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心霊探偵スメラギ - 神隠しの森  作者: あじろ けい
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第15話

 勇樹ちゃんの父親、村上太郎は憤っていた。勇樹ちゃんが生きていたというニュースを受けて自宅前に集まってきたリポーター相手に下平夫妻への罵詈雑言をわめきちらしている。

 幼い息子が行方不明になってから7年、不安な日々を過ごしてきた。生きていてほしいと望みながら、もしかしたら死んでいるかもしれないという覚悟を決めていたところへ白骨体が発見され、絶望を味わった。かとおもえば、息子の遺体ではないと判明してほっと安堵したのもつかの間、実は下平夫妻に誘拐されていたというではないか。

 村上の口からは、勇樹ちゃんと同じ年頃の子どもを失った下平夫妻を思いやる言葉は結局出てこなかった。

 下平夫妻の子ども、裕介ちゃんは神隠しの森で遺体となって発見された。行方不明になった直後、夫妻は神隠しの森を捜索させてほしいと、所有者である村上に嘆願したのだが、断られている。もし、村上が快く夫妻を森に入れていれば、あるいは裕介ちゃんは生きて発見されたかもしれない。

「よく言うぜ。自分の子どもが生きていたってだけで喜んでいればいいのにさ」

 下平夫妻への恨みつらみをひたすら述べ続けている村上を横目に、スメラギは毒のある言葉を吐き捨てた。

「わからないでもないけどねぇ。だって、自分の子どもが誘拐されたわけだし」

 美月の推論は当たっていたわけだが、何とも後味が悪い。

「下平裕介ちゃんの親に、子どもがいなくなったかもしれないから森での捜索を許可してくれって頼まれたのを断った逆恨みで誘拐されたんじゃ、自業自得、自分で招いた災いというところで同情できない部分があるんだけど……」

「逆恨みはあったろうけど、だからといって誘拐したんでもなさそうだけどな」

 スメラギは、村上家の豪邸の玄関から裏山の入り口へと視線を移した。

「勇樹ちゃんは近所の子どもたちと一緒に帰ってきた。母親は勇樹ちゃんがそのまま居間にむかったとおもっている。玄関で実際に勇樹ちゃんをみたわけじゃねえ。帰ってきた声だけを聞いている。母親が昼めしをもって居間に来たときには勇樹ちゃんはもう姿を消していた。母親はほんのちょっとの間だといっているが、大人のほんのちょっとの時間ってどれくらいだ? 1分、2分ではないだろ? 10分ではないにしろ、5分かそこらだ。それだけの時間があれば、玄関の戸を開けたけど中には入らなかった勇樹ちゃんが森の入り口まで歩いていったと考えても無理はない――」

 スメラギは三歳児の足取りを真似るように、ゆっくりと森の入り口へと近づいていった。

「勇樹ちゃんは確かに家に帰ってきた。帰ってきたが、何かに気をとられて玄関から森へと歩いていった。そこにたまたま下平夫妻がいて、衝動的に勇樹ちゃんをさらった――おそらく、母親のほうだろうが」

「スギさんは、誘拐は偶然だったっていうのかい?」

「その1年前に自分の子どもがいなくなったんだろ? いなくなった子どもを捜して夫妻が森をうろついていたっておかしくはない」

「でもどうして勇樹ちゃんをさらったりなんかしたんだ?」

「子どもの名前、死んだ子と同じだっただろ? そこにいるのが勇樹ちゃんだとわかっていなかったのかも。いなくなった自分の子どもと同じ年頃の子がいて、その子がかえってきたと思ったか、思いこんだか……。どちらにしろ、意図的に誘拐したってわけではなさそうだけどな」

 下平夫妻を追い込んだものは何だったのか。スメラギは来た道を振り返った。村上を取り囲むリポーターの数は増え続け、下平夫妻を罵るだけのインタビューが続いている。その背後には立派な豪邸がひかえ、家の前には何台もの高級車がとめられていた。

「にしても、誰が何の目的で裕介ちゃんの骨をあそこに置いたのかがわっかんねーんだよなぁ」

 スメラギが再び神隠しの森を訪れた動機は、ずっと頭を悩ませているその問題を解決しようとしてだった。

 誰がは、おそらく東雲青竜だろう。目的は、霊能者としての名を売るためと考えるのが筋だが、他に隠された目的があるような気がしてならない。

 東雲青竜が霊能力者でなかったことは、はっきりした。だが、それならば、裕介ちゃんの遺体をどうやって見つけ出したというのか。

 偶然、発見した白骨がたまたま裕介ちゃんだったというには無理がある。やはり、さがした結果、見つけたとしか考えられない。だが、あの広い山をさがしまわって発見できたとも思えない。現に、7年前、勇樹ちゃんを捜して捜索隊が山に入ったが、彼らは何も発見できなかった。

 東雲青竜はどうにかして裕介ちゃんの遺体を発見した。その方法にこそ、彼の秘密がある。売名以外の目的がある。霊能者ではないかもしれないが、ただものとは思えない。

 偽の霊能者なら、いつもはインチキ野郎として放っておくスメラギだが、東雲青竜に関しては何かしらのひっかかりを感じずにはいられない。

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