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HA NI KA MI  ハニカミ  作者: 霜月 ハジメ
第一章 彼女たちの事情
8/73

8 沈黙と



コン コン コン


「ゾフィー・ケリア・フォン・ニグレードが参りました」


 私が昔を思い出している間に、ゾフィーが二階の生徒会室にたどり着いたようだ。


「どうぞ、お入りください」

「失礼いたします」


 静かに扉が開き、ゾフィーはゆっくりとした所作で入室すると一礼して、周りを伺いながら佇んでいる。


「応接間へどうぞ」

 


「……」

「……」


 二人向かい合う形で応接テーブルに腰を掛けた。


「えーっと。ハインもそろそろこちらに来るはずです」

「……そうですか」

「……」

「……」


 一人で待っていたときより、室内の静寂を感じる。


「……今日はどういったご用件なのでしょうか?」


 躊躇うような様子でゾフィーが口を開いた。


「……ええ。芸術鑑賞会で協力して頂きたいことがありまして」

「でも、わたくしは生徒会ではありませんし」

「個人的に頼みたいのです。皇族からの来賓がーー」


バン!


 静寂を終わらせて次姉の事を告げようと話し始めたちょうどその時、扉が音を立てて開けられる。


「ルキウス様ぁ~、いらっしゃいますか~?」


 扉へと顔を向けるのはゾフィーと同時だった。


「サラ嬢。今日は生徒会は休みですが、どうされましか?」


 入ってきたサラに声をかけると、サラの後ろから栗色の髪に薄緑の目がこちらを覗いた。


「クッキーを焼いたのでルキウス様に食べて頂きたくてー」


 サラは言いながら、両手に包むように持った紙袋を見るように俯いた。


「生徒会でもないヤ、……者がなぜここにいるんですか!生徒会を引っ搔き回しに来たのかッ?」


 サラを庇うように前に出てきたアルドリックが語気を強めて言う。

 アルドリックの言葉に正面のゾフィーの顔を窺えば、無表情に目だけを細めて二人を見ていた。


「お客様がいるとは知らなくて、私」

「サラは悪くない。部外者が勝手に入っているとは誰も思わないよ」


 アルドリックの言い様にいつもの不快が胸に宿る。


「ゾフィーは私が呼んだのです」

「わたくしはお邪魔なようですから、これで失礼させていただきます」


 ゾフィーは音もなく立ち上がると、ゆっくりと二人の横を通り過ぎ出て行った。引き留めることも忘れ、泰然とした所作に見入ってしまう。


「ゾフィー様ってホントに我がままですね。勝手に押しかけて、勝手に帰っていくなんて」


 私に駆け寄ってきたサラがゾフィーを責めるように言う。ゾフィーが出て行くその時までしおらしい態度だったはずなのに。


「いいえ、今程も言いましたように、私から来てもらったのです」

「ルキウス様、優しすぎですぅー。庇うことありませんって、知ってますから!」


 何だろう。この違和感。この不快。

 今まで思っていたことは思い込んでいただけというか……。


「昨日の夜、焼いたんですよ。ルキウス様、食べてください~。ちょっと不格好な物もあるけど、アルも美味しいって。ね?アル?」

「サラの作る物なら何でも美味しいよ」


 眉を顰めた。サラとアルドリックの会話がかみ合っている様でかみ合っていない。


「今は気分ではないので、後で頂きます」



コンコンコン ガチャリ

「待たせたな」


 生徒会室に入り、三人分の茶器が載った盆を両手に持ち直したハインがキョロキョロと辺りを見回す。

 視線が合えば目を吊り上げてきた。


「ハイン様もお一ついかがですか?私が焼いたクッキーなんです~」

「気分じゃない」


 サラは口を尖らせ、アルドリックはハインを睨んでいる。


 この後ハインと二人きりになれば、何を言われるか想像するまでもない。

 サラたちを抑えられなかったことも、ゾフィーを引き留められなかったことも私に非がある。甘んじて受けるしかない。

 ハインはゾフィーを、時に度を越えていると思うほど可愛がっている。養子という負い目からなのか、いち早く家族として受け入れた恩からなのか分からない。ゾフィーもハインの前でだけは砕けた様子を見せる。


 先ほどまでとは違うギリッとした痛みが胸を衝く。



★★★★★



 あっという間に一ヶ月が過ぎ、芸術鑑賞会の日を迎えた。生徒たちは制服のままだが教師陣は正装をし、会場となる講堂に詰めている。


 ゾフィーにはあの後、ハインを通して手紙で承諾を貰った。ゾフィーが次姉の接待役をすることを当初ハインは快く思っていなかったが、ゾフィーへの取次ぎ役を頼むと渋々と言った態で了承した。実際はゾフィーへの面会機会が増えて嬉々としていたに違いない。


 二階の貴賓席に学園長、次姉、ゾフィー、私の順で立つ。


 一階を見下ろせば、すでに生徒たちで埋まっている。視界に何かがヒラついて見える。

 それが手だと分かり、何かの緊急かと目を凝らせば、振られた手の陰からピンク色の髪も揺れるのが見えた。

 ざわついてはいるものの静かに居住まいをただす者たちが多い中で、それはとても目を引いた。


バチンッ!


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