族にも色々な考えがあるのは皆と接して分かってる」

「続けるぞ?シーズ、現状今まで奪還してきた所にやって来る守衛隊はろくに戦力にならない貴族達だ、そして俺達同期の話によれば、ファーバンラグニスの各門の守衛はだいぶ出尽くして居るって噂がある・・・王宮近衛くらいしかもうファーバンラグニスに残っていない可能性が非常に高い」

「そう言えば皆各門から集められちまったんだよな・・・悪い」

「気にすんな、俺達は大半が近衛を目指していた訳じゃないんだ、師であるお前らと歴史の最前線に居られる事を今頃誇りに思って居ると思うぜ?・・・ともあれ皇帝が何を言おうとこれ以上兵をファーバンラグニスから出せないはず、報告さえしなければあのおっさんはずっとここにとどまり続けれられると言う算段だ」

「ついでに酒場の飯もここでずっと食べられる」

マルコーはミーナの飯を想像してよだれを垂らす、それをその気になれば私も作れるんですけれどと、訴えるフーリエの目線が突き刺さっているようだが?

「・・・まぁ、ひとまずは連絡隊の帰還待ちだな」

「今のうちにゆっくりしておけ・・・とは言ってもここから西門までは距離があり過ぎる・・・西の宿屋で休んでくれ、人手が足りないんだ」

「分かってる」

ラピットソレイユを持ち上げて背負う。

「ラ・クインテット・ストラトス、ここは頼む」

「仰せのままに」

ラ・クインテット・ストラトスが頭を下げる・・・身分上の立場としては逆なのだが、マルコーもグレイも特に気にもしない。

・・・しかし。

何をするにも魔動・・・水は金属の取っ手を捻れば何故か勝手に出るものの、お湯を沸かすのに魔動ボイラー、光源は毎度おなじみ魔法ランタン、飲み水を作るには魔法浄水剤と来た。大浴場の湯舟に浸かりながら魔法浄水剤の空瓶を眺める・・・その先にはルナとミナが居る・・・何故だ?それは魔動ボイラーで沸かせたお湯は現状この浴場だけだからだ。ルナに関しては関係が元々おかしいので別に風呂にまでついてくる事は不思議じゃない・・・おかしいのはミナだ、横ならまだしも、全身を見せつけるかのように目の前に陣取る、そして頑張ってルナに勝る胸を強調して顔を赤くしている・・・ミナってこんな大胆だったか?だがこのままではミナが限界を迎える気がしてならない・・・もう少し疲れを取りたい所だったが上がろう。

立ち上がると波が良い湯加減でとろけているルナの顔にかかる。

「早くない?もうちょっと浸かろうよ?」

「少し仮眠を取りたいからな?お前らは長風呂してても良いぞ?今日からずっと貸し切りだ」

そう言い残してこの場を去る・・・ルナのヤツはここで寝そうな気もして少し心配だがミナもいるなら気にしなくても良いだろう。

浴場から出て適当な部屋のベッドに寝転がる、程よい湯加減の風呂に入る事が無かったせいか、直ぐに睡魔に襲われる。

しばらくしてベッドが揺れた気がした、左腕に重みを感じる・・・これはルナだ、そう思って左腕を見るとそれらしき頭が目の前にある、だが消していない魔法ランタンに照らされた濡れたままの髪の毛の輪郭は赤い・・・赤い髪と言えばエルとミナ、そしてマーキュリー・・・だが状況的にミナ以外考えられない・・・やはりミナはここまで大胆な事をする子なはずが無い。

「・・・ミナか」

「腕枕って・・・こういう感じなんですね・・・」

「・・・また、どうしてこんな事・・・」

「お・・・お姉ちゃんと・・・したかった事!・・・しても・・・良いんですよ?」

「一体どうした?」

「主人と絆を深める事も聖剣と聖騎士の間では当たり前の事・・・でもお姉ちゃんはシーズさんとそういう事は一切する気も無く・・・しないままこの世を去ってしまわれました」

「・・・エルの事は・・・すまない」

「大丈夫です、お姉ちゃんの分まで私がお相手します!な・・・何からします・・・か?お胸はお姉ちゃんより大きいんですよ?」

ミナはシーズの手を掴んで強引に体を撫でまわさせる。とても柔らかい、完璧なボディライン、双子のようにそっくりなエルとミナの唯一大きく異なる部位、大きすぎず小さくも無い、整った大きさの胸まで手が行ってしまうのを堪える。

「ミナらしくないぞ?」

「シーズさんの言うミナらしさ・・・ミナらしさって何なんでしょうかね・・・?」

「皆を支えてくれる・・・所・・・とか?」

「私・・・本当はそこまでいい子じゃないんです、もしも、お姉ちゃんがルナの剣だったら・・・と思う時があるんです・・・そしたら、お姉ちゃんが死なずに済んだのかなって・・・」

「・・・そもそも、俺がエルを選んだ事が間違いの始まりだった、ミナがルナの剣になった経緯も俺がエルを選んだついでだった・・・俺がエルを選ばなければミナもルナの剣になる事は無かった、たとえ低級聖剣を握っていたとしても、あの結末は必ず訪れる・・・その事を分かっていたはずなんだ」

「ついでだったのは分かっているんです、でも私、男性の聖騎士の聖剣になりたかったんです・・・始め会った時、シーズさんの聖剣になれたらなって思ってたんです、でもお姉ちゃんはあの時を逃せば聖剣では無くなる・・・ブロックハースト家は代々強い聖騎士に選ばれてきた由緒ある聖剣一族、聖剣としての職務を全うした後に宿した子、女の子であればまた強い聖剣、男の子であれば王宮近衛騎士団の聖騎士となる、その子を宿すのも長女であるお姉ちゃんの役目・・・シーズさんの聖剣になる事は諦めなければならなかった・・・でもお姉ちゃんが死んで、その責務が私に回って来たと思うと・・・どうしてもシーズさんの聖剣になる事を諦めきれなくなっちゃって・・・悪い子ですよね?」

「だが、既にルナと契約しているんじゃ・・・」

「私、時々思うんですよ、実は誰とも契約出来ていないんじゃないかって・・・」

ミナは体を自分の方へ向けて真っ赤な顔を見せてくる・・・が、誰とも契約していないとはどういう事か・・・?

「そんな事・・・」

ミナの顔を見ているとエルの死に際の顔が重なる・・・あの時、何を言っていたか?

「・・・貴方は・・・魔剣と契約している」

・・・そう、そう言った。ミナは何の事かきょとんとしているが、エルは確かにあの時そう言い残したのだ、そして魔剣・・・今は確かにラピットソレイユを使っているが、あの時はまだ所有権は姉、レイア チェラムもといレイア・サーヴァルキングにあった、それ以前にはフロウドレル、エレベラ、セーリンを拾ってきては居るものの、契約の儀式などを交わした覚えが無い、それらのどれかと契約を交わしているとでも言うのか?・・・だが聖魔力不足の問題はそれすら握る前から抱える問題だ、つまりそれ以前に魔剣と触れているはず、そもそもチェラム家に魔剣は代々継承されていない・・・一番可能性があるとするならば・・・ラピットソレイユ他無い、どの時点で姉が所持していたかにもよる・・・だが現状使えていない代物でもある。

起き上がってラピットソレイユを手にする。

「・・・魔剣を・・・選ぶのですね」

「・・・選ぶんじゃない、俺はエルと出会う前、魔剣を選んでいるはずなんだ」

「それって・・・」

「エルは魔剣と契約していると言い残した、つまり俺は聖魔力を常にその魔剣に注いでいると言う事になる・・・だが、相手が分からないんだ」

「それじゃぁ・・・シーズさんは・・・私と契約してもお姉ちゃんと同じ結果になると・・・?」

「そもそも現状、俺はキュリアと契約している・・・はずだ、仮にルナと契約出来ていなくても君を選ぶ事は出来ない」

「・・・そんな・・・」

ミナの瞳から涙がこぼれる、家を背負う立場となり色々無理をしていたのだろう、扉を開けて部屋を出て行ってしまった。

「・・・で、なんでお前はここに居る?」

「私の剣がふしだらな事しないか見張りに来ただけだよ?」

扉の外にはルナが腕を組んで立っていた。その腕を強引に解いて手を握る。

「・・・そんな訳ないか」

「・・・なんだい?そんなに嫁の手が恋しかった?」

ルナは茶化した後、手を振り払ってミナが走っていった方向へ歩いて行った・・・聖剣だろうと、契約していない魔剣だろうと、聖魔力や魔力を流し込めば入るはず、だがルナにはそれが出来ない、他の聖騎士に試した事こそないが力自慢のような事になるはずで、結果が壁に阻まれて押し込めないと言う事はつまり、聖剣またはそれ以外では無いと言う事だ。

・・・ひとまず監視の交代だ。

ラピットソレイユを背負って西門へ向かう・・・サーヴァルは連絡隊が帰ってこようとも来る事は無かった。

ちゃっかりメーシェルバの修繕もしてやったぞ!ヘッヘッヘッ・・・。

やはり魔道具こそ最高!

・・・しかし、メーシェルバ、奪還報告をしてしまえばすぐに新しく割り当てられる守衛隊に押し出されてしまう・・・。どうにか回避できるのか?

最後までお付き合い願えると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ