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Dark Breakers  作者: verisuta
遠征隊としての責務
12/17

ミスリル サーヴァルキング

遠征隊は今まで押し出されていた守衛隊と一緒にいよいよ元リズリット王国領に足を踏み入れます。

しかし、ラ・クインテット・ストラトスのかつての配下が猛威を振るう。

果たして倒す事は出来るのでしょうか?

マリサックの街に土煙が立ち上る・・・それを城壁から眺める。

・・・なんで俺はここに居るんだろう。

事は二週間前、遠征隊と街の守衛部隊は移動を告げられたのだ、従来のシーズ達が領地を奪還してくる流れでは無い、遠征隊にようやく増援が出来たのは願ったり叶ったりだが、それが今まで街を守ってきた守衛隊とはなんたる皮肉か。幸い彼らは非常に守りにくい構造のこの町にさっさと見切りを付けたくて遠征隊参加には協力的だったが、守衛隊も動くと言う事は後方支援部隊も動くのだ・・・だからミーナが隣に居る。別にもっと後方でも良いのだが、後方支援部隊は全員もっと最前線で死に直面した者達である、だから別にもっと後ろに居ようとか、自分の命の心配を一切考えない。

目の前で猛威を振るっているのはミスリル・サーヴァルキングである。巨大なユニコーン・・・と言えよう、馬の20倍近い大きさのサーヴァルキングがかなり面倒な状況を招いているのだ。

「 ミスリル ローレンエリウス・・・とか言ったな?」

隣で特に恐怖を感じている事も無い、ラ・クインテット・ストラトスに正体を詳しく聞いてみる。

「はい、 ミスリル ローレンエリウス、リズリット王国騎士団元帥でございました、聖剣ライゼンガルドをお持ちで回復魔法に長けており、元帥の部下は不死の軍団と神聖帝国騎士団に恐れられておりました」

「・・・そのなれの果てが・・・これか」

「生前と変わらず、回復魔法を味方にかけ続けていらっしゃるご様子ですね」

ラ・クインテット・ストラトスがニッコリ・・・それが非常に厄介極まりないのだ。この千人は超える大軍勢、これらは遙か昔のリズリット王国侵攻をしていた頃のロンドクルツ神聖帝国騎士団の始末が悪かった事が原因である。正直この頃の文献や歴史教養は神聖帝国が何らかの形で規制、処分されており、知る手段が本当に少ないのが現実で、当時を知るラ・クインテット・ストラトスの言葉を鵜呑みにする他無いのだが、神聖帝国が仕掛けたこの戦争、魔法技術の略奪及び、闇魔術の優位性を確立する為の戦争で、元々聖魔術と呼ばれる物はリズリット王国の物、そして対局する闇魔術の発祥はロンドクルツ神聖帝国である。この戦争で投入された魔術兵器こそ闇魔術兵器サーヴァル、死人を材料とする不死身の兵隊だ。今現在では闇魔術で自然発生する野生動物のような扱いだが、その材料となるのもサーヴァルに殺された我々人間である。元々死者である以上、制御は不能に近かったが、魔力供給を切ってしまえば機能を失う術式設計をしていたそう。ブラックアウトも魔力が残る遺体からサーヴァルを生成する術式で、当時は永久出力すらしない有限時間魔法、それを無限に永久出力を可能にしたのはかの有名な大黒魔術師 レイヴァン レオだったが、それは戦争が終わってからの話、当時は遺体を浄化すると言う概念が無く、神聖帝国では貴族くらいの地位が無ければ特に儀式も行われず遺体はそのまま土葬されるのが普通だったそう、リズリット王国では死者の除霊という儀式が今で言う浄化に当たるのだが目の前の軍勢は神聖帝国が適当に埋めただけの物、それがブラックアウトの永久出力化と広範囲化で蘇ってしまって今に至るのだ。やってくれたな・・・レイヴァン レオ!・・・と、思うかもしれないが、実は少々引っかかる所があった。ラ・クインテット・ストラトスは皇帝黒魔術師と呼んでいた事だ。この事から何らかの形で皇帝から解雇されたであろう事はうかがえる。全ての原因はロンドクルツ神聖帝国にあるのが明らかになって来た。


「クソ聖騎士が完全に苦戦していますわねッ!!」

「だって、シーズの奴、浄化能力がしょぼいじゃん、当たり前当たり前」

キュリアはシーズとルナの取りこぼしにセベストリアとマーキュリーを同時に突き刺す、別に何本突き刺したって浄化出来る能力は一本分しかない。それに追加でもう一本、エリスが突き刺さる、サーミャとこれで二本分、だが足りない、回復が上回る、マルコーがフーリエ、グレイがセイレンで加勢、ようやくこれで浄化、雑魚相手に4人がかりは非常に効率が悪い。後ろを見てみろ。後方支援の聖剣達が聖騎士の助手をしている、ミーナ ドレッセンが握っているのは誰だ?そう、聖剣セルベッタだ。酒場の店主と副店主のコンビである。グレイ達の後を追ってようやく追いついた所、ミーナの後ろにはファナも居る、魔剣フロウドレルを重そうに引きずっているのだ。この聖剣のプライドガン無視のカオスな戦場、流石にシーズとルナも苦戦しているのは明らかで、普段はだいぶ先に行かれているのにこの通り、目と鼻の先に居るのだ。

・・・散々の言われようだぜ?

・・・君もだよっ!?

騒がしい角紫の声、耳に入らない訳が無い、雑魚のはずのサーヴァルを二人がかりでダウンさせた時にルナと無言で会話する・・・悲しいがミスリル サーヴァルキングが本当に厄介極まりない、オマケにサーヴァルの壁をどうにかしない限りミスリルサーヴァルキングにはたどり着けない始末、ラ・クインテット・ストラトスが言うリズリット王国騎士団の特徴的な戦い方、リズリット王国がロンドクルツ神聖帝国相手に30年近くも互角に張り合あえた強固な防衛陣形らしい・・・神聖帝国がこれを崩すのに30年かかったのだから一筋縄ではいかないのも当たり前・・・だがやらなければならない、しかも後方支援も総動員の小編成部隊で・・・。

「次行って!」

シーズとルナの間に割り込むようにミーナがセルベッタをサーヴァルに突き刺した。一足遅れてファナがフロウドレルを突き刺す、ちらっと後ろを見ればキュリア達もやって来ていた。ここは任せて次をやる他無い。特に合図もしていないがルナと一緒に走り出す、そして次は酒場の他のウエイトレス達に任せた時、マルコーとグレイがサーヴァル四体に囲まれていた、マルコーが噛みつかれている。

行くよ!

分かってる!

二人は走り出すがそれぞれ一体ずつしか相手に出来ない、ひとまずはマルコーだ。

シーズはサーヴァルの首に切りかかる、それでマルコーは解放こそされるが、その先には二体に噛みつかれる寸前のグレイが見えた、ルナもマルコーを襲う一体にミナを突き刺したばかりだ。

・・・すまない・・・グレイ。

見捨てる他無かった、だが紫色の角が舞う、キュリアだ。グレイを襲う二体にはセベストリアとマーキュリーがそれぞれ刺さっている、しかし受け止めきれない、だがどうするか、二体の頭はそれぞれ衝突する、その反動で二本を引き抜いて両方を入れ替えて刃先が下向きにするように回す、その頃には二体は衝突した反動で長剣一本分くらいは後退している、その頭蓋に向けてキュリアは二本を刺し降ろして地面に叩き落とした・・・グレイの姿は見えない・・・いや、キュリアのスカートの中にすっぽり収まってしまっていた。女性用の鎧は2種類ある、男女共用のようなズボンタイプと装甲スカートタイプ、ズボンを着用しているのはサーミャだ、こちらの方が軽量で動きやすい、対して装甲スカートを着用するのは上級聖剣が多い、見栄え重視、エレガントさで選ばれているのだが他にも股の下のラインを隠すと言う、貴族女性特有の貞操概念が大きく影響している。用を足す時は股の装甲を外すが、野外で足す事が大半、下半身が丸見えになる、それを隠す為に装備している、勿論足回りの防御力は絶大、その分重くて動きにくいと言う欠点もあるが、聖剣にフットワークは必要ない、貴族女性には非常に重要な装備品の一つなのだ。特に攻撃をある程度許容しなきゃいけない重戦士タイプのキュリアにはうってつけの防具、もちろんその下にも軽量鎧があるので下着が直でうかがえる訳では無いが、キュリアはしばらくグレイの姿を探す、サーミャがキュリアの装甲スカートをめくってグレイの存在を確かめたらキュリアは顔を赤くする、グレイは鼻血を垂らして気を失っていた。装甲スカートの中にもぐりこむ際に装甲に顔でもぶつけたのだろう・・・そう言う事にしておこう。

「マルコー!大丈夫か!」

「深く噛まれちまった!助かったがちょっとまずいな・・・」

「いったん引け!」

「悪い、そうさせてもらう!」

痛みを必死に堪えるマルコーにフーリエを渡す、それを目の前のサーヴァルに一度突き刺した後、浄化を確認するとフーリエの実剣化を解除する。

「あんた何ボケっとしてたの!」

フーリエはマルコーの怪我に真っ先に飛びつく。

「フーリエ!セイレンと共に一旦下がってくれ!」

「分かった!」

フーリエはマルコーを担ぎ上げると、サーミャの手によって戻されたセイレンがグレイを担ぎ上げるのを待って、聖魔術士達の所へ退避していく、周りでは酒場のウエイトレス達が陣形の再構築をしていた。

「少数行動は避けて!」

ミーナが極力かき集めている、だがサーヴァルに容赦という言葉は無い、孤立気味のウエイトレスが襲われていく、シーズ達はそこへ走った。


「・・・最悪な状況だ」

怪我をした聖騎士が多い、聖剣も居る、守衛隊はほぼ壊滅だ・・・壊滅と言う事はいつもの遠征隊二人とちょっとの聖騎士しか残ってないと言う事だ。だが、戦闘開始時と比べればこちらもサーヴァルを半数は削っている。聖魔術士長も治療にあたっている、ミーナが軽い怪我をして帰ってきているのだ。

「油断しちゃった・・・」

「そもそもミーナちゃんの役目じゃないぞ?」

軽い怪我なら直ぐ塞げる。治療を終えて包帯を巻けばミーナは直ぐ立ち上がる。それをセルベッタが止めた。

「私が別のと組んで出る!ゆっくりしてくれ!ボス!」

「大丈夫よ、かすり傷かすり傷」

「言う割にはガッツリやられてるだろ!?」

ミーナはセルベッタの唇に人差し指を添えた。

「・・・私にも守るべき子達が居るの・・・セルベッタ、貴方もよ?」

「・・・ついていきます、ボス」

セルベッタは顔を真っ赤にしておとなしくなる、そして実剣化する。

「それじゃ、また行ってくるわね」

ミーナは聖魔術士長に向き直ってそう言った。

「・・・無理すんなよ」

そう言って送り出すしか無かった。ミーナは酒場の子達を守る為に再び戦場へ赴くのだ・・・凄くかっこよく見えた。


・・・撤退していく・・・?

・・・まぁ、前例もあるけどね・・・?

シーズとルナは背中越しで無言の会話、キュリアはセベストリアを地面に突き刺して膝立ちの状態で硬直している、サーミャは血だらけで倒れている、血だまりが出来ている訳じゃないがエリスを握っていた跡がそのまま残っている。サーミャも限界だ、それをエリスがマーキュリーを構えて守っている。他の聖剣達も手持ちを入れ替えたりしているが意外にもファナが健闘している・・・しかし無表情だが相当限界が来ているはずだ、他を見れば分かる。しかしサーヴァル側も兵力が3分の1になるまで失ってしまっている、ミスリルサーヴァルキングも状況を理解出来るのか、それとも魔力が尽きたか不明だが、取り巻きのサーヴァルを集めて西の方角、王都メーシェルバ方向へと移動していくのだ。ひとまずの勝利と言えよう。シーズはルナと一緒に背中を合わせたまま座り込む・・・後ろをゆっくりみれば聖剣達が膝を付いたり、倒れたり・・・サーミャを見ても分かるように、シーズの周りに居る子達は撤退すらままならない状況に陥った、多少の怪我だろうと無理していた、孤立してしまっていたのだ。ミーナとグレイが走ってくる、そしてこの様子を見て棒立ちしていた。

シーズはゆっくり立ち上がり、ルナの手からミナを引き抜く、それをエリスに投げて実剣化を解いて貰う。そしてキュリアを担ぎ上げる、膝がガクガクしていて歩行すらままならない様子、いつもの騒がしさも無し、持ち上げれば足を伝って液体が垂れている、キュリアが居た地面に大きな水たまりも出来ている。それについては何も言う気になれない。地面に突き刺さったままのセベストリアはエリスに任せて聖魔術士達が居る防衛線までキュリアを運ぶ、グレイとセイレンもそれに習って無言で他の聖剣達の所へ。

「・・・ごめんなさい」

「・・・何の事だ?」

ミーナの顔には涙、だがそれを拭ってやる手は空いてない、ミーナの横を通りすぎるとセルベッタがその代わりをしてくれた。そして酒場の仲間の介抱をするよう促してくれる。口は悪いが良い奴なのだ、彼女も・・・ミーナが副店主に選んだだけはある。

「・・・無事だったか」

戻れば聖魔術士長に出迎えられる、ベッド代わりの布の上にキュリアを転がす、痙攣したまま何も言わない。

「・・・魔法でも食らった訳ではないよな?」

「二刀流してるんだ、体が限界を迎えたんだろ?安静にしてればそのうち落ち着く、サーミャは少し治療が必要だ・・・死んでる訳じゃない」

「私が見よう」

聖魔術士長はそう言ってミナからサーミャを預かる、直ぐに治療を始めてくれた。その足でマルコーの所へ行く。

「具合はどうだ?」

「このくらい・・・死ぬレベルじゃない・・・だが守衛隊も半数が命を落とした・・・もう残ってるのは俺らの同期とラッキーな年上しか居ないぞ?」

「そうか・・・」

「喜べ、お前らが鍛えた精鋭だよ」

「俺らが鍛えたんじゃない、努力してきた奴らだ、俺らはただコテンパンにしていただけだ」

「良く言うよ、だがそれでも生死をさまよってる奴も居る、会いに行ってやれ」

「分かった」

シーズはマルコーの肩を軽く叩きながら立ち上がる、顔見知りがかなり多い、通りかかればぶじだったか、流石だなとか色々言われる、守衛隊は西門の聖騎士ギルド所属が多い、他の門からも来ているが、遠征隊とは違い、本当に優秀な人材が集められている、つまり聖騎士学校での同じクラスの連中が非常に多いと言う事でもある・・・ルーカスさえ確保しなければ今頃皆皇帝近衛騎士になっていたはずなのだ。

「・・・オムニス」

オムニス ラットレイ、皇帝ご用達の高級菓子職人の息子、小さい頃から皇帝近衛騎士に憧れを持って聖騎士学校に入学したと聞いている。左腕が無い、止血は終わり、何とかギリギリ一命は取り留めるだろうと言われているらしいが、意識は無い様子。その傍らでは聖剣セレンガルドが右手をずっと握っている。彼女は特に装飾が美しく、皇帝近衛騎士を目指すにふさわしい聖剣である。少しゆすってオムニスを起こしてくれた。

「・・・シーズか・・・」

「オムニス・・・もう大丈夫だ」

「はははっ・・・前線で武勲を立てて皇帝近衛騎士になるつもりがこれだ」

オムニスが目を覚ました、セレンガルドが動かないよう必死で抑え込む。

「俺がルーカスを解放したばっかりに・・・」

「なに言ってんだ・・・今や君は神聖帝国の希望だ・・・僕は残念ながら・・・それにはなれなかったが・・・そうだな・・・聖騎士学校の教員になって・・・君の剣術を後世に残したいと思ってる」

「本来、それは俺がやるべき事なんだがな」

「英雄様は忙しいんだ・・・それくらい・・・僕にやらせてほしい」

「任せるよ」

「・・・それと・・・もし・・・僕が目を開ける事が無かったら・・・セレンガルドを君に譲る、エルちゃんの代わりに使ってくれ」

オムニスが痛みを堪えながら微笑む、しかし目は閉じかけだ。

「そう言う訳にはいかない」

・・・しかし、それ以降、オムニスから返事が帰ってくる事は無かった。セレンガルドがオムニスの胸の上で大泣きする。

「・・・本当に・・・すまない」

目から悔しさが流れて来た。しかしオムニスだけでは無い、マルキリエ、スーザン、クディナ・・・皆、最後の分かれをするのを待っていたかのように意識を取り戻しては、皆、エルの代わりと言って自らの聖剣をシーズに託して旅立って行ってしまったのだ。

・・・本当にすまない。

シーズは町を囲っていたとされる城壁の瓦礫に持たれ、仲間の死を悔み続ける、だが、そう長くも無かった。

「食え!私の特製だぞ?」

!?

いきなり顔を持ち上げられ口の中にサンドイッチを乱暴に詰め込まれる。ミナはそんな事しない、第一他を気にかける余裕のある聖剣は居ないはずだ、だが居た、ラ・クインテット・ストラトスでもない、セルベッタだ、予想外にも程がある。

「最近私が料理する事は滅多に無い、光栄に思え、クソ聖騎士」

シーズはセルベッタの手を掴んでサンドイッチを自分の手に持ち替える。セルベッタは特に抵抗する事も無く、シーズの隣に乱暴に座り込む。

「・・・またなんで」

「私の手料理が食えないって言うのか?」

「そうじゃないが・・・唐突すぎるだろ?」

「馬鹿言え、もう昼飯の時間はとっくに過ぎてんぞ?・・・それと・・・いつまでもウジウジしてんじゃねぇ!テメーに付いてくこっちも先が不安になる!」

セルベッタは座ったばかりかと思えば直ぐに立ち上がり、残りのサンドイッチが入った弁当箱をシーズに投げつけてから、さらに大きい木箱を拾い上げ負傷兵の元へ歩いて行った。

そんなに乱暴に叩きつけたら中身がぐしゃぐしゃじゃないか・・・?

シーズはセルベッタに投げつけられた弁当箱の中身を見る、サンドイッチは原型をとどめていなかった。再びセルベッタに目をやる・・・食べ物の恨みとかそう言う目で見たい訳じゃない。セルベッタは他の負傷兵には優しく同じ弁当箱を渡していく、先ほどの木箱にはサンドイッチが入っていたようだ、皆満足そうに受け取っていく、これだけでもセルベッタに色々な顔があるのがうかがえるが、とにかく、あの性格からは考えられない程、場を落ち着かせようと頑張っている。

・・・これは、アイツなりの勇気づけと言う訳か。

サンドイッチの形を整え直し、全てを完食する。そして弁当箱を脇に置こうとすれば、セルベッタが座っていた所に弁当箱がさらに二つ置いてある事に気が付いた。聖剣2本分だ、スーザンとクディナは自分が死ぬ姿を聖剣に見られたくなかったので実剣化してエルの代わりとして託してきたのだ。この二つの弁当箱はつまり聖剣にも食わせとけと言うセルベッタの伝言、大雑把なイメージしかない彼女もああ見えて気が良く回るのだ・・・だがセルベッタですら気が回らなかった事もある。俺はこの二人を戻せない。戻したらどうなるか?二人は頭痛と吐き気に悩まされる事になるのだ。

弁当箱3つを持って立ち上がりそれを脇に抱える、ラピットソレイユを背負い、立てかけていた聖剣2本を片手で掴む。負傷兵が集められている城門跡から一番近い住宅跡にグレイとセイレンが居た。

「・・・エルゼラにジュニカじゃないか・・・スーザン、クディナも駄目だったか」

グレイに渡せば2本は自力で実剣化を解いてしまう。つまり今の自分に聖魔力は全く残っていないと言う事だ、いつもの事でもあるのだが・・・。二人は負傷兵達の居る方角へ走り出そうとするが、グレイとセイレンが必死に抑える、彼女らは行かせて!行かせて!と必死だし、グレイとセイレンも色々言って無理やり引き留める。主人の元へ行きたいエルゼラにジュニカ、シーズは彼女らの胸元に弁当箱を黙って突きつけるしか出来なかった。弁当箱を突きつけられれば二人は急に力が抜け弁当箱を片手に膝から崩れ落ちる。この弁当箱はただの弁当箱だが、冷静になる魔法でもかけられていたかのように大泣きさせる。

「ひとまず一旦落ち着け、落ち着いてからお前達の聞きたい事に俺が全て答える」

グレイは二人にそう言い聞かせて引きずるように瓦礫の持たれかけられるよう座らせた。そしてグレイはセイレンに対してシーズを何処かへ連れていくように目線で合図した。セイレンはシーズの腕に絡みついてグレイ達からなるべく遠い所へ引っ張っていく。

「二人は角紫のスカートの中に潜り込んだ挙句、鼻血垂らして失神した役立たずに任せて、この町を見て回ろ?」

「・・・その下にも軽量鎧があるんだろ?スカートの装甲に顔が当たった事にしてやれよ」

「スカートはスカート!パートナー同士ならともかく、他人に見られる事はどれだけの辱めか・・・分かってない!・・・もう少し女心を理解すべき!」

セイレンは装甲スカートの布生地部分を掴んでひらひらさせる、ガシャガシャと装甲がこすれあう音がするだけだが、セイレンの顔は赤い。

「ところで、貴方の聖剣コレクションは心配しなくていいの?」

「コレクションって・・・あのなぁ・・・命に別状は無いんだ、回復を待ってやるくらいしか出来ない・・・あのようにな?」

シーズは一人でふらつくフーリエを指さす、フーリエもこちらに気が付いたが、どういう風の吹き回しか?と引いている様子・・・理由はセイレンが左腕に絡みついているからだ。それはミナが後ろからセイレンとシーズの間に入って解消する。だが左腕に絡みついているのはミナに変わっただけである。

「聖魔術士長が探していましたよ?」

若干怒っているかのようなミナは要件を言ってさらに密着する。セイレンは物足りなさそうな顔をして黙り込んでしまった。対してミナは自分の所有物かのようなまなざしをセイレンに向けている。エルも特にキュリアに対して同じ顔をしていた辺り、そこは姉妹だが、それ以前にミナはルナの聖剣であり俺の聖剣では無い。これはどういう事なのだろうか?遠くで酷く歪んでいるフーリエの顔を傍観しながら、あわよくば助けてくれる事を祈るしか出来ない。ひとまずミナに引っ張られて聖魔術士長の所へ行くが、セイレンのポジションは右に移っただけだ、右腕に絡みつく程の距離は無く、聖魔術士長は、口を開けてまた珍しい組み合わせだなと言う顔をしていた。

「・・・で、用事とはなんだ?」

軽く咳払いしてから聞くと、我に返ったように、高速魔法修復材を差し出してきた。

「町の中心部に教会があるんだが・・・動ける奴らで立て直ししてきて欲しい」

「聖魔術士は?」

「半数がここで治療、もう半数が東側の城壁修理、このまま負傷兵を野ざらしにする訳にもいかない」

「分かった」

シーズは高速魔法修復材の瓶を受け取り、それをセイレンに持たせる。セイレンはさらにムッとした顔をするが、グレイはまだ忙しいはずだ。魔道具を乗せた馬車まで行く、魔法ランタンが必要だ。

「あれまぁ」

「・・・装甲スカートの中見て失神したらしい変態は死んだのか?」

馬車まで行けばセベストリアがミナの様子を見て両手を口に当て、マーキュリーはセイレンを見て魔法ランタン4個を片手にセイレンに尋ねる。セイレンの顔はどんどんむくれる。

「・・・そんな訳無いだろ?」

「金属製の尻でも見て何を思ったか知らんが、角紫も黙ってりゃスタイルの良い美人だ・・・で、まだまだ居るんだろ?これは」

「ああ、教会の廃墟まで運ぶ」

「全部持って行ってくれ」

マーキュリーが片手に持っていた4個をそのまま押し付けてくる、足元の魔法ランタンも拾い上げてそれを教会廃墟へ、ミナとセイレンもそれに続いた。教会廃墟へ行けばルナが居た、既に魔法ランタンが40個くらい置いてある。他には生き残りの聖騎士から軽傷で動ける聖騎士達まで魔法ランタンの周りを取り囲んでいた。魔法ランタンを全て運び終えれば、充填済みの魔法ランタンを瓦礫の上に置いていく。大きな物を復元する時は魔法薬の連鎖反応を対象物全体に促す為に等間隔に配置する必要がある、大雑把でも良いので置けそうな所に置いていく、そして教会の祭壇の後ろに位置する部屋、聖具室などと呼ばれる部屋なはず、そこに剣がいくつも落ちているのを見つけた。箱に収められていた印象があるが、どれも無残な錆びだらけ、触ったら崩れ落ちるレベル、復元してから何のために保管されていたのか確かめる必要がありそうだ。

全ての魔法ランタンを配置し終えた所で高速魔法修復材を魔法ランタン10個の塊に投げつける、瓶はあっさり割れて石材が持ち上がっていく、しばらくすれば教会の形になった。全面石作りのゴシック建築、神聖帝国の建物とは大きく異なる傾斜が強めの切妻屋根など尖った装飾が非常に多く、いかにも他国と言うような印象がある。神聖帝国は基本的に丸みを帯びた建物形状が多いのだ。

復元は今度は申し分無く、薬の効果が切れるまでは休憩、内部に入ってみれば、青を基調にした敷物が目立つ、掲げられた国旗こそ神聖帝国の国旗だが、先ほどの祭壇の裏の部屋へ足を踏み入れれば見た事に無い石膏像や絵などが無造作に放り込まれている。その中でも目を引く物、リズリット王国の国旗がかけられた木箱だった。

開けてみれば状態の良くない傷だらけの剣、材質はプラチナなど高級な物もある。おそらくこれは王国兵士の遺品と言う訳だ。

「王国の物は破壊しなかったんだ・・・神聖帝国にしては珍しい」

「・・・ルナか・・・脅かせやがって」

「真っ先にこの部屋に来て・・・気になっていた物はこれかな?」

ルナは石像の手の上に乗せられている魔法杖を指さす。

「いや、こっちだ」

箱の中の剣を一本取り出してルナに見せた、ルナは石像の魔法杖を掴んで振り回してみる、そしてこう言った。

「魔剣、ライゼンガルド・・・いや、聖剣かな?」

「・・・は?」

シーズは理解出来なくてそう返した。だって魔剣は剣の形をする物だ、魔法杖になるなんて事は無い。

「ミスリル ローレンエリウス、リズリット王国騎士団元帥様はどういう戦い方が得意だっけ?」

ルナが腕を組み、理由は良く分からないがドヤ顔で質問してきた。

「回復だ・・・」

そんなの答えてどうする?と思いながらもルナを指さしながら答えた。

「ご名答!剣である必要無いよね?」

ライゼンガルドを手元でクルクル回し始めた、見つけてはしゃいでいる・・・と言う様子でも無い。顔は至って真面目だ。

「それは・・・そうだが・・・?」

何か読めない行動をするルナ、本当にどういう返事をすべきか読めない。

「聖剣も修練すれば色々な形に出来るように、魔剣も同じ事が出来るんじゃないのかな?」

ライゼンガルドを振り回すのをやめ、後ろに回して前かがみ、大した大きさの無いどころか、だいぶ盛られている金属アーマーの胸の谷元を見せつけるかのように見せてくる。金属製の胸見て欲情するとでも思ったか?無理がある。

「・・・なるほどね・・・で、なんで分かった?」

何がしたいんだか分からないが、剣を箱に戻して腕を組んでルナを眺める、ゆっくり後ろに後ずさりしている。

「えぇっとぉ・・・リズリット王国のお姫様がここにあるって言ってたよ・・・?」

・・・そんな事、言ってたか・・・?

ラ・クインテット・ストラトスとはブリーフィングも一緒に居たがそのような事一切聞いた覚えが無い・・・まぁ、良いか。ルナはライゼンガルドを持って逃げるように倉庫のような部屋を出て行ってしまった。しばらく探しても何か役に立つ物はなさそうなのでルナに続いて部屋を出る、部屋を出れば負傷者がどんどん運び込まれている、椅子の撤去作業にその後は従事した。

翌日になれば町の防衛周りの復旧、ギルド庁舎、宿舎の最低限、主力戦力だからといって特別扱いは無い。聖騎士ギルド庁舎が今後の寝床となる。遠征隊は一棟丸ごと与えられる点は特別扱いとも言い切れるが、実際はただの住み込み聖騎士でしか無い。基本的には聖魔術士ギルドが遠征隊本部となっているが、聖騎士団の細かな作戦指示は聖騎士ギルドのロビーがそれを担っている。

・・・。

聖騎士ギルド長の席に座らされて特に何も無し、ルナの奴は目の前の椅子で溶けているだけ、サーミャとキュリアは軽傷と言えど絶対安静、その為普段もつけっぱなしの装甲は全解除、ファーバンテセウスの服飾屋から貰って来た古いドレスを来て、ルナの幸せそうな寝顔を黙って眺め続けている。一方でだ、壁際の椅子・・・この部屋は長椅子が異様に多いのだがセレンガルド、エルゼラ、ジュニカ、リリシエがそこにキツキツに座っている。主人を失った聖剣達だ、勿論他にも居るが、他は聖魔術士ギルドの牢屋に繋がれている状況、目の前の子達は会う機会こそ少ないが知らない仲でもないのでここに居て貰っているだけ、ここに居ないミナ達は下のロビーの受付の中に居る。魔法時計が時を刻む音しか響いていない無音の空間、見渡せばあれもこれも実は魔道具、ゼンマイ仕掛けの家具や道具の方が珍しいくらい。

時計が朝を告げる鐘がなる、夕食の時間だ。時刻なんて合わせてないが鐘が鳴るタイミングが奇跡的に朝昼夕同じなので放置している。それをしばらく無視しているとミナが上がって来た。

「ごはんの時間ですよ?」

頑張って明るく振る舞うミナ、喪失感と無気力と惰眠しかない空間に刺激を加える。

「・・・行こうか」

そう言って聖騎士ギルド長の椅子から立ち上がる、サーミャとキュリアもそれで立ち上がるが、傷に響いているような顔をする。キュリアは右脇腹、サーミャは右足と左腕に傷を負っている。どちらも右足を引きずるような歩き方、シーズは後ろから流れるようにキュリアを抱え、ミナがサーミャの右腕に潜り込むようにサポートに入る。

「・・・一人で・・・歩けますのに・・・」

「傷口が開いたらどうする」

「・・・う」

いつもの騒がしさはどうしたのか?顔を真っ赤にしたキュリアは両手で顔を隠した。サーミャも遠慮はしてるが素直にミナのサポートを受け入れる。セレンガルド達も黙って付いてくる、ルナ?寝かせとけ、起きない奴が悪い。

下に行けばセベストリアとマーキュリーが魔法ランタンを持って待っていた。エリスとファナとラ・クインテット・ストラトスも受付カウンターの外に居る。

「あらあら、あんなにお騒がしいお方がこんなにおとなしく・・・」

あれまぁとセベストリアが右手を口に当てて驚く。

「・・・これは!そのッ!?」

キュリアは抱かれている事に色々言い訳をしようとするが、傷が響いて悶絶する。

「おとなしくしとけ、角紫、黙ってればそこはお似合いだぜ?」

おうおうおう・・・マーキュリーがまたとない機会を利用してキュリアを煽りたてつつニヤニヤしている。

「・・・後で覚えておきなさい・・・セベストリア!マーキュッ!!??」

キュリアは捨て台詞を吐こうとするも言い切らないうちに悶絶、そして二人はおほほと笑う。

・・・上級聖剣って学校ではこんな物だよ?

・・・聖騎士学校もそんなもんだったよ・・・。

3人の様子を見てミナと黙ってそんな会話をする。貴族社会特有の社交辞令と言う訳だ。

ミーナの新しい宿屋にたどり着けば、セルベッタがいつもより手際が悪く料理を提供してくる。どうやら怪我人とそうでないのではメニューが違うらしい、お盆を持つついでに親指で抑え込んでいる名簿は怪我人の名簿だろう。

「一人で食えるのか?」

「それくらい!出来まッ!!??」

マーキュリーが腹を抱えて笑う。

「それくらいになさっては?はい?お口を開けて?角紫さん?」

キュリアは黙ってスプーンをセベストリアから奪い取り鋭い目つきを浴びせる。

「・・・あら、運んで差し上げますのに」

何故かさみしそうな顔。一方隣のサーミャはミナに甘えて食べさせてもらっていた。

「私は・・・キュリア・・・メルブロア・・・ですわ・・・」

キュリアは顔を真っ赤にしながらボソッと呟いた。遠征組の聖剣達は心配要らないだろう、問題は

オムニス、 マルキリエ、スーザン、クディナの聖剣だったセレンガルド、リリシエ、エルゼラ、ジュニカだ、食事はしてくれるのでひとまず安心だがしばらくはこのままだろう。守衛隊の同僚も心配して声をかけてきてくれているのが救いか・・・だが声をかけられ、作り笑いで答えた後、食事の手がそれぞれ止まり気味・・・どうすれば良いのだろう?答えが見つからず、この町で一月を過ごしてしまった。

「さて・・・次はグランコッツ・・・街道沿いの宿場町らしいが・・・」

「当然、ミスリル・サーヴァルキングはいるんだよねぇ・・・」

ロビーに置いてあるリズリット王国の地図、町は他にもあるのだがブラックアウトの侵攻を止めるには他の町の制圧は後回しで王都メーシェルバを抑えるのが優先、補給ラインが長くなるのはファーバンテセウスでも聖魔術士長が一番心配していた事だが、安全地帯があるのと無いのでは補給の損耗率が全然違う、また、戦力が前線で衝突しやすくなるのもサーヴァルの特徴、しかしミスリル・サーヴァルキングは生前も中々手強い戦略家、孤立させるような戦法を取るはずだ、実際にこの前経験している。この事からサーヴァルにはある程度の思考能力があると考え直す必要がある。聖騎士学校で学んだ事は全くのデタラメであり、今まで気が付いた危険性を考慮してさらなる慎重な行動をしなければならない。

「とは言え、やらなければやられるだけですわ?」

「この人数で突っ込めばあっさり全滅だぞ?相手は王国一番の戦略家だ」

コイツは直ぐ突っ込んでいく・・・サーミャは苦い顔をしながらキュリアの自信に満ち溢れた言動に反論する。

「じゃあ、便利な魔道具はありませんの?」

「ありません!」

ラ・クインテット・ストラトスは笑顔絶やさず即答する。魔道具とは言っても、日常の生活用品が大半、物は使いようとも言うが、流石にそれも限度がある。なぜ王国が神聖帝国に負けたのか、魔道具をもってしても対抗出来なかったからだ。とはいえ軍用魔道具もいくつかはあるらしい、魔法増幅機だとか幻術薬とか変身薬とかイマイチ対サーヴァルに向かない物ばかりだ、しかもそのような軍用魔道具は市販されていない、つまり無いらしい。

「他に良い案は?クソ聖騎士!!」

「無いからこうして皆で腕抱えてるんだろ?」

怪我が直ればいつものやかましさ、一時は逆転していたセベストリア達との上下関係も多分元通り。

まぁ・・・そうだよな。

周りもざわつく、ここには聖剣学校時代のクラスメイトしか居ない、戦略に強い奴も居るには居るのだが、元々特攻他無しな上、偵察をして初めて作戦が立てられると言う物・・・少数で偵察してから突破口を探すのが一番最善だった。だが街道は谷間を通る。普通なら上からの奇襲か待ち伏せがあるはずだ。しかしとにかく行動他無かった。早期に王都メーシェルバを抑えろと命令が下っているのだ。

偵察隊は当然遠征隊・・・他にあるまい。もう少し休んでおきたかったが・・・そんな顔をサーミャはしている。だが馬車を走らせる。ブラックアウトの戻りは遅く、この地域はまだ日の出入りがあり、時間の流れを感じられる。目的は宿場町グランコッツの偵察・・・これのみだ、戦闘は極力避ける他無い。

何もない平原は特に戦闘すら起きないが、奇襲が想定される谷へたどり着いた。サンリツ峠と言うようだがおかしい・・・奇襲の軍勢が見当たらない。

・・・まさかのグランコッツに戦力全集中?

・・・んな訳あるか・・・?

警戒して馬車から距離を置いて徒歩で移動する。峠の途中で人工物が目についた。明らかに何か居そう、ルナと慎重に距離を詰める・・・やっぱり居たが、おかしい・・・人の形をしている。

「・・・魔剣?」

「・・・じゃあ、なんでその魔剣は剣を持っているんだ?」

「さぁ・・・?」

ルナと一緒に歩みを進める、ラピットソレイユも構えて慎重に・・・ある程度距離を詰めれば人の形をした何かが急に切りかかってくる、慌ててルナを蹴り飛ばし、転がって避ける、そして意識する余裕も無く斬撃を受け止めた。

「・・・イヒヒ・・・イヒヒ・・・!!」

奇妙な反響するかのような声、見た目はゾンビそのもの、しかしとにかく速い、目に追えていない、意識もせず腰の鉄剣を引き抜き背中に切りかかる斬撃を受け止める、ラピットソレイユでは不利だ、大きすぎて攻撃も出来ない!

ラピットソレイユを投げ捨て、鉄剣を構えなおす、謎のゾンビは首を360度回して息継ぎする間を与えているかのように動きを止める、ルナはようやく起き上がった所だ、この間わずか10秒・・・シーズは2回もなんとなくコイツの攻撃を防ぎ切った・・・ゾンビの関心を引いたようだ、無防備なルナなどもはや眼中に無い。ゾンビは細い片刃の見た事の無い剣を構える。シーズもそれに合わせて剣を構えた、それは打ち合い開始の合図だった、速い!速すぎる!意識が全く追いついていない。感覚に従って剣をふるうので精一杯である。ルナの加勢は一切無い。

・・・ルナ以上に強い!

目に追えていないのだ、何故全ての攻撃を受け止められるのか、分からない。

「ごっ・・・!?」

何が起こった?聞いた事無い悲鳴を上げ、蹴り飛ばされたルナしか見えない、しかし切り捨てようともしないようだ。ミナだけが宙を舞って地面に突き刺さる。それを見届ける、ゾンビも同じ、まるで拾えよと言っているかのようにこちらを見て全く動かない、剣を投げ捨ててミナを地面から引き抜き構え直した。意味はあるのか?十分ある。少なくとも今まで握っていた剣は鉄剣、魔剣や聖剣では無い、それを見破られていた、つまり手を抜いていたとでも思っていたのだろう。あいにく鉄剣よりミナの方が軽いまでは分からないはずだが、流石は姉妹、エルと使い勝手も全く同じだ。そもそもエル自体の使用実績もそこまでは無いが手に馴染む。ゾンビが再び剣を構えなおした、仕切り直しと言う訳だ。気合入れろ。

眉間のしわを増やしてゾンビに切りかかった。ミナの思った所に思った通り滑り込む感覚、やはり別格だ、打ち合いに十分ついていける、それどころかさらに上を目指せる。

剣を強めに弾いた後ゾンビの右足を切り落とす、ゾンビが倒れた、すかさず胸元にミナを突き刺す、しかし右手で受け止められてしまった。

「・・・くっ」

ゾンビの剣先がシーズの顔至近距離で止まる。しばらくの緊張が続く・・・残念ながらゾンビの方が上手だったのかもしれない。だがゾンビは切りつけて来ない・・・かと思えば向けていた剣をひっこめてそれをシーズに向けて投げつけてくる。だがこんなの受け止められる速度じゃないか?だが受け止めなければ自分に刺さる、シーズはそれをとっさに受け止めようとした、そうしたらゾンビは抑えていたミナを放したのだ!ミナはゾンビの胸元に突き刺さって戦闘は終わった。

・・・お前は何をしたかった・・・?

灰になっていくゾンビを見届ける・・・人としての行動が多く見受けられた事からサーヴァルキングで間違えない、その証拠に指輪が残る。

・・・ツバキザクラ。

ゆっくり指輪を拾い上げて刻印を読む、聞いた事の無い命名の仕方だ。剣の構え方も、異様に細い片刃の剣姿も持ち手から全て知らない。魔剣ツバキザクラをゾンビが残した鞘に収めて未だ腹を抱えて悶絶しているルナへミナを投げる、その後鉄剣を拾って自分の鞘に収め、最後にラピットソレイユを拾い上げた。一度馬車まで戻り、ラ・クインテット・ストラトスにツバキザクラを預ける。

「大和国のおサムライさんだったのでしょうか?」

「大和国?サムライ?なんだそれは?」

ラ・クインテット・ストラトスはツバキザクラを引き抜いて刀身の様子を見る。正直状態は良くはないがそれをウットリげに眺める。

「南の方の島国でございます、現在は・・・分かりませんが、その国の剣士様がおサムライと呼ばれております。この形状はカタナと呼ばれる物ですね、大和国特有の武器を模した物でしょう」

「それが何故ここに?」

「そこまでは存じ上げませんが・・・」

ラ・クインテット・ストラトスは困り顔をしながら再びツバキザクラを鞘に収め馬車に戻っていった。

「よくあんなのに勝てましたわね・・・」

「俺もよく分からねぇ・・・」

思い返せば足が震えて来た、それを隠す為、キュリアの足元に座り込む・・・エリスがルナを引きずって戻って来た・・・あのルナが瞬殺で退場させられたのだ。それも無傷で・・・生前は相当な技量だったのかもしれない。

謎が深まる所だが、だからといって立ち止まる訳にもいかない。勝手にキュリアの腕を手すりがわりにして立ち上がる。苦情については無視した。

・・・しかし意外だ。

サンリツ峠、結局元サムライのサーヴァルキングの襲撃を除いては何も無かったのだ。目の前には静かな宿場街、グランゴッツがある。だが動く者が無い。何故だ?

足を踏み入れるべきか?そうさせる為の罠だとは思う。罠だとしても、踏み入れるならもう少し大人数にすべきなのは明白である。分かっては居るが一応聞く事にした。

「・・・どうする?」

「明らかに罠・・・かと思いますけれど」

そう聞かれても・・・と困り顔のラ・クインテット・ストラトス。

「引き返すべきだと思う、罠なんだろ?もっと人を連れて突っ込むべきだ」

さっさと帰りたい、そんな感情垂れ流しのサーミャ、他も帰るべきと言う顔をしている。

「・・・帰るか」

そうだ、普通なら何が何でも突っ込んで行く所だが、勝機が無い。そうと決まればとサーミャはさっさと馬車を反転させる為に動き始めた。しかし引き返す事まで読まれていたようだ。

・・・既に罠に掛かっていたと言う訳か。

・・・だって囲い込んで各個撃破する戦いしてたじゃん。

サンリツ峠に入る所でミスリル・サーヴァルキング率いるサーヴァルの軍勢が進路を塞いでいた。馬車はさらに反転してグランゴッツを目指しているが、グランゴッツにも待ち伏せは居るだろう。問題はミスリル・サーヴァルキングの回復範囲は何処までなのかだ。狭ければグランゴッツの待ち伏せはキュリアとサーミャに任せても良いだろう、だがそうじゃない可能性が十分ある。ここからグランゴッツは非常に近いのだ。正直持ちこたえられずにシーズとルナはじわじわグランゴッツへ追い詰められている。そしてたいして倒せずについにはグランゴッツの中央広場に追い詰められていた・・・なんとファナが広場をセーフティゾーンにしてくれたようだ。聖石に囲まれて中央広場に近寄れない、しかも中心の像だった物、素材は聖石で、これだけでもかなり強力な不可侵領域となっている。だが、安全な領域があるとはいえ、出られなければ飢え死にするだけ、やるべき事は変わらなかった。

味方が足らない、なるたけキュリア達に負担をかけないよう、1体1体処理して行くが、全集中しがち、これは無理してでもミスリル・サーヴァルキングを討つ必要がある。

辺りを少し見渡す、瓦礫しか無い、だが、サーヴァルが目の前に一点集中している事や、他方面から回り込む道が無い事もあり目の前意外はノーマーク・・・そういえば面白い魔道具も持っている・・・今この時に使うべきだ。

「ルナ!一人でここ抑えられるか?」

「なんで!?」

「任せた」

「ちょっと!?」

シーズは下がる、そしてポケットから丸い玉を取り出す、そしてその玉に魔力をありったけ注いでサーヴァルの集団に投げ込んだ。それはしばらくして光柱をあげながら大きな音を立て始めた。これの正体は何か?魔法花火というらしい。しかも打ち上げ式、地上で大爆発を起こす、サーヴァルが人間だったなら今頃負傷者が出ている所だろう。

ひとまずそれでサーヴァルの注意を逸らしている間に広場に隣接している建物の瓦礫に隠れる、その先には瓦礫路地が広がっている、歩きにくいがこれに隠れながらミスリル・サーヴァルキングまで近づける・・・そのはずだ。

魔法花火、夜間に使うと、火薬花火のように色鮮やかな光の演出を空に作り出せると言う、完全なる娯楽魔法具、使い方は至って簡単、魔力を込めて専用の打ち上げ機に入れるだけ、先ほどの使い方は怪我に繋がる為するなと説明に書かれていたが、別にサーヴァルに怪我をさせるなとは書いていないので、先ほどのような気を逸らす使い方が可能では無いか?と持って来ていたのだ。

速やかに瓦礫路地を駆け抜ける、サーヴァルに多少発見されていようが関係無い、ラピットソレイユの剣先がついにミスリル・サーヴァルキングに届いたのだ。だが残念なお知らせもある・・・回復が早すぎるし、サーヴァルにも囲まれて居る。しかし引き下がる訳にもいかない。とにかく斬りかかる、襲ってくるサーヴァルの攻撃はミスリル・サーヴァルキングを盾にして防げる物は攻撃にすら利用する。利用してしまったせいなのか、サーヴァルが容易に近づいてこなくなった、上司に攻撃が当たってしまうからだ。だからと言って安心してミスリル・サーヴァルキングに集中出来る訳じゃない。むしろ回復が早すぎて倒せない。

万策尽きた。

回復を遅らせる魔道具・・・そんなのある訳が無い、完全に積んだ戦局、しかしサーヴァルの数は減っている感じはする。ルナが頑張っているのだろう。なら自分も考えられる限りを尽くすまで、攻撃が当たらなければ直接急所を狙う他無い。シーズは顔にラピットソレイユを叩き込む、しかし避けられてその攻撃はミスリル・サーヴァルキングの角をかち割った。痛みに対する咆哮か?そもそもサーヴァルに痛覚が存在するのか不明だが耳が割けるような大声を上げる。それで付近のサーヴァルが一瞬動きを止め、メーシェルバ方向へ撤退を始めてしまった。

・・・なぜだ?

そうはさせまいと追おうとするもしんがりのサーヴァルに囲まれる、完全に逃がしてしまった。

「・・・おわったぁぁぁ」

しんがりは回復すらされず、今までの苦労と比べものにならないほど、今まで通りに討伐出来た。ルナが溶けるようにその場に寝っ転がった。他も緊張が切れて放心状態。そこへ歩いて行く。

「ねぇシーズ、さっきの何?」

「魔法花火」

「あとさ、分かった事が一つある」

「なんだ?」

「上司に攻撃加えると、部下の回復がおろそかになる」

「大発見じゃないか」

「今度は同じ手使えないかもよ?どうするの?」

「・・・その時次第だ」

シーズはルナの手を掴む、そして引きずって馬車近くまで運んだ。相変わらずキュリアとサーミャはバテている。

「・・・こりゃしばらくは動けないか」

その言葉を聞いてキュリアはコイツ、本当に人間か?と言う顔をする・・・たかが半年剣を握ったのとは雲泥の差だ。そう簡単に追いつかれてたまるものか。

「なにをしている?」

一方で、ラ・クインテット・ストラトスが馬車から馬を切り離している。

「奪還の報告をと思いまして」

「・・・一人でか?無茶だ」

ラ・クインテット・ストラトスは馬の頭を撫でる。

「そもそもわたくしは人であり、人で無い存在、あまりサタンには見向きもされないのです」

「そんな都合のいい話・・・」

「サタンは魔力に引き寄せられるのです、馬の速さなら十分に撒けます。わたくしも乗馬くらいは心得ておりますので」

そう言いながら、ラ・クインテット・ストラトスは馬に乗り込む、そしてマリサックへ向けて馬を走らせていってしまった。その様子をファナが眺めながらシーズの隣に歩いてくる。

「・・・何故行かせた?」

「魔剣は根本的に私達と性質が違う・・・生き物なら必ず持っている魔力とか聖魔力を一切持たないんだって、だったら別にいいんじゃないかなと思って・・・動物は使う術を知らないから微弱な魔力しか持ってない、それにこの子達の足なら逃げ切れちゃう」

「・・・魔剣は聖魔力を持たないのか」

「それと、これ」

ファナが手に持っていた瓶を渡してくる。毎度おなじみ、高速魔法修復薬、しかしランタンがそんなに無い、それ以前に空瓶だ。

「・・・なんだ?」

ファナは黙って左を指さした、広場から南側の建物が何故か健在・・・いや、グランゴッツの建物は全て倒壊していたはずだ・・・つまりコレを使ったと言う事だが、ファナ一人で到底賄える魔力量では無いはず。そもそも広場の像も崩壊していたはずだ。

「ラ・クインテット・ストラトスがかけて回ってた」

「・・・つまり?」

「魔力源はミスリル・サーヴァルキングから、回復魔法を横取りするつもりで撒いたけど影響は微々たる物だったみたい・・・だって?」

・・・なるほど。

空瓶を馬車の荷台に置く、他にも空の瓶が11本置かれていた、持ってきた物全てだった。そして再生された町を見て回る。行政系の建物が多い感じ、だがこの町の主要な建物は宿屋のはずなので行政系の建物も多くはない、そもそも瓶11本で再生出来る範囲もそれほど大きくは無い。しかし分かっててやったのか、魔法具店ももれなく再生している。軒先にある魔法ランタンを手にして魔力を注いで光源とする、倉庫は地下、高速魔法修復材は余程売れる商品なのか、30ケース近くも保管されていた、魔法ランタンも同様である。ファーバンテセウスの魔法具店と品揃えと在庫はほぼ同じなようだ。

「おお!いっぱい!」

「びっくりした・・・」

後ろを振り向くとルナが居る、さっきひっくり返ってたはずだが・・・?

「さっきの、これ?」

「・・・そうだが?」

ルナは両手一杯に魔法花火の玉を抱えている。そんなにどうするつもりなのか・・・。

本当にコロコロ色々変わるルナを倉庫からつまみだすように魔法花火を元の箱へ戻してさっさとハシゴを上らせる。地下に入る物は比較的軽い物、上の倉庫には魔法ミシンやら魔法洗剤など家庭用品、さらには解熱剤などと言った解毒薬などもある。やはりなんでも屋のような品揃え、あいにく薬類の期限がいつまでなのか不明なので飲みたくは無いが、生活をする上で非常に便利な物が多く揃っている。リズリット王国はとても進歩していた国のようだ。現に上下水、全て地下に埋没してあるようで街並みもすっきりしていて大変綺麗なのである。

「ここにあるものはお前には使えない物だけだぞ?」

「えー?気になるじゃん!」

「・・・全く」

倉庫を出た後もルナを外へ追い出し続ける、外へ出ればベタベタに張り付く・・・隙さえあればいつもこうだ。

「そういえば最近、ミナと仲良くしてるよね?」

「そりゃ・・・いつも一緒だからな?」

「浮気は良く無いなぁ・・・」

「浮気って・・・そもそも卒業して俺の実家に転がり込んでから俺らは一体誰の飯を食べていた?洗濯とか掃除も誰がしていた?」

「・・・もしかして、元から私より妻に近い存在だったか」

「だからなぜそうなる?」

「でも、学生時代は君にお弁当作ってあげてたの、忘れてないよね?」

「だからどうした?」

「君の最初の妻の座はミナにはあげないからね?」

「彼女にその気は最初から無いとは思わないのかね?」

「その気になっちゃってるから今、君に釘を刺したんだよ?」

そうして嫉妬が込められてそうな笑み、その後馬車の方へ走っていった。その先ではミナとセベストリアが夕飯をこしらえていた。

・・・未だによく分からない女である。

そういえば生い立ちも一切知らない、自分の情報は一切しゃべらない、その上なんでもお見通し、まるで聞かれないように上手く逃げているかのよう・・・腕を組んでルナを目で追うが、ミナに呼ばれたので再び足を進めた。

翌日、ひとまずの増援が来た、と言ってもマリサックの実働可能な聖騎士のほぼ全て、それが34人だ。

「おいおいおい・・・いいのか?」

流石にマリサックが心配になる。

「・・・構わん、ファーバンテセウスの防衛砦にしかならないからな、それより・・・」

「それより・・・?」

グレイは腰のポケットから飛び出ている筒を馬の上から渡してくる。なんだこれは・・・そんな顔をしながら受け取るしか出来ない。中を見れば昇格辞令だ、低級聖騎士から中級聖騎士官にされている。

「今日からお前が俺らの隊長だ、良かったな、俺らは一律中級聖騎士だぞ?」

グレイは馬から降りて少し馬をなだめる。

「それはおめでたい話だが・・・俺が隊長って・・・」

確かに昇格辞令にはシーズ チェラムを第28回レーヴェン攻略遠征隊隊長に任命す。と書かれている。ルナ クレムニルは副隊長であるが、実に今更感がする。遠征隊が今回の偵察隊の編成でずっと運用されていた時は隊長扱いだった。

「守衛隊が正式に遠征隊の補充になるんだ、だからだよ」

「おまけに、お前らをよく知る奴しか居ねぇ・・・で、次はどうするんだ?これの製造元だっけか?」

マルコーは高速魔法修復材を見せてそう言う。確かに次はリズリット王国首都メーシェルバ、だがどのような都市であるかから、ミスリル・サーヴァルキングの攻略まで一切何も情報が・・・いや、高速魔法修復材が攻略の答えのように見えて仕方がない気がする。

「そうだな・・・それ・・・使おうか?」

ゆっくりマルコーが持つ高速魔法修復材を指さしてそう言ってみた。

「「・・・は?」」

マルコーとグレイは全く理解出来ない声を上げる。

「・・・まぁ、来てくれ」

「・・・なぁ?これが何に使えるっていうんだ?」

「作戦を今思いついた」

「思いついたって・・・そもそもなんだ?この不可解な町は?」

マルコーとグレイを連れて旧王国騎士団の詰所を目指す。サーミャとエリスが片付けをしていた。

「サーミャ!地図!」

「・・・私は地図では無いんだが・・・?ほらよ」

サーミャから紙製の地図を受け取り、詰所のテーブルに広げる。流石だ、メーシェルバの地図を用意してくれている。

「・・・地図だな?」

「神聖帝国製のようだが・・・?」

「これがなぜここにあるのかは恐らくリズリット王国侵攻時、神聖帝国軍が指揮所として転用でもしたんだと思う・・・そしてこの町、防御も完璧な構造なのがよく分かる、いくら相手がサーヴァルと言えど難攻不落は間違えないだろう」

「そりゃそうだ、首都は強固な作りに決まっている」

「・・・だがそんな強固な町も風化でボロボロなはずだ」

「俺らも知らないくらいだしな?当たり前だ・・・で、コレと何が関係ある?」

マルコーは重り替わりに高速魔法修復材を地図の端に置く。

「さっきこの町は不可解な所がある、そう言ったよな?グレイ」

「なんでこの辺だけ綺麗なんだ?コレで直したのは分かる」

「だがお前らの手駒では聖魔力が明らかに足らない範囲じゃないかって・・・まさか?」

「察しが良くて助かる、マルコー、この一帯はミスリル・サーヴァルキングの回復魔法の魔力を横取りして修繕したんだ」

「話が読めた、町中に撒いてミスリル・サーヴァルキングにメーシェルバ全体を修復してもらおうと言う訳だな?この大きさだ、サーヴァルキング級とは言えど一瞬魔力枯渇は起きるはず」

「その隙にお前らで刺すと言う訳か!」

「だが、コレはそんなに無いぞ?」

「この町にも30ケース近くあるんだ」

「余程需要のある魔道具だったのか・・・コレ」

「分かった、それを俺ら全員でばらまいて回るんだな?だが有効時間は5分だぞ?」

「足並み揃えないと魔力は削れない・・・そうだな?それに関して何か策はあるんだろうな?」

「・・・そこで、これだ」

腰のポケットから魔法花火を取り出して地図の上に置く。

「・・・なんだこれ?」

マルコーはゆっくりと玉を持ち上げる。

「花火の魔道具版だ・・・魔力は注ぐなよ?」

「そんな物まであるのか?」

マルコーはそれを聞いて素早く地図の上に戻す。保護術式の紙を剝がさない限りは爆発する心配は無いが、剝がれやすいので実はいつ爆発してもおかしくない。

「それが・・・あったんだ」

「それならば合図はこれで良いと言う訳か、ならば均等にばらまいていこう、他の奴らにも伝えよう」

「配分は任せるよ、グレイ、マルコー」

「分かった」

「任せろ」

地図を丸めてグレイに渡す、グレイはそれを受け取って詰所を後にした、マルコーもついていく。

振り返るとサーミャが別の地図を持って腕を組んでいた。

「・・・なんだ?」

「話は聞いた、この町には魔道具店があと3件存在するみたいだ」

そう言いながら地図を押し付けてくる、広げればグランゴッツの地図だ。

「ここ、ここ、そしてここにあるみたい」

エリスが指さしていく、なぜ魔法具店なのか、高速魔法修復材と魔法ランタンその他が眠っているからだ。

「全部で何箱あるのか分からないけれど100箱近くは高速魔法修復材を確保出来るんじゃないかと思う」

「それだけありゃ、首都丸々復元出来ちまうんじゃねぇの?どうだ?クソ聖騎士?」

「少しでもあったほうがいいな」

「じゃ、復元して拝借するか・・・」

「ランタンは魔法具店にあったよね?」

サーミャ達は地図を持って詰所を出て行った。

ミスリル サーヴァルキングの配下は削りましたが決定打にはならず・・・。

次回は決戦です。魔道具がここにきて影響力を強めてきました。

魔道具!便利!最高!

最後までお付き合い願えると幸いです。

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